今年もフランスから高レベル放射性廃棄物を詰め込んだ特殊容器「カストル」がドイツの北部ゴアレーベンに運ばれてきた。91年まで高速増殖炉計画を進めたドイツは、プルトニウムを取り出すための核燃料再処理を英仏両国に依頼。その過程で生まれた「核のゴミ」が、毎年11月に列車で輸送される。
ドイツでは使用済み核燃料収納容器を「ポルックス」と呼ぶ。いずれもギリシャ神話に登場し、双子座で対をなす星だ。原子力用語には神話や宗教に由来する言葉が多い。
旧東独との国境だったエルベ川を目指し、紅葉真っ盛りの森を走ると、突然、空が開けた。森を切り開いて設置した高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵施設、最終処分地建設に向けた調査が進むゴアレーベンの核施設だ。入り口には天を突くかのような二重の鉄条網。ポーランドのアウシュビッツ強制収容所で見た光景と重なる。
高速エレベーターで1分44秒。地下840メートルの坑道は、ほんのりと暖かい。幅6メートル、高さ4メートルのかまぼこ状の坑道は、塩の結晶で覆われ、雪の祠(ほこら)にいるような気分だ。
ドイツ連邦放射線防護庁のニトシュさんによると、この一帯は、2億年前までは海だったが、約1000万年前に隆起し、岩塩ドームが出来た。
岩塩層は、塩の採掘技術が確立されているほか、200度の高温に耐えられる特性があり、放射性廃棄物の保管に最適だという。北部ドイツには約200カ所の岩塩ドームがあり、核関係者は「自然からの贈り物」と表現する。旧西独時代の70年代後半、地元が誘致したのを契機に、東独との国境「鉄のカーテン」からわずか2キロまで調査が進んだ。
だが、98年に中道左派の社会民主党と連立政権を組んだ環境派の緑の党が「待った」をかけた。00年から10年間の猶予を設け、他の適地を探したが、見つからなかった。メルケル政権は10年10月、10年ぶりにゴアレーベンでの調査再開を決めた。
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「伯爵」を隣町に訪ねた。300年前からこの地を治める家系のフォン・ベルンシュトルフさん。現在も6000ヘクタールの土地を所有、1割が処分予定地内にあり彼が首を縦に振らないと処分地建設は不可能と言われる。
「先祖から受け継いだ土地と住民を守る義務が私にはある」「地下水や天然ガス層があるゴアレーベンは地層的に適地ではない」。伯爵は静かな口調ながら「政府は土地の強制収用もできる」との気がかりも口にした。
伯爵家で、バイオマス技師として働く夫とこの町で暮らす光恵・ディーレさん。福島県浪江町出身で、移住して34年目。実家だけでなく、双葉町に住む妹夫婦も福島第1原発事故で故郷を失った。「第2の故郷が想定外の事故に見舞われなければ良いが」と言った。
保守系が強い南部ドイツには、「処分適地」とされる花こう岩層や粘土層がある。社民党などの勢力が強い北部ドイツだけで処分場選定を急ぐのは「不公平だ」という政治的な対立もあるのだ。
22年までの原発全廃を決めたメルケル政権は11月11日、最終処分地選定についても「タブー無しに全土で選定し直す」と表明した。世界5位の原発大国だったドイツの処分地選定は、再び迷路に入り込み、「ポルックス」も落ち着き先を失った。【ゴアレーベン(ドイツ北部)会川晴之】=つづく
毎日新聞 2011年12月10日 東京朝刊