ミーアキャットの研究
ミーアキャットmeerkatはネコではありません。食肉類マングースの仲間です。彼らは2頭から40
頭ほどの群れを形成します。そのなかでは、一組の優位 オスと優位メスのみが繁殖活動を行い、その娘や息子は劣位個体となります。劣位
個体は、優位個体の子ども(つまり、劣位個体からみると弟や妹にあたる)に餌を運ぶ、子守をする、授乳するなど、子育てを自発的に手伝う「ヘルパー」となり、基本的に繁殖はしません。したがって、彼らの群れは基本的に血縁個体からなる家族集団です。
意外に知られていないが、砂漠の朝はすごくさむい
巣穴から出てきたら、体を温める必要がある
親以外の個体が子の世話をするような繁殖システムは協同繁殖cooperative breedingと呼ばれており、多くの鳥や哺乳類でみられます。過去の協同繁殖に関する研究は、なぜ、劣位 個体は自ら繁殖をせず、他個体の子を育てるのか、という疑問に集中してきました。しかし、協同繁殖社会の中で、個体間レベルでどのような社会交渉が行われているのか、どのような社会関係が形成されているのか、に関しては、ほとんど研究がされてきませんでした。
生後二週間の子ども
初めて巣穴から外にでてきた
2003年、南アフリカにおいて、4ヶ月間のフィールワーク・行動観察を行いました(ひたすら暑かった!!)。イギリス・ケンブリッジ大学のティム・クラットンブロック教授が率いる研究チームとの共同研究です。僕の研究テーマは以下の三点です。
宥め行動 appeasement
劣位個体は、妊娠後期から出産までの期間、優位メスにたいして頻繁に服従行動(お辞儀、ハイピッチな音声、毛づくろい)をするようになります。このような行動は年長のメスにおいて顕著です。また、同時に、妊娠後期に優位
メスは劣位メスを攻撃し、次々と群れから追い出してしまいます。これらの交渉は繁殖をめぐる葛藤を反映したものであると考えられていますが、詳細はわかっていません。
社会的毛づくろい行動 allo-grooming
社会的毛づくろい行動には寄生虫を取り除く衛生的な機能がありますが、そのほかにも、個体間の絆を深めるなどの社会的な機能が存在すると考えられています。毛づくろいは互恵的に行われることもあり、またある個体が他個体間の毛づくろいを邪魔したりすることもあります。これらの行動の観察から、毛づくろいが彼らの社会の中でどのような働きをしているか、を調べました。
ミーアキャットの毛づくろいは口でムシャムシャとやる
手前の個体は毛づくろいをさぼっている
攻撃行動、攻撃後の行動 aggression and post-conflict
behaviour
攻撃行動は時間やエネルギーのロスなどのほかに、個体間の社会関係が損傷される、というコストが存在します。霊長類や一部の哺乳類では攻撃後に当事者個体間が「仲直り」をすることがあります。しかし、観察した結果 、ミーアキャットは仲直り行動をしませんでした。では、どうやって彼らは攻撃のコストに対処しているのでしょうか?ミーアキャットにおける攻撃行動の効果
や、葛藤解決(がもしあるとしたら)の仕組みを研究できれば、と思っています。
高いところに登ってあたりを警戒する
猛禽などの捕食者に食べられる危険性はかなり高い
霊長類を見慣れた身としては、一見、ミーアキャットの行動は非常に単純に見えます。しかし、目が慣れてくると、彼らの社会がいかに多様な要因が絡まり合って形成されているか、が理解できるようになり、「社会の複雑性」が霊長類とはまったく異なった方向を向いていることがわかるようになりました。そういう成果
を、きちんとした論文やその他のかたちで報告できれば、と思っています(とりあえず、いまのところは遺伝に書かせてもらった紹介文のみです)。
それにしても、なんかページ構成がうまくいかないなぁ。。。