福山市の景勝地・鞆の浦の埋め立て架橋計画を巡り、推進・反対双方が意見を出し合う住民協議会が、年明けに大詰めを迎える。
鞆の浦の美しさは万葉集にも詠まれ、人気アニメ映画「崖の上のポニョ」の舞台ともいわれ多くの観光客が訪れる。一方、町中の道路は狭く渋滞が頻発、下水道整備が進まないなど住民は不便を強いられている。このため県はバイパス道路として湾の埋め立て架橋を計画したが、09年10月の広島地裁判決は、反対派住民の訴えを全面的に認め、県の埋め立て免許差し止めを命じた。
住民協議会は、判決直後に就任した湯崎英彦知事の意向で始まり、これまで18回開催。今年10、11月の協議会で県は、埋め立て架橋▽海中沈埋トンネル▽山側トンネル3ルート--の計5案を提示した。協議会仲介役の弁護士は「協議は一定の到達点に達した」として、来月9日、地元住民への説明会を開催、その後の協議会で最終的な意見をとりまとめるという。湯崎知事は「来年にはある程度、結論が見えるようにしたい」と、遠くない時期に最終判断を下す意向を示している。
ただ、いずれの案も過去に検討された経緯があり、県が提示した5案は推進・反対双方に、これまでの協議会がむなしいものと感じさせているのも事実。当初、約1年の目標だった協議会が1年半以上にも及び、反対派の松居秀子・訴訟原告団事務局長は「住民を翻弄しないでほしい。もう鞆全体が疲れ切っている」。推進派の大浜憲司・鞆町内会連絡協議会長は「住民を見ていない県に腹が立つ。このままでは禍根は深くなるばかり」と話す。住民の生活を改善する事の早期の判断が待たれる。【高山梓】
毎日新聞 2011年12月30日 地方版