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次元管理人フォスター・シリーズ

ファンタジック・ロマンス

作:七斬

※「フォスター」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www.geocities.co.jp/Playtown/7073/Novels-04-Foster-FormalSetup.htm
 これまでの作品はこちらです。

http://ts.novels.jp/novel/corrector/title.htm


 私は次元管理人フォスターだ。
 時空に暗躍する犯罪者を追って、今日も過去に未来に飛び回っている。
 タイム・パラドックスを引き起こす犯罪者は許せない!
 私はタイム・パトロールとして少々の「修正」を権限で認められている。その時代、位置に相応しくない出来事にはその権限を行使する場合もあり得る。
 私のモットーは「細かいことは気にするな」だ!
 さて、今回の仕事は…



 姫は星を見上げていた。
 朝になれば意に添わぬ相手との婚礼が待っている。
 小さいが由緒ある国で王の娘として生まれ、大切に育てられてきた自分も、今は政治と謀略のための単なる道具に過ぎない。
 これからはこの城の主…家柄と血筋が目当てなだけの腹黒い男を夫として、一生を送らなくてはならないのだ。
「いっそのこと、このまま夜が明けなければいいのに。」
 姫は空しく溜息をついた。
 そういえば、あの方はどうしているだろう。
 姫はある一人の青年のことを思い出していた。
 彼は隣国の王子だった。
 舞踏会で知り合って以来、彼は近侍の者たちの目を盗んで度々会いに来てくれた。
 彼が時々密かに贈ってくれた小物の数々、彼が話してくれた遠い国での旅の冒険談などが、一つ一つ鮮明に思い出される。
 この十数年の人生の中で、彼と会う時間だけが、自分が自分として最も輝けた時かもしれなかった。
 姫は目を閉じて願った。
「どうか、星たちよ。自分自身の想いすら自由にできぬ私をあわれと思って聞いてください。私の願いを聞いてください。もう一度、一目だけでいいのです。あの方に会わせてください。」
 空高く輝く星たちも、不幸な姫を哀れに思ったのであろうか、程なくその願いは叶えられた。
 扉の向こう側がいきなり騒がしくなった。
 何者かを誰何する衛兵達のどなり声。何者かが走り回る物音。
 部屋の真ん中で不安におののく姫を余所に、その騒ぎは始まったのと同様に、だしぬけに終わった。
 そして、次の瞬間扉の向こう側から聞こえてきたのは、彼女の待ち望んだ声だった。
「姫! そこにおいでですか? お助けに参りました!」
「王子様!」
 姫はあわてて扉へと駆け寄った。
 厳重に鍵をかけられ、閉ざされていた扉が体当たりで吹き飛び、王子が姿を現す。
 あちこちに刀傷を負ったその姿は、衛兵達との戦いの激しさを物語っていた。
「こんな私のために、よくぞここまで。」
 姫の言葉に、王子の凛とした声が答える。
「あなたをここから連れ出すためならば、私は喜んで命を捨てよう。」
「ああ、王子様、命を捨てるなどと、恐ろしいことを言わないで。」
 王子はたくましい腕で、姫を優しく抱きしめる。
「王子様。あなた様のこの手に抱かれる日を毎晩夢に見ておりました。」
「私もだ。姫。さあ、あなたにはこの牢獄のような城は似合わない。ともに我が国へ参りましょう。」
 王子は姫の目をまっすぐ見据えてにっこりと笑った。
「いっしょに来てくださいますね。姫。」
 姫は小さくうなずいた。
 並み居る衛兵達を打ち倒しながら、王子は姫を城の出口へといざなった。
 姫への愛の深さゆえか、王子の剣は超人的な技と力で振るわれ、城門への道を切り開いて行く。
 城門へとたどりつき、姫の身体を愛馬へと押し上げたとき、新たな衛兵の一団が追いすがってきた。
「姫、ここは私が食い止めます。先に行ってください。」
 言うが早いか、愛馬の尻を叩く。馬は一声大きくいななくと、全力で走り始めた。
 一人残った王子は、刃こぼれだらけの剣を構えて不敵に笑った。
「幾千幾万の敵が立ちはだかろうとも、私の愛を止めることはできない。私を恐れぬ者、命いらぬ者はかかってこい!」
 衛兵達が王子を取り囲み、一斉に襲い掛かる。
 もともと多勢に無勢である上、王子の疲労も激しい。王子が衛兵一人を倒す毎に、王子の身体にも刀傷がひとつ、またひとつと刻まれてゆく。
「私は負けない! 愛しの姫とともに未来を刻むため、私は戦うのだから!」
 気合とともに最後の衛兵を倒すと、王子は石畳の上にへたりこんで大きく息をついた。
 だが、束の間の休息を取る間もなく、王子は顔を引き締めた。
 静寂の中、何者かの靴音が響く。だんだんと近づいてくる。
 王子は疲労に震える体に鞭打って身を起こした。
 衛兵の生き残りか? もはや疲れ果てた自分はまともには戦えまい。万事休すか。
 その足音の主はゆっくりと近寄ってきて、王子の正面で足をとめた。
 王子はそいつが衛兵の制服ではなく、体にぴったりとした見たことも無い銀色の衣装に身を包んでいるのに気がついた。
「おう。私はフォスターだ。」
 そいつは血まみれで倒れている衛兵を気にもせず、気楽な口調で話し掛けてきた。
「ちょいと尋ねるが、囚われのお姫様がいるのはこの城かな?」
 その口調から、相手は衛兵ではなかろうとあたりをつけた王子は、一応警戒しながら答える。
「ふっ。あいにくだが、姫はすでにこの城にはおらぬ。私が先程救い出し…」
「なんだって?」
 フォスターと名乗ったその男は大声で王子の言葉を遮ると、慌てた様子でポケットからメモを取り出してペラペラとめくった。
「まさかお姫様がいないとは…。私のメモと違う事実か。まずいなあ。今夜は隣の国の王子がその姫を取り戻しにくるはずなんだが。」
「いや、だから、私がその王子で…。」
 フォスターは王子を無視して言い放つ。
「何も言うな。やるべきことは全て分かっている。正しい歴史は守られなくてはならない。従って、修正させてもらう。」
 フォスターは腰から怪しげな銃を取り出すと王子に向かって引き金をひいた。
「まずはその傷を消しておかないとな。」
 ビビビと放たれる怪光線が王子に命中する。
 王子は一瞬ショックを感じて眉をしかめたが、体のあちこちに負ったはずの刀傷が跡形も無く消えているのに気付いて感嘆の溜息をついた。
「こ、これは? まるで奇跡だ。あなたはまさか、神の使いなのか?」
「いや、私はフォスターだ。続けていくぞ。」
 光線がビビビと放たれる。
 そのとたん、王子の鍛え上げられた手足はほっそりと華奢になり、胸と腰はふっくらと柔らかく大きくなる。短く切り揃えられたこげ茶色の髪は、つやのあるブロンドに変化し、長く伸びて丁寧に結い上げられる。
「次は服だな」
 連続して光線がビビビと放たれる。
 王子の胴着とマントが、貴婦人が着るようなロングドレスへと変化する。あれよあれよという間に、王子は姫そっくりの姿へと変化してしまった。
「こ、これは! どうして私が女に? お前はさては、悪魔か妖怪か!」
「だから、私はフォスターだって。…その言葉遣いと性格もどうにかせんとな。」
 またしてもビビビと放たれた光線が王子へ命中する。
「あっ…こ、これは、一体どうなってしまったのかしら。」
 光線を浴びたとたん、それまで持っていた豪胆さは影を潜め、性格も物腰も完全に姫となった王子は自らの不幸な境遇に小さくふるえおののきはじめる。
「心配するな。俺も鬼じゃない。あんたの男としての知識や記憶はそのまま残しといてやるから大丈夫だ。それじゃ、最後の仕上げだ。」
 フォスターは周囲一帯に光線を浴びせる。すると、倒れていた衛兵がバネ仕掛けのように跳ね起き、フィルムの逆回しのように、後ろ向きにもとの持ち場へと戻って行く。
「さあ、あんたもだ。」
 元王子にも同じように光線を浴びせる。彼女も後ろ向きに、自ら監禁されるべく城内に戻って行った。

 姫(元王子)は星を見上げていた。
 本物の姫は無事に逃げられただろうか。
 姫(元王子)は目を閉じて願った。
「どうか、星たちよ。自分自身の想いすら自由にできぬ私をあわれと思って聞いてください。私の願いを聞いてください。もう一度、一目だけでいいのです。あの方に会わせてください。」
 空高く輝く星たちも、不幸な姫(元王子)を哀れに思ったのであろうか。
 扉の向こう側がいきなり騒がしくなった。
 何者かを誰何する衛兵達のどなり声。何者かが走り回る物音。
 そして、次の瞬間扉の向こう側から聞こえてきたのは、彼女にとってなつかしい声だった。
「ヒメ。そこにおいでですカ。お助けに参りましタ。」
 姫(元王子)に向かって台本を棒読みするような口調でそう言ったのは、王子の元の姿にそっくりな男だった。



 いくら待っても王子がなかなか現れないんで、馬に乗って近くをさ迷っていた貴婦人にご協力願ったんだが、いや、丁度いいところにいてくれて助かった。
 歴史を守るため、私は今日も戦いつづけるのだ!




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