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白川日銀は「デフレ誘導」

政策“ミス”はこれで三度。世界最悪のGDPギャップを埋めようともしない。実は意図的な「物価下落」。

2010年1月号 BUSINESS [日本経済の貧乏神]

そこで泥ナワ式に総理と総裁の会談が12月2日にセットされ、日銀はその前日に臨時政策決定会合を開くことを決めた。実は首相官邸で行われた総理と総裁の会談に、亀井金融相を入れるかどうかで揉めていたようだ。日銀は当然、金融政策に不満を隠さない亀井金融相が入ることを拒否したが、日銀出身の大塚耕平・内閣府副大臣を絡めると亀井金融相が出てきかねない、という奇妙な舞台裏だったようだ。日銀は総理との会談後に金融政策を変更するのは圧力に屈したかに見えるため何としても避けたかったので、決定会合を先にしてメンツを保った格好だ。

新型オペで逆噴射修正

臨時会合で決めたのは「政策金利の0.1%で期間3カ月の資金を10兆円程度供給する。担保は国債、社債、CPなどすべての適格担保を対象とする」というもの。白川総裁の言葉では「広い意味での量的緩和」というが、その表現はミスリードだろう。新型オペの実態は、日銀が10月末の逆噴射――CP・社債の買い取り中止や企業金支援特別オペ打ち切りを復活させた程度である。

市場は1週間ほど円安にふれ、日経平均株価は1万円台を回復して一服ついたかのようにみえるが、日本のデフレ状態は変わらず、潜在的には円高傾向である。購買力平価説では、ビッグマック指数(マクドナルドのハンバーガーが米国で1ドル、日本で100円なら1ドル=100円)でわかるように、長期的にはデフレになると通貨高になるからだ。物価がマイナスだと実質金利も高くなるので、通貨高が実現しやすくなるのだ。日本の実体経済がよくない以上、株価も安心できない。

いったい、日本のマクロ経済はどうなっているのか。内閣府によれば、09年7~9月期のGDP上昇を織り込んでも、日本経済にはGDPの約7%、35兆円にのぼる大きなGDPギャップ(総需要と総供給の落差)がある。このようなGDPギャップがあると、経済は高い失業率とデフレに悩まされることになる。

GDPギャップと失業率の関係は、オーカンの法則(Okun's Law)として知られている。日本の場合、35兆円のGDPギャップは失業率を2~3%程度、失業者を130万~200万人程度増やしている。労働者を正規雇用と非正規雇用に分けると、非正規雇用のほうが大きな打撃を受ける。また新規雇用で採用中止になるなど、労働者間の格差を大きくする。アルバイトの採用停止や就業時間制限、高校・大学新卒者の就職内定率の低下といった形で、これは一部の地域で顕在化しつつある。

デフレは「モノの値段が下がる」と喜ぶ人がいるが、自分の給料が横ばいか昇給すると思っているからだ。しかしデフレになると、確かにモノの値段が下がるのだが、多くのモノの値段が下がれば多くの人の給料も下がることになる。デフレがいいとの話は「相対価格」と「一般価格水準」を混同しているのだ。

デフレとは「一般物価水準」の低下であり、01年の経済財政白書が言うとおり経済に悪影響を及ぼす。失業を減らしデフレから脱却するために一刻も早くGDPギャップをなくすような政府・日銀によるマクロ経済政策(財政・金融政策)が必要だ。

ちなみにグリア事務総長が持参してきたOECD経済見通しでは、日本のGDPギャップは先進国のなかでは最悪の部類に属している。筆者がこれらのリポートを参考にしながら、今般の経済危機で生じたGDPギャップを財政・金融政策で各国がどう埋めようと対応してきたかを試算してみた(図Ⅰ参照)。

例えば米国はリーマン危機後、GDPギャップが10%を超えていたが、まずGDPの5%程度の財政出動によって09年でギャップが5%程度に縮まって日本より改善した。さらに中央銀行にあたる連邦準備理事会(FRB)が「信用緩和策」――民間の社債、CPなどをFRBが買い取るなど、日銀が01年3月から06年6月まで続けた量的緩和をさらに強化した非伝統的な金融政策に踏み切った。これによりGDPギャップは将来にわたって8%程度改善する効果がある。したがって米国の財政・金融政策は、大きなGDPギャップを完全に穴埋めできるような規模で行われたといえる。欧州諸国も同様に、財政政策と金融政策の両輪で金融危機がもたらしたGDPギャップをほぼ埋めるように行われている。

GDPギャップを放置

日本はどうか。麻生自民党政権の時代に、国際的には「財政支出はGDP2%程度だ」と言って補正予算を通じ14兆円の景気対策を行った。しかし金融政策は実質的にはほとんど出動しなかった。その結果、今でもGDPギャップは世界最悪の大きな開きをみせている。金融政策がほとんど行われていないのが日本の特徴である。それは、各国中央銀行のバランスシートの拡大ぶりをみても、日本だけ見劣りしていることでわかる(図Ⅱ参照)。仮に今回の第2次補正を加えても財政政策ではGDP1%程度であり、まだまだGDPギャップを埋めるには至らない。

日本のデフレは世界から見ても異常な事態だ。ちなみにOECD経済見通しで、30カ国のうち09年の物価上昇率がマイナスの国は日本を含め8カ国あるが、2年続けてマイナスは日本、アイルランドの2カ国だけだ。実は日本は3年連続マイナスで、こんな国はほかにない。

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