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内田麻理香プロフィール
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ダシの科学-グルタミン酸etc...-

料理の基本と言われるダシ。市販のものも数多く出回っていますが、やはり自分できちんととったダシで作った料理の味は格別ですよね。ダシが美味しいと、調味料も少なくてもOKですし。今回は、ダシを効果的に使うために、その科学についてお勉強してみましょう。

「旨味」の発見者は日本人

湯豆腐の おいしさに関心を持った旧東京帝大教授、池田菊苗博士は、夫人が買ってきた1束の だしこんぶから「うま味」を抽出する研究にとりかかり、こんぶのうま味 成分がグルタミン酸であることを発見します(1908年)。 そして、池田博士は、このグルタミン酸の 独特の味を「うま味」と名づけたのです。

旨味は味と認められない?

これまで、味覚は「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」の4種が基本だということが国際的にも長い間定説となっていました。ここで池田博士は「旨味」を基本味として提唱したのです。そして、味覚を研究してきた日本人の化学者は長い間「旨味」を加えた5つの味を提唱してきたのですが、欧米の人々にはなかなか受け入れてもらえなかったのです。
しかし、ようやく1980年代になって味覚に関する生理学や心理学の進歩とともに、 従来の4基本味説では味覚を論ずることが不可能なことに気づき、旨味が基本味として認定されることになりました。かなり最近の話です。そして、この味覚は「UMAMI」として学術用語にまで出世することになったのです。
旨味の発見は、繊細な味を大事にする日本人ならではと言えるかもしれません。

ダシ汁いろいろ

さて、ダシ汁とは、お湯などを用いて旨味成分を抽出したものです。西洋料理では、スープストック(英)、ブイヨン(仏)と呼び、中華料理では湯(タン)と呼ばれています。西洋・中華料理では鶏肉や香味野菜を入れて長時間煮込むタイプのものです。一方、ポピュラーな日本料理のダシはかつお節や昆布等の材料を短時間で煮て引き上げてしまうのが特徴です。それぞれのダシのとり方はこちらのサイトに詳しい説明があるので参考にして下さい。

旨味成分とは?

旨味を感じる化学物質にはどんなものがあるのでしょうか?一番有名なのが、旨味調味料の成分でもあるグルタミン酸。これは、上でも書いたように昆布から最初に発見された成分です。他にはかつお節の旨味であるイノシン酸。そして、干しいたけの旨味であるグアニル酸。そして、その化学物質の構造によってこれらは2種類に分類されます。グルタミン酸アミノ酸系の物質。アミノ酸とは、身体に必須の構成要素であるタンパク質を作る物質です。そして、イノシン酸グアニル酸核酸系の物質。核酸とは遺伝情報を記録するDNAになります。
下の表に、それぞれの旨味成分が含まれる量が多い食品を示しておきます。
アミノ酸系
核酸系
グルタミン酸
イノシン酸
グアニル酸
こんぶ
煮干し
干しいたけ
チーズ
かつお節
松茸
しょうゆ・味噌
畜肉類
えのき茸
トマト
魚肉類
白菜
イカ・タコ

 

相乗効果

一番ダシをとるときに、なんでかつお節と昆布の両方を使うんだろう?と思ったことはありませんか?それは、旨味成分の「相乗効果」をうまく利用するためなのです。
上でいうアミノ酸系の旨味と、核酸系の旨味を混合すると、舌で旨味を感じる感度が単独の場合に比べて数十倍にも跳ね上がるのです。ですから、グルタミン酸を含む昆布とイノシン酸を含むかつお節の両方でダシをとることは、ちゃんと理にかなっているのです。
他の料理でも、この相乗効果がうまく利用されています。例えば、イタリア料理のトマト(グルタミン酸)と魚介類(イノシン酸)。中華料理の白菜・長ねぎ(グルタミン酸)と鶏ガラ(イノシン酸)。自分で料理を作るときも、上の表のアミノ酸系核酸系を組み合わせることを意識しておけば、「なんか物足りない」味を防ぐことができるかもしれません。

旨味はどうして美味しいの?

なぜ旨味を美味しいと感じるのでしょうか?北海道大の柏柳誠助教授の説によると、生きるために必要な物質は、体が喜んで食べるよう味覚が進化したからだということです。上でもご説明した通り、アミノ酸は身体に必須のタンパク質を作る物質であり、核酸はDNAとなる物質で、どちらも生物には欠かせません。
ちなみに、他の味覚についても同じとのこと。甘味は、大切なエネルギーの源となる糖分なので好まれます。塩味は、たんぱく質の働きの調節などに不可欠なミネラル成分であるのでこれも高感度の高い味です。
反対に、酸味は腐敗物が持つ特徴で、苦味は毒物であることを知らせる信号です。だから一般的には嫌われるのです。
当然ですが例外もあります。酢も適量ならば身体に良いと言われますし、砂糖や塩も度を越せば身体に毒になります。

人間の母乳中には閾値(旨味を感じるギリギリの量)の2倍のグルタミン酸が含まれているとか。そして、糖分も含まれています。赤ちゃんが最初に口にするものは人体に必須で、しかも好まれるもので構成されているのですね。そして、苦い野菜が嫌いな子供が多いのは当然の話なのかもしれません。だから世の中の親は子供を野菜好きにするために悪戦苦闘する羽目に〜。

参考文献 「味つけサシスセソの科学」別冊宝島編集部
「基本の台所」 浅田峰子著
参考サイト 日本うま味調味料協会
読売新聞 か・ら・だ/け・あ
All About 料理のABC

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