がんという通過点(2) 増田有華さん−「がんだったから、今がある。歌がある」

医療介護CBニュース2011年12月30日(金)19:30
キャッチフレーズは「笑顔ニコニコ、元気モリモリ、たこ焼きめっちゃ好きやねん!」。持ち前の明るさで、歌に、ダンスに、演技にと、活躍の場を広げる増田有華さんだ。アイドルグループ「AKB48」のメンバーとして忙しい日々を送っている彼女だが、実は「元小児がん患者」の過去を持つ。発病したのは2歳のころ。闘病後、奇跡的にがんは完治したものの、現在も先天性の免疫不全を抱えている。それでも増田さんは「がんがあったからこそ、今がある」と、過去を前向きにとらえる。そこには計り知ることのできない歌の力があった。(外川慎一朗)

―かつて小児がんだったことを告白していますね。
発病したのは2歳のころです。わたしのがんは、最初にどこの臓器で生まれたものかは分かりませんが、見つかった段階で、既にすい臓や腎臓、肝臓など、幾つかの場所に転移していたそうです。だから、2歳から2歳半までの間は大阪の病院に入院して、毎日のように点滴をつながれ、注射をされていました。「点滴をしている自分が当たり前」という感覚だけは、かすかに覚えています。

―ほかに当時のことで覚えていることはありますか。
入院中かどうかは分かりませんが、「いつも病院にいた」という程度の記憶はあります。
がんだったことを初めて聞いた時のこともよく覚えていません。小学生のころには知っていましたが、「何となく重い病」ということしか分かりませんでした。大変な病気にかかっていたと本当に理解できたのは、10代の後半になってからですかね。

―その後、がんはどうなったのですか。
2歳半くらいの時、がんが半分に減って、退院できました。その後も治療を続けるうちに、がんは徐々になくなっていきました。今、この話をしても、「医学的に証明できない」とか言われて、誰にも信じてもらえないんですけど(笑)。

―なぜ完治できたんだと思いますか。
なぜですかね。わたしにもよく分かりません(笑)。
ただ、病院で担当してくれた先生が、「いろいろな小児がんの子を診てきたけれど、この子は本当によく笑う。病人の顔じゃない」と言って母を励ましながら、懸命に治療を続けてくれました。そうした強い思いが、完治につながったのかもしれません。
もう一つ、「歌の力」も大きかったと思います。入院していた時、音楽好きの父が個室の病室でギターを弾いてくれました。わたしはそれに合わせてラムネのお菓子が入ったおもちゃのマイクを握って、元気に歌っていたみたいです。たとえ点滴がつながっていても、その時間はすごく楽しかったというのは、かすかに覚えています。

―気丈なご両親だったんですね。
そうですね。でも、いつも強かったわけでもないと思います。特に母は、わたしががんで入院してからだいぶ弱ってしまって、体重が10キロ以上も減ってしまいました。「周りの子は公園で元気よく遊んでいるのに、なぜ有華だけ病院で点滴につながれる生活を送らなきゃいけないんだろう」って。すごくショックを受けて、「この子はもう駄目かもしれない」って、喪服まで用意したくらいですから。
そんな母が頑張れたのは、本当にささやかな夢があったからだと言っていました。
それは、わたしが退院したら、一緒にファミリーレストランに行くこと。
普通、特別なお出掛けと言ったらテーマパークとか、動物園とかですよね。でも母は、もっと「ごく当たり前のこと」をしたかったみたい。それがファミレスでのお食事だったんです(笑)。退院してファミレスで一緒にご飯を食べた時、小さな手でおいしそうにスープを飲むわたしの姿を見て、それがすごくうれしかったと言っていました。

■「がんだったころの自分に励まされている」

―がんだった経験で、今につながっていることはありますか。
がんだった経験は、今のわたしのとても大きな要素になっています。マイナスの要素とはとらえていなくて、むしろ、がんを通じて強くなれたとも思っています。今こうして活動できているのも、がんがあったからなんです。

―どういうことですか。
わたしがオーディションに合格したのは、中学2年の終わりごろでした。当時は大阪に住んでいたんですが、両親は快く一人っ子のわたしを東京に送り出してくれました。
理由は、わたしががんで1回死にそうになったにもかかわらず、こうして奇跡的に生きているから。母は「有華にはきっと特別な使命がある。生きていてくれるだけでもありがたいんだから、東京でやりたい夢をかなえてきなさい」って言って送り出してくれました。がんのおかげで大好きな歌を歌えているというのは、不思議なものです。もし、わたしががんを乗り越えていなかったら…。過保護な母のことです。東京に行くことなんて認めてくれなかったでしょう。

―そして今、歌手として活躍されていますね。
わたしにとって、生きていること自体が歌うこと、表現することそのものなんです。それくらい大切なものです。実際、家に着くと、自然と好きな音楽をかけちゃうし、外ではストリートミュージシャンの演奏に聞き入ってしまう自分がいます。歌がない人生は考えられません。
ただ、そんなわたしでも「歌をやめてしまいたい」と思うことが何度かありました。ステージでスポットライトを浴びたくない。マイクも握りたくない。そのくらいに落ち込んだこともありました。
でも、ある時気付いたんです。「歌をやめたい」と思うのは、それだけ歌が好きということなんだと。つまり、「歌を自分の誇れるものにしたい」という強い思いがあるからこそ、形にならないもどかしさで、「やめたい」と思ってしまっていたんです。一生懸命夢を追っているからこそ、落ち込んでしまったんです。
このことに気付いてからは、つらいことがあっても、「つらい、苦しいは好きの裏返し。つらいことがあれば、きっといいこともある」と、前向きに思えるようになりました。知らず知らずのうちに、がんだった2歳のころの自分に励まされているんですね。

―現在も病気を抱えていらっしゃると聞きました。
実は、今も先天性の免疫不全があります。血液検査を受けると毎回、「白血球の数値が低いね」と言われます。でも、不思議と不安はないです。
なぜかというと、ファンの皆さんから求められていると実感できる瞬間があるから。ライブを見に来てくれたり、握手会に来てくれたり。大好きなこの活動をしているからこそ、わたしは元気でいられると思うんです。
ファンの方の中に、治療が難しい病気と闘っている方がいらっしゃいます。それでも車いすに乗って握手会にいらしてくれたり、手紙を書いてくださったりしてくれる。「ライブのMCを見て、よく笑っています」という話をお聞きすることもあります。そんな姿を見ていると、「わたしも負けちゃいけない」と元気が出てきます。

■患者の不安を解きほぐす「家族みたいな存在」でいてほしい

―入院されていた増田さんにとって、病院のイメージは。
不思議なんですけど、わたしにとって病院って、「もう一つの落ち着く家」みたいな場所です。小さいころ、母に「病院、落ち着くわー」って言ったら、頭ひっぱたかれましたけど(笑)。
何でかなって考えてみると、入院していた時の先生が、すごくわたしのことをかわいがってくれたんです。今でもよく覚えています。ぬくもりがある親みたいな感じで、人としてすごく頼りがいのある女性のお医者さんでした。「もしかしたら、先生とたくさん話したから、がんが治ったんじゃないか」と錯覚するくらいに。本当によくしてもらいました。

患者さんって、先生と笑顔であいさつしたり、何気ない会話をしたりするだけで、安心できると思うんですよ。でも、患者から先生にはなかなか話し掛けづらい。だから、例えば、先生の方から「忙しくてあの患者さんに『おはよう』って言えないけど、きょうはあいさつしてみよう」とか、ちょっとした心掛けや工夫があればいいなあって思うんです。
そういう先生や看護師さんに恵まれれば、患者さんはすごく心強く感じて、病気とも闘いやすくなるはずです。だから、病院で働いていらっしゃる方には、笑顔を絶やさず、何でも話せる「家族みたいな存在」でいてほしいと思いますね。

―最後に、いろいろな病気に苦しむ患者さんへのメッセージをお願いします。
病気だからといって、マイナスの方に、マイナスの方に考えてしまうと、どこまででも落ち込んでしまいます。「わたしは病気だから何もできないんだ」というように。わたしもそう思う時がありました。でも、逆に笑顔で楽しいことを考えれば、毎日が楽しくなると思うんです。例えば、病室の中であっても絵を描き始めるとか。何か一歩でも踏み出してみれば、新しい自分を発見できたり、夢をかなえるきっかけになったりすると思うんです。だから、未来を見詰めて、ぜひいろんなことに挑戦してほしいなって感じます。

増田有華さん(ますだ・ゆか)
1991年8月3日生まれ。大阪府出身。2006年2月、AKB48第2期オーディションに合格。4月、チームKの一人として劇場公演デビュー。現在はチームBメンバー。ダンス&ボーカルユニット「DiVA」としても活動中。最新情報はブログ「」で。

主な出演作品
映画:「ウルトラマンサーガ」(チームUノンコ役)12年3月24日公開
ドラマ:NHK「野田ともうします。シーズン2」(富沢さん役)
ラジオ:文化放送「ViVADiVA!」レギュラー出演

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