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『スーパーソレノイド機関』12/28 34話修正
第三十九話 レイストン要塞潜入作戦! ~すれ違う想い~
<ツァイスの街 中央工房 医務室>

カルデア鍾乳洞から戻ったエステル、ヨシュア、アガットの3人は、手に入れたゼムリアごけを持って教会へと直行した。
教会の司教はエステル達がゼムリア苔を採って帰って来ると信じていたらしく、特効薬の調合の用意をして待っていた。
驚いたエステルに対し、司教は「努力をする者に女神は手を差し伸べるのです」と穏やかに微笑んだ。
そして司教は素早く調合を終え、特効薬の入ったビンをエステルに渡した。
ビンを受け取ったエステルは大きな声でお礼を言って、元気に教会を飛び出す。
ヨシュアとアガットは司教に頭を下げてエステルの後を追いかけた。
医務室でシンジの看病をしていたアスカとティータは、エステルの姿を見て嬉しそうに駆け寄る。

「シンジの薬が出来たの?」
「うんアスカ、これが特効薬よ!」
「わーい!」

エステルが持っていた特効薬の入ったビンを見せると、アスカとティータは手を取り合って歓声を上げた。

「2人とも、静かに」

追いついたヨシュアがあきれた顔で注意した。

「ほら、シンジに早く薬を飲ませてやれ」
「そ、そうね」

アガットに指摘されたアスカはごまかし笑いを浮かべると、エステルから特効薬の入ったビンを受け取った。
そしてうなされながら寝ていたシンジを起こして飲ませる。

「ううっ!」

特効薬を飲んだシンジは大量の汗を噴き出して苦しみ始めた。
エステルとアスカはそんなシンジの姿を見て困惑する。

「えっ、どうして!?」
「まさか、司教さんが薬を間違えたとか!?」
「あの、多分強いデトックス効果を持つ薬なんだと思います」

ティータの説明通り、しばらくしてシンジは穏やかな寝息を立て始めた。
安心したエステル達は胸をなで下ろす。
夜も更けて来たので、エステル達は疲れを取るため寝る事にした。



<ツァイスの街 遊撃士協会>

次の日の朝、まだ体力が回復していないシンジを休ませるために医務室に残し、エステル達はマードック工房長と一緒に遊撃士協会に集まっていた。

「ねえキリカさん、どうしてマードックさんを呼んだの?」

エステルが不思議そうな表情でマードック工房長に視線を送ると、アスカ達も同じ事を思ったらしく、奇妙な物でも見るかのような目で見つめた。

「わ、私は話があると言われただけで……」

10個の瞳に見つめられたマードック工房長は落ち着きの無い様子で答えた。
その姿を見てキリカは軽いため息をついた後、ゆっくりと話し始める。

「マードック工房長には重大なお願いがあって来て頂いたのよ」

キリカの言葉を聞いたマードック工房長はさらに顔色が悪くなる。

「君の要望もあのラッセル博士達に負けずに無茶な物が多いからなあ」
「私は道理の通らない事は申し上げていないはずですが」

キリカは微笑みを浮かべながら言った後、マードック工房長を呼んだ事情を説明し始めた。
遊撃士協会はその国の政治や軍事に対して手を出さないと言う古くからの規則がある。
――協会規約第3項『国家権力に対する不干渉』――
この規則があるからこそ遊撃士協会は様々な国に支部を持つ事ができたのだ。
そしてこの規則がある以上、遊撃士はレイストン要塞を捜査をする事ができない。

「そ、それじゃあお母さんを助ける事は出来ないんですか?」

キリカの話をティータが真っ青になった。

「そんな事はないわ、遊撃士協会には他にこんな規則もあるの」

しかしキリカはティータの不安を打ち消すようにきっぱりと否定してキリカはさらに説明を続ける。
――協会規約第2項『民間人に対する保護義務』――
遊撃士は民間人に命の危険が迫っている、または権利が脅かされていると判断した場合は保護をする義務があると定めた規則。

「エリカ博士は民間人、だからこの規則が適用されるわ」
「なるほど、規則の穴を突くってわけか」

キリカの説明を聞いたアガットが感心したようにつぶやいた。

「そう、誘拐されたエリカ博士はレイストン要塞内に監禁されて命の危険にさらされていると遊撃士協会は判断するわ。そこでマードック工房長からエリカ博士の救出をお願いしてほしいのです」
「分かった、ツァイス中央工房から遊撃士協会にエリカ博士の救出を依頼しよう」
「それではこちらの契約書に署名をお願いします」

マードック工房長はキリカの差し出した書類にサインをした。

「これで本件は非公式ながら遊撃士協会の任務として認定されたわ。今回の任務は遊撃士協会と王国軍の信頼関係を揺るがしかねないケースだから心してかかりなさい」
「了解しました」

キリカの言葉にヨシュアは力強くうなずいた。
そしてキリカはレイストン要塞にある建物の大まかな場所が書かれた地図を取り出して机に広げた。

「すごい、こんな物どこで手に入れたの?」
「ふふ、それは秘密よ」

驚くエステルに、キリカはそう返した。
地図によるとレイストン要塞はヴァレリア湖の岸辺に建てられていて、陸地と接している部分は高い壁がそびえ立ち、正門以外に歩いて入れそうな道が無い。
その他の交通手段は飛行艇か船着き場に限られ、まさに難攻不落にふさわしい砦だった。

「すごいわね、どうやってレイストン要塞の中に入ればいいのかしら?」

アスカが難しい顔をしてぼやいた。
するとエステルが笑顔で手を挙げて提案する。

「空賊事件の時みたいに捕まっちゃうって言うのはどう? そうすれば牢屋に入ればエリカさんに会えるかもしれないし」
「あんたバカァ? そんな事をしたら遊撃士協会に迷惑がかかるじゃない!」

エステルの発言に目を丸くしてアスカは反論した。

「それに、エリカ博士が牢屋に閉じ込められている可能性は低い。むしろ、協力者として要塞内に軟禁状態にされている方が予想されるわ」
「脱獄する方が忍び込むより手間が掛かるだろう」

アガットもあきれた顔でツッコミを入れた。

「それでは湖から船を使って船着き場から潜入する作戦はどうでしょうか?」
「まあ、それしか無いだろうな」

ヨシュアが提案すると、アガットは難色を示しながらも賛成した。
ヴァレリア湖では天気によって濃い霧が発生する事がある。
または夜の闇にまぎれて進む方法もあった。

「でも行きにボートを使うとなると、問題は脱出方法ね」
「……ああ、そうだな」

キリカがそう言うと、アガットは同意してうなずいた。
どうやら要塞の地図を見ていたアガットは船着き場の警備艇を奪って逃げる方法を考えていたらしい。
ボートで侵入すれば、それだけ船着き場の警備は厳重になり不意を突く事が難しくなる。

「別の潜入経路が欲しい所なんだがな……」

アガットは悔しそうな顔でつぶやいた。
するとエステルはまたアイディアを思いついたようで、手を挙げて意見を述べる。

「それならエリカさんが誘拐された時みたいに運送業者に変装して入る方法はどう?」
「エステル、それはツァイスの街の人々の目をごまかすための作戦だから。要塞の人は配送されても怪しい荷物は受け取らないよ」
「そっか、今度こそいけると思ったのに」

ヨシュアが指摘すると、エステルは元気を無くしてうなだれた。

「そうだ、ライプニッツ号があるじゃないか!」

突然叫んだマードック工房長に驚いて、エステル達の視線が集まった。
マードック工房長は浮かれてさらに話を続ける。

「ツァイスの街からレイストン要塞への荷物の運送はライプニッツ号が請け負っている事は知っているだろう? そこで、ライプニッツ号に詰め込むコンテナの中に君達が入れば要塞の中に入れる。完璧な作戦だろう?」

そんなマードック工房長にティータが言い辛そうに声を掛ける。

「あの、コンテナに隠れても生体探知器を使われたら見つかってしまうと思うんですけど」
「そうか、生体探知器があったか」

ティータの言葉を聞いたマードック工房長はガックリと肩を落とした。
しかしアスカは何か思いついたようで、目を輝かせてティータに尋ねる。

「いいえ、いけるかもしれないわ。アタシが研究所でエリカさんに見せてもらった器械を覚えている?」
「生体探知器妨害器ですか? でも、あの器械はまだ未完成です」

ティータは困惑した表情で答えたが、アスカはガッツポーズをとって宣言する。

「それならアタシ達の手で生体探知器妨害器を完成させるのよ!」
「ええっ!?」
「エリカ博士の発明を理解することが出来ると言うのかね!?」

ティータとマードック工房長は驚きの声を上げた。

「エリカさんの実験に立ち会ったアタシとティータの力を合わせればやれるわよ」

アスカは自信たっぷりにウインクをした。

「もしコンテナに隠れて潜入する事が出来れば、脱出経路に船着き場を使いやすくなるわね」

考える仕草をしながらキリカはそうつぶやくのだった。
そして改めて作戦を話し合った結果、今度のライプニッツ号のレイストン要塞へ向けての出港までに生体探知器妨害器の完成が間に合えば、コンテナに紛れ込んでレイストン要塞へ潜入する作戦を選ぶ事になった。
話がまとまった所でマードック工房長はライプニッツ号の手配をしに中央工房へと戻った。
またアスカとティータ、ヨシュアは生体探知器妨害器を完成させるためにエリカ博士の家に向かい、器械に詳しくないエステルとアガットは中央工房の医務室で休んでいるシンジの様子を見ながら出発の準備をするのだった。



<ツァイスの街 飛行船発着場>

そしてその翌日、回復したシンジを加えたエステル達は、キリカとマードック工房長と一緒にライプニッツ号の待つ飛行船発着場へと向かった。
エリカ博士が製作中だった生体探知器妨害器は、ティータとアスカとヨシュアの3人が協力して完成させたのだった。

「まさかエリカ博士の発明品を完成させてしまうとは、凄いじゃないか。中央工房の技師として来て欲しいぐらいだよ」
「僕は少し手伝っただけで、頑張ったのはアスカとティータですよ」

マードック工房長の賛辞に対してヨシュアは控えめに答えた。

「私、お母さんを助けたいのに何も出来なくて、それでシンジお兄ちゃんには迷惑を掛けちゃったし……だから自分に出来る事を一生懸命やったんです!」

そう答えたティータの表情には今までの悩みが吹き飛んだような清々(すがすが)しさがあった。

「アスカ、ティータを元気付けるために生体探知器妨害器を完成させようって提案したの?」
「た、たまたまそうなっただけよ!」

シンジに問い掛けられたアスカは、顔を赤くして横を向いた。
エステル達がライプニッツ号に乗り込む前に、キリカが注意事項を述べる。

「要塞内では後に遊撃士協会と王国軍の間で禍根かこんが残らないように戦闘は極力避ける事、良いわね?」
「だけどよ、黒装束のやつらをぶちのめす位は良いだろう?」
「殺さない程度にね」

アガットの質問にキリカは軽い返事をした。

「それでは遊撃士諸君、頼んだよ」
「もし軍の人達が来ても適当にごまかしておくから、安心しなさい」

マードック工房長とキリカに見送られて、エステル達はライプニッツ号へ乗り込んだ。
ライプニッツ号の乗組員であるグスタフ整備長の話によると、エステル達が隠れるコンテナは、万が一開けられてもばれないように偽装するため狭くなってしまうらしい。
要塞に着くまではまだ時間があるようなので、エステル達は戦術オーブメントと生体探知器妨害器の調整をしながらに最上階の整備室で待っている事にした。
エステル達が整備室に着くと、ライプニッツ号に乗り込んでから思い詰めた表情をして黙っていたシンジが口を開く。

「ねえ、エリカさんを助け出したら、アスカはツァイスの街でオーブメント技師になった方が良いんじゃないかな?」
「突然何を言い出すのよ!?」

シンジの発言を聞いて、アスカは驚きの声を上げた。

「だって、アスカには技師の才能があるってマードックさんも言っていたし、エリカさんやティータともずっと側に居られるじゃないか。それに街の中に居れば安全だよ」

さらにシンジが説明すると、アスカは体を震わせながら怒鳴り散らす。

「アタシ達は一緒に遊撃士になるって誓ったじゃない、それを止めろって言うの!?」
「そうだよ、この前アスカが遊撃士を続けるって言って、シンジは大喜びしてたし」

エステルも疑問の声を上げた。

「撃たれた事がそれほどショックだったのかい?」

ヨシュアが尋ねると、シンジは肯定するようにうなずいた。
そんなシンジに向かってあきれ顔になったアガットが声を掛ける。

「あのな、もしティータのお袋さんを助け出しても、元通りにツァイスの街にってわけにはいかないぜ」
「えっ?」

アガットの言葉を聞いたシンジは目を丸くした。

「やつらはまた取り戻そうと狙って来る、そして今度はティータが巻き込まれるかもしれねえ」

そう言うとアガットはキリカから頼まれたもう1つの依頼について話し始めた。
キリカはエリカ博士を要塞から救い出した後、安全が保障されるまでティータと共に姿を隠すつもりなのだと言う。
ティータを要塞まで同行させたのはそんな事情もあっての事だった。

「安全になるまでって、どういう事?」
「キリカは誘拐事件にリベール王国の軍部の人間が絡んでいるのは確実と考えているようだな」

アスカの質問に、アガットはそう答えた。

「それってやっぱり、リシャールさん?」
「さあ、確実な証拠は無いが、そうだとしたら解決まで時間が掛かってやっかいだな」

エステルが意見を言うと、アガットは面倒くさそうな表情になった。

「……と言うわけだ、お前も男なら惚れた女を最後まで守り通してみろや」
「はい」

アガットの言葉にシンジは返事をしたが、アスカにはシンジの返事は弱く感じられ、不安を残した。

「それなら、アガットさんは私に惚れたから守り抜いてくれるんですね!」
「バ、バカっ、それは話が別だ!」

ティータが明るい口調でそう言うと、アガットはあわてて否定した。

「ふふっ、冗談ですよ」

ティータがそう言うと、エステル達は笑い出した。

「おーい、そろそろ要塞に着くから、コンテナに入ってくれ!」

グスタフ整備長に呼ばれたエステル達はコンテナのある船倉へと移動した。
エステル達が隠れるコンテナは、後方にある取り出し口を開くと、他のコンテナと同じように警備艇修理用の鉄板などが積まれているように見える。
しかしコンテナの側面についた隠し扉をたてにスライドさせて開くと、空洞になっているコンテナの前方部分に入れる仕組みとなっている。

「よし、じゃあ1人ずつ入るんだ」
「チャーンス」

アスカは小さくつぶやくと、最初にコンテナの中に入った。
そして次に中へと入って来たシンジの体をぎゅっと抱き寄せた。

「ア、アスカ、苦しいってば!」
「だってこうしないと6人全員が中に入れないわよ」

コンテナの中から聞こえて来るシンジとアスカのやりとりを聞いて、エステルとティータは顔を赤らめた。
次にヨシュア、エステルの順でコンテナの中へと入る。

「エステル、首をこっちに向けて」
「どうしても、そっちを向かないとダメ?」
「うん」

息がかかるくらいの距離までヨシュアに顔を近づけたエステルは、顔がゆでダコのように真っ赤になってしまった。
いつもは冷静なヨシュアも照れ臭そうにしている。
そしてティータ、最後にアガットの順に中に入って扉は閉められた。

「なんか、アスカと会ったばかりの頃に、こんな狭い所に押し込められた事があったね」
「そうね」

アスカとシンジはドイツから日本へ向かう艦隊の空母で初めて顔を合わせた。
その時一緒に居た保護者のミサトやシンジの友達のトウジ、ケンスケ、そしてアスカの付き添いの加持などの計6人で、狭い空母のエレベータに一度に乗り込んだ事があったのだ。

「でも、今はあの時とは違うわよ」
「あっ……」

そう言ったアスカは力を込めて、わずかにできた隙間を埋めるかのようにシンジの顔を抱き寄せた。
もう二度と自分から離れるなどと、迷い事を言わせないようにつなぎ止めてやるとアスカは決意する。
狭いコンテナの中は暑苦しいのが当たり前だが、シンジはそれ以上に大変に感じた。
そしてエステル達を乗せたライプニッツ号はいよいよレイストン要塞の飛行船発着場へと降り立った。
まず、兵士達にエステル達がコンテナの中に隠れている事を絶対に知られてはいけない。
その後エステル達はエリカ博士が居ると思われる研究棟まで兵士に見つからないように進まなければならない。
コンテナの中に居るエステル達の心臓は、先程とは違った意味の緊張感で高なるのだった……。
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