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) 財政構造改革の必要性 |
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財政構造の問題点
わが国財政は、巨額の財政赤字・累積債務を抱えており、租税の基本的機能の面からいえば、公的サービスの財源調達機能が極めて不十分な状況にあります。今後、わが国経済が本格的な景気回復軌道に乗ったとしても、税収の増加には先に述べたとおり大きなものは期待できません。一方、歳出については、急速な高齢化の進展に伴う社会保障経費の増大などが見込まれています。近年、金利が低下しているため、公債残高が年々増加し、その発行規模も拡大しているにもかかわらず、利払費はここ10年間ほぼ横ばい(10兆円台)にとどまっていますが、景気回復に伴い金利が上昇すれば利払費が急増します。このように、歳出面では大幅な増加要因を抱えており、このままの財政構造を放置すれば、現在の巨額の歳入・歳出ギャップが改善することは期待できません。また、フローの赤字が続けば債務残高は累増し、過去の債務をどのように返済していくのかという問題が深刻化します。
例えば、一定の仮定の下に試算した「財政の中期展望」においては、名目経済成長率が3.5%の場合、経済成長に伴う税収の増加は毎年約2兆円程度しか見込めず、中期的には国債費の増加や社会保障関係費等の一般歳出の増加などによる歳出の伸びが歳入の伸びを上回ると試算されており、その結果、30兆円にも上る公債発行額が更に増加し、公債残高の対GDP比は上昇し続けるという試算となっています。
このような現在の財政構造を放置すれば、公債発行が民間投資を阻害(クラウド・アウト)したり、インフレを招いたりしかねないなど、経済社会に深刻な影響を与えかねません。また、公債もいずれ確実に返済されなければなりませんが、将来世代に負担を先送りすることは、将来世代の一人一人に重い負担がかかることとなり、世代間の不公平をもたらしたり、国民の生活水準の切下げを余儀なくさせたりして、将来の経済社会の活力の足枷となりかねません。
したがって、21世紀のわが国経済社会を公正で活力あるものとしていくためには、財政構造改革は避けて通れない課題です。財政健全化のためには、まず、景気回復を確かなものとすることが重要です。しかし、景気が回復すれば公債によるクラウド・アウトや利払費の急増が顕在化するおそれがあること、まもなく世界に例を見ない高齢社会が到来し、これに伴う経費の増大が見込まれる中で世代間の公平が速やかに確保される必要があることなどから、わが国経済が民需中心の回復軌道に乗った段階においては、時機を逸することなく、国・地方ともに、財政構造改革について具体的な措置を講じていくことが必要です。
財政支出の拡大による大量の公債発行や公債残高の累増が長期的な経済成長の阻害要因となり得るということについては、主要先進国において共通の認識となっており、かつてはわが国と同様に財政赤字の問題を抱えていた各国とも財政健全化に果断に取り組み、成果を上げています。 |
2) |
歳出の見直しの必要性
財政構造改革に取り組むことにより、今後、公的サービスについての受益と負担をバランスさせていくことは、先に述べた実際の国民負担と潜在的な国民負担との差(すなわち国・地方合わせ47兆円程度(平成12年度見込み、SNAベース)の財政赤字)をいかにして縮減していくか、ということを意味します。
そのためには、公的サービスのあり方や内容を見直すことにより歳出を減らすか、租税負担の増加などにより歳入を増やすか、あるいはその組合せしかなく、国民がどのような選択を行っていくかにかかっています。
当調査会は、従来から、財政の健全性を確保するためには歳出の抑制が重要であることを指摘してきたところです。今後、再び財政構造改革に取り組む際には、まずは、歳出の合理化・効率化・重点化等に従来にも増して積極的に取り組むことが必要と考えます。このため、既存の施策・制度の効率性、有効性等を徹底して見直すことが必要であり、社会保障、公共事業などをはじめとする各歳出分野について、義務的経費や裁量的経費といった各経費の性格の違いなども踏まえつつ、制度や事業のあり方そのものの見直しなどを含め、国民的な議論の上での選択が行われることが不可欠です。 |
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行政のあり方の見直しの必要性
当調査会としては、従来から、行政の簡素化・効率化を徹底することにより、一定の負担水準の下でも公的サービスの改善に努める必要があることを指摘してきました。行政改革については、平成13年1月から中央省庁等の再編が実施されることになっていますが、今後、行政改革の成果が発揮されるよう、引き続き努力することを要請したいと思います。
行政機関の機構・定員の合理化による歳出削減効果には限界がありますが、行政改革に求められるものは行政のスリム化だけではありません。規制緩和の推進を含め政府の役割や行政の手法を見直し、個人や企業の創意工夫をより尊重することを通じ、経済構造を改革し、新規産業の創出など経済社会の活力を取り戻すことが重要です。これらにより経済の規模が拡大していけば財政構造改革にも資するものと考えられます。諸外国においては、例えば、民間企業の経営理念や経営手法を可能な限り行政の現場に導入するという、いわゆるNPM(ニュー・パブリック・マネジメント)の考え方に立った政策評価手法の活用や、公共施設等の整備などに民間の資金や経営能力等を活用するPFIの推進などにより、行政部門を活性化・効率化しながら財政健全化に努めてきている例が多く見られ、これがその後の経済社会の活力の礎となっていることも参考とする必要があります。
さらに、当調査会は、政府保有株式の放出を含め国有財産の売却を進めることも不可欠の課題であるとの指摘を行ってきました。国有財産の売却による収入は一度限りのものですが、当調査会の提言などをも踏まえ、かつてない積極的取組みが行われています。引き続き、国有財産の売却に努めるとともに、民間における有効利用を含む国有財産の積極的活用を図ることも重要と考えられます。 |
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財政構造改革についての選択
財政構造改革は、単なる財政面の問題にとどまらず、21世紀の経済社会に対応した社会保障のあり方や、中央と地方の関係まで視野に入れて取り組むべき課題です。また、先に述べたように高齢化に伴う社会保障経費の増大や今後の金利上昇に伴う利払費の増加が予想されることなどからすれば、歳出の徹底した節減・合理化などを行ったとしても危機的な財政状況を脱することは容易ではなく、財政構造改革は国民にとって厳しい内容とならざるを得ません。フローとストックともに財政赤字は深刻ですが、まずはフロー面での収支改善を考えた場合でも長い年月にわたって取り組まねばならないものと考えられます。この点に関し、過去の財政構造改革や歳出見直しの議論においては、まずはフローの財政収支を改善する観点から、プライマリー・バランスの均衡を達成する、財政赤字の対GDP比を一定水準以下に抑える、赤字国債の発行をゼロとする、などといった目標が挙げられてきていますが、いずれにしても、財政構造改革を実現するためには歳出・歳入両面にわたる国民の選択が求められます。
このようなことから、景気回復後に財政構造改革について具体的な検討を行う際には、財政の将来の見通しなど必要な論議の材料を国民に分かりやすく示し、開かれた議論が行われることが必要と考えられます。 |
(注 |
)プライマリー・バランスの均衡とは、国債費を除いた歳出が公債金収入以外の収入で賄われている状況を言います。この場合、現世代の受益と負担が均衡し、金利が名目成長率に等しければ債務残高は対GDP比で一定に保たれます。
ただし、近年は金利が名目成長率を上回っており、プライマリー・バランスが均衡している場合でも債務残高の増加率はGDP成長率を上回ります。 |
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近い将来、財政構造改革との関連で税制全体の姿を検討することが課題になると考えられます。この問題については、財政構造改革を具体的に検討する段階において、先に述べたような国民に開かれた議論を経て、公的サービスの水準をどの程度とするのが適当か、その裏付けとしての国民負担のあり方はどうあるべきか、という点について将来世代のことをも併せ考えながら十分な議論が行われた上で、国民的な選択がなされるべきものと考えます。 |