|
きょうのコラム「時鐘」 2011年12月30日
正月向けに「このわた」出荷が能登で最盛期を迎えたという記事があった。辞書には、このわたに「海鼠腸」の字が当ててある
確かに、ナマコは海のネズミみたいな姿である。その腸を塩辛(しおから)にしたのが、このわた。極上の酒のさかなとして珍重されるが、あいにく、指折り数えるほどしか口にしていない。このわたの文字に、よだれを催す人がうらやましい ナマコの酢の物にはなじみがあり、この地に生まれた喜びをかみしめる。が、ネズミみたいに不格好な生き物に美味を見つけた先人の食い意地には感心させられる 歳時記に芭蕉(ばしょう)の句がある。「生きながら一つに凍る海鼠(なまこ)かな」。食欲が湧(わ)く句ではない。芭蕉はナマコが苦手だったと想像する。「浮け海鼠仏法(ぶっぽう)流布(るふ)の世なるぞよ」は一茶(いっさ)の句。ありがたい世の中なのだから、海の底から顔を出せと、呼び掛ける。そう言われても、ナマコは身を固くして居座るかもしれぬ。その頑固(がんこ)さを、俳人は愛したのか 程なく年が暮れる。年が改まって、「浮上」の世が来るのか。それとも、多難に耐える日がまだ続くのか。ナマコに問うてみたい気がする。 |