東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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DNA脱メチル化機構を介したホルモン依存性遺伝子の転写抑制解除機構の解明

(Nature, Oct 15; 461, 1007-1012, 2009)

 DNAメチル化とヒストン修飾は遺伝子のエピジェネティクス制御において中心的な役割を担い、ダイナミックに遺伝子発現や発生・分化などを制御します。本研究ではDNAメチル化/脱メチル化のスウィチングがホルモンにより遺伝子発現が厳密に調節される遺伝子の転写制御に重要であることが明らかにしました。
 活性型ビタミンD (VD)産生酵素であるビタミンD31α-水酸化酵素1α(OH)ase [CYP27B1]は腎臓において副甲状腺ホルモン(PTH)により発現が誘導され、過剰に産生されたVDはリガンドとしてビタミンD受容体 (VDR)を介して転写抑制されます。我々は本遺伝子転写制御機構に着目しました。生化学手法を用いてVD依存的な転写抑制化複合体の構成因子を同定した結果、DNAメチル化酵素であるDnmtsが含まれ、CYP27B1遺伝子プロモーター上に存在する3箇所のCpG配列をVD依存的にメチル化することが明らかになりました。更に、このDNAメチル化はPTHによる遺伝子発現と共に脱メチル化され、その分子機構はPTH―PKC経路でリン酸化されたMBD4のDNA glycosylase機能が促進されることで引き起こされ、DNA塩基除去修復機構により完成されることが明らかになりました。一方、MBD4遺伝子欠損マウスではCYP27B1遺伝子における脱メチル化制御の機能欠損により、VDによる一過的な発現抑制後PTHによる遺伝子の再誘導系が破綻していました。今回の報告により哺乳類の組織特異的な遺伝子発現において細胞内ホルモン変化に応じたDNAメチル化/脱メチル化制御の分子基盤となる機構を見出すことができました。本成果は、英国科学雑誌 Nature 10月15日号に掲載されました。

本GCOEプログラム事業推進担当者
東京大学分子細胞生物学研究所 教授 加藤 茂明

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