メルトダウンを防げなかった本当の理由
──福島第一原子力発電所事故の核心
しかし、その時点でも、2号機はまだ「制御可能」の状態にあった。にもかかわらず、東電の経営者は2号機に「海水注入」するとの意思決定をしなかった。翌々日の14日月曜日13時22分、2号機の「隔離時冷却系」(RCIC)が機能を停止する。そして、当然のごとく2号機は17時ころ「制御不能」の次元に陥って空焚きになった。それでも「海水注入」はされない。2号機に「海水注入」がなされたのは、19時54分のことだった。
謎解きの発端
原発事故が起きてから、マスメディアは一貫して、原子力という技術そのものを非難した。
「原子力で出てくる放射性廃棄物が放射能を失うのは数万年かかる。自分で出した排泄物を処理できない技術は実用に供するべきではない」
「地震大国の日本に54基もの原子炉をつくったのがまちがいだ」
「平安時代前期(869年)に貞観地震と呼ばれる大地震が来て、今回とほぼ同じ規模の津波が同じ場所を襲ったのだから、想定外ではなかったはずだ」
どれもその通りである。ただ、その正論の陰に何か重大なことがかくれていた。
なぜ、かくれおおせたか。
これらの報道の根底には一貫して暗黙の前提があったからであろう。それは「津波の到来で全交流電源が喪失して、ただちに3機の原子炉は『制御不能』になった」という前提である。
しかし、この前提が本当に正しいという証明は、いまだにされていない。あくまで「仮説」なのである。さらに東電は、さまざまな場面で「津波は想定外だった」と繰り返した。しかし、原子炉の設計エンジニアにとってもそれは「想定外」のことだったかどうか、そこは疑問だ。
筆者は、多くのエンジニアの方と接し、本来、彼らは「想定外」を嫌う人々なのではないかとの思いを抱き続けてきた。「原子炉は絶対に安全だから、その安全を疑ってはならない」という会社の方針自体は「非科学的」である。そうであれば、あればこそ「想定外」のことが起きてもきちんと作動する「最後の砦」を設けなければならない。エンジニアであれば、そう考えるのが当然なのではないかと考えたのである。
「最後の砦」は存在した
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- 1109
- 的確な判断力と決断力は学識だけでは培われず、その判断が公正か否かを決定する自立した人でないと無理ということでは。
- 投稿者
- aka21
- 絶対に落ちない飛行機はないし、絶対に沈まない船はない。なのに日本人は絶対という言葉を使いたがる。そしてもしもの際の保険を軽視、あるいは無視する。それが弱みを見せないビジネス上の絶対条件だと信じているから。
- 投稿者
- 蒼猿
- 私は、「根源が、東電が「イノベーションの要らない会社」だから」とは思いません。
根源は、経営層、関連委員会のメンバーらが「鍛錬不足だから」だと思います。
バブル期との関連で度々悪く言われるのはバブル入社組ですが、重大な問題があるのはバブル期にセクションリーダーだった層です。
彼らは、厳しい局面と向かい合わない、あるいは、他の誰かか何かのせいにする、こういった特徴を持ちます。
(子供の頃の育ち方も関係しているでしょう)
現在は、この世代が経営層や関連委員会のメンバーなのですから、意志決定に問題があるのが当たり前です。
根源は、東京電力のビジネス環境とは関係のない、あるいは関係の少ないところにあります。
独占企業の経営批判は書けるけど・・・ということなら、マスコミと五十歩百歩ですね。
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- ニックネーム
- 3月11日16時36分の時点で、「原子力災害対策特別措置法第15条」におけるの「原子力緊急事態宣言」が発令
これによって、原発における全権限が「東京電力」から「政府」に移ったはずなのに「技術経営の問題」なのでしょうか?
「原子力災害対策本部」指示を「東京電力」が無視した、ゴネたなら、法律違反?強制力が無い法律?
IAEAが指摘した指示・命令系統の不明確を無視した記事だと思います
- 投稿者
- 一東電契約者
- 6回(夜2回)の計画停電の補償が400円弱でした。地震の揺れで壊れて水が抜けていたのは明白なようです。多分、壊れている所に圧力を掛けて注水するのが怖かったのでしょう。科学的に考えれば「絶対に安全」とは本当に馬鹿げたことですが、そんな議論の仕方しかできない日本人が多いことは「年金」や「国の債務」でも明らかです。
- 投稿者
- 愚痩子
- やはり、技術の問題でも現場の能力の問題でも無く、経営の問題なのですね。やっと納得の行く解説に出会えました。それにしてもメディア、報道機関の不勉強、無定見、無節操には腹が立ちます。
- 投稿者
- ニックネーム
- 菅前総理の海水注入の指示を東電トップが拒んだことがこれだけの被害を起こしたということ。菅さんの危機管理能力は優れていたということだ。
- 投稿者
- yu2rou
- 災害時の対応マニュアルを無視して本番時にはしゃぐトップ。マニュアルは原子力災害対策特別措置法、トップは・・・・・・東電の人で無いのは確かですね、当日の第15条通報以降は。第一責任者への言及が無いのは片手落ちでは無いかと思います。
- 投稿者
- あけがらす
- チェルノブリやスリーマイルの知見も含めて事故のイベントとアクションについての研究・検証を徹底的に行って世界に公表すべきだ。事実・情報誤認や判断ミスのオポチュニティをいかに回避できるかは原発を有する国にとって大きな助言となる。このままでは、第二次世界大戦同様のズルズル・ベッタリになってしまう。
- 投稿者
- keith922
- 12月16日毎日新聞(名古屋版)朝刊一面の福島原発に関する委員会報告と今回の山口先生のこれまでの論評とに整合性が無いように感じます。再度、今回の論評の冒頭にあるような以前のような不可解なことを当局サイドがぬかしているのでしょうか?経営責任逃れのアリバイ工作のために。本件に言及頂ければ幸いです。
- 投稿者
- Shadow
- この事件の当事者として東電に大きな責任がある事は否定しない。しかしここまで原子力が無謀な開発を続けてきた過程があるはずであり、それを放置してきた政治家、無能な政治家を放置し続けてきたマスメディア、マスメディアのごまかしを鵜呑みにし続けた国民にも責任がある。
そういったことを考えるなら、地震・津波が起こりうる日本では、原子力に触れてはいけない“国家・地域”なのではないだろうか。膨大なエネルギーが容易に手に入るという幻想は消えた。国民一人一人が脱原子力、次世代エネルギーについて真剣に考えなければならない時が来たと思う。
- 投稿者
- kkk
- 後付の原因調査は簡単ですね。でも、そのときはどうだったのかを考えないと。報道にもちらりと出ていましたが、バルブが開けられなかったから水を入れられなかったのでは?空気駆動のバルブで、空気圧が無くなったときに閉まるタイプのバルブのように読めました。であれば、制御電源と空気圧が無ければ開けられませんね。手動で開けられるけど、現場に行かなければならないし。決死隊のようなものを結成して開けに行ったと思いますよ。プラント屋の立場から申し上げました。
- 投稿者
- ニックネーム
- 何処に居ても原発と連絡を取れるようにしておかなかったのも「経営者の責任」ですが、その経営者が出先から急遽自衛隊機で戻ろうとしたのをストップさせたのは政治家ですよね。状況が掴めなければ指示は出せませんし、そんな状態では指示も伝えられません。
社長の行動と海水注入との関係も知りたいところです。
- 投稿者
- 中身が分からないのに「制御可能」はあり得ないのでは
- 津波襲来後に福島第一原発の1〜4号機のオペレーションルームは停電し、炉内の状況はほとんどわかっていなかったはずです。
制御工学の立場としては、操作対象の状態がセンシングできない状態は「安定」ということはできても「制御可能」というには程遠いと思われます。
- 投稿者
- 菅生
- 自分の想像通りの見解でやはりなぁという感想です。ただ菅総理が正しい指摘をしていたのに無視され続けた事実があったことは驚きました。退職金問題やボーナスの支給など一般人の感覚とはかけ離れた対応をしてきた東電であれば納得の対応でしょう。これからも東電は被害者であると言い続けると思います。
- 投稿者
- kazu
- 稼働中の原子炉を止めるにはホウ酸水の注入が効果的なはず。報道では事故直後にアメリカは日本に何らかの薬剤を提供してくれたとあったが、ホウ酸ではないか?
ホウ素同位体は核吸収断面積が大きく、効果的に中性子を吸収し、核分裂を抑制できる。制御棒を差し込んだのと同じ状況を作れたのではないか。