「時代は変わった」。高速増殖炉の解体などを監督する英原子力廃止措置機関(NDA)の担当者が11月下旬、ロンドンの事務所で取材に応じた際、大きなため息をついた。「プルトニウムはもう夢のエネルギーではなくなった。私たちは5通りの廃棄法を検討している」と言い、使い道を失った余剰プルトニウムの処分法を書き込んだ一覧表を手に説明を始めた。
8キロで核兵器が製造可能なプルトニウムは、一定量を超すと臨界事故を起こすため、小分けにして処分する必要がある。現時点では、プルトニウムの割合を0・05%に薄めてセメントと混ぜる方法がある。
しかし、世界最多の114・8トンもの余剰プルトニウムを抱える英国にとって、これらすべてを小分け処分すれば、廃棄物の総量は20万トンを超える。テロ対策一つとっても、広大な処分場と膨大な追加費用が派生する。
米国が研究している「カン・インサイド・キャニスター(大筒の中に小筒の意)」という処分法も検討中だ。
プルトニウムを他の物質と混ぜ、アイスホッケーのパックのような形状に加工した上で長さ約50センチの金属製の小筒に詰める。この筒をより大きなステンレス製の長さ約3メートルの大筒に入れ、隙間(すきま)に、遮蔽(しゃへい)がなければ数秒間で死に至る強い放射線を出す高レベル放射性物質を流し込む。
テロリストが、大筒からプルトニウムを取りだそうと容器を開けたとたん、即死する仕掛けだという。
ただ、これらいずれの手法も、コスト面や技術的に未確立な部分が多い。「永遠のエネルギー工場」を急ぐばかりに将来的な解体を前提に建造されなかった高速増殖炉と同様、その燃料プルトニウムも捨てることになるとは想定されなかった。原爆の原料となる物質であるにもかかわらず、これまで廃棄のための技術開発が放置されてきた理由だ。
「冥土(地獄)の王」という意味のプルトニウムは、毒性が極めて強い。一般人の摂取制限量は100億分の5・6グラム。1グラムで18億人分の摂取制限量に当たる計算だ。半減期が2万4000年と長く、20万年以上も安全に管理する必要がある。
NDAの担当者は「近く研究を本格化させるが、技術が確立するまで長い歳月が必要だ」と語り、再びため息をついた。英政府は12月に入り、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料には使えない一部のプルトニウムを廃棄物として処分することを決めたが、余剰量は130トンまで膨らむ見通しだ。
再利用の道も険しい。世界原子力協会のジュリアン・ケリー上級研究員は「MOX燃料の値段は、通常のウラン燃料の3割増しから2倍」と指摘する。原発を運用する電力会社は「使用拒否」を明言、英政府が目指す再利用は販路確保という難問に直面しそうだ。「いかに上手にMOXを作り、国際価格にあったものを供給するか」(エネルギー・気候変動省)。失敗すれば、国民負担もどんどん増える。
核科学者らで構成する「核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)」によると、10年末時点の世界のプルトニウムは、軍事、民生双方をあわせて約500トン。再処理による生産量が消費量を大幅に上回る状態が続いているのだ。
「地球上の生物が出す廃棄物はすべて再利用できる。だが、人類は、核のような再利用できないゴミを作り出してしまった」
英政府の独立委員会、放射性廃棄物管理委員会(CORWM)委員長で生物学者のロバート・ピッカード教授が自戒を込めて口にした言葉は、後始末の用意をせずに未来世代に危険と不安を押しつけながら原子力利用を続ける、私たちの傲慢さを言い表している。【ロンドン会川晴之】=おわり
毎日新聞 2011年12月14日 東京朝刊