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−第2話(後編)−


26.体育館スチャラカ探検隊3(レン(以下略)) K.伊藤

 ゲスト……霧谷霞、国津沙羅、三枝克、西川小太郎 NPC……洞井俊介、ニコンF3

 ワシの名はニコンF3、カメラだ。
 今日は我があるじ、西川小太郎に連れられて夜の体育館に来ているのだが……。

「オバケさん居ますカー?」
「い、居るわけないってんだろ!」

 ――……情けない、情けないぞ小太郎。
 その震える手でワシを構える気か? 手ぶれでロクな絵は撮れんぞ?
 いや、そもそも小太郎よ、おぬし、この体育館に入ってから何枚の絵を撮った?
 あぁ、情けない、それでも我があるじか!?

「けひっ、ここが噂の体育用具室ね……けひひひひ」
「……別に声なんて聞こえてきませんね」
「こんこんこん、オバケさん居ますカ? へんじがない ただの とびらのようダ」
「……『コタロー、開けて』」
「おおおおおおお、俺かよ!?」
「いや、せっかくだから僕が開けよう、TSのチャンス!」
「……『TS、したいんだ……』」
「ははっ、そーかそーか、じゃぁ残念だけどここは俊介に譲るかな!」
「……『TS、したかったのか……』」
「では、洞井俊介参ります。――折角だから僕はこの赤の扉を選ぶぜ!!」
「いーから早く開けテ、シュンスケ」
「そもそも赤くないですよこの扉」
「雰囲気だよ沙羅ちゃん。では、いざっ!!」

 まったく、婦女子の後で怯えおって、普段の根性はどこに行ったのか。
 三流幽霊なんぞに何だというのじゃ……ワシがついておるというのに。
 ここは一発、気合いを入れてやるか!!

「うわっ!?」
「きゃ!?」
「ななななな、なんだよっ!? 俺、シャッター触ってないぞ!?」
「オバケ?」
「ち、違っ、オバケなんかっ、いなっ、いないっ!!」
「……『コタロー、涙目』」
「ワォ、シャッタチャンス♪」
「や、やめっ、撮るなっ、写真は事務所を通してからにしてくれっ!」

 ……逆効果だった、か?

「で、でも今のコタローさん、ちょっと可愛いかも……」
「沙羅ちゃん、勘弁してくれよぉ……で、どうなんだよ、用具室の中はよ」
「残念ながらTS出来なかったよ」
「そっかそっか、そりゃ残念だ。……な、なんだよ霞ちゃん、俺のカメラがどうかしたか?」
「……いえ、別に。可愛いカメラよね」
「か、可愛い? ……可愛いかぁ? コイツが?」

 むか。

「いや、センスは人それぞれだけどよ……うわっ!?」
「……『また?』」
「か、勘弁してくれよぉ、ホントに……」

 ふん。
 埃っぽかったしな、たんまりオーブを写しこんでやった。現像しながら怯えるがいいわ!
 ――……しかしまぁ、確かにあるじの泣き顔は可愛いかもしれんの。

「さて、どうするノ? 3on3でもやるノ?」
「……『暗いし』」
「くちゅん! 取り敢えず埃っぽいし、出ましょう」
「そうですね霞さん……でもやっぱり、噂は噂なんですね」
「だろー、だろー、やっぱ幽霊なんていねーんだよ、わはは」

 声が震えておるぞ、あるじ。

「いや、まだ倉庫はもう一つあるよ、ほら舞台下の天井が低い……」
「そういえばあったヨ。シュンスケ、たまには役に立つネ」
「ぎゃふん」
「3回目……」
「マジかよー、もうやめようぜー、あっちはここよりも埃っぽいしよー」
「……『じゃぁコタローはここで待ってて』」
「そうね、じゃぁ逝きましょうか……けひっ、けひひひひひひひひ」
「あ、おい」

 置いてかれたな、あるじ。

「おーい……」

 ……それ。

「うわっ!? 今なんか! なんかカタンって言った!? ま、待ってくれー!! 俺も一緒に行くよー!!」
「あ、コタローまた涙目ダヨー♪」
「撮らないでっ! 撮らないでッ!!」
「コ、コタローさん、可愛い……」

 ふふっ、そうだな、まったく愛い奴よの、あるじ。
 安心せい、ワシがついておる、三流幽霊何するモノぞ、じゃ。


27.6人いる!?その2/美術室怪奇譚?4(千堂なずな) クラスター

 ゲスト:守岡深月、若宮詩音 NPC:纏恵美、幡野七瀬

「…そ、空耳!空耳だって!」
「そうそう、空耳空耳!もしくはなんだっけ、ほら、いるって言われると本当にいるみたいな気分になってくる…えーっと、プラシーボ効果?」
「そ、そう!多分それだがね!うん!絶対そう!」
「お、御婆ちゃんが言っていた!『思い込みの強さは時に現実に影響を及ぼす』って!」
冷や汗をダラダラかきながら必死に弁解する恵美、七瀬、詩音、深月。
何に弁解しているかは不明だが、とりあえず何か喋らないと落ち着かない、という雰囲気だ。
「………」
そんな中、なずなは何故か逆に冷静であった。
いや、内心割と動揺してはいる。さっきから冷や汗も止まらない。
だが、それを必死に抑えている。全員がパニクってしまってはどうにもならないからだ。
「(落ち着け落ち着け…クールになるんだ千堂なずな…!なんかいわくのある場所ならともかくここはただの美術室なんだから霊現象なんて起こるはずがない…!)」
心の中で念じながら必死に考える。
「(…うん、とりあえず事態を整理してみよう。伊達に推理ゲームノーヒントクリアはしてないってね)」

詩音、ワグナーを見つける→『ローエングリン』をかける

「(ああ、そういやローエングリンってア○クエンジェルの主砲の名前と一緒…いけない、話が逸れた)」

『ローエングリン』をかける→詩音、ノリノリな人影を発見

「(人影…ヒトカゲ…進化するとリザード…)あーっもうっ!」
「「「「ひゃっ!?」」」」
また逸れてしまった思考に思わず叫ぶ。周囲にいた四人は不意を突かれて飛び上がった。
「ど、どうしたのなずっち、いきなり大声出さないでよ!」
「また何か出たのかと思ったがね!」
「じゅ、寿命が縮んだ…」
「ただでさえみんなビクビクしてるんだから気をつけてよ、もう…」
「あ、ああ、ごめんごめん…」
四人の言葉で冷静さを取り戻すことができた。思考再開。

詩音、ノリノリな人影を発見→でも誰も見ていないと言う→笑い合う→笑い声が多かった?

「(大体こんなところかな…さてと…)」
整理が終わったところでまず何をすべきか考える。
真っ先に浮かんだことはたった一つだったが…
「(ちょっと酷だけど…現場百回っていうし、ね)…ねえ、わかみー」
「な、何?なずっち」
「『ローエングリン』、もう一回鳴らしてほしいな」
「え?まあええけど…なんで?」
「いいからいいから、早く」
「わかった、ほい」
詩音が携帯を取り出し、再生ボタンに手を伸ばす。
「だだだ、ダメだよそんなの!?また何か出てきたらどうするの!?」
「詩音も簡単に承諾しないでー!」
恵美と七瀬が止めにかかる、が、時既に遅し。
プチッ
〜♪〜♪
詩音の携帯から流れ出す交響曲。間違いなく先ほどまで流れていた『ローエングリン』だ。
そして次の瞬間!

『アハハハハハハ…』

「「「「「!!!???」」」」」

どこからともなく響き始めた笑い声に硬直する五人。
「あっ、あそこ!」
なずなが指差した先に、それはいた。

『アハハハハハハ…』

笑い声をあげながら、不気味にぐねぐねと動く一つの不気味な影!

「「「「「ひいぃぃやああぁぁぁっ!!!」」」」」

全員一斉に飛び上がり、影とは逆の壁にべたっと張り付いた。
「で、で、出た出た出た出たあああぁぁぁっ!」
「だからやめてって言ったのにいいい!」
「ひょ、ひょっとしてあたしのせいなん!?いやー堪忍してぇなー!」
「こ、これも資料用にスケッチ…できるわけなーいっ!」
「よ、よーし…正体突き止めてやるっ!」
そう言って、震える足を抑えながら踏み出すなずな。
「や、やめなってなずっち!絶対呪われるって!」
恵美の制止も無視し、進む。
ずんずんと影に向かって進んでいく。

『アハハハハハハ…』

影は相変わらずぐねぐねと動き、不気味な笑い声を発している。
「(大丈夫大丈夫…こんなのゾンビとかシ○ーマンに比べたら怖くなんか…っ!)」
自分に言い聞かせながら、ついになずなは影の間近へと迫った。
「えぇい、亡霊だかなんだか知らないけど、正体見せろおおおおっ!!!」
目を閉じて、影へと腕を思いっきり伸ばす!
ガシッ
「…?」
何か細いものを掴んだ。
それは相変わらずぐねぐねと動いている、が、妙に規則的。
聞こえる笑い声もよく聞けば機械によって合成された音声だった。
ゆっくりと目を開き、掴んだ影の正体を見る。
「…はああっ!?」
なずなの手の中でぐねぐねと動くそれは、音に反応して動くいわゆる『ダンシングフラワー』だった。
どうやらこれは動きと共に笑い声も付随するタイプらしい。その証拠に花に描かれた顔も笑顔だ。
「…つまりこいつが、詩音の携帯の音に反応してたってわけね…」
「「「「はああぁぁぁ〜〜…」」」」
正体がわかった途端、全員安堵の溜め息をつき、その場にへたりこんだ。

「全く、驚かせてくれちゃってこの花は〜…」
「こいつのせいで寿命が3年は縮んだわよ、もう…」
「呆れてスケッチする気にもならない…」
「にしても、誰が置いたんやろうね?これ」
「誰だっていいよ、もう…はぁ、どっと疲れた。次行こう、次」

『アハハハハハハ…』
お騒がせ者は、五人の話し声に反応して未だにぐねぐねと動いていた。

「っていうか恵美が懐中電灯点けてればすぐわかったんじゃ…」
「…あ゛」


28.姉に代わって肝試しよ!3(鏡月恵)  泉美樹

 ゲスト:葛木朔夜、榎矢るみな、街勝之、宇津井健之介

 あっぶなかったぁ、ほんとに叫んでしまいそうだった。と、胸を撫で下ろしながら考えた。とにかく叫んじゃあいけない。
 知らない学校を夜中に探検するのは想像していた以上に怖い。何処に音楽室があるか分からないから暗い廊下を歩いているのがとても長く感じた。それに加えてじりじりと恐怖感が溜まって来ていた矢先、いきなり雷の奇襲を受けて悲鳴が喉と口の境目まで来たのをなんとか飲み込んだのだった。
 さっきまで”怖くない、怖くない”と、言い聞かせていたのが今は”叫んじゃいけない、叫んじゃいけない”に変わっていた。
「じゃあ、期待に応えて。わたし、気合いを入れてみるね。――『サマーサンシャ〜イン まぶしい夏のさ〜かみち』」
”真夏の少年・少女たち”か、この状況下で歌えるなんて流石アイドル女優!葛木さんも、囁き声で合わせている。
 こういう心細い時の為に歌ってあるのだろうか?それなら僕も・・・・・・と、二人に合わせて囁き声で歌い始めた。
 それに伴奏するかのように、間近に迫った音楽室からピアノの音が漂っていたことに、僕たちは気付いていなかった。
 街さんと宇津井さんはともかくとして。
「――!?」
 街さんと宇津井さんが真剣な顔でお互いを見る。そして、
「三人とも静かに!」と、宇津井さんが言う。
「なによ!」「何マジになってるのよ?」「歌ってはいけないんですか?」と、僕たち三人が同時に反論する。
「いいから静かに!」街さんまでが制止したのを見て三人ともやっと真に受けて静かにした。全員がシンッと静まり返る。

 ポロン……

 誰もいないはずの音楽室から、何か楽器の音のようなのが聞こえた……
「何、今の音……!?」と、榎矢さんが振り向きながら聞く。三つ編みが不安げに揺れる。
「うっうわぁ!! 本当に音楽室の幽霊!?」これは宇津井さん。かなりビビッてる。
「誰かいるのか!?」と、不安を押し殺した強い口調は街さん。
 しかし、再び音が聞こえる気配はない。
 幽霊?不審者?空耳?答えはこの内のどれかだろうけど、この状況にもっともふさわしい答えを言った。
「……い、今音楽室に入るのは危険じゃない?」
 臆病者と言われようが構わない。姉さんだったらとっくにパニクッてる。
「盛り上がってきてるじゃないか……」と、止める間もなく街さんは、音楽室のドアを開いた。

「ちょ・・・・・・ちょっとぉ!」猪突猛進にも程がある。一人で入るのは危険だと思い、身軽に動ける僕が続けて入ろうとすると、
「ぬおぉ!」「痛!」「きゃ!」「やだ!」「ひでぶ!」と、先に入った街さんが弾き戻され次に入ろうとした僕にぶつかり葛木さん、榎矢さんそして宇津井さんに次々とヒットし、廊下の壁に叩きつけられた。
 不運にも宇津井さんが四人分の体重を受け止めねばならなかった。
「うわぁ、でた〜!!」と、僕たちを押し退けて、真っ先に逃げようとする宇津井さんを榎矢さんが引き止める。
「逃げるな!臆病者」
「すまぬ!拙者はこれより別行動をとる。ブービートラップを排除せねばならぬ」
 何が起きたのか分からない上に早口でいきなりそんな事を言われても困るんですけど。ブービートラップって?
「ちょと、待って!だめよ!」
 街さんが一人音楽室に突入するとドアが勢いよく閉められた。明らかに街さんが閉めたんじゃない!
 それからの数分間、音楽室側の壁は脈動し、時折雷ではない眩い閃光が音楽室の窓全てから外に漏れ、くぐもった轟音が完璧な防音効果のある音楽室内に響き渡る。
 まるで音楽室が一人入った街さんを捕食しているかのようだった。街さんの声は聞えない。かといって断末魔も聞えない。
 残された僕たち四人はすくみ上がり見ている事しか出来ない。だが最後の衝撃音と共に静寂が訪れ、カラカラと音楽室入り口のドアがゆっくりと開いて行き、食い足りなさを無言で主張するかのように暗闇が僕たちを招きいれようとしている。
「・・・・・・」動けなかった。逃げようとしていた宇津井さんも今は震え上がっている。失禁して無いでしょうね?
 突然音楽室の中から僕たちが全く予想もしていない音が聞えて来た。
”真夏の少年・少女たち”・・・・・・。
 場違いと言って良い程のピアノの伴奏が聞えて来る。恐怖で動けず入り口から眼を離せなかった僕たちは、馴染みの曲で徐々に落ち着きを取り戻して来ていた。最初に立ったのは榎矢さんだった。
「榎矢さん?」と、葛木さんが榎矢さんを見上げて問いかける。
「確かめないと・・・・・・」唾を飲み込む音が聞える。
「で、でもよぉ・・・・・・食われちまったんだぜアイツ、音楽室によぉ」
「んな訳ないでしょ!証拠はあるの?」
 確かに証拠は無い。閃光や轟音は雷のせいだったのかも。壁の脈動は雷の閃光による眼の錯覚だったのかも。ブービートラップを排除って言ってた。ドアが勝手に閉まったのは・・・・・・。
 必死に論理的にこの状況を分析して(と言うよりは自分に言い聞かせて)いた時、
「さっ行くわよ」と言った声には不安や恐怖を跳ね除ける強さがあった。榎矢さんとなら大丈夫。そんな気がした。
 僕と葛木さんは顔を見合わせて共にうなずいて立ち上がり、まだ座ってる宇津井さんの腕を二人で持って無理矢理立たせる。
「男の子でしょ?」「オチ〇チンついてるの?」「分かったよ・・・・・・ったく」
 僕たちは音楽室に入った。宇津井さんは閉まらない様にドアを足で押さえている。少しは気が利くじゃない。
 校庭側の窓が開いていて風がカーテンをはためかせて僕たちに湿った空気を吹き付けた。
 ピアノの前には透けてもぼやけてもいない確かに物理的に存在している人影がいた。
 隣の榎矢さんは大きく深呼吸をして問い掛けた。
「どなた?」
 ピアノの演奏が止み、その人影の顔がこっちを向いて答えた。
「ドロボーです」
「どろぼーさん?」って、思いっきりあの有名なアニメ映画の一部始終なんですけど・・・・・・。
「で、あんたは誰?」余裕のある”ドロボー”さんだな。
「私は・・・・・・」めがねの縁を少し上げて位置を直してから、
「榎矢、るみなです」と、毅然とした態度で答えた。数秒の沈黙。そして、
「ふ、ふふふ、はははははは!」と、”ドロボー”さんが大笑いし始めた。
「な!何が可笑しい!」と、ドアマンが後方支援。
「こいつが?このガリ勉女が?こんなのが、るみなちゃんなはずないだろ」
 なんだか数分おきに事態がコロコロ変わっている様な気がするんだけど。
 ”ドロボー”さんとガリ勉女(失礼!)の長くなりそうな舌戦が始まった。でも、街さんは何処に行ったんだろう?


29.体育館スチャラカ探検隊4(国津沙羅) 天爛

 ゲスト……三枝克、霧谷霞、レン、西川小太郎 NPC……ニコンF3、洞井俊介

「あっ、怪奇現象でボールを数えると言ったらアレが有名ですよね?」
「『アレって?』」
「えっと、ゆあさのみきさん原作の……」
「『リバイバルガールのこと?』」
「あっ、はい。それです。」
「……それ、私も、知ってる……」
有名なTS物だから……。憑依・転生系の話だから私の参考にはならなかったけど……。結構おもしろかった……。
「レンしらないヨー。ソレどんなノー?」
ワクワクなのカナ、ドキドキなのカナ、それともソワソワなのカナ。なんか、気になるナ。
「そっ、そんなことより、さっ、さっさと行こうぜ」
こっ、怖いわけじゃないぞ。さっ、先急がないと帰るとき雨降ってカメラが濡れるのが嫌なだけだからな。
「『怖いの?』」
「そっ、そんな事あるか。おっ、俺もその話知ってるから後でいいだろって言ってんだ。それよりも、何もそんなおどろおどろしい書体で書くこたぁないだろっ。」
 あれっ、そんなつもり無いんだけど。もしかしたらボードが湿ってた? それとも単にコタローの見間違いか?
 まったく、情けない主だ。ここはもう一発。
 ――ピシャ
「うおっ、またフラッシュが勝手に」
「もしかして……、付喪神? それともここが霊的なスポットで、その影響で?」
 おやっ、なにやら小さなお嬢がこっち見て呟いておる。もしかしてばれたか? う〜む、自粛した方がいいかも知れんのう。
「サラ、ナンかいったカ?」
「あっ、いえ、なっ、なんでもないです。コタローさん、ほら、きっと、雷ですよ。たぶん音が小さくて聞こえなかっただけです」
「そっ、そうだよな……」
「……ほんとにそうだといいね……けひっ、けひひひひ」
「か、霞さんっ?!」
「……冗談……」
「まっ、まったく冗談はヨシ子さんだぜ」
 ホントに冗談になってないです。それにしてもコタローさん、そのギャグ古い……
「ジョウダンなノ? レン、つまんないヨー」
「『それよりさっきから気になってたんだけど・・・』」
「なっ、なんだ?」
「『洞井君がいない』」
「「「えっ?」」」


30.夜の音楽室(片津雪魅=街勝之) Zyuka

 ゲスト 葛木朔夜、榎矢るみな、鏡月恵、宇津井健之介、よくわからない二人組み

「すまぬ!拙者はこれより別行動をとる。ブービートラップを排除せねばならぬ」

 そういい、音楽室に入る勝之。少なくとも、ここに自分たち意外の何者かがいることは確か……一人は自分の真正面、ピアノの前に……

「何者……!?」

 ピシャッ!

 背後で音楽室の扉が閉められる!! もう一人いたか!
「何者かとはごあいさつだな。われら神に選ばれし者たちに向かって……」
「はぁ?」
 電気はついていないので、よくわからないが二人はこの学校の関係者ではないらしい。
「きっかけはとあるローカルテレビの中継だった」
「夏の甲子園地区予選第一回戦。強豪同士の対決だったので、地元テレビが放送したということだ」
 交互に何か話し出す二人。どこか芝居がかった雰囲気がある。
「われらはそれを見たとき、不意に電気が走るのを感じた。そう、今夜のように!!」
 本当にその男に電気が走る……どういう原理かわからないが、この男たちはこの音楽室の空間を支配しているらしい。
(何者でござるかこやつら……?)
「その試合のある高校の一角。そう応援席だ。そこが映し出されたとき」
「神は我等に運命をおあたえになった」
「そうそこに」

「我等がスイートプリンセス、榎矢るみながいたのだ!!!!」

 ドオオン!!

 男たちの空間支配がいままでで一番大きな現象を起こす。
「わかるかこの感激が!!」
「我等はその高校、姫琴の名だけを頼りに二ヶ月かかってここを割り出し」
「どうにかセキュリティを解除して中に入ろうと努力した結果」
「今日今ここに中に入ることに成功した!!」
「これは神が我等にプリンセスるみなの私物を授けるというチャンスを下さったに違いない!!」
「というわけで今ここに我等はいたり、プリンセスの残り香を捜し求めた!!」
「そしてここにプリンセスが使ったであろうピアノがある!!」
 そう言って男がピアノを弾き始める。曲は“真夏の少年・少女たち”……
「いや、榎矢殿が音楽の授業でピアノを触ってたことなど今まで一度も無いでござるが?」
 男装姿である街勝之は違うが、片津雪魅はるみなのクラスメイト、。彼女が普段の学校生活では芸能人を意識した行動はなるべく控えてることは知っている。
「ククク。何とでも言うが言い。だが我等の姿見た以上」
「覚悟はしてもらうぞ!! スイートプリンセスファンクラブに入ることのな!!」
 そう叫び、入り口にいた男が勝之に向かってくる。
「要するにそなたら、ドロボーでござるか!! ならば拙者の姉上に引き渡してくれる!!」
 どういう原理か知らないが、音楽室の空間を支配しているらしい男たちとの戦いが始まった。


31.真夏の怪談・第5幕(涼風穂香) ほたる

 出演 … 喜多嶋鈴、有賀野伶也、桜塚真理亜、井黒万知子

 突然、後ろから何かにつき飛ばされるような感触を覚え、穂香はこけた。

「っつ……鈴ちゃん?」
「…………こけちゃった」

 なんのことはない。すぐ後ろを歩いていた鈴がこけて、それに巻き込まれたのだ。
 二人とも浴衣である。歩きにくいことは、互いに理解していた。

「確かにこの服歩きにくいけど、いきなりどうして?」
「なんか、何かに足を引っかけたような…………」
「あと、キカ○ダーはどこいっちゃったんだろう」

 今の騒ぎで手から離れ、転がっていったキカ○ダー(……の頭部)を心配する穂香。

「な、なにあれ…………」

 鈴が恐る恐る、廊下の先を指さした。

 距離にして、20メートルぐらい先か。
 褐色肌、鍛え上げられた肉体を持つ男性が、白い歯を見せて笑顔で立っていた。

 ゆっくりと少し近づいた後、動きを止めた。
 さっきのキカ○ダーは動かなかったので、模型とすぐに気づいたのだが…………今度は様相が違った。

「あ、あ、あ…………」

 腰が抜け、その場にへたりこんでしまう鈴。

 乾いた銃声が廊下に響き…………男は突然、鈴と穂香目がけて猛スピードで突進してきた!

「で、で、で、出たぁーーーーーっ! ほんものの、人体模型っ!」
「うわわわわこここっちにくくく来るなですっっ!!」

 二人の遙か後方では、万知子と真理亜が伶也から懐中電灯を引ったくり、泡食って逃げ出していた。

「リン、早く逃げろっ!」

 ここから鈴のところまで駆けつけても、間に合わない。伶也は大声で叫んだ。

 鈴の目の前に男が迫ってきた…………その時。

「きゃっ!」

 鈴は突然、廊下の教室側へと倒された。
 褐色の風が、突き飛ばされた鈴のすぐ横を吹き抜ける。

「いった〜い……いきなりなんなの……」


 一方、万知子と真理亜は…………スピードをさらに上げた男に、まだ追われていた。

「どどどどこまで追っかけてくるんだですううっ!!」
「だだだだからああああたしの皮は美味しくないっていいいい言ってるでしょよおおおおおおおおおっ!!」

 だが、浴衣に下駄という非常に走りにくい装備の万知子がいたため、二人はあっという間に追いつかれそうになった。

「…………………………み、右に階段が!」

 真理亜が階段に気づき、二人は身を移す。その後ろを、猛スピードで男が過ぎ去っていった…………

「な、なんなの、あれ…………」
「ほほほ、ほんとに人体模型が動いた…………」

 真理亜と万知子は、恐怖で口から心臓が飛び出そうになっていた…………


「さっきのって、ほのちゃんが…………?」
「うん……危ないって思ったから。ちょっと手荒になっちゃったけど…………」

 浴衣についたゴミを払いながら、穂香は鈴を押し倒したことを認めた。
 腰が抜けていた鈴を自らが押し倒すことで、衝突を回避していたのだった。

 ――『クロックアップ』とか使えたら、こんなことしなくても済んだんだがな…………

 鈴の質問に答えながら、穂香はそんなことを考えていた。
 穂香……クリルの使える魔法のひとつだが、あいにく今は使えない。

「ってかあの人、オリンピックとかに出たら、金メダルは間違いないと思うんだけど…………」
「こ、こんなところでぜ、全力疾走しないでほしいよね。轢かれるかと思ったじゃない……」

 その時、雷鳴がとどろき、廊下が稲光で一瞬照らされた。

「い、今、何か見えなかった?」
「今度はなに!?」

 泣き出しそうな表情へと変わる鈴。

「いや、そうじゃなくて…………床に何か…………」

 稲光が再度廊下を照らしたところで、鈴が気づいた。

「…………レール…………これに引っ掛かったの…………?」


「大丈夫だったか!?」
「うん…………」

 これだけ色々な物に出くわしているので、懐中電灯を持っていない自分たちが下手に動くのは、得策ではない。
 そう思って動かずに待っていた鈴と穂香の元に、まずは伶也、少し遅れて真理亜と万知子が到着した。

「怖かったよぉ…………うっうう…………」

 緊張の糸が切れたのだろうか。伶也にしがみつき、鈴が大泣きを始めた。

「ほのちゃんは、無事のようね」
「二人とも息が切れてるけど、大丈夫?」
「あの人に廊下の真ん中まで、追われたです…………」


「…………みんな、ごめん」
「ごめんって…………………………なにがよ?」

 伶也は突然、四人に謝った。
 その言葉の真意を、万知子が問いただす。


「僕は…………全部知ってた」


32.体育館スチャラカ探検隊5(霧谷 霞) 流離太

出演……三枝克、レン、西川小太郎、国津沙羅、ニコンF3(NPC)、洞井俊介(NPC)、霧谷霞


 「『洞井君がいない』」
 この一言(?)で、場はパニックに陥った。

 「俊介ぇ、返事しろ!! ていうか、してください!!」
 「かくれんぼ? かくれんぼ? ずるいヨ、あいずもなしニ! レンもかくれちゃうヨ―!」
 「ちょ、やめてくれホントに!! 頼むから、これ以上いなくならないで!!」
 「どうしましょう。話に夢中になって入る間に、置いてきてしまったんでしょうか?」
 「『探さないと』」
 「もしかして……噂の『人食い婆』……かも」
 「え、霞さん。なんですか、それ? ボクも聞いたことないです」
 「丁度こんな土砂降りの日に……出るらしい。校内に、いきなり現れて……男の貞操を……食らう」
 「そっちの食うですか!?」
 「奪われた男は……TSする」
 「さっきの話とほぼ同じじゃねえかよ!! 出鱈目こくんじゃねえ!!」
 「出鱈目じゃ……ない。洞井君に、聞いた」
 「って、嘘100%絞りじゃねえかよ!!」
 「ねえねえ、テイソーってなんなノ? おいしいノ?」
 「『知らない方がいい』」
 「ったく、くだらねえ話しやがって! ビビり損じゃねえかよ」
 その時、小太郎の背中を、誰かが叩く。ふっと振り返ると、そこには、般若のお面を被った男が。
 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
 「こ、小太郎さん!?」
 「『気絶してる』」
 「コタロー、ねるのははやいヨ―」
 「はっはっは、ギガワロスw 僕だよ」
 お面を取る男。そこには、ホライズン……ではなく、洞井俊介が。
 「あー! 見つけたヨ―、シュンスケ!」
 「いや〜、コタローが驚くかと思って。って、痛っ!」
 「『とっても心配した!』」
 「そうですよ! 二度とこんなことしないで下さい!」
 「スマソスマソ! でも、上目遣いで睨んでる沙羅ちゃん萌え〜」
 「やっぱり、サラは魔法少女萌えネ!」
 「だからぁ『魔法少女』じゃありませんってば!」
 「あ、また光ったヨ!」
 「このカメラは、呪いのアイテムか? もしかして、これで撮られた相手はTSを……」
 「そればっかしですね……」
 「ぎゃふん!」
 「『四回目』」

 騒ぐ四人組。そこから離れ、ひとり霞は床にへたれこんでいる。どうやら、腰が抜けたらしい。小太郎の悲鳴で。
 「くだらない……そんな、子どもみたいな……こと」
 「……」
 「……」
 「『……』」
 「な……なに? 黙っちゃって」
 「カスミ、クマなんだネ!」
 「ちょ、レンさん!?」
 ふっと自分の姿を見る霞。浴衣が大きくめくれ、かわいらしいクマのぱんつが露わに。バッと、霞は急いでそれを隠す。体がカァッと熱くなり、顔にドンドン温度が上ってくる。
 「あれ、泣きそう」
 「ちょ、大丈夫ですか? かす」
 「うるさい!!」
 思わず、声を荒げる。

 泣いてたまるもんか。
 泣いてたまるもんか。
 たまるもんか。
 たまるもんか。

 気づいたら、大粒の涙がボロボロとこぼれている。とても、止めようがない。その姿はまるで、朝露にしっとりと濡れた、椿のよう。
 「う……霞さん、色っぽい」
 「て、テラモエス……」
 「カスミ萌えなノ? 萌えなノ?」
 「見ないでよぉ!! うっ……うっ」
 激しく首を振る霞。すぐるはその頭に、ポンと優しく手を置くのであった。


33.真夏の怪談・第6幕(桜塚真理亜) MONDO

 出演 … 喜多嶋鈴、有賀野伶也、涼風穂香、井黒万知子、日下仁志(NPC)、大野裕司(NPC)

「……申し訳ない。まさかそんなに驚くとは思ってなかった」
「これ、結構いい出来だったんだけどな……」

 廊下の影から白衣を着た眼鏡の男子生徒と、キカ○ダー人形の頭部を抱えた小柄な男子生徒が五人の前に現れた。
「あんたら……科学部の部長と、特撮研の会長……」
 真理亜のつぶやきに、二人は揃って頭を掻いた。
「ごめん、実は有賀野に肝試しの盛り上げを頼まれちゃって……」
 眼鏡の男子生徒――科学部部長、日下仁志(くさか・ひとし)が両手を顔の前で合わせた。「んで、陸上部と共同で復元したこいつのテストも兼ねて、ちょっと走らせてみたんだけど……ね」
 そう言いながら、手にしたリモコンのスイッチを入れる。
 ちゅいーんと音をさせて、褐色の陸上選手人形が手足を振りながら、レールの上を逆走してきた。
「あ……これって昔のスポーツバラエティ番組で、100m競走してたやつだ」
 どこかのサイトにこれの写真が載ってたっけ……と、思い出す真理亜。
「理科室の人体模型を調べに行くって聞いたから、これ置いといたら驚いてくれるかなって」
 手の中の頭部をもてあそびながら、特撮研会長にして高校生モデラー、大野裕司(おおの・ゆうじ)がバツの悪そうな表情を浮かべる。
「ほんとにごめんっ!」
「……ったく、まあいいわ。結構スリルあったし、真理亜や鈴ちゃんの怖がってる様子も撮れたし」
 揃って頭を下げる二人に、ふんっ――と両手を腰に当てて胸をそらす万知子。
「こっちこそごめんなさい。キカ○ダーの頭とっちゃって」
 穂香は平謝りの裕司に向かって、逆に頭を下げた。
「い……いや、大丈夫だよ。文化祭までまだ間があるし……」

「大丈夫じゃないよ〜っ! 知ってたんだったらどうして先に教えてくれなかったのよ〜っレイちゃ〜ん!」
「お……教えちゃったら肝試しにならないよ……」

 ベソをかきながらにらんでくる鈴に、伶也は頬を掻いた。「わ、わかった。……今度うちの店のフルーツてんこ盛りパフェおごるからさ」
「……プリンもつけて」
「う……わ、わかった……よ」
 上目遣いでじーっと見つめられ、さしもの伶也も思わずたじろいでしまう。
 その肩を、万知子はぽん――と叩いた。
「もちろん、あたしたちにもおごってくれるわよね……」
「は、はい……」


34.音楽室の対決・ドロボーさんVSガリ勉女?(榎矢るみな)  こうけい

 ゲスト:宇津井健之介(NPC)、葛木朔夜、鏡月恵、街勝之、“どろぼー”さん(NPC) 名前だけ友情出演:安藤美沙

 るみなの目の前で、信じ難い現象が起こっていた。

 今しがた、街勝之が音楽室にひとり飛び込んだ。直後、扉がひとりでに閉まり、激しい閃光と轟音を伴って音楽室の壁が脈動した。
 そして再び扉が開いたとき、街の姿はどこにもなかった。
 まさか、街は音楽室に貪り食われてしまったのか。

 るみなは腰を抜かしたように廊下にへたり込んでいた。すくんで動けなかった。それどころか、何から考えたらいいのか心の整理がつかなかった。
 「超常現象なんて信じない」とさっきまでは豪語していても、いざ現実に目の当たりにすれば呆然となるしかない、人の弱さよ。
 そんな状況下で、るみなが真っ先に動かしたのは目だった。周囲の様子を横目で確かめる。朔夜、恵、宇津井も、るみなと同じように廊下に座り込んでいた。とりあえず、今いる四人は無事なようだ。

 静寂が支配していた音楽室の中から、再びピアノの音色が聞こえてきた。曲は『真夏の少年・少女たち』。人食い音楽室が、次はるみなたちを招き入れようとしているのだろうか。
 その音が、るみなの女優魂に火をつけた。
 床についた両手に力を込めながら、下半身をゆっくりと床から離す。そして、脚を踏ん張って、震える全身を持ち上げた。
 ――わたしは優等生の女の子。非科学的なことなんて信じちゃいけない。とにかくこの場に立ち向かわなくちゃ。でも、だけど……。
 役になりきろうと必死に自分に言い聞かせても、不安は拭いきれない。
「で、でもよぉ……食われちまったんだぜアイツ、音楽室によぉ」
 まだ座ったままの宇津井の気弱な声も、るみなの足を引っ張る。一輝がるみなにTSしてしまったのに、どうしてこんなヤツが男のままなのだろう。
 そのときるみなの脳裏に、友人の顔が浮かんだ。今日のこの行事には参加していない、安藤美沙の姿だ。
 ――そう、優等生の美沙さんだったらきっとこう言うはずよ。
「んな訳ないでしょ! 証拠はあるの?」
 その言葉がブレイクスルーとなって、るみなの口からセリフが次々と湧き出てきた。
「あんな光や音、雷の仕業に決まってるでしょう。部屋の脈動だって光のいたずらよ。ドアが勝手に閉まったのもブービートラップじゃないの? ピアノの音だって、誰かが弾いてるからでしょうよ。……さっ、行くわよ」
 るみなは率先して、ずんずんと部屋の中へと歩いていった。

 校庭側の窓は開いており、生温かく湿った風がカーテンをこえてるみなたちに吹き付ける。ドラマの夜の屋外ロケで、るみなはよく浴びた空気だ。
 けれどもロケと違うのは、本当に灯りがほとんどないところ。ロケのほうは夜のシーンといっても、カメラのフレームの外側にいくつものライトが煌々としているのだから。
 そんな闇の中でも一際黒く光るグランドピアノ。その前に、ピアノを弾く確かな人影が見えた。
 るみなは隣に恵がいることを確かめると、大きく深呼吸をして調子を整えた。
 「シーン116、本番5秒前」。そんなタイムキーパーの声が、どこかから聞こえてきたかのように。

「どなた?」
 るみなの地の声とは違う、冷たくも決然とした声が音楽室に響く。ピアノの演奏が止み、人影の顔がるみなたちの方を向いた。
「ドロボーです」
「どろぼーさん?」
 『プリティーサーラ』の声の出演が決まったとき、お姫様の演技の勉強にと見ておいた有名アニメ映画。その名シーンが、無意識のうちに再現された。
「で、あんたは誰?」
「わたし……私は……榎矢、るみなです」
「このガリ勉女が? こんなのが、るみなちゃんなはずないだろ」
 腰の位置で軽く握っていたるみなの両手の拳に、力が加わった。
 この“ドロボー”さん、あの歌を知っているのだから、おそらくはるみなのファンか、少なくとも『プリティーサーラ』でるみなを知っている人物のはず。それなのに、いくら外見に扮装を加えたからといって、るみなをるみなと気付かないなんて失礼である。
 それに、るみなの通う高校がどこなのかも、公式には発表されてないとはいえ、ファンの間ではネットや口コミで常識のように知られている。“ドロボー”さん、まさにその御当地に侵入したというのに、どうして「榎矢るみながいるかも」と想像できないのだろう。よほど薄いファンなのか。
 けれどもすぐに、るみなの拳から力が抜けた。
 ――今は本番中、キレてるときじゃない。それに、るみなだと気付かないってことは、それだけ役になりきれているんだから。
「でしょうね。あなたを試してみただけですから。おっしゃる通り、私は勉強だけが取り柄のガリ勉女ですから。アイドル女優さんと比べるなんておこがましいです」
「な、なんだよこの女」
「私をガリ勉女と罵るくらいですから、あなたも頭はよいのでしょうね。計算問題を出しますから十秒以内に答えてください。52かける48はいくつでしょう」
「え、えーと、ニハチジュウロクで、イチ繰り上がって……」
「ブー、時間切れ。2496です。中学の数学がわかれば瞬時に解けるはずですよ」
(注:52×48=(50+2)×(50−2)=50^2−2^2=2500−4=2496)
「うっ……って、生意気な! だからガリ勉女なんて嫌いだ! 大体、おまえらここの生徒だろ、どうして制服着てない?」
「その質問には質問で返させていただきます。あなた、どうしてこの場にいるのです?」
「…………」
「答えられませんか、わかっているはずなのに。今夜は私服OKの校内イベントなんですよ、肝試しのね。そのために校内のセキュリティはわざと解除されていて、会場の特別教室は鍵が開いています。あなたはそれに乗じて校内に忍び込み、鍵の開いていた音楽室に隠れた。探検の生徒が来たら、怪談よろしくピアノを鳴らして驚かせようとしたんですね」
 眼鏡を人差し指で持ち上げながら探偵のように滔々と語る三つ編みの少女は、るみなであってるみなではなかった。
「だ、黙れ! ガリ勉だろうが女は女、思い知れ!」
 そう言うや、“ドロボー”さんなる男は唐突にるみなへと手を伸ばしてきた。
「わっ、いやぁっ!!」
 避ける間もなく、るみなの左胸の膨らみが掴まれた。無条件反射的に黄色い悲鳴をあげ、背中を見せて座り込むるみな。計算外の事態に、もはや演技どころではなかった。
「フフフ……揉みがいのある胸だ。Dカップはあるかな」
「あんた、あの子になにするのよ!」
 今度は恵が男に立ち向かう。
「なら、おまえの胸も揉んでやろう」
 男の手が恵の左胸を掴む。けれどもその感触はるみなとは若干違っていた。
「わ、わっ!!」
 恵が驚きの声をあげる。だがそれは無条件反射というよりは条件反射的なもの。傍で聞いただけでは、区別がつかないだろうけど。
 そして男のほうも、奇妙な感触に動揺していた。
「えーい!」
 緊急事態の中でのチャンスだからと、恵の行動のリミッターが外れた。赤いチェックのミニスカートの中身が見えることもお構いなく、恵は椅子ごと男を蹴倒した。
「何しやがる!」
「今度は私の番よ、任せて」
 ふだんはおとなしい朔夜が、立ち上がってきた男に挑む。護身術を生かして男の鉄拳を巧みにかわし、隙をねらって逆に突きを入れる。さっきはるみなたちに「頼むよ」と言っていたというのに、浴衣姿とは思えない素早い身のさばきだ。
「浴衣のくせに!」
 男は朔夜の浴衣の裾をめくり、朔夜の動揺をねらった。
 男の思惑は半分成功し、朔夜は一瞬だけ怯む。しかし次の瞬間、朔夜は浴衣の裾で男の頭を包み込み、そのまま男を床へと引き倒した。
「わっ、見えねえ! 出せよ!」
 恵とるみな、そして宇津井までもが、視界を失った男の全身に蹴りを入れる。
「仕上げはこれでいくよ」
 朔夜が男の鳩尾にとどめの足蹴りを食らわせると、男の動きが止まった。気を失ったらしい。

「あ、ありがとう。鏡月さん、葛木さん」
 るみなが恵と朔夜に声をかける。しかし、ふたりの顔色はすぐれない。
 ――つい夢中になって……。でも、どうしてあいつにはバレなかったのかしら。
 ――僕としたことがとんだ不注意だ。なのに、どうして「男だ」とか騒がれないんだろう。
 ――まさかこれも、真夏の怪談!?
 るみなにも、もちろん宇津井にも、そして互いにも想像がつかないショックと不条理感に、恵と朔夜は当惑していた。

 そして、一旦止まったはずの男の体が、再度ピクリと動き出した――


35.真夏の怪談・第7幕(井黒万知子) 猫野

 出演 … 桜塚真理亜、涼風穂香、井黒万知子 NPC:喜多嶋鈴、有賀野伶也、日下仁志(科学部)、大野裕司(特撮研)

 それまでの奇怪な事件が伶也を含む男子たちの仕掛けだったことが分かったところで、理科室探検組はようやく安堵の時を迎えた。
 科学部の大型クリプトンライトに照らされて、暗黒の淵だった廊下もすっかり見慣れた校舎に戻っている。こうして見ればレールの上で立ち往生している陸上選手くんもかわいいものだ。さっきまで呼吸困難に陥っていた喜多嶋鈴も、ようやく人心地がついた様子だった。

 伶也がのんびりとつぶやいた。
「それにしてもリンって、小さい頃からほんとに怖がりだったな」
「えっ」
 鈴が、小さな驚きの声をあげる。伶也は続けた。
「田舎のおばあちゃんの家に泊まりに行ったときだってさ。夜中にトイレまで行けなくって、『レイちゃん、ついてきてー』って」
「そ、そんなことないって! ……あ、ううん。あったかも、しれない」
「泣き虫だったし、だらしがなくってさ」
「なんだとー」
 鈴が怒った顔をするのを、伶也は優しくなだめた。穂香が口をはさむ。
「女の子だったら、少々怖がりでもいいんじゃないかな」
「え? あ……、そうか、そうかもね」
 伶也はなぜかとまどったように頭をかいた。鈴がここぞとばかり言い返す。
「レイちゃんのほうがよっぽど弱虫だったじゃないか! ボクが何回ケンカで助けてあげたと思ってるんだよ」
「えっ?」
「ガキ大将にパンツを取られたのをボクが取り返してあげたの、忘れたの?」
「…………(そうなんだ)」
 一同が驚いた顔で鈴を見る。真理亜がつぶやいた。
「鈴ちゃんって、意外とやんちゃだったの?」
「えっと、それはぁ! なんと説明したらいいか……あれ……」
 こんどは鈴のほうが混乱した話し方をする。もしかしたらまださっきのお化けショックの影響が残っているのかもしれない。

 伶也がコホン、と咳払いをした。
「仕掛けなんてしたうえで悪いけど、いちおう理科室には行こうか?」
 そうだった。ここまでいろいろあったけど、目的地の理科室はまだ先なのだ。
「理科室には面白い仕掛けもないけど……、それでも行く?」
「もちろんよ!」
 ここで大声を出したのが万知子である。
「だってまだ心霊写真が一枚も撮れていないんだから! なによ、いままでのなんて、全部ニセモノだったじゃない」
 万知子が特撮研の会長をにらんだ。会長は両手を挙げて降参する。
「理科室に行ったら本物がいるとは、限らないよ」
「うるさーい! あんたらは徹夜して、このレールとかを片付けておきなさい」
 へーい、と返事をしながら共犯者たちは仕掛けの撤去作業に入った。

 すっかり和んだ雰囲気で、探検隊メンバーはふたたび懐中電灯を構え、理科室への道を進んだ。
 下駄を鳴らしながら、鈴が嬉しそうにつぶやく。
「……でもね。昔のこと覚えていてくれて、ありがとう、レイちゃん」
「あ、ああ」
 生返事をする伶也に、寄り添うように近づく鈴。その一瞬に、いろいろなことを思い出しているようだ。きっとふたりには、ふたりだけの思い出がいっぱいあるのだろう。

 最後尾でそれを見ていた万知子は、うらやましくなってちょっと自分の記憶を探ってみた。あたしの夏の思い出は……。
『浴衣、似合ってるよ……多分』
 ズコッ。なぜかフリーカメラマンの顔が浮かんだ。
(うう……、ここでコタローの顔が浮かぶあたしって、やっぱりギャグ世界の住人?)
 自分で自分にツッコミを入れながら、でもすこし頬を赤らめて、万知子は足を急がせた。


36.真夏の怪談・第8幕(井黒万知子) 猫野

 出演 … 桜塚真理亜、涼風穂香、井黒万知子 NPC:喜多嶋鈴、有賀野伶也

 探検組が理科室にたどり着いたのは、今日のイベントの終了時間ちかくになってからだった。
「手早く回ろうね」
 真理亜が扉を開けて、ぴた、と立ち止まった。
 まるで敷居をまたいだ先が異世界のように感じられたからだ。
 ひとことで言うと、闇が濃い。暗幕を閉めてあるから外部の光が全く入ってこないのだ。いっぽう壁には模式図や地図が張ってあるから、懐中電灯で照らすとその部分だけ緑や赤の、怪しい色を見せる。
 じっくり見れば「分裂するゾウリムシ」の絵だと分かったとしても、闇の中にそんなもぞもぞした形が浮かび上がるというのは、正直ぞっとしない。
 穂香が急に
「うぷっ」
と言った。
「だいじょうぶ?」
「ごめんね、このにおいが……苦手かも」
 標本のためのホルマリンやナフタリンの臭いが空気に混じっているのだ。ふつうの男子にとってもいい臭いではない、ましてや敏感な鼻を持つ女子の穂香には、少々つらいようだ。
「なによ、仕掛けをするまでもないじゃない。なかなか、い、いい雰囲気ね」
 万知子が強がって言ったけれども、声に震えを隠せない。震えた声は反響せずに、部屋の中に吸い込まれた。

 闇の中の理科室は、さすがに安心して回れるものではなかったようだ。

「じゃあ入ろうか」
「え、入るの?」
「人体模型を探さないとね」
「み、見つからないんじゃない? このへんで引き返すとか」
 懐中電灯を持った伶也が咳払いをした。
「よし。責任を持って、僕が先頭に立つよ」

 伶也を先頭に、探検組は一列になって理科室に入った。理科室の机は床に固定してあるから、一同は壁際をぐるりと回らないといけない。
 左手で壁づたいに行きたいところだが、壁際にはさまざまな器材や標本が置いてある。物理実験用の音叉が吊ってあったのを、鈴が袖に引っかけた。
「〜〜ふぉーーーーーん〜〜」
「きゃっ」
 思わず真理亜の背中にしがみつく鈴。背中に胸が当たっているだろう。真理亜が妙に気恥ずかしそうに
「た、ただの音叉の音よ、うん」
と答えた。

「……角まできたね。模型、あった?」
「ないー。毛の生えた模型って……違うよね」
「それ、あたしの頭だよ」
「わ、ごめん」
 伶也が振り返って言う。
「じゃあここで曲がるよ……。うわっ」
 伶也がしゃがみ込んだ。懐中電灯が急に天井を向いてしまったので、女子たちもぴたりと足を止める。
「なにっ、なにっ? 出たの? どこ、どこ?」
 万知子があわてて叫ぶ。しばらくして、苦しそうな伶也の声がした。
「水道の蛇口で……股間を打った」

 実験用の机には古びた蛇口が据え付けてある。誰がねじったのか、その一個がつなぎめから横を向いてしまっていて、伶也の股間を直撃したらしい。
 闇の中でうめく伶也。誰の心の声だろうか、
(……うん。その痛み、分かる!)
と思った子がいた。


37.美術室怪奇譚?5(守岡深月) 七斬

 ゲスト:若宮詩音・千堂なずな NPC:纏恵美・幡野七瀬

「だーれが殺したクックロビン♪」
「アハハハハハ…」
「キータよキタキタ福がキタ〜♪」
「アハハハハハ…」
 深月が歌うたびに花がクネクネと踊り、笑い声が響く。
 詩音も色々な着メロを鳴らして遊んでみる。
「なかなか味があるなあ。音楽を聞かせればすぐ踊る」
「何遊んでるの。ほら、行くわよ」
 恵美が二人の手を引っ張って立たせる。
「じゃ、気を取り直して行きましょうか」
「あれ? 美術室を調べるんじゃないの?」
「ここには女の子の描かれた絵は無いもの。七不思議に数えられてるのだから、昨日今日で描かれたものじゃないでしょ。絵が保管されてるとしたら準備室よ」
「なるほどー」
 五人は準備室への扉へと歩き出す。
 スタスタが四つ、カラコロがひとつ。
「アハハハハハ…」
 笑い声がひとつ。
 ゲタの音に反応したのだろう。
「みっきちー、その花は置いていきなさい」
「むー」

「これだねぇ」
「そうみたいね」
 美術室探検隊(仮称)一同は、壁にかけられた絵を見つめていた。
 草原で白いワンピースを着た小さな少女が、つば広の帽子をかぶって微笑んでいる。
「なんか関わる男、全て女の子にしてしまいそうな笑顔ねぇ」
 七瀬が言うと、詩音、なずな、深月の三人はうーむとうなった。
「でも、これが抜け出してくるってどういう意味なのかな?」
 一同は考え込んだ。
「ねえねえ、これ見て。おんなじ絵がもう一枚あるよ」
 なずなが部屋の隅っこを指差して言った。
 確かに、壁にかかっている絵と全く同じ構図の、額縁にはめ込まれた絵がもう一枚ある。
「何で二枚あるのかしら?」
 二つの絵を交互に見ていたなずながポンと手を打った。
「二つの絵にはちょっとだけ違うところがあるよ」
 その言葉に一同は二つの絵を注意深く見比べる。
「女の子の立ってる場所が微妙に違っとるね」
「向いてる方向もちょっと違うよ」
「背景は…ほとんど変わらないね」
 暫くして、恵美がしたり顔で頷いた。
「わかったわ。これは…」
「間違い探しだがね」
 詩音が口を挟んだ。
「残念。違うわ。間違い探しなら部分的に、そこだけが違うって分かるように作るもの。これは全体の構図がほんの少しずれてるのよ。つまりこれは…」
「アニメーションかな?」
 恵美が続きを話そうとしたところに深月が口を挟んだ。
「少しずつ違った絵を次々に見ると、絵が動いて見えるという…」
「違うわ。ざっと周りを見れば分かるけど、これと同じ大きさの絵は他にここには無いもの。これは…」
「んじゃあ…」
「ちょっと、私に話させてちょうだい」
 恵美は溜息をついて続けた。
「これは立体視よ。見て。壁にもう一つ、絵をかけるためのフックがあるでしょう? 七瀬、みっきち、この絵を壁の絵のすぐ右側にかけてみて」
「おっけー」
「はいよー」
 恵美の言うとおり、二つの絵を並べてみる。
「ここからがちょっと難しいのよね。部屋の反対側からこの二つの絵を同時に見るの。左目で左の絵を、右の目で右の絵を。そうすると…」
「そうすると?」
「女の子が飛び出して見えるはずよ」
「つまり飛び出す絵本だがね」
「全然ちがう」
 一同は並んで目を凝らす。
「んー、もうちょいかも」
「見えるかなあ?」
「見えない」
「まだまだがんばって」
 目を細めたり広げたり、五人は悪戦苦闘しつつ絵をにらみ続ける。
 そのまま一分ほどたった頃だろうか?
「あ、見えたわ」
 恵美には確かに、女の子が絵から飛び出したように見えた。
 少女は平面とは思えないような存在感を持って迫り来る。
 そしてその迫力を保ったまま…

 恵美の顔面にぶつかった。

「んあー!」
 恵美はまぬけな悲鳴を上げて顔面を押さえ悶絶し、すぐそばの棚にもたれかかる。
 そして、しまわれていた額や絵をいくつか巻き添えにし、派手な音を立ててぶっ倒れた。
 更に、なぜか棚の上に載っていた金ダライが落ちてきて、ご丁寧に恵美の頭を直撃した。
「アハハハハハ…アハハハハハ…」
 響き渡った大音響にダンシングフラワーのセンサーが反応し、馬鹿にした様な笑い声がこだまする。
 あとの四人は何が起こったのかわからなかった。
 二枚の絵から何かが飛び出してきて恵美にぶつかったのは分かったが…。
 四人の目の前では白い服を着た少女の笑顔が二つ、ゆらゆらと揺れていた。
「だ、大丈夫?」
「な…何なの? 一体…」
 恵美が金ダライを片手によろよろと立ち上がる。大事無いようだ。
「女の子が飛び出したー!」
「絵がミサイルを撃ったー!」
 絵のバネ仕掛けが作動して、二つの絵の少女が描かれた部分が射出され、ちょうど正面にいた恵美の鼻面にぶち当たったのである。
「額縁にスイッチが仕込まれてるわ。二つの絵が並んでしばらくしたら、仕掛けが作動するんでしょうね」
 七瀬が絵のそばに寄って、調べながら言った。
「こ…これが、絵から抜け出す少女…」
 とんでもなかった。
「これは無いでしょ! いくらなんでもこれじゃあんまりよ!」
 美術準備室に、恵美の叫びとダンシングフラワーの笑い声が空しく響くのだった。


38.体育館スチャラカ探検隊6(霧谷 霞) 流離太

 出演……三枝克、レン、西川小太郎、国津沙羅、ニコンF3(NPC)、洞井俊介(NPC)、霧谷霞

 「さあ、やってきました第二体育倉庫。先ほどから降りしきる雨が、天井を静かに鳴らしております。雰囲気は抜群。すでに恐怖のため、一人の少女が泣いてしまいました」
 「な、泣いてないもん!!」
 「霞さん、口調が標準語になってますよ!」
 「もしかして、おめぇ、キャラ作ってた?」
 「お―! キャラ、とってもおいしいヨ! しかくくテ、あまくテ、レンだいすきネ!」
 「『それ、キャラメル』」
 「ところで、さっきからなに背負ってるんですか?」
 国津さんは、小首をかしげながら、三枝君のリュックを指している。まるで、登山でもするような格好。
 「『父さんのリュック』」
 「あー、わかったわかった! アトランチスの」
 アトランチス?
 「中身、何入ってるんですか?」
 三枝君は、んしょっとリュックを降ろし、中を見る。と同時に、バッと締める。
 「え、どうしたんですか?」
 「『なにもない。ダイナマイトや銃なんて入っていない』」
 「え、ええ!? た、大変です! 爆発しちゃいますよ!」
 「いやいやいや、ないとは思うけど……一応中身見せろ」
 「『やだ!』」
 わたわたと、慌てて走り回る国津さん。鞄を奪い取ろうとする西川君。全体重をかけ、それを放そうとしない三枝君。
 本当に、くだらない。先ほど泣いたせいで、皮肉にも興奮が冷めた。なにをやっていたのだろう、自分は。洞井君からなにも聞けそうにないし、さっさと終わらせて戻ろう。
 「うみゃ――!!」
 うわ、なにこの甲高い声!? 超音波? ギャオスかあんたは。
 と思うや否や、レン・レボンルゴポ・レ・ルゼメボガドさんが抱きついてくる。
 「カスミ! ヒャクアシ、ヒャクアシがでたヨ!」
 「ヒャクアシ?」
 「あれ! あれだヨ! おもいきりふんじゃっタ! ふんじゃったヨ!」
 「それ……ムカデ」
 「だって、だって、ホンにそうかいてたってバ! ひ〜ん……もう、かえりたいヨ〜」
 うざい……。こいつ、本当に苦手だ。そ、そりゃあ、思わず抱きしめちゃいたいくらいだけど。って、私は何を。
 「あ〜、ここにもなにもないなあ」
 いや、あんたはあんたで、なにサクサクと探索進めてるの。
 「だったら……ここは、用済み」
 浴衣を翻し、私は出口に向かって歩き出す。ドアに手をかけたその時!!

 ズルンッ!

 ば、バナナの皮ぁ!? な、なんてベタなトラップ。まあ、そんなのに引っかかる私も私だけど。
 とにかく、そのまま、仰向けにベシャアッと倒れこむ。って、また浴衣めくれたし!!
 「お、くまぱんつ再びハケーン!」
 えぐっ、えぐっ、こんなのばっかし……。

 カシャッという音が、無音の暗闇に響く。もみあったせいで、シャッターを押してしまったのだろうか?
 外では、相変わらず、サーッという音だけが響いている。


39.姉に代わって肝試しよ!4(鏡月恵) 泉美樹

 ゲスト:葛木朔夜、榎矢るみな、街勝之、宇津井健之介

 暗闇にだいぶ慣れた眼で散らかったスコア(楽譜)や倒れた椅子を元に戻して、グランドピアノの鍵盤に緋色のビロードカバーを敷いてから重い鍵盤カバーを指を挟まない様に静かに下ろした。
「ぷっくくく」
「どうしたの?」笑い声に気付いて、るみなさんが振り向いた。
「ううん、思い出し笑いよ。トムとジェリーでほら、このカバーで両手を挟んじゃって・・・・・・」
「あ、あぁ。あれね」
「そう、あれ」二人で微笑みあう。あんまり交友関係を広げようとは思ってなかったけど、今日の探検で友情が芽生えつつあった。
「大体こんな感じでいいかしら?」と、片ずけた音楽室を見渡す。
「真っ暗だし今日はもうこれ位にしましょ、これ以上何も出来ないわ」
「そうね」
 音楽室に残っているのはもう僕とるみなさんだけ。他の人達はすでに廊下に出て待ってる。僕達も音楽室を出た。
 僕が音楽室のドアを閉めて、みんなで集合場所に戻ろうと歩き出した。音楽室から数メートル離れた所まで来た時、音楽室探検組の全員が足を止めそれぞれの顔を見合わせ、音楽室の方を振り向く。
「鳴ってない?」しんがり、つまり一番音楽室に近い僕がみんなに聞いた。
「鳴ってる」と、音楽室から一番遠い所に立ってる宇津井くんも言う。
「私、ちゃんと鍵盤カバーを閉じたわ。腕にまだ重い感覚が残ってるから確かよ」
 手の平を上に両腕を広げて、”どうなってんの”というジェスチャーをとる。
「えぇ、私も閉めるところを見てたわ」と、るみなさんが助け舟を出す。
「でも・・・・・・鳴ってるよね」と、朔夜さんも訳が分からないといった様子だ。
「あのピアノって、リピート機能のあるレコーダーが付いてます?」振り返って尋ねた。
「そんなのない」街さんが即答した。
「それにしてもあの曲は何だ?誰か聴いたことあるか?」
 確かに"真夏の少年・少女たち"ではない聞いたことの無い曲が鳴っている。さすがに冷たいものが背中を走った。
 改めて音楽室の状況を思い返す。窓も鍵盤もドアも閉めた。ピアノはあのグランドピアノだけしかない。散らかったスコアブックや椅子も元に戻した。みんなで整理整頓したから誰か他に居れば気付くはず。もちろん天井も見たし。だったら、これはひょっとして。
「・・・・・・まさか、本当の」と、言い掛けた時、廊下の照明が一気に点灯した。あまりの眩しさに全員が顔をしかめる。
「なに?」眼球がチクチクして痛い。
「集合の合図だ。もう戻らないと」と、街さんが行こうとする。でも・・・・・・。
”真実はそこにある”X-FILESじゃないけど、本当に数メートル先に行けば、ひとりでに鳴るピアノの真実が分かる!
「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけでいいから」と、音楽室に戻ろうとすると、るみなさんに二の腕をつかまれる。
「ダメ!」優等生が首を振り、三つ編みが駄々をこねる様に揺れる。すると・・・・・・。
 きしむ様な音を立てながら廊下の天井から防火シャッターが男子二人と女子三人を分割する様にゆっくりと下りて来た。学校のセキュリティが稼動状態になったんだ。夜間はシャッターまで下ろすなんて何て用心深い学校だここは。
「いいんじゃない、真相は闇の中で?肝試しっていうのはそういうもんでしょ」と、朔夜さんが照明の点いてない音楽室を見て言った。
 るみなさんが僕の肩に手を置く。
「行きましょ。今夜はもう十分楽しめたわ」その一言でわだかまりが消えた。
「そうね、帰ろみんな」自然と笑顔で二人に言った。
「わぁ、メグちゃんもそんな素直な笑い方するんだ」
「わ、私はいつもこうよ」頬を膨らませて反論する。
「私も初めて見たわ、メグちゃんってたまに・・・・・・」
「おーい!急げよー」と、宇津井くんに急かされ男子に合流しようと歩き出す。シャッターはもう身長の高さを切ろうとしていた。
「たまに、何?」
「たまにすごく機嫌が悪そ・・・・・・わ!」と、不意を付かれた声を上げて、朔夜さんが転んだ。
 ちょうどシャッターの手前だった。
「しっかり!」と、るみなさんも手を貸して、朔夜さんをシャッターのこっち側に引きずって助けた。
「ごめんね引きずって、せっかくの浴衣が・・・・・・」申し訳無さそうに優等生がわびる。
「はなおが・・・・・・切れて、脱げた」顔をシャッターの方に向けて言った。
「えっ!」シャッターを覗き込むと下駄(って言うんじゃないと思うけど朔夜さんの履物)が一つ音楽室側に取り残されていた。
「いいよ、メグちゃん。明日取りに来ればいいから」めくれた浴衣の裾を直しながら言った。
「取れる」長いリーチを活かして腕を伸ばし、下駄をつかんだ。
 腕を引っ込めてふと、もう残り数センチしか開いてないシャッターの隙間から音楽室を見た。
 全身総毛立つ!音楽室のドアが開き、誰かの足が見えた!その足がこっちに向かって一歩を踏み出した時シャッターが完全に閉まった。
「ありがとう。あ〜あ、黒いシャツが台無し」と、付いた埃を掃ってくれる。
「メグちゃんって黒が似合うからゴスロリも似合うんじゃない?ん、どうしたの?」と、るみなさん。
 口をパクパクするだけで言葉を発せられない!今見えたのって?!
「あっ、い、いま、今、足が・・・・・・」なんとか今見えたモノを説明しようとする。
「うん、足はくじいてないよ。大丈夫」と、平和極まりない返事が返ってくる。
 足がこっちに向かって・・・・・・という事はこのシャッターの反対側には!居る!
「は、早く。逃げよう!」見、見間違い!絶対見間違い!!
「ん?うん、早く集合場所へ戻ろう、ね」
 僕は集合場所のグラウンドに着くまで不動明王のアクセサリーをぎゅっと握り締めたまま、ずっと子供の時によく歌っていた”お化けなんてなーいさ♪おばけなんてうーそさ♪”の歌を呪文の様に小声で歌っていた。


40.体育館スチャラカ探検隊7(西川コタロー) きりか進ノ介

 ゲスト……霧谷霞、国津沙羅、三枝克、レン NPC……洞井俊介

 それでよ。 結局、体育館の怪異ってなんだったのよ? という最終話。

 遠く雷が響いた。 第2倉庫の窓を叩く雨の音……。
 閃光に一瞬照らし出されたのは、ポール台。

「きゃぁっ!」
 幼い悲鳴が狭い倉庫に響く。すぐるがヘッドライトでポール台を照らして……。

「女のヒトネ!」
 場違いに明るくレンの大きな声。 ポール台のすぐ脇に……長い黒髪?

 ゴロゴロ、バシーン!
 窓一面の紫の光と、間髪をおかず衝撃を伴って大音響が轟く。
 同時に、すぐるのヘッドライトが……、 ふっ、と消えた。

「きゃああ! 出たあっ! いやああぁぁぁすぐるさんが!」
 沙羅ちゃんが悲鳴をあげ続ける。
「出たネ? どこ、さっきの髪のひとカナ?」
 ……レンちゃんの好奇心はこれぐらいでは止まらないらしい。

『落ち着いて! ライトが消えただけでしょ!』
 ちょっと慌ててすぐるの方を向けた俺のヘッドライトに、文字が浮かぶ。

「すぐるさん……。 女の子になってない、ですか?」
 沙羅ちゃんの不安そうな言葉に、すぐるは直ちに『大丈夫!』と書き足した。

「……やっぱり……西川君……」」
「やめてくれ、なんともねえってば!」
「そ、そんな、僕がどれだけこの日を楽しみにしてきたと……」


「く、くしゅん、ぐす。」
 ポール台の方で女の声が!! すぐるは、慌ててそちらにライトを向けた。

 そこにいたのは、泣きながらこちらを見つめる黒髪の少女……!!!

「いやぁぁっ!! タスケテェ!!」
 すぐるにしがみついて下を向き、本格的に泣き出した沙羅ちゃんに向かって、黒髪の少女は口を開いた。

「ぐすん……。 コレほこりっぽいネ。 なんか髪ダケだったヨ?」


 結局。探検隊が見つけたものは、(たしかにヒワイと言えなくもない形の)あたらしいデザインの一組のポールと、誰が置き忘れたのか横に掛けてあった黒のカツラだけだった。ポール(あるいはボール)を数える声については分からなかった。(沙羅ちゃんは「外のプラスチック屋根に当たる雨音がなんだか女の子の声みたい」 と言ったが、はっきり数を数えるようには聞こえなかった)

 消化不良のまま、一行は激しく雨音の響く体育館を後にしたのだった……。


41.真夏の怪談・第9幕(涼風穂香) ほたる

 出演 … 喜多嶋鈴、有賀野伶也、桜塚真理亜、井黒万知子

 穂香の顔色は悪かった。

 ――この臭い、俺には相当きつい…………

 元々からなのだが、この姿になってよりいっそう、鼻が敏感になってしまっている。
 一部のクラスメートからは、「犬並み」とかいってからかわれる始末だ。

「だ、大丈夫?ほんとに顔色悪いよ?」
「うん…………」

 心配そうに声をかけてきた万知子に対する返事にも、何となく元気がなかった。

 その時。
 前方を照らしていたはずの懐中電灯が、突然天井を照らし出した。

「なにっ、なにっ? 出たの? どこ、どこ?」
「水道の蛇口で……股間を打った」

 うずくまる伶也。
 回復までは、しばしの時間を要した。


 伶也が立ち直った後で、一同は再び、人体模型の発見に集中していた。
 途中、穂香が見慣れない物を目にした。

「これって…………?」
「天体望遠鏡。覗くといろんな星が見えるの。今日は曇ってるから見えないけど」

 真理亜が答えを返す。

 ――そう言えば、俺の世界でもこの前、新しい惑星が発見されたって話だったな…………見るのにはこういうのを使っているんだろうな。

 ちなみに穂香が「発見された」と言っている惑星は、こちらの世界ではつい先ほど、太陽系から外されてしまっていた(笑)

「…………空に見える星のどこかには、僕たちと同じように生命が存在して、文化とかもあったりするのかな…………」
「う〜ん、分からないわ。いたら大スクープね」
「もしかすると、こんな事をしてるボクたちを見て、笑ってるかも」

 伶也が呟き、万知子と鈴が答える。
 同じ頃、体育館ではくしゃみの音が響いていたのだが、理科室とはかなりの距離があるので、五人には聞こえるはずもなかった。

 まだ少し、恐怖に怯える感じも残っていた物の、先ほどまでとは違った安心感が、その場を包んでいた。
 ただ一人、理科室特有の臭さに顔をゆがめている、穂香を除いて。


42.真夏の怪談・第10幕(桜塚真理亜)  MONDO

 出演 … 喜多嶋鈴 有賀野伶也 涼風穂香 井黒万知子

 理科室をひと通り見回し、準備室へと続くドアを開ける。
「うげ……」
 埃くささと、かすかに漂う薬品の臭いに、穂香は浴衣の袖で鼻を押さえ、空いた方の手で顔のまわりを払った。
「さてと……人体模型はどこかな……」
 伶也が懐中電灯をぐるりと回した。
「きゃああっ!!」
「ひっ! ……も、もぉっ! た、ただの魚の標本じゃないっ」
 悲鳴を上げて万知子にしがみつく鈴。眼鏡の奥で目を見開いて、息を呑む万知子。
 棚の中にある、腸をでろーんと伸ばしてホルマリンの中でぷかぷか浮いている魚の死体と、いきなり目が合ってしまったのだ。
 内心の動揺を隠すように、万知子はきょろきょろとあたりを見渡した。
「……っと、真理亜、あんた何してるの?」
「あ、ああ……ごめん、マッチ」
 腰をかがめ、ガラスケースに陳列されていた土器や青銅鏡――社会科資料室が手狭になって、ここに保管されている教材用の遺跡発掘品――を真剣に眺めていた真理亜は、あわてて立ち上がった。

 ――そうだよな。こんなところに男に戻れる手がかりがあるわけないか……

 どうせレプリカだろうし……とつぶやき、真理亜は鈴たちと一緒に、人体模型さがしを再開する。
 そして……

「これが……そうなの?」
「なんか想像してたのと違う……」
「ビニル臭い……」

 伶也の持つ懐中電灯の光に照らされた人体模型は、ソフビ製のトルソ(彫像)タイプだった。
 支柱に吊り下げられたやつではなく、台座の上に固定されている。
「脚、ないね」
 穂香が、ぽつりとつぶやいた。
「みっきちーがいたら、『脚なんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ』とか言いそうね……」
「真理亜……あんたアニメおた属性もあるんだ」
「…………」
「とにかく、『動く人体模型の話』はデマだったってわけだ」
「ま、こんなもんでしょ」
 伶也の言葉に、万知子が肩をすくめた。「……じゃ、そろそろ戻ろうか?」
「はああ……やっと終わったぁ」
 ほっ――と安堵の溜息をつく鈴。そのしぐさが妙に大げさで、まわりの四人はくすくす笑いだした。

 理科準備室のドアが閉められる。
 その反動で、部屋の片隅に押し込められて埃を被っていた旧式の人体模型が、かたっ……とかすかに音を立てた。


43.夜の音楽室・ドロボーさんVSガリ勉女?と姉に代わって肝試しよ!4の間の話(街勝之=片津雪魅) Zyuka

 ゲスト 葛木朔夜、榎矢るみな、鏡月恵、宇津井健之介、よくわからない二人組み

「グオオオッ!! この程度では俺は、俺のプリンセスるみなへの愛はとめられぬっ!!」
 叫び、男が起き上がる。
「わが同士よ、今こそ我等が神より授かった力、見せてやろうぞ!!」
 るみな達の周りの空間が歪みだす。
「何?」
「これって」
「ちょっと」
「う、うわぁん」
 想像もしない事態に慌てふためく少女三人と役に立たない男の子。
 男の力はすでに絶頂に達し、後は同士たるもう一人の男の力が加われば……
「同士よ、ここに……!!」
「お待ちなさいっ」
「うん!?」
 ふわりと、天井からひとつの人影が降りてくる――それは、誰しも想像さえしない人物であった。
「え、え、ええっ!!」
 一番驚いたのは榎矢るみなだろう。がり勉少女を演じるのも忘れ、呆然と現れた人物を見る。そして葛木朔夜と鏡月恵も驚愕し、交互にその人物とるみなを見る。宇津井健之介はその前の乱闘で扉に激突し、目を回していた。

 現れたのは……プリンセス・ルミナだったのだ。
 そこに、がり勉少女姿のるみながいるはずなのに、なぜかもう一人るみなが現れた。それも、アニメプリティー・サーラに出てくるプリンセスるみなそのままの格好で!!

「どういうこと!?」
「うぉおおおおおっ!! マイプリンセスルミナァっ!!」

 ルミナと男の叫びが同時に上がる。が、行動は男のほうが早かった。
 諸手をあげると、プリンセスルミナに抱きつこうとする。そして――

 ゴォスゥ……

 えらく現実的で、重々しく、それでいて鈍い音が響いた。
 プリンセスルミナが、男の腹に、とてつもなく重いひじを打ち込んだのだ。
(あなたの同士も、これにはひとたまりもなかったでござるよ)
 心の中でそうつぶやくプリンセスルミナ。いや、その姿に変装している忍者、片津雪魅……
(まあ瞬間変装で他人そっくりに化けるなんて高度なことをやったんだから、当然でござるけどな)
 ただ一つ、いえる事がある。この二人は榎矢るみなのファンではなく、あくまでプリンセスルミナのファンだったのだ。だからがり勉少女風のるみなには見向きもしなかったし、雪魅の変装したルミナにあっさり引っかかった。

「あなた……いったい何者?」

 男が崩れ落ちたのを確認してから、るみなが雪魅に聞いてくる。が、
「ごめんなさい、それに答えることはできないわ。まあ、超常現象の一つと思ってください」
 雪魅はそう言って、

 ボフンッ!!

 煙玉を炸裂させる。
「わつ!」

 煙の中ですばやくルミナの変装を解き、再び勝之に変装する。
 その間わずか三秒、事故新記録!!
 そして、
「みんな、大丈夫か!?」
 ルミナ姿でのしておいたもう一人の男を引っ張り出し、るみな達に駆け寄る。

「あなた、今までどこにいたの?」
 朔夜がそう問いかけてくる。
「ああ、こいつを捕らえていた。もう一人は君たちが捕らえたようだな。やるじゃないか」
「いえ、これは……」
 恵が反論しかけるが口ごもる。おそらく、さっき見た光景が信じられないのだろう。
「それよりもこいつら、どうしようか?」
「ああ、それなら問題ない。俺の知り合いに警官がいるからその人に引き渡すことにするよ」
 そう言って勝之は携帯電話を取り出した。忍者といえど、この程度のものは持っている。
 やがて、雪魅の姉、片津甘魅に連絡が取れ、裏門のところにでも転がしておけば引取りに来てくれるという話になった。
 男たちが使った超常現象という謎は残るが、一応これでひと段落だ。

「ところで、この荒れた音楽室はどうしよう……」


44.体育館スチャラカ探検隊8(レン(以下略))  K.伊藤

 ゲスト……霧谷霞、国津沙羅、三枝克、西川小太郎 NPC……洞井俊介、名無しの男子生徒


 体育館を出て、渡り廊下を歩き、本校者へ。
 女子3人がお喋りしながら先を行く。

「オバケ、会えませんデシタ」
「居たけれど、見えなかったのかもしれませんよ?」
「ソウナノ?」
「波長が合わないと……見えない……」
「魔力があれば波長が合わなくても見ることも出来ますけど……――ボクは魔法少女じゃないですからね!?」
「レンまだ何も言ってないヨ」
「魔力が無くても……恨んだり、嫉んだり、妬んだり……生きることに絶望すれば見えることもある……けひっ、けひひひひひひ」
「どっちも難しそうデス……」

 男子3人は後を行く。
 本校舎に入り、下駄箱で靴を履き替える。

「……『流石に言われ慣れてきたみたいだね、魔法少女』」
「まぁあれだけ言われればね……っと、雨止んだかな?」
「そーいやもう雨音聞こえないな、どうやら空も晴れてきたみたいだし」
「助かるな、ワシは水気は苦手じゃ」
「だ、誰か今なんか、ぼそっと言わなかったか!?」
「……『別に何も? 気のせいじゃない?』」
「風で木の枝がゆれて囁き声のような音が! これぞまさに――」

 靴を履き替え校庭へ。
 雷鳴は既に遠く、雲間からは星も見える。

「……何か、うしろから涼しい風吹いたヨ?」
「雨上がりだから……涼しい風が吹くこともある……」
「ですね。あ、ボクらが最初みたいです、まだどのチームも戻ってきてな――……え?」
「? どしたのサラ、何かあったノ?」
「い、いえ逆で、その、な、無いんです」
「ありゃ、落とし物したノ? 何が無いノ?」
「……気が付かないの?」
「ふぇ? 気が付くって――……あ、あれ? アレレ?

 男子達が女子に追いつく。

「どーしたんだよ、出口に固まって」
「何かあったの? ――……はっ!? まさか、逆パターン!?」
「んだよ、逆パターンって」
「つまり僕達は何ともなかったけど、彼女たちの股間にポールが!」
「あー、はいはい。お前に聞いた俺が馬鹿だった。で、何があったんだ?」
「……『逆だよコタロー』」
「お前までなんだよ逆って」
「……『校庭』」
「? ――何も無いけど――……え?」
「だね、何もない――……へ?」

 風が吹き、雲は流れ、月が校舎と校庭を照らす。
 誰も居ないグラウンドには、怪しい人影も奇妙な物体も何もない。
 そう――あるはずの物も、無い。

「な、なな、なんで、だよ」
「た、確かに聞こえてましたよね?」
「……『うん、確かに』」
「ぼ、僕もしっかり、この耳で」
「オバケ? オバケのしわざなのカナ?」
「けひっ……体育館の怪異……やってくれる……けひひひひひひ」

 彼ら彼女らが玄関で立ち見つめるその先には。
 水たまり一つ無い、渇いた校庭が広がっていた。

 つまり。

 雨は降っていなかった。

 ならば。

 彼らが体育館の中で聞いていた雨音は――。

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「なぁなぁ、体育館の雨音って話って聞いたか? なんでもだいぶ前の卒業生達が肝試しをした時の話らしいんだけど――」


45.美術室怪奇譚?6(千堂なずな)  クラスター

 ゲスト:守岡深月、若宮詩音 NPC:纏恵美、幡野七瀬

その後準備室を一回りしたがそれらしいものも発見できず、再び美術室に戻る一行。

ガラッ

『アハハハハハハ…』

「ひえっ!?」
「恵美ちゃん恵美ちゃん、ダンシングフラワーだよ」
「あ、ああそうか…色々回ってるうちにすっかり存在を忘れてたわ」
「おおブルータス久しぶりー!しばらく見ないうちに随分白くなったね」
「いや元から白いし」

…これだけ騒がしければ霊も出られる雰囲気じゃないだろうなあ、とふと思うなずな。
ポルターガイストみたいないわゆる騒霊っていうのもいるけどそんなのも起こりそうにない。
一応チラチラと周囲を見渡してみる。
並ぶ石膏像、飾られている絵画、美術部員が忘れたのか、使われてそのままのパレット。
割とそれっぽい雰囲気は出ているが、何か出るかと聞かれると首を傾げたくなる、そんな感じ。

「なんか、これ以上回ってても収穫なさそうだね…」
「そうかもしれんねえ。肝心の飛び出す少女も妙なオチやったし」
「まああんな仕掛けをわざわざ考えた人には感心しないでもないけどね…」
「はあ、なんか一気に気抜けちゃったな…そろそろ戻る?」
「そうだね、集合時間も近いしあと一回りくらいしたら戻るってことで」
「「「「さんせーい」」」」

ガサゴソガサゴソ

今度は全体的に見回すだけでなく、色々引っ掻き回してみる。
石膏像を動かしてみたり(中が空洞なので意外と軽かった)
絵画をずらしてみたり(御札でもないかと思ったがそれらしきものは発見できず)
執筆途中の絵を眺めてみたり(割と恐ろしめの絵はあったがそれは絵描きのセンスだろう)

「なんかさあ」
「ん、何?なずっち」
「いや…こうして色んな所ゴソゴソ探してると…民家のタンスや壷調べて物漁るRPGの主人公みたいで」
「あー、わかんなくもないかもそれ」
「んじゃあこの棚調べたら『薬草を手に入れた!』とかあるかもわからんねー、あはは」
「薬草置いてある美術室ってどんなよ…」

それからしばし色々なところを探したが結局なんの成果もなし。
一向は集合場所へと戻ることとなった。

「あーあ、結局なんもなかったねー」
「あったにはあったけど…あれじゃあねえ」
「絵の資料にもなりゃしない…はぁ」
「あたしは結構面白かったよー?あの花とか結構ノリノリで好きやったわ」
「まあ何もないのが一番ってことで…行こうか?」

ガラッ

ドアを開けて出て行く一同。

――――バイバイ、マタキテネ――――

「…ん?」
ふと振り返るなずな。
そこには誰もおらず、ただ闇に包まれた美術室が存在するだけだった。
「…………気のせい、だよね?」
「何やってんのなずっちー、置いてくよー?」
「わあ、待って待って!」
七瀬に急かされ、慌てて集団の中に戻っていく。
「(おっかしいなあ…確かに今女の子の声がしたような…空耳かなあ…)」

「ねえねえ、今さっき誰かなんか声聞かなかった?」
「え?何も聞いてないけど…」
「っていうかやめてよなずっち!もう終わりってことで安心してたのに変なこと言うの!」
「んーあたしは歓迎よ?一度ユーレイっていうのには会ってみたいし、美少女なら大歓迎だがね」
「それならあたしも絵に描いて…ってそうでなくて!」

ワイワイと騒ぎながら美術室を後にする一行。
結局美術室の噂は単なる仕掛けだとわかり、拍子抜けした気持ちで集合場所へと向かうのだった。





美術室組が去った後の、誰もいない深夜の美術準備室。
立てかけられた、二枚の少女の絵。

――――クスクスクスクス――――

そのうちの片方が静かに微笑んでいたかどうか…それを今、知ることはできない。


46.真夏の怪談・第11幕(涼風穂香) ほたる

 出演 … 喜多嶋鈴、有賀野伶也、桜塚真理亜、井黒万知子、日下仁志(NPC)、大野裕司(NPC)、謎の骸骨(?)


「い、今何か音しなかった…………!?」

 理科準備室のドアを閉めた後で、鈴が四人の方を振り向きながら、心配そうに聞く。
 音自体は、その場にいた他のメンバーにも聞こえた。

「…………あの部屋には何も準備してないよ。反動で何か落ちてたとしても、たいした音じゃないからほっといていいと思う」

 もうこれ以上、鈴を不安がらせたくない。
 伶也は自信に満ちた口調で、そう答えた。仕掛け人の一人でもあったのだから、どこに何があるかはわかっている。

「本当でしょうね?」
「僕が保証するよ。さあ、グランドへ戻ろう」
「集合時間までは…………あと20分。余裕ね」

 真理亜が携帯電話で、時間を確認する。穂香はそれを横で見ながら、少し考えていた。

 ――時間も分かるのか。みんなと連絡取りやすくなるし、母さんに聞いてみるか……

 むろん穂香が、携帯電話を持っているはずはない。「欲しい」と思っていた。

「どういうルートで帰る?」
「来たルートでいいでしょ?伶也くん、あのルートに仕掛けはもうないよね?」
「あれで全部だ」

 伶也はむろん、どこに仕掛けがあるかを把握していて、理科室に行く過程でそれを通過できるように、四人を誘導していた。
 その仕掛けが二つとも撤去作業に入っている以上、あのルートに仕掛けはない。

 理科室を後にし、暗いままの廊下を、五人は歩き始めた。


 廊下を歩いている途中、陸上選手人形が疾走したレールを撤去中の、日下仁志と大野裕司に出会った。

「お疲れ様です」
「あの後、どうなった?」
「理科室って元々ホラーな部分があるので、仕掛けもないのにみんな怖がってましたよ」

 理科室での様子を思い出し、四人は苦笑した。

「…………結局、心霊写真は一枚も撮れませんでしたけど」

 万知子はカメラの方に視線を落としながら、少し残念そうに言った。

「そろそろ集合時間なんで、僕はみんなを連れてグランドまで戻ります」
「有賀野、後で手伝いに来い。他の奴も呼んでるが」
「分かりました」

 番組同様に100メートル…………とまではいかないが、数十メートルの間、高速走行に耐えうるように敷設されたレールを撤去するのには、人手と時間を要する。
 伶也は解散後、手伝いに来ることを約束した。


 五人はキカ○ダーの置かれていた場所を過ぎ、上ってきた階段を逆に下ろうとしていた。

「もう…………出ないよね」
「まだ……心配なんだ」

 寄り添うように歩く、鈴と伶也。その後ろを、真理亜と万知子、穂香が続く。
 二人の距離が、確実に一歩は縮まった。そう思いながら。


「上に…………誰かいる」


 臭みが取れて(笑)冷静さを取り戻した穂香が、何かの気配に気づいた。

「レイちゃん、心当たりはある!?」
「音楽室に美術室に体育館…………他のグループはここなんて通らないはず」

 伶也にも心当たりはなかった。

 その時。
 五人には階段を降りてくる、人影が見えた。

 伶也の手を、ぎゅっと握りしめる鈴。
 その手を優しく握り返す伶也。
 半身で逃げ出す体勢に入る真理亜。
 カメラを手にし、構える万知子。
 厳しい目つきで、踊り場を見据える穂香。

 「それ」は暗闇から、音もなく姿を現した。

 …………白い着物に身を包んだ、骸骨…………に見えた。
 人間くさい動きをしながら、階段を下りようとする。

「「「いゃあああああああああ〜っ!!」」」
「「ぅわあああああああああ〜っ!!」


「…………あれ?」
「…………俺たちが仕掛けたのは、この2つだけだよな?」
「何があったんだ、いったい……?」

 仁志と裕司は、廊下の向こうから予想外の悲鳴が聞こえたことに、首をかしげていた。


47.真夏の怪談・第12幕(井黒万知子)  猫野

 出演 … 喜多嶋鈴、有賀野伶也、桜塚真理亜、井黒万知子、幡野七瀬、日下仁志(NPC)、大野裕司(NPC)、謎の骸骨(?)

 階段からなにかが下りてきたとき、万知子はそれも仕掛けだと思った。
 だって背後に科学部と特撮部の連中を置いてきてしまったのだもの、追加の仕掛けをされるには十分な状況だ。

 でも、今度見えた「それ」は、模型と呼ぶにはあまりにも生々しかった。着ている着物や薄い髪の毛の材質感、さっきのキカイダーだの陸上選手だのとは比較にならない造形の細かさである。
 でも、生身の人間じゃない。風雨にさらした白骨に人の皮を張り付けたら、あんな感じになるんじゃないだろうか。

 万知子はカメラを構えた。しっかり正面を向いて、シャッターを切る。
 フラッシュに照らされて霊が光った。落ちくぼんだ眼窩の奥で瞳が動いた。これまた骨のような手が、顔の前でかくかくと振られた。

「「「いゃあああああああああ〜っ!!」」」
「「ぅわあああああああああ〜っ!!」

 こんどこそ総崩れだった。伶也と鈴が手をつないだまま逃げる。そのつないだ手に万知子が後ろからしがみついた。真理亜が万知子の腰にしがみつく。さらにその後ろに穂香が絡まる。さすがの穂香も今回はたまらなかったようだ。

 五人が団子のように連なって、校舎からグラウンドへ一気に転がり出てきたのだった。

 集合場所で待っていた他の生徒たちが目を丸くした。理科室組が五人全員でグラウンドを走り回り、トラックを一周してからようやく止まったからである。
「……どうしたの?」
 誰とはなしにそう尋ねた。真理亜も鈴も穂香も、伶也さえもが息を切らしていて、返事がなかなか返ってこない。
 しばらくして手をあげた者がいる。カメラを振りかざしながら、万知子が叫んだ。
「ズ、ズグープよっ! あだちたちは見たの、人体模型の幽霊のほんとの姿がわがったのよ!! 写真だってどったし!」
「で。なんだったの?」
 万知子は確信した。人体模型が誰の皮をはいで着込んだのか。あの骸骨ッぷり、薄い髪、着物、見間違いようがない。
「それは……。桂歌丸師匠よ!! 歌丸師匠の幽霊だったのよ!」

 夜の夜中にどこかでカラスがカァー、と鳴いた。
「歌丸師匠は生きてますって!」
 美術室から帰ってきていた幡野七瀬が、わざわざツッコミを入れてくれた。


48.姉に代わって肝試しよ!5(鏡月恵) 泉美樹

 ゲスト:榎矢るみな エキストラ:理科室組

 音楽室組はグラウンドの朝礼台前から程近いベンチに腰掛けて、他の組が帰って来るのを待っていた。
 僕は別のベンチで一人黙って腰掛けて、シャッターが閉じる直前の瞬間に見えたモノを何度も頭の中で再生して分析していた。

 あの時は音楽室のドアが開き、誰かの足が見えた。その足がこっちに向かって一歩を踏み出した時にシャッターが完全に閉まった。
時間にして三秒くらい。女子の足だったと思う。透けてたか、物理的に存在していたかはよく判らない。どっちにもイメージできる。
結局見たのは僕一人だけで、他の人達は僕が朔夜さんの下駄を取っているとこしか見てなかった。

「お疲れ様、メグちゃん。大丈夫?」と、るみなさんが隣に腰掛けてきた。
「う、うん・・・・・・大丈夫。お疲れ様」
「はい」と、ジュースを渡してくれる。
「あ、ありが、とう」歯切れの悪い返事をした。
「顔色悪いよ、お化けでも見た?」と、言いながらペットボトルの蓋を開ける。
「う、うん。実は・・・・・・」ちょっと相談してみよう。
「見たの?!」優等生が眼鏡の位置を調節して念を押す様に聞いた。
「うん」
「いつ?」
「シャッターが閉じる直前。下駄をつかんでちらっと音楽室を見たの」
「うんうん」
「そうしたら音楽室のドアが開いて・・・・・・、誰かの足が見えたの」
「本当?」
「その足がこっちに向かって一歩を踏み出した時にシャッターが閉まったの」
「その足って、透けてた?」
「分からない」
「女子?それとも男子の足だった?」
「女子だった」
「足だけ?胴体はあった?」
「見えたのは足だけだけど、シャッターに隠れて上の方は見えなかったから」
「そう」
「気にしないで、ほんの三秒ぐらいしか見えなかったし。見間違いかもしれないし」
 見なかった事にした方がいいかも。このことが学校中の噂になりでもしたら、姉さんは対応するのに大変だろう。
「それよりも、この学校って凄いセキュリティの設定ね。夜間はシャッターまで下ろすなんて」と、話題を変える。
「あ・・・・・・」るみなさんの顔にかげりが走った。
「閉まっていくシャッターをくぐり抜けながら集合場所に戻って来るのは結構スリルがあって面白かったわ」
「う、うん。その事なんだけど・・・・・・」
「何?どうしたの」
「あのね、確かに今はセキュリティが稼動状態になってるけど、防火シャッターまでは降りないんだって」
「え・・・・・・」
「降りるのは本当に火災の時だけ」
「でも、一つだけじゃなくてここに来るまで全てのシャッターが作動して降りて来たよ。だから走って戻って来たんじゃない」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「まさか、幽霊が私達を学校に閉じ込めようとしたんじゃあ・・・・・・」
「まさか」
「まさかね」
「そうよね、そんなわけないよね」
「そうよ、そんなわけないわよ」
「ふふ」
「ふふふふ」
 神経質な笑い声が二人から漏れる。
「こ、今夜は部屋の電気を点けたままにして寝ないとね」
「わ、私もそうする」

「「「いゃあああああああああ〜っ!!」」」
「「ぅわあああああああああ〜っ!!」
 突然の悲鳴に思わず肩をすくませる。見ると理科室組が五人全員でグラウンドを走り回っていた。
「どうやら部屋の電気を点けたままにして寝るのは私達だけじゃなさそうね」そう優等生は言った。


49.真夏の怪談・第13幕(桜塚真理亜)  MONDO

 出演 … 喜多嶋鈴、有賀野伶也、涼風穂香、井黒万知子、幡野七瀬、???

 姫琴高校に伝わる、理科室の動く人体模型の噂――
 その正体は……

「それは……。桂歌丸師匠よ!! 歌丸師匠の幽霊だったのよっ!」
「歌丸師匠は生きてますって!」

 万知子の絶叫に、先に戻っていた七瀬がツッコミで答えた。
「あ、そういえばそうだっけ……」
「ちちち違うですっ! じじじ人体模型じゃなくううう動く骨格標本だったですっ!! スケルトンでハリーハウゼンだです〜っ!!」
 あまりのパニクりぶりに、もはや自分で何を言っているのか分からない真理亜だった(笑)。

「だ〜れが歌丸師匠で骨格標本だってぇ?」

 背後からそう声をかけられ、五人はびくっと肩を震わせると……おそるおそる振り返った。
 そこには――

「「でっ、でででで出たあああああああああっ!!」」

 骸骨……みたいな容貌の男性が一人、節くれだった腕を組んで立っていた。
 悲鳴を上げて互いにしがみつき合い、あとずさる真理亜たち。
「ひうっ……」
「わああああっ、リ、リンっ!! しっかりして〜っ!!」
 目を回して気絶した鈴を、伶也があわててだき抱える。
「やれやれ……心配してわざわざ見に来たっていうのに、失礼ですねぇあんたたちは――」
 その言葉に我に返った万知子と真理亜が、すっとんきょうな声を上げる。
「う、歌川教頭先生……?」
「理科室の方から何度も悲鳴が聞こえるもんだから、夜の学校探検を許可した手前、なんかあったら大変だぁと思って見に行った挙げ句、お化けと間違われたんじゃ、たまったもんじゃありませんよっ」
 歌丸師匠似の骨格標本……もとい、白い着物姿の歌川教頭は憮然とした口調でそう答えた。
「で、でもいきなり暗いとこから出てこられたら……ねえ」
「それにその格好、普段と違うですし」
「ああ、これですかぁ? あんたたちも浴衣OKにしてたんだから、こっちもそれに合わせてみたんですよ」
 そう言うと、歌川教頭は咳払いをして、顔を赤らめた。「……それよりあんたたちの格好こそ、すごいことになっていますよ」
「え……?」
 あわてて自分の姿を見直す万知子と穂香。
 浴衣の帯は緩み、肩ははだけかけ、裾はめくれ上がって生脚がふともも近くまで露出している。
「「き……きゃああああああああああっ!!」」
 さしもの万知子も、そして普段冷静な穂香も、この時ばかりは甲高い悲鳴を上げ、浴衣の裾や襟元をかき抱いた……


「う〜ん……あ、あれ?」
「やっと気がついた。……大丈夫? リン」
「れ――レイちゃん……」

 目を覚ました鈴に、伶也はほっと溜息をついた。
「あのね……ボク、変な夢見てた」
「?」
「人体模型に襲われて、ボクとレイちゃんの皮がはがされるの。……でも、レイちゃんはボクの皮を着せられ、ボクはレイちゃんの皮を着せられて、気がついたらレイちゃんが女の子になってて、それで――」
 顔を赤らめて話す鈴の口を、伶也は人差し指で優しく塞いだ。
「それは夢だよ……リン」
「レイちゃん……」
 伶也の笑顔に、鈴はぽっと顔を赤らめる。

 ――だ、だめだよ。ボク、ますます女の子になっちゃう……

「ああよかったよかった。気がついたみたいですねぇ」
「…………」

 伶也の肩ごしに覗き込んできた歌川教頭の顔に、鈴の目が点になり――

「きゃあああああああああ〜っ!! 歌丸師匠の皮被った人体模型〜っ!!」

 彼女は校庭のベンチから飛び起き、一目散に逃げようとして…………浴衣の裾踏んで盛大にこけた(笑)。


50.音楽室探検の果てに……榎矢るみなの場合 こうけい

 ゲスト:宇津井健之介(NPC)、葛木朔夜、鏡月恵、街勝之、“どろぼー”さん(NPC)、プリンセスルミナ(?)/若宮詩音、涼風穂香、西川小太郎、ニコンF3(NPC) エキストラ:今日の探検に参加されたみなさまがた

 『狭い学校 そんなに急いで どこへ行く/姫琴生徒会』。今しがた点けられたばかりの蛍光灯が、そんな貼り紙ごと廊下を照らす。
 けれども音楽室探検組の5人は、廊下を走らずにはいられなかった。
 正確に言うと、るみなは走るつもりではなかった。朔夜と街も、落ち着いて集合場所のグラウンドに戻るつもりだった。
 しかし戻る途中、何かの映画かゲームのクライマックスシーンのように、5人の目の前でシャッターが次々と下がっていくのだ。走らなければ学校に閉じ込められてしまう。
 そして不思議なもので、走っているうちにるみなの脳裏にも、これまでの奇妙な体験が回想されてくる。

 まず、ノックアウトされた後でよみがえった“どろぼー”男の前に降臨し、男にとどめの肘鉄を食らわせた「プリンセスルミナ」。
 るみながプリンセスルミナに正体を尋ねると、プリンセスは「まあ、超常現象の一種と思ってください」と答えるや、爆音つきの煙と共に姿を消した。

 次に、事態を収拾して廊下に出たところで、ふたたび鳴り出したピアノの音。最後に音楽室を出た恵とるみなが、鍵盤のカバーが閉じていることを確認したというのに。
 おまけに、曲は『真夏の少年・少女たち』ではなかった。つまり、あの“どろぼー”たちとは別人が弾いていることになる。

 そして最後は、シャッターを抜けた直後に「い、いま、足が……」と意味不明の言葉を口にして、それから早足になった恵。
 るみなは咄嗟には恵の言いたいことがわからず、「足はくじいてないよ。大丈夫」と頓珍漢な答えをした。けれど今になって思えば、恵は何か別なことを言いたかったのではないか。

「わああああ助けて、追ってくるな化け物!」
 恵につられて、マジで慌てふためきながら隣を走る宇津井の気持ちも、わからないではない。

 それに加えて幾枚もの防火シャッターが、まるでるみなたちを閉じ込めようという意思を持っているかのように次々と下がっていく。
 ――閉じ込めようという、意思?
 そう反芻したところで、るみなはあることを思い出した。
 グレーのプリーツスカートの裾の翻り方が、少し大きくなった。

 音楽室組は校舎を出てグラウンドの朝礼台に程近いベンチに腰掛けた。
 こうなればもう安心だ。るみなは、さっき思い出したことも忘れていた。
 そして、自分のカバンからペットボトルを二本取り出して立ち上がった。
「お疲れ様、メグちゃん。大丈夫?」
「う、うん……大丈夫。お疲れ様、るみなさん」
 るみなはさっきのペットボトルの一本を恵に差し出して、彼女の隣に腰掛けた。
 「るみなさん」「メグちゃん」。恵とは今日のイベントを通じて、いつの間にか打ち解けていた。さっきも、誰が言うともなくふたりで音楽室に残り、ピアノの片付けの整理をしていた。
 るみなに、友人がまたひとり増えたのかもしれない。

 そしてるみなは、恵の見たという足についての話を聞かされた。
「それで思うんだけど、私たちを助けてくれたプリンセスルミナも、最後のピアノの音の主も、あの謎の足の人物じゃないかしら」
「またぁ、メグちゃんったらそんなこと言って。みんな幻よ」
「あのプリンセスルミナ、るみなさんだって見てたでしょ」
「わたし、『プリティーサーラ』のワンシーンを思い出してたのよ。恵さんも同じじゃない?」
「……かもね。気にしないで。さっきの足にしたって、ほんの三秒ぐらいしか見えなかったし。見間違いかもしれないし」
 るみなの主張に押されたのか、恵は遠慮気にそう言ってから、話題を変えた。
「それよりも、この学校って凄いセキュリティの設定ね。夜間はシャッターまで下ろすなんて」
「あ……」
 るみなは、再び思い出した。そして恵に語った。本当に火災のときでない限り、夜間に防火シャッターまでは下りないのだということを。
「まさか、幽霊が私達を学校に閉じ込めようとしたんじゃあ……」
「まさか」
「こ、今夜は部屋の電気を点けたままにして寝ないとね」
「わ、私もそうする」


 グラウンドの朝礼台前に、次々と生徒たちが戻ってきた。みな初めは混乱していたものの、次第に落ち着いていく。
「いやあ怖かったねえ、あのどろぼーさん。でも俺の蹴りの一撃でノックアウト、うーん快感。るみなちゃんも見てくれてたよな?」
 調子のよすぎる宇津井の喋りを無視しながら、るみなはほかの場所を探検した生徒たちを見渡した。
 みなそれぞれ口々に、自分らの体験した怪談を語り合っている。さっきまでは真剣に怖かったはずのことを、今では楽しむかのように話している子もいる。喉元過ぎればなんとやら、とはこういうことなのか。
 るみなも自然に、その輪へと入り込んでいった。

 音楽室のピアノの音が話題になると、美術室組の若宮詩音がるみなに声をかけてきた。
「えーっ、そっちじゃ『真夏の少年・少女たち』が鳴ったぎゃーか? どう、演奏は上手だった?」
 さすが詩音。こんなときも演奏の内容に興味を示す。
「うーん、ミスタッチが目立ってたかな」
 不思議なもので、るみなにはあのときの演奏が冷静に回想できた。怖さは、もう感じなくなっていた。
「やった、安心だぎゃー、あたしのほうが上手く弾けるみゃー」

 理科室組の涼風穂香が、るみなの服装に興味を示してきた。
「榎矢さん、そのかっこうで音楽室行ってきたの?」
「うん。でも、わたしの柄には合わなかったかなって思う。演技がきつくなりすぎて。穂香さんのように浴衣のほうがよかったかな」
「ううん、あたしにはわかる。榎矢さん、音楽室でいい演技したってこと。今のあなたの顔に書いてあるもの」
「そうなの? どうもありがと」
「十月のドラマもチェックしなくちゃね」
 口では謙遜するるみなだったが、穂香の言葉で確信を持った。本当の本番に向けての演技のコツを、自分がすでにつかんだことを。

 るみなは、体育館組の西川小太郎に声をかけた。
「コタローどうだった? 体育館のほうは」
 すると小太郎は固まったように黙りこんだ。彼にしては珍しい態度だ。よほど怖いことがあったのだろうか。るみなは一歩引いた。
 そのとき彼は突如豹変し、愛機のニコンF3をるみなに向けた。
「おおっ、それそれ。るみなちゃんはやっぱり自然な表情がいちばんだぜ」
 言いながら、幾度もフラッシュをるみなに浴びせた。
 そんなフラッシュの合間に、るみなには別の声が聞こえたような気がした。
「ワシも自然な笑顔が大好きじゃ。おぬしにはこれからも世話になるぞ」
 明らかに小太郎とは違う、聞き覚えのない声色。
 ――まさか、これも怪談なの?
 ――……ううん、イベントは終わったんだ。ただの空耳よ、きっと。
 るみなは思い直しつつ、光るフラッシュに身を任せていた。


51.姫琴高校・夏の夜は夢のように――(レン(以下略))  K.伊藤

 NPC:喜多嶋鈴、有賀野伶也、纏恵美 エクストラ:今回の参加者PCの皆さん

 走り回った後の、着崩れた浴衣は色っぽいデス。
 女の子のはずもレンでも、ちょっとドキっとするヨ。
 コタローやマチコがまた写真撮ってまわってるマス。
 こっちはこうだった、そっちはどうだった? あっちこっちでお喋りシテ。

「というわけで、納涼学校探検を閉会します。ちょっとみんな聞いてる!? 家に帰るまでが肝試しだからね!?」

 エミが朝礼台の上で、そう締めくくった後もしばらくお喋り続いてマス。
 帰りにマック寄っていこうか、とか、一人で寝れない、泊めて、とか。
 プールの方からもぱちゃぱちゃ音してるヨ、誰か水遊びしてるのカナ。

「やぁレンちゃん、お疲れ様」
「レンちゃん、お疲れ様……」

 と、ぼーっとみんなを見てたらレーヤとリンが話しかけてきましタ。

「お疲れ? レン疲れてないヨ。リンの方がよっぽど疲れてるように見えるケドナ」
「あ、あははは……ねぇレンちゃん、これからレイちゃんのお店でお茶でも、って話なんだけど……レンちゃんもどう?」
「そっか、レーヤのおうちはきっちゃ店だったネ」
「きっちゃ、じゃなくてきっさ、ね……あ、コタロー、良かったら君もどう?」
「え? 俺? ……奢りじゃねぇんだろ?」
「それはもう、是非当店の売り上げに貢献して下さい」

 レーヤ、女の子に人気がある、レンのクラスメイト。
 レンから見たら、他の男の子と大差無いように見えるんだけどナ。
 男の子の魅力ってよくワカリマセン、レンは興味津々デス。

「うぃ、レンも行くヨ、コタも行こ? カメラ貸してくれたお礼デス、べにちゃくらいならレンが奢るヨ」

 そう答えてレンもみんなの輪にくわわりマス。

「……『レンさん、紅茶はこうちゃ、と読むんだよ』」
「伶也くんがコタローを誘ってる……さ、誘い受け……コタレイ、いやでもレイコタも捨てがたいっ……」
「パフェ食べたいなぁ、でも今月はもうお小遣いが……ううっ」
「ふふっ……心霊写真、決定的激写……新学期の新聞が楽しみだわっ……」
「誘われちゃった、伶也くんに……お父様に紹介されちゃうのかしら……はっ!? い、いま何を考えてっ!?」

 和気藹々、こんな状況をそう言うんダッテ。
 アイアイというお猿さんが湧くのではないそうデス。

「ねぇレーヤ」
「ん? なんだいレンちゃん」
「一人では寝られないので今晩泊めて欲しいナ」
「「「「「「「だっ! だめーっ!!」」」」」」

 一斉に突っ込まれましタ。

「あはは、冗談だヨー。レンだってそれくらいの常識は覚えたのデス♪」

 もうすぐ夏の終わり、でもまだ夏は終わっていない。
 それに夏が終わっても、秋、冬、春、また夏。
 こうやってみんなと、そうやってみんなで、楽しく過ごせたらイイナ。
 レンは、そう思いマス。

「だから学校さん、新学期もよろしくダヨ――新学期までバイバイ」


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「ふふっ、はいはい……元気な姿で登校してくるのを待ってますよ、私の可愛い子供達……」

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