ほとんどエロありません。
次はエロ特化したい。

【13.ツレノナ(?)】



ザッ ザッ ザッ…

空は曇っており雪がしんしんと降る中、私達2人は防寒具に身を包み、山道を歩いている。

ここを通るのも6年ぶりか。

「そろそろ着きますね。
 誰か泊めてくれる人がいればいいのですけど…」
「きっと優しい人がいますよ。」

そして私達は、山の中腹にある山影村という村に着いた。
辺りは雪が降り積もり、外に出ている人間はいない。
少ししかいなかったが、この村は昔来た事がある。
まだ日は沈んでないが、私達はこの村に泊まろうと考えた。

ドンドンッ

「ごめんくださーい。」

……ガララ…

「…旅の…方?何かご入用でも?」

家から出てきたのは、30代くらいの和服を着た長髪の女性で、
一緒に6〜7才ぐらいの女の子がその女性の足元にくっ付いてる。

「はい。実は私達を泊めてもらえないか、
お願いしに寄らせていただいたのですけど…」
「…そうですか。
今は夫がいないので、こんな所で良ければ泊まって行って下さい。」
「ありがとうございます。」

まさかすんなり泊まれせてくれるとは思ってなかったが、
その女性のご好意に甘え、中に入れてもらう。
私達が囲炉裏で暖をとっていると、女の子が私の連れに質問してきた。

「お姉ちゃん達は何処から来たの?」
「東の山に囲まれてる水影村からだよー。」
「ふーん…、何で旅をしてるの?」
「ごめんね、それは誰にも言えないんだー。」
「えー、何で〜?」
「もし話しちゃうと、私がある人に怒られちゃうからかな。」
「そうなんだー。じゃあさじゃあさ…」

女の子は連れに任せてればいいですね。

その後、私達は雑炊をご馳走になり、2人の素性を聞いたりした。
女性の名前は、柚子さんという方で、女の子は蜜柑ちゃんだと言う。
旦那さんと3人で暮らしてるらしく、今その旦那さんが出稼ぎに出ているらしい。話をしているうちに夜も深けてきたので、私達は布団をお借りし床に就いた。そして囲炉裏の火は消され真っ暗になり、家の中はヒューっという風が通る音だけとなる。
それから暫くして…

ザザッ ザッ ザッ…

まだ寝ていなかった私は、その音のする方向に気をやる。
その音は外からするもので、何人かの人が歩いている音のように聞こえた。だがすぐに音は止み、さっきの風の音だけになる。
また暫くすると、今度はモゾモゾと近くから音が聞こえてくる。
それは柚子さんが寝ている方からだった。

バサッ ギィ…ギィ…

柚子さんが歩く音がする。
辺りは真っ暗だが、その歩く音が私に近づいてくるのが分かった。
そして私が寝ている布団の前で音は止まり…

ズシッ

「っ…!?」

私の下半身の上に、柚子さんであろう人が乗ってきたのだ。

ズシシッ

今度は、上半身にも重みが来て起き上がる事ができない!
しかしは手だけは動かせた。

フー…

私の顔に冷たい息遣いを感じたので、すでに右手に持っていた刀を布団から出して、

バッ

左手で柚子さんであろう胸を押え、右手に持っている小刀を、柚子さんの首に当たる寸前で止める。
「それ以上近づかないで下さい…」
「……ウフフ…」

バシッ ヒュッ

首を掴んでいた手を柚子さんに払われ、体に乗っていた重みが消えた。
私はすぐに布団から飛び起き、小刀を構える。

やはりもう…

「睦月、起きて下さい!」

私は連れの名を叫んだ。


睦月の声がする。    睦月の声はしなかった。
    ↓   
  

【14.シンジルシカ(双葉)】


「寝てませんよ。
 お師匠様は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。やはりここも妖怪に…」

「…ここの人達、上手く妖気を隠してたみたいですね。
 とりあえず真っ暗のままじゃ何も見えないんで、灯りをつけます。」

ボゥッ

その言葉の後、すぐに睦月の方から1つの灯りが灯った。
それは睦月が持っている刀に青い炎が纏っており、家中を青い輝きで照らした。

「あ、蜜柑ちゃん動かない方がいいよ。
 まだ妖怪として生きていたいんだったらね。」

「お母さん…」

「蜜柑っ!!」

睦月が蜜柑ちゃんであった妖怪の少女に、刀をちらつかせている。
柚子さんも蜜柑ちゃんもさっきまでは人間の姿であったが、
今は青と白の和服を着た、寒色肌の雪女の姿になっていた。

「ぐっ…、お前達、何者なんだ?」
「うーん、敢えて言うならあなた達を救う者?」
「睦月、おしゃべりが過ぎます。早くその子を浄化してあげなさい。」
「はーい。蜜柑ちゃん、ちょっと苦しいけど我慢してね。」

ドスッ

「あっ…あああ……」

睦月は躊躇せず、刀を蜜柑の胸に差した。
そして青い炎が蜜柑の体に移り、全身を青い炎に覆われていく。
「あぁ…あぁああああああっ…!!」
「いやあぁあああっ!!!蜜柑っ!!」

バタンッ

とうとう蜜柑は倒れ、体は青い炎で燃え続けていた。
「よ、よくも娘をっ!!」
「柚子さん、落ち着いてください。蜜柑ちゃんは…」
「五月蝿いっ!!お前達、絶対に殺してやるっ!」
「……、仕方ないですね…」
私は足枷と書かれた霊符を胸から出し、柚子さんの体に投げつけた。

ピタッ

「な、何?足が…!?」
「それは足枷の霊符です。暫くは動けないでしょう。
 それでは睦月、後はお願いします。」
「柚子さん、覚悟はいいですか?」
睦月は刀を構え、柚子にゆっくりと歩いて近づいていく。
「きゃああああああっ!!!」

ドスッ

「あうっ…」
睦月が持っていた刀が、柚子の胸に勢いよく刺さる。
「ぐあぁ…あぁああああああああああっ…!!」
蜜柑と同じように柚子の体も燃え上がり、そのまま床に倒れこんだ。

ガタンッ

突然、入り口の方から大きな音がした。
私はすぐに目をやると、入り口の戸を開いており、
そこには青肌の女達が5人、いや10?ぐらいの数の雪女が立っている。
村中の女達がここに集まっているのだろうと私は思った。

「たった2人の人間も仲間に出来ないのですか…」

雪女達がいる奥の方から、女性の声がする。
「お前達、あの2人を殺しなさい。」
「「分かりました…」」
後ろにいる女の声の合図と共に、前にいた何人かの雪女が私と睦月に向かってくる。雪女達は、右手や左手を各々違う形状の氷の刃に変え、私達に襲い掛かってきた。

この場で戦うしかなさそうね…
外に出たら囲まれ数に負けてしまうし、でも業火の霊符は家の中じゃ使えないし…足枷と体術で何とか対応して…
「うぁあああああああっ…!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアッ…!」
「がぁああああああああああああっ…!」

「…!?」

それは一瞬であった。

睦月がいつの間にか3人の雪女の後ろにいて、
バタバタバタ…
3人の雪女の体は青い炎に燃えながら倒れた。

「あっけないなー、次は…誰?」

これをやったのは睦月だ。
今や私より降魔師としての力を持ってしまった睦月。
私が魔を使った時と互角の力を持ち、もはや私の手に負えなくなってしまった…

「睦月、力を試したい気持ちは分かります。
 なら、ここの村人を全員救ってみなさい。」

睦月はニヤリと笑い、

「もちろんそのつもりです♪」

その後は、まるで蟻達と象の戦いだった。
睦月はわざわざ外に出て、残った雪女達を斬っていき、最後に指示を出していた雪女だけが残った。その雪女は、妖気の大きさが今までの雪女達と違い、この村を牛耳っていた親玉のようだが、

「貴様は…一体…!?
 まさか、生き残りの降魔師が…?」

「……、当たり♪」

ドスッ

「ぎゃあっ!…あぁあああああああああああっ!!!」

しかし、睦月の相手にはならず、青い炎に巻かれていった。

「これで全員かな?」
私は睦月に近寄り、すぐに抱き寄せた。
「よくやりました睦月。初の実戦どうでしたか?」
「うーん、蜜柑ちゃんまで妖怪になってたのはちょっとびっくりしました。
 戦いはお師匠様と戦ってた方がよっぽど怖いです♪」
「うふふ…、そうですか…♪」

それから私達は、黒焦げの元人間であった村人達を、1番大きな家に運んだ。そして、夜通しその人達を見守り続ける。
空はだんだんと明るくなり、蜜柑ちゃんの体に変化があった。

パリパリ…

最初に斬られた蜜柑ちゃんの体が少し動き、
黒焦げの肌はペリペリと落ちていき、中から人間の肌色が覗いている。
睦月は、彼女らを殺したわけじゃない。
睦月の浄化の炎は、妖怪の魂だけを斬り人間に戻すといったもので、睦月だけが使える技である。
もちろん私も同じ修行をしたが、私の刀には青い炎は灯らなかった…
きっと私が魔を使える体質と同じように、睦月だけが使える体質なのだと私は思った。

「…ん…んん……」

黒焦げの肌は煙となって消え、睦月の目が開いた。
「…あなた達だーれ?」
最初に会った時と同じような顔で、聞いてくる蜜柑。
しかしその顔はすぐに赤くなった。
「…わっ!?何でウチ裸なの……」
「覚えてないんだ…」
それから私達は、蜜柑ちゃんに今まで起きた事を話した。
その間に柚子さんも起きたので、同じようにまた説明をする。
「私は覚えています…あなた方を襲った事を……、
 他にもこの村を通りがかった者を襲っては、アレ(妖怪)にしたり男は食
 べて…」
柚子さんのように、妖怪になっていた時を覚えている者がいる。
今まで、妖怪になった者を何度か睦月が浄化したが、
さすがに浄化の炎でも記憶を変えたり消せるといったことはできないようだ。
「アレになっていた時、何故かそれ(人間を襲ったり)をすることが当たり前でした…。きっとそういう思考に変えられてしまうのですね…。
 もちろん今はそんな気はないですが…、まるで夢の中にいるようでし
 た…。ああ…怖い…、また私があんな風になってしまったら……今でも
 覚えてるんです…。人間の精気の味を…」

そう、一度妖怪になってしまった者はその甘美な世界に惹かれ、また妖怪になろうとする者もいる。
こればっかしは、私達にはどうしようもなかった…
だから私達のこの後の発言が、彼女達の人生を決めるかもしれない思うと、私は少し興奮したように話した。
「柚子さん…、あなたには蜜柑ちゃんという大事な娘がいます。
 その蜜柑ちゃんも外道の道を進ませる気ですか?
 人間としての気をしっかり持って下さいっ!
 もしまた妖怪になってしまったら…今度は私が斬ることになります…」
「………」
柚子さんはその後ずっとだんまりだった。
このくらいしか私には言えない…後は彼女しだいなのだから。

それから村人全員が人間に戻り、私達に感謝する者や、記憶がなく呆然とする者、自分に苦悩し続ける者などで溢れかえった。
その中に、一際妖気の大きかったあの女性とまた顔を合わした。
彼女も妖怪の時の記憶が残っており、自分に苦悩しながらも、人間であった時の事を話してくれた…

「私は降魔師をやっていました…」

「「ええっ!?」」

私達は、驚いた。
睦月のような本家の生き残りがいるという噂は聞いていたが、
まさかこんなにも早く会えるとは思っていなかったからだ。
「あなた、名前は?」
「私は冬花と言います。私の名前が何か…?」
私は知らない。だが睦月が反応を示す。
「…冬花さん!私です、睦月ですよっ!」
「え?睦月ちゃん?睦月ちゃんなの?」
「そうですっ!楓夏お姉ちゃんの妹の睦月です!」
「ああ…大きくなってたから分かりませんでした。
 あの頃は小さかったのに…それだけ私は妖怪になってたのが長かった
 のですね…
 その上本家から逃げ出してしまうなんて…」
「…冬花さん、自分を責めない下さい。
 私もあの頃は何も出来なかったんですから。」
「……私は本家から逃げた後、村を転々として最後にこの村で暮らすこと
 を決めました。そして暫くしてやって来たんです…あの葵が…」

葵っ…!まさかここに来ていたなんて…

「もちろん私も抵抗しましたが…葵には何も効かず、
 妖気を入れられた私は雪女になってしまいました…。そしてこの村の人
 達を…」
「そうだったのですか…」
「あの…すみませんが貴方は誰ですか?」
「あ、そうでした。私は分家の双葉と言う者です。」
「双葉さん!?まさか葵さんのお姉さん?」
「そうです。」
「ごめんなさい…、まさか葵さんのお姉さんとも知らず…」
「気にしないで下さい。
 冬花さん、まだ起きたばかりで悪いのですが、まだ降魔師として戦う気
 はありますか?」
「……もちろんあります。しかし、私一度妖怪に堕ちた身…こんな私でもよろしいのですか?」
「ぜひお願いします。
 …今、私と睦月は葵達がいる場所を探しているところです。
 正直、私と睦月だけでは葵達を救えるかどうか分かりません…
 どうか、私達に力を貸して下さいませんか?」
「冬花さん、私からもお願いします!」
「…分かりました。罪滅ぼしというわけじゃありませんが、出来る限りのことをします!」

こうして私達は1人の降魔師を仲間にし、村を解放した。
村人達がこれからどうゆう道を辿るのかは分からない。
思いたくないが、また妖怪としての道に足を踏み外す人もいるだろう。
しかし私は、柚子さんや冬花さんのように、
葵や睦月のお姉さんもきっと人に戻れると信じるしかなかった。