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諮問・答申・報告書等

2.財政の現状と課題

(1 ) わが国財政の現状
1)  わが国財政を国の一般会計で見れば、平成12年度予算における歳入歳出は85兆円です。歳出の内訳は、地方交付税交付金等14.9兆円、一般歳出48.1兆円であり、一般歳出の内訳は、社会保障関係費16.8兆円、公共事業関係費9.4兆円、文教・科学技術振興費6.5兆円、防衛関係費4.9兆円などとなっています。公債の元利償還に必要な国債費は22.0兆円と一般会計歳出の25.8%をも占め、このうち利払費が10.7兆円(一般会計歳出の12.6%)にも上っています。歳入の内訳は、税収は48.7兆円で歳入全体に占める割合は6割にも満たない状況となっており、国債発行による公債金収入が32.6兆円(うち特例公債23.5兆円)にも達しています。
 地方財政についても、平成12年度には13.4兆円(恒久的な減税の影響分3.5兆円を含む。)の財源不足が生じ、地方財政計画総額88.9兆円の15.0%に達する規模となっています。また、個別の地方公共団体の財政事情を見ても、公債費負担比率が一般的に警戒ラインとされる15%以上の団体が全体の60.2%(平成10年度決算)に達するなど極めて厳しい状況にあります。
2)  歳入・歳出ギャップは従来から存在していましたが、特に最近の景気回復に向けた諸施策に伴う歳出の増大や恒久的な減税などの実施により、そのギャップは大幅に拡大しました。フローベースで見ると平成12年度予算における公債依存度は38.4%となっています。また、ストックベースで見ると国・地方の長期債務残高は、ここ3年間で約150兆円も増加し、平成12年度末には645兆円(GDPの約1.3倍)にも達する見込みです。このような財政状況は主要先進国中最悪であり、危機的な状況にあります。

(資料8)国及び地方の長期債務残高
(平成12年6月)
(単位:兆円)

 

平成2年度末
(1990年度末)
(実 績)
平成7年度末
(1995年度末)
(実 績)
平成10年度末
(1998年度末)
(実 績)
平成11年度末
(1999年度末)
(2次補正後)
平成12年度末
(2000年度末)
(予 算)
200程度 297程度 408程度 451程度 485程度
  普通国債残高 166程度 225程度 295程度 335程度 364程度
地方 67程度 125程度 163程度 179程度 187程度
国と地方の重複分 2程度 12程度 18程度 22程度 26程度
国・地方合計 266程度 410程度 553程度 608程度 645程度
対GDP比(%) 60.6 83.7 111.2 123.1 129.3
(注1) GDPは、平成11年度は速報値、平成12年度は政府見通し。
(注2) 11年度末の国の長期債務残高及び普通国債残高は、それぞれ実績ベースでは、449兆円程度、332兆円程度となる。

(資料9)国及び地方の債務残高
(SNAベース、OECD/エコノミック・アウトルック〔66号(1999年12月)〕)
(GDP比、%)
(暦年) 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000
日  本 58.2 59.8 63.0 69.4 76.0 80.6 84.7 97.3 105.4 114.1
米  国 65.5 68.1 69.7 68.9 68.3 67.7 65.4 62.4 59.3 57.1
英  国 40.1 46.9 56.2 53.7 58.9 58.5 58.9 56.4 54.0 51.2
ド イ ツ 40.1 43.4 49.0 49.2 59.1 61.9 62.8 63.3 62.6 61.7
フランス 40.3 44.7 51.6 55.3 59.4 62.3 64.5 64.9 65.2 64.6
イタリア 107.4 116.1 117.9 124.0 123.1 122.2 120.4 118.2 117.7 115.2
カ ナ ダ 80.9 88.2 96.8 98.0 99.2 98.9 94.1 91.7 86.9 82.5
(注 )日本政府推計による国及び地方の債務残高の対GDP比(年度、SNAベース)は、1999年度末123.1%程度(2次補正後)、2000年度末132.9%程度。

(資料10)国及び地方の財政収支
(SNAベース、OECD/エコノミック・アウトルック〔66号(1999年12月)〕)
(GDP比、%)
(暦年) 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000
日  本 0.8 2.0 4.8 5.1 6.4 6.9 6.0 8.5 9.9 10.1
米  国 5.9 6.7 5.7 4.5 3.9 3.1 1.9 0.8 0.4 0.6
英  国 2.8 6.5 8.0 6.8 5.8 4.4 2.0 0.2 0.7 0.8
ド イ ツ 2.9 2.5 3.2 2.5 3.2 3.4 2.6 1.7 1.6 1.2
フランス 2.2 4.2 6.0 5.6 5.6 4.1 3.0 2.7 2.2 1.7
イタリア 10.0 9.5 9.4 9.1 7.6 6.5 2.8 2.7 2.3 1.6
カ ナ ダ 7.2 8.0 7.6 5.6 4.3 1.8 0.8 0.9 1.6 1.6
(注 )修正積立方式の年金制度を有する日本及び米国は、実質的に将来の債務と考えられる社会保障基金を除いた値。
(注 )日本政府推計による国及び地方の財政収支の対GDP比(年度、SNAベース)は、1999年度10.7%程度(2次補正後)、2000年度9.4%程度。

3)

 社会保障を含む歳出構造と税収構造を見るとき、いわゆる「消費税の福祉目的化」が行われていることにも留意が必要です。これは、平成11年度及び12年度予算において、国の消費税の収入(地方交付税を除く国分)を基礎年金、老人医療及び介護に充てることを予算総則に明記することとしたものです。平成12年度一般会計予算の歳入・歳出構造を、この関係を踏まえて見てみると、前頁の(資料11)のような姿となっています。まず、消費税収(国分)が6.9兆円であるのに対して、これが充てられる対象経費は9.0兆円となっており、消費税収(国分)だけでは賄いきれていません。また、福祉目的化などの結果として、国の一般会計税収48.7兆円のうち、使途が特定されていない部分が23.4兆円であるのに対して、これによって賄うべき歳出は2倍を超える56.0兆円(うち、国債費が22.0兆円)であり、不足分が公債によって賄われているという状況になっています。
(注 )仮に、今後とも消費税収(国分)の使途を福祉目的に限定していく場合、それ以外の歳出の規模と消費税収以外の税収とをどのようにバランスさせていくのかということが大きな課題となります。

(資料11)平成12年度予算

(資料11)平成12年度予算


(2

) 国民負担率のあり方
1)  先にも述べたとおり、受益と負担は表裏一体のものですから、国民が一定の公的サービスを求める場合、同時に、それに対応する国民負担を選択しなければなりません。
 国民負担率は、公的サービスに要する費用を賄うために法律に基づいて国民に課される負担の大きさを示すもので、租税収入の対国民所得比である租税負担率と、社会保険料収入の対国民所得比である社会保障負担率との合計です。また、国民負担率に国・地方の財政赤字の対国民所得比を加えたものを潜在的国民負担率と呼んでいますが、これは、現在のみならず将来の国民に先送りしている負担をも含めて政府の活動の大きさを示すものです。公債により公的サービスの財源調達を行うことは、その時の国民が享受する公的サービスの受益と負担の関係を見えにくくし、将来世代に過重な負担を先送りすることとなりかねません。
2)  わが国の租税負担率は平成12年度において22.5%、国民負担率は36.9%となっており、諸外国に比べ低い水準にあります。一方、潜在的国民負担率は49.2%に達しており、ヨーロッパ諸国に近い高い水準となっています(「三(資料3)」参照。)。このように、わが国においては、公的サービスはヨーロッパ諸国並みに近づく一方で国民負担はアメリカ以下であり、そのギャップが大きな財政赤字となっており、将来世代の負担において、高い水準の公的サービスを享受しているのが実状です。なお、わが国の租税負担率・国民負担率を諸外国と比較する場合には、わが国においては北欧諸国などと異なり公的年金等の給付に対する課税がほとんど行われていないことから、実質的な社会保障給付の水準に比して租税負担率が低く現れることにも留意が必要です。
3)  今後、高齢化に伴う社会保障等の公的サービスに要する費用の増加が避けられない見通しであることなどを考慮すると、国民負担率は長期的にはある程度上昇していかざるを得ないと見込まれています。一方、国民負担率が過重となることは、個人・企業の経済活力を阻害することとなりかねず、好ましくありません。このため、国民負担率の上昇を極力抑制していくことが必要です。

(3

) 税収の状況と中長期的見通し
1)  税収(一般会計税収)は、平成12年度については郵便定額貯金の大量満期による税収増という特殊要因があるにもかかわらず、累次の減税、景気の低迷などの影響もあり、昭和62年度の水準である50兆円を下回る状況(見込み)となっています。税収比率(一般会計税収の歳出総額に対する割合)は平成12年度において57.3%という低い水準となっています(資料12)。また、平成12年度地方税収についても減税などの影響があり、地方財政計画の地方税伸び率はマイナス0.7%と3年連続のマイナスとなっています。
(注 )昭和55年の当調査会の「財政体質を改善するために税制上とるべき方策についての答申」においては税収比率について「昭和40年代におけるわが国の水準や主要諸外国における現在の水準を参酌して、まず、80%程度にまで引き上げることができるならば、財政構造の健全化はかなり進展が図られ、国民のニーズに応えつつ安定的な財政運営を維持することが可能となり、財政の対応力も相当程度回復されることとなろう。」とされていました。

(資料12)一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移

(資料12)一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移

2)  今後景気が本格的な回復軌道に乗れば、税収は名目経済成長率を大きく上回って増加し、それによってもたらされる自然増収によって財政の歳入・歳出ギャップは大きく改善されるのではないか、との主張があります。
 経済成長と税収の関係については、例えば、個人所得課税は、名目所得が増えれば、課税最低限を上回る人の増加や累進税率の適用による税額の増加などにより、所得の伸び率以上に税収が増加する仕組みとなっています。また、法人課税は、企業収益が企業経営の改善を伴いつつ増加すれば、税収は経済の伸び以上に増加することとなります。このようなことから、税収は名目経済成長率をある程度上回って増加することになります。なお、消費課税の税収は、消費におおむね比例しますから、経済の伸びを大きく上回って増加することは基本的にありません。
(注 )税収(税制改正要因の影響を除いたもの)の伸び率を名目経済成長率で除した値を税収弾性値といいます。これは、税収の伸びと名目経済成長率とを比較するときに用いられます。税収弾性値の推移は(資料13)のとおりですが、短期的には上下に振れますので平均的な値を見るのが適当です。過去の長期的な平均値は国税1.1、地方税1.0です。

(資料13)昭和50年度以降の一般会計税収伸率及び弾性値の推移

(単位:%)
区分
年度
税収伸率 税収伸率
(税制改正調整後)
GDP伸率・弾性値
名  目 弾性値
昭和50 ▲8.5 ▲3.5 10.0 ▲0.35
51 13.9 12.3 12.4 0.99
52 10.7 12.4 11.0 1.13
53 26.5 10.0 9.7 1.03
54 8.3 14.4 8.0 1.80
55 13.2 10.9 9.0 1.21
56 7.8 3.3 6.2 0.53
57 5.4 4.0 4.8 0.83
58 6.1 5.9 4.5 1.31
59 7.9 7.4 6.8 1.09
60 9.4 5.6 6.3 0.89
61 9.6 8.8 4.6 1.91
62 11.8 16.0 4.8 3.33
63 8.6 13.3 6.8 1.96
平成元 8.1 10.5 7.1 1.48
9.4 8.2 8.0 1.03
▲0.5 0.2 5.6 0.04
▲9.0 ▲9.9 1.9 ▲5.21
▲0.6 ▲1.3 1.0 ▲1.30
▲5.7 2.3 0.4 5.75
1.8 2.4 2.3 1.04
0.2 0.4 3.0 0.13
3.6 ▲4.2 0.6 ▲7.00
10 ▲8.4 ▲6.8 ▲2.0 3.40

 バブルの時期には、土地や株の価格急騰や取引の急増に伴い、税収の伸びが名目経済成長率を大幅に上回りましたが、その後の経済の推移を見ても、バブル期のような経済は長続きせず、今後再びそのような経済状況が訪れることを期待することも適当ではありません。また、税収については景気回復局面には一時的に高く伸びることはありますが、景気循環が必ずあることから、景気後退局面においては逆に低い伸びとなります。
 将来の税収は、名目経済成長率がどの程度になるかということに大きく依存します。今後、経済構造の改革により生産性の向上を通じる経済成長を目指していくことが求められていますが、一方で今後の人口減少などは経済成長率の押下げ要因となります。このため、高い率の経済成長は期待しがたくなると考えざるを得ず、税収についても大幅な伸びは見込みがたくなります。
 加えて、税制の構造の面においても、
.近年の税制改正、とりわけ平成11年度税制改正において過去最大規模の個人所得課税、法人課税などの減税が行われ、今後の税収増加の土台となる税収規模が小さくなっていること、
.消費税・地方消費税の創設などにより、税体系における消費課税のウェイトが高まってきていること、
.個人所得課税の累進構造の緩和、法人税率・法人事業税率の引下げなどにより、税収の伸びが名目経済成長率をある程度上回るとしても、その程度は小さくなっていると考えられること、
.近年の景気の低迷などから法人の累積欠損は約84兆円(平成10年)に達しており、これが今後の法人税の減収要因として働くと考えられること、
などを踏まえれば、名目経済成長率に対する税収の伸びは相対的に鈍化していると考えられます。
 以上を考え合わせると、今後景気が回復すれば中長期的に名目経済成長に応じてある程度の税収増を見込むことはできるとしても、名目経済成長率を大幅に上回る税収の伸びは期待しがたく、経済成長に伴う税収増のみでは現在の巨額の歳入・歳出ギャップを大きく改善させることは困難であると考えます。
3)  現在のアメリカの財政事情の好転を例に挙げ、景気が良くなれば大幅な自然増収が期待できるのではないか、という主張があります。しかしながら、アメリカでは1985年のグラム・ラドマン法以来、累次にわたり財政赤字削減に向けた努力が行われており、1990年、1993年の包括財政調整法などの下、裁量的経費の上限を定める“Cap"や義務的経費の増及び減税に係るスクラップ・アンド・ビルドを定めた“pay-as-you-go”といった基本的な枠組みを導入し、国防費の大幅な削減や今後とも増加の見込まれる社会保障支出の抑制をはじめとした歳出削減策や所得税の最高税率の引上げなどの増収策を講じていることに留意しなければなりません。また、アメリカ経済が高率で史上最長の経済成長を遂げていることに加え、所得課税が連邦税収の9割を占め、わが国に比べ経済成長率を上回る税収増加が生じやすい税収構造にあることにも留意が必要です。さらに、1990年代の米国における財政赤字の最悪期の公債依存度が21%であったのに対し、現在のわが国の公債依存度は30%をはるかに超える水準に達しており、より深刻な状況にあることにも留意しなければなりません。
(4 ) 財政構造改革の必要性
1)  財政構造の問題点
 わが国財政は、巨額の財政赤字・累積債務を抱えており、租税の基本的機能の面からいえば、公的サービスの財源調達機能が極めて不十分な状況にあります。今後、わが国経済が本格的な景気回復軌道に乗ったとしても、税収の増加には先に述べたとおり大きなものは期待できません。一方、歳出については、急速な高齢化の進展に伴う社会保障経費の増大などが見込まれています。近年、金利が低下しているため、公債残高が年々増加し、その発行規模も拡大しているにもかかわらず、利払費はここ10年間ほぼ横ばい(10兆円台)にとどまっていますが、景気回復に伴い金利が上昇すれば利払費が急増します。このように、歳出面では大幅な増加要因を抱えており、このままの財政構造を放置すれば、現在の巨額の歳入・歳出ギャップが改善することは期待できません。また、フローの赤字が続けば債務残高は累増し、過去の債務をどのように返済していくのかという問題が深刻化します。
 例えば、一定の仮定の下に試算した「財政の中期展望」においては、名目経済成長率が3.5%の場合、経済成長に伴う税収の増加は毎年約2兆円程度しか見込めず、中期的には国債費の増加や社会保障関係費等の一般歳出の増加などによる歳出の伸びが歳入の伸びを上回ると試算されており、その結果、30兆円にも上る公債発行額が更に増加し、公債残高の対GDP比は上昇し続けるという試算となっています。
 このような現在の財政構造を放置すれば、公債発行が民間投資を阻害(クラウド・アウト)したり、インフレを招いたりしかねないなど、経済社会に深刻な影響を与えかねません。また、公債もいずれ確実に返済されなければなりませんが、将来世代に負担を先送りすることは、将来世代の一人一人に重い負担がかかることとなり、世代間の不公平をもたらしたり、国民の生活水準の切下げを余儀なくさせたりして、将来の経済社会の活力の足枷となりかねません。
 したがって、21世紀のわが国経済社会を公正で活力あるものとしていくためには、財政構造改革は避けて通れない課題です。財政健全化のためには、まず、景気回復を確かなものとすることが重要です。しかし、景気が回復すれば公債によるクラウド・アウトや利払費の急増が顕在化するおそれがあること、まもなく世界に例を見ない高齢社会が到来し、これに伴う経費の増大が見込まれる中で世代間の公平が速やかに確保される必要があることなどから、わが国経済が民需中心の回復軌道に乗った段階においては、時機を逸することなく、国・地方ともに、財政構造改革について具体的な措置を講じていくことが必要です。
 財政支出の拡大による大量の公債発行や公債残高の累増が長期的な経済成長の阻害要因となり得るということについては、主要先進国において共通の認識となっており、かつてはわが国と同様に財政赤字の問題を抱えていた各国とも財政健全化に果断に取り組み、成果を上げています。
2)  歳出の見直しの必要性
 財政構造改革に取り組むことにより、今後、公的サービスについての受益と負担をバランスさせていくことは、先に述べた実際の国民負担と潜在的な国民負担との差(すなわち国・地方合わせ47兆円程度(平成12年度見込み、SNAベース)の財政赤字)をいかにして縮減していくか、ということを意味します。
 そのためには、公的サービスのあり方や内容を見直すことにより歳出を減らすか、租税負担の増加などにより歳入を増やすか、あるいはその組合せしかなく、国民がどのような選択を行っていくかにかかっています。
 当調査会は、従来から、財政の健全性を確保するためには歳出の抑制が重要であることを指摘してきたところです。今後、再び財政構造改革に取り組む際には、まずは、歳出の合理化・効率化・重点化等に従来にも増して積極的に取り組むことが必要と考えます。このため、既存の施策・制度の効率性、有効性等を徹底して見直すことが必要であり、社会保障、公共事業などをはじめとする各歳出分野について、義務的経費や裁量的経費といった各経費の性格の違いなども踏まえつつ、制度や事業のあり方そのものの見直しなどを含め、国民的な議論の上での選択が行われることが不可欠です。
3)  行政のあり方の見直しの必要性
 当調査会としては、従来から、行政の簡素化・効率化を徹底することにより、一定の負担水準の下でも公的サービスの改善に努める必要があることを指摘してきました。行政改革については、平成13年1月から中央省庁等の再編が実施されることになっていますが、今後、行政改革の成果が発揮されるよう、引き続き努力することを要請したいと思います。
 行政機関の機構・定員の合理化による歳出削減効果には限界がありますが、行政改革に求められるものは行政のスリム化だけではありません。規制緩和の推進を含め政府の役割や行政の手法を見直し、個人や企業の創意工夫をより尊重することを通じ、経済構造を改革し、新規産業の創出など経済社会の活力を取り戻すことが重要です。これらにより経済の規模が拡大していけば財政構造改革にも資するものと考えられます。諸外国においては、例えば、民間企業の経営理念や経営手法を可能な限り行政の現場に導入するという、いわゆるNPM(ニュー・パブリック・マネジメント)の考え方に立った政策評価手法の活用や、公共施設等の整備などに民間の資金や経営能力等を活用するPFIの推進などにより、行政部門を活性化・効率化しながら財政健全化に努めてきている例が多く見られ、これがその後の経済社会の活力の礎となっていることも参考とする必要があります。
 さらに、当調査会は、政府保有株式の放出を含め国有財産の売却を進めることも不可欠の課題であるとの指摘を行ってきました。国有財産の売却による収入は一度限りのものですが、当調査会の提言などをも踏まえ、かつてない積極的取組みが行われています。引き続き、国有財産の売却に努めるとともに、民間における有効利用を含む国有財産の積極的活用を図ることも重要と考えられます。
4)  財政構造改革についての選択
 財政構造改革は、単なる財政面の問題にとどまらず、21世紀の経済社会に対応した社会保障のあり方や、中央と地方の関係まで視野に入れて取り組むべき課題です。また、先に述べたように高齢化に伴う社会保障経費の増大や今後の金利上昇に伴う利払費の増加が予想されることなどからすれば、歳出の徹底した節減・合理化などを行ったとしても危機的な財政状況を脱することは容易ではなく、財政構造改革は国民にとって厳しい内容とならざるを得ません。フローとストックともに財政赤字は深刻ですが、まずはフロー面での収支改善を考えた場合でも長い年月にわたって取り組まねばならないものと考えられます。この点に関し、過去の財政構造改革や歳出見直しの議論においては、まずはフローの財政収支を改善する観点から、プライマリー・バランスの均衡を達成する、財政赤字の対GDP比を一定水準以下に抑える、赤字国債の発行をゼロとする、などといった目標が挙げられてきていますが、いずれにしても、財政構造改革を実現するためには歳出・歳入両面にわたる国民の選択が求められます。
 このようなことから、景気回復後に財政構造改革について具体的な検討を行う際には、財政の将来の見通しなど必要な論議の材料を国民に分かりやすく示し、開かれた議論が行われることが必要と考えられます。
(注 )プライマリー・バランスの均衡とは、国債費を除いた歳出が公債金収入以外の収入で賄われている状況を言います。この場合、現世代の受益と負担が均衡し、金利が名目成長率に等しければ債務残高は対GDP比で一定に保たれます。
 ただし、近年は金利が名目成長率を上回っており、プライマリー・バランスが均衡している場合でも債務残高の増加率はGDP成長率を上回ります。
 近い将来、財政構造改革との関連で税制全体の姿を検討することが課題になると考えられます。この問題については、財政構造改革を具体的に検討する段階において、先に述べたような国民に開かれた議論を経て、公的サービスの水準をどの程度とするのが適当か、その裏付けとしての国民負担のあり方はどうあるべきか、という点について将来世代のことをも併せ考えながら十分な議論が行われた上で、国民的な選択がなされるべきものと考えます。

[続きがあります]

 

 
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