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私、広幡瑠美子が藤宮淑恵にちょっと意地悪く言ってやったのは、金曜のお昼休み、社食でのことです。 「あ〜ら、藤宮さん、金曜の夜に予定がないなんて、寂しくない? 貴方、美人なのに一人ぼっちだなんて、やっぱり性格が暗すぎるからなのかしら?」 淑恵は、『そんなのぜーんぜんこたえません』みたいな顔をしながら、こしゃくな反撃をしてきます。 「そう言う広幡さんだって、広告マンの彼氏と別れてから結構たつんじゃない? ちょっと性格キツすぎらしいから、しょうがないのかもしれないけど、貴方みたいな職場ナンバーワンの美人が独り身なんですから、ワタクシなんか、とてもとても・・・。」 ・・・まだ言うか。 性格キツくて、ついていけないって言われて、前の男にフラれたこと・・・。 あんたなんか、一見大人しそうに見えるからオジン達には人気高いけど、本性は週末ずっとヒキコモってる根暗女のくせに! しばらくは馬鹿の一つ覚えみたいに、前の男ネタで反撃されてきたけど、今日はこれだけじゃないのよ。覚悟はよろしくて? 「その独り身ってネタなんだけど、そろそろ賞味期限切れかと思ってね。より好みばっかりしててもなんだから、今夜のコンパで合格点のメンズがいたら、決めちゃおっかな〜なんて思ってんの。中井物産って言ったら、れっきとした一流企業だからね〜。」 どうだ?んーん、そう!その顔だよ、私が見たかったのは。 うちの職場の二枚看板なんて囃し立てられてるけど、アンタみたいな根暗女が、正統派美人の私と張り合おうってのが百年早いのよ。 「あ・・・、そう。今日は化粧に気合が入って、いつもにましてケバいなぁー、なんて思ってたら、・・・コンパね。」 「あら?お化粧?よかった。化粧っけのまるでない、田舎風美少女の貴方のセンスにフィットしちゃってたら、お食事行く前に一からやり直さなきゃなんて思ってたんだけど、ちょうどよかったみたいね。自宅で読書のご予定の貴方と違って、殿方と楽しい会食があるわけですから。オホホホホ。」 うしっ・・・完全勝利! 勝ち誇った私の頭に、不意に淑恵が手を伸ばしました。 「頭にホコリがついてるわよ、コンパクイーン様・・・。」 淑恵の急に親切な行動に、私は拍子抜けしてしまい、しばらく何て言っていいのか、言葉が頭の中でまとまらなくなってしまいました。 自分の小指に何かを巻きつけるような仕草をする淑恵を、ただボーっと見守ってしまいます。 この子、私に取り残されていくショックに、挙動不審にでもなっちゃったのかしら。 「せっかくのお楽しみだったら、黙って行ってくればいいのに・・・。わざわざ人の勘所に触れるようなことばっかりしてるから、あんたはいい相手が見つからないのよ。今日という今日は、徹底的にその根性、叩きなおしてやろうかしら。」 ブツブツと独り言をつぶやいてる淑恵。 いつもだったら、しっかりイジッてやるところなんですけど、今はなんだか、体全体がちょっとだけ宙に浮いちゃってるような、変な気持ち。淑恵イジリどころじゃありません。 「はいっ。準備完了。瑠美子、それで今夜のコンパ、メンツはどうなってるんだったっけ?」 急に景色のピントがあってきたような気がして、私の頭がいつも通り冴えてきました。 「え?・・あ、あぁ。今夜のメンツね。こっち側は、私とユイと、咲子とアンタ・・・。あれ?人数合わない? ま・・・、いいよね。」 今回のコンパは、男性陣の仕事が比較的忙しい時期っていうことで、何人か遅れてきても大丈夫なようにお店で直接集合するスタイル。 到着したのは最近開店した和洋折衷・創作料理のお店。 離れの個室に案内されると、当初の予定と違って、すでにメンズは全員集合しちゃってました。 うん、初対面の印象はマズマズなんじゃない? スーツ姿の男性陣は幹事のシュン君が一番手前にいて、真ん中がマサさん、奥が康志君。私たちの飲み物が届く前に、自己紹介も終わっちゃいました。 縦巻きの髪がハーフっぽい顔立ちによく合ってゴージャスな感じのする咲子は、康志君と会うんじゃない? シュン君の好みは多分、一番若くて清純派のユイじゃないかな? そしてメンズの中で一番格好よくて大人っぽい雰囲気のあるマサさんには、やっぱりひときわ美しい、私がベストなマッチングだと思うんだけど・・・。 うーん、こうして見ると、やっぱり淑恵が浮いてるよね? なんで連れてきたんだろ? まだお互いが様子を見ているような序盤戦、いきなり淑恵が最初に出されたお水に手を引っ掛けちゃった。 コップは倒れなかったけど、なかの水がちょっとテーブルにこぼれちゃう。 これって粗相でしょう? さっそく淑恵に一気飲みでもさせるようにけしかけようか、それともオイシイところを彼女にいきなりあげちゃうのも勿体無いんで、無視しちゃおうか、私が迷ってた瞬間、淑恵が右手の指をクイって曲げるような仕草をしたの。 そしたら、私は急に弾かれたみたいに立ち上がって、淑恵の席に駆け寄っちゃった。 え?なんで・・・? 私は直角に腰を折り曲げて、テーブルの水を拭きながら、男性陣の側にワンピースから胸の谷間がしっかり見えるように強調しちゃう。 ご丁寧に両腕でちょっと胸を押し上げて寄せながら、ワンピースの襟元から谷間をくっきり覗かせて、水を拭いちゃう。 向かいの康志君はドギマギしながら、しっかり胸もとを見つめてる。 私・・・、なんでいきなりこんな、必死の女みたいなアピールしちゃってるの? 「あら、私の粗相なのに、ありがとー、瑠美子。とっても優しいのね。」 淑恵がわざとらしくお礼を言う。 私が掃除をしやすいように、ビールの入ったグラスを脇に持っていく振りをして、またちょっとビールをテーブルにこぼしちゃった。 この野郎、今の、完全にわざとでしょっ!? 私はこれ以上、淑恵の後始末なんかしてあげるつもりなかったのに、思わず立ち上がって、テーブルの上に登っちゃった。 部屋のみんなが不信な目で見守る中、テーブルで四つん這いになって、康志君の向きにお尻を突き上げると必死にビールを拭いちゃう。 ヤバッ、ワンピースの裾が上がって、男性陣にパンツ見えちゃってない? なんだって、こんなこと・・・。 私が恨めしそうに淑恵を見上げると、彼女がまるで、私の考えが全部読めるみたいに、ニッコリ笑ってる。 『久々の合コンで張り切ってるのは分かるけど、絡む相手を間違えちゃったわね、瑠美子ちゃん。私を怒らせたらどうなるのか、しっかり覚えて帰ってもらうんだからね。』 何?私の頭の中に、他の人の声が流れ込んでくるみたい。 私がわけもわからないまま、ポーッとして自分の席に戻ると、幹事のシュン君が、ちょっと変な空気になっちゃったその場を和ませようと、さっそくゲームを始めようって持ちかけてくれました。 「じゃっ、瑠美子さんのすごく『女らしい部分も』見れちゃったところで・・・。お互いをもっとよく知るために、ペアを作って、ゲームしましょーっ! まず、第一のゲームは・・・。」 「おいっ、ペアってお前。」 隣にいたマサさんが、シュン君を肘で小突く。 目で、一番端っこで大根サラダを食べてる淑恵を指します。 そう・・・、せっかくシュン君が盛り上げようとゲームを提案してくれてるのに、人数が半端なせいで色々計画を狂わせちゃってる。 うーん、このままだと、女性側幹事としての私の手腕まで疑われちゃうじゃない。 全部淑恵のせいなんだからっ。 「あっ、私、審判やらせてもらいますから、気にしないで下さい。皆さん、今向かい合ってる同士でペアになってみたらどうですか?」 淑恵は私の厳しい視線を無視して、陽気に手を上げて審判とか立候補してるし・・・。 まあ、今のは場が白けなかったから、許してやるか。 「じゃぁ、すぐにまた組み合わせはシャッフルするとして、一旦『大人の』淑恵さんに甘えちゃって、審判お願いしちゃいますっ。最初のゲームは、『通り抜けフープ』ゲームでーっす。」 「イェーっ。」 「わー、知らなーい。」 ノリよく進行するシュン君に合わせて、咲子もユイもちゃんとノッてくれてる。 うんっ。一人邪魔な奴はいるけど、結構いい感じのコンパになりそうじゃない? 「これは男性と女性のペアの、チームワークがとっても大切なゲームです。まずは男性がしゃがんで両手で輪っかを作ります。女性がその輪っかの中に入って、その輪っかを潜り抜けるんです。んー、女性が潜り抜けるって言うか、男性が輪っかの中に女性を入れたまま、立ち上がって女性の頭の上から、輪っかを抜き取るっていう感じかな? どれだけ輪っかを小さく出来るかが競争です。途中で輪っかが壊れちゃったり、女性に腕が触れちゃったりしたら罰ゲーム。そのペアはイッキです。判定は名審判、淑恵さんにお願いしまーっす。」 シュン君が一組目に指定したのは、ユイと康志君のペア。 康志君が作った両腕の輪の中に、ちょっと恥かしそうに足を入れるユイ。 腕を跨いで康志君の輪の中に入ったユイが「気をつけ」の姿勢になると、シュン君の掛け声を合図に、康志君がゆっくりを腰を上げて、両手の輪も上げていきます。 ユイの体に触れないように、でも出来るだけ小さい輪を作りながら、ソロソロと両腕を上げていく康志君。 んーっ、これって思ったよりも過激なゲームね。 ほとんど抱きつかれてるみたいな姿勢になってるユイは、顔を赤くして笑ってる。 ゲームっていう名の下に、これだけ接近してたら、そりゃドキドキするよね・・・。 みんなが掛け声かけて盛り上がってる中、康志君が両手の輪をユイの頭から抜き取りました。 見てても意外とハラハラしちゃう。 これは盛り上がるかも。 二組目の咲子・マサさんペアは、さっきのペアに勝とうと、康志君よりも小さい輪っかにチャレンジ。咲子も両手を上に上げて、ちょっとでも輪を小さくしようと頑張ってる。 でも咲子の、ユイよりもグラマラスな体型のせいで、マサさんは胸元まで行って、止まっちゃった。 ゆっくり、ソロソロと、上がっていこうとするマサさん。 でも、鼻先が、思わず咲子の胸に・・・。 「キャッ」 「うわーっ。」 マサさんが両腕の輪を壊して、後ろに尻餅をついちゃった。 胸を両腕で隠してしゃがみこむ咲子。 「やだーっ、もうっ。」 照れ笑いする二人。みんなに要求されて、イッキ飲みでビールを開けちゃった。 咲子・・・、美貌を鼻にかけてお高くとまってる時もあるけど、今夜はやる気ありと見たっ! 次は、私の番って思って張り切ってたのに、審判役をやってる淑恵が小指を二回ぐらい動かした瞬間、私の回りから急に、賑やかな音がスーッと遠くなっちゃった。 一秒ぐらい不思議な気分でボーっとしてて、急に正気に戻った私。あっ、そうそう。ゲーム・・・。 「よーっし、絶対に私たちが優勝よっ!」 私はワンピースの上に羽織っていた、白い薄手のカーディガンを脱ぐと、シュン君がしゃがんで作っている輪の中に右足を踏み入れました。 そして左足を・・・、え? 男性陣の低い歓声の中で、気がついた時には私はなぜか、シュン君の頭を跨いで左足をおろしていました。 ワンピースの裾の中に、シュン君の頭がスッポリ入っちゃってる・・・。 ヤバイってば!ビックリして体が強張った私は、思わず太腿に力を入れて、彼の頭をしっかり挟み込んじゃいました。 シュン君の苦しいのか嬉しいのか、よくわかんない、くぐもった悲鳴が 私の服の中から響きます。私の股間に、彼の熱い息がかかる。 「やだっ、ヤメテよー、エッチっ!」 私が慌てて跳びのいて、彼の頭をはたくと、部屋にいる皆は爆笑して転げまわってました。 「さっきから、瑠美子さん、凄い!積極的だよね。」 「お腹痛いーっ。美人なのに、体張りますねー。」 男の人たちは大喜びしてる。ユイも、咲子も、ちょっと引きつつも、笑っちゃてる。 私・・・、全っ然、そんなキャラじゃないんですけど・・・。 「ち、違うって。今のはボケじゃないの。ホントに間違ったんだってば。」 「ほら、シュン君の輪っかは壊れちゃったんだから、二人は罰ゲームでしょ。ちゃんとイッキしてね。」 淑恵は冷静に、私たちにグラスを渡してくる。 くっそー・・・、何となく、アンタがいるせいで、全部変な感じになってる・・・、気がするのになぁ。 拍手とコールにのせられて、しょうがなくグラスのビールをイッキ飲み。 いつもよりもペースが早いよ・・・。 後で変な失敗をしなければいいんだけど・・・、って、もうしてるか。 ゲームが一段落ついて、みんなが二皿目の料理をつつき始めると、私は半分ヤケになってビールをもっと飲んじゃった。 忘れよっ。仕切りなおし、仕切りなおし。 でも私が唐揚にレモンを絞ろうとした時に、また頭の中に、妙な声が入ってきたんです。 『ずいぶんペース早いわね。満喫していらっしゃるのかしら。』 私が何となく嫌な予感がして、端っこにいる淑恵を見ると、嬉しそうにこっちを見てる彼女と、バッチリ目が合っちゃった。 コンパ中にアンタなんかと目が合っちゃっても、嬉しくないわよっ。 『あら、そんなのお互い様よ。でも今日の瑠美子ちゃんは結構お茶目な感じで、好きになれそうかも。』 ・・・ん?淑恵・・・。さっきから、この変な声、私の気のせいじゃなくて、淑恵が喋ってるの? 私が回りをキョロキョロと見回しても、この部屋にはスピーカーも何もない。 シュン君も咲子も、何も聞こえてないみたい。 怖々ともう一度淑恵を見ると、さっきまでよりも、ちょっと笑顔に迫力が出た淑恵が、ジャーマンポテトを食べながら、まだ私を見てる。 こちらにはまだお皿が回ってきていない、ジャーマンポテトです。 『ジャーマンポテトはどうでもいいでしょ。上代藤乃宮流古式呪法・五色髪。今夜の貴方には、私にわざわざ嫌味を言いにきた罰として、ちょっとの間、私の玩具になってもらってるの。思い出した?』 ・・・あぁっ!・・・あの時、髪の毛・・、なんか変なこと・・。 頭の中で淑恵が得意げに話すのと同時に、彼女の頭のイメージが流れ込んでくる・・。 私は今日起きてる納得いかないこと全部が 淑恵の変なオマジナイのせいだって理解しました。 アンタのせいで・・・。 「はーい、そろそろ、席替えの時間です。じゃあ、野郎と女の子が交互になるように、座りましょうか、咲子ちゃんはこっちで、ユイちゃんそのまま、瑠美子ちゃんちょっとこっちにズレてもらえます? 淑恵ちゃんはこっちがわです。」 「はーい。」 私と淑恵は、シュン君の方を振り向いた瞬間は、可愛さ満点の笑みで声をそろえて、お互いを振り返るとすぐにまた、迫力の果し合いに戻ります。 淑恵、アンタ、絶対に許さないからねっ! 今までのこと、一つ残らず、きっちり、仕返ししてやるんだから、おぼえてらっしゃい。 『あーら、瑠美子ったら、今までのって、もう終わったつもり? 楽しみはこれからなんだから、仕返しなんて、今考えてなくていいのよ。ほらっ』 席替えの途中で、笑顔は崩さずにいがみ合ってた私たち。 でも淑恵が小指をクイっと折り曲げると、私はまた急に、体が勝手に動いてしまいます。 「キャッ、ゴメンなさい。」 席替えタイムで私が座り込んだのは、座布団の上じゃなくてなんと、マサさんの膝の上。 それだけならまだしも、私はしがみつくみたいに、マサさんの方を向いて座り込んじゃって、両足をしっかり腰に絡みつけちゃった。 体を離そうと思って上半身を伸ばしたんだけど、そのまま私、彼の顔を胸の谷間にギュウギュウ押しつけちゃう 「やだー、エッチっ!」 悲鳴を上げる私に対して、皆は完全に私のウケ狙いだと思って、指を指して爆笑してる。こんなキャラじゃないって、言ってるでしょーがっ! 「違うよ、ゴメンっ、瑠美子ちゃんの席はこっち! 僕の案内の仕方が悪かったかな?はー、おかしい。」 目に涙を浮かべながら、フォローをするシュン君。 フォローはありがたいけど、泣きたいのはこっちよ。 「ほら、咲子もユイも笑いすぎて、ヘアースタイルが乱れてるってば。」 妙におせっかいな淑恵の声。 私は無視して、隣に座ってるマサさんの趣味のレガッタの話に集中しようとしてました。 でも・・・、ヘアースタイル・・。 何か嫌な予感がして淑恵の方を振り返ると、淑恵はわざわざ咲子とユイの後ろまで行って、二人の頭から何かを抜き取る仕草をしてる。 一瞬、キラッと糸のようなものが光るのが見えたから、私は思わず、マサさんの話を止めてまで声を上げそうになりました。 私に気がついた淑恵がすかさず目で私を制止する。 口は開いてもパクパクするだけで、急に声が出なくなっちゃいました。 「あら瑠美子ちゃん、お酒が足りないの?」 淑恵が言うと、マサさんが気がついて、私のグラスに注ぎ足そうと、ビール瓶を傾けてくれます。 でも私はなんだか急に我慢できなくなって、マサさんの手から、瓶を乱暴にふんだくってしまいます。 不作法にテーブルに足をかけた私は、左手を腰に当てて、右手で瓶を高々と掲げて、瓶の口から直接ビールをラッパ飲みし始めてしまいました。 「おぉー・・・カッコいい!」 康志君は誉めてくれますが、マサさんは・・・、ちょっと唖然としてます。 瓶をふんだくられた手が、まだ瓶を掴むかたちをしたままで、体が固まってる。 わーん、狙ってたマサさんに、幻滅されちゃってるかも・・・。 でもビールが飲みたくて、止められないよ〜。 勢いがつきすぎて、口もとからあごを伝って、服にまでビールがいっぱいかかっちゃう。 それでも瓶に半分ぐらいあったビールを飲みきっちゃうと、私はみんなの拍手の中、フラフラと席をたっちゃった。 『そうそう、お洋服が濡れちゃったから、お手洗いで身だしなみを整えてこなくちゃね。 いってらっしゃーい。』 頭の中でふいに淑恵の声が聞こえると、私は飲みすぎてボーっとなってる頭を縦に振って、深く頷きました。普段、面と向かって喋ってたら反発しあうばっかりなのに、頭の中で淑恵の囁きが聞こえると、全然反抗できない。 しかもなぜか、言われるとおりにするのがとっても心地よくなってきたんです。 マズイよ〜。 個室が連なってる店内の廊下を抜けて、お手洗いに行くと、鏡に映った私の顔は、すっかり酔っ払って上気しちゃってます。 大事なワンピースにしっかりこぼれたビール。 ちゃんと拭かなくちゃ、後で臭くなっちゃう・・・。 『酔っ払いの留美子さん。身だしなみなんて、メンドくさくなってきたんじゃない? いっそのこと、ワンピースなんて、要らなくなっちゃったんじゃないかしら。』 閉め切られたお手洗いの中なのに、淑恵には私の状況が全部わかっちゃうの? まさかアンタ、私にこれ以上、恥かかせようって言うんじゃないでしょうね! 私はちょっとでも声に逆らおうとするんだけど、ペーパータオルを握って、ワンピースを叩くように拭いていた私の手が、突然私を襲った、強烈な面倒くささのせいでピタッと止まっちゃうんです。 うぅ・・・。ワンピースのこと・・・、考えるだけでも、ダルくなっちゃう。 どうしよう・・・。お気に入りのワンピースだったんだけど。 だけど・・・、こんなの、もうどうでもいいや。 紺色の上等なワンピースの、背中のチャックを下ろしていく私。 お手洗いの中で、急に下着姿になっちゃった。 ハート型の可愛い銀のブレスもはずしちゃって。 水色とピンク色とで花柄をあしらったブラとショーツだけの 無防備でプライベートな格好になっちゃった、鏡の前の私。 『あら意外とスタイルいいじゃない。 なんだか開放された気持ちになって、楽しくなってきたんじゃないかしら? さぁ、テンション上げて、帰っていらっしゃい。』 さっきまでの岩みたいなダルさが全身を覆っていた私の体が、急に炭酸が弾けるみたいに活性化されちゃって、なんだかそのままジッとしていられなくなっちゃいました。 お手洗いのドアを勢いよく開け放つと、そこを使おうと待っていたOL風のお姉さんが 目を丸くして私の格好を見てます。 私はニッコリと微笑を返して、廊下を小走りに通り抜けました。 どうして?すっごい非常識なことしてるのに、体中を気持ちいい開放感が突き抜けていくせいで、笑いが止まらないよー。体もピョコピョコと、リズムをとって跳ね回っちゃう。 両手を頭の上で打ち鳴らして、変なステップを踏んで廊下を進んでいく。 携帯を持って話しながら襖を閉じてた、別の個室の男の人が、仰天して携帯落としちゃった。 私が豪快に自分のグループの襖を開けると、そこは、すっかり異常な雰囲気の空間になっちゃっていました。 ゴージャスなお嬢様風の美女、咲子がなんと、さっきの私と同じようなポーズで テーブルに片足をのせて、ビールを飲みきっちゃう。 みんなの「飲んで飲んで飲んで、咲子!」って軽快なコールに合わせて、ビール瓶を開けちゃった咲子が、空の瓶を肩にかついで、格好よくポーズきめてる。 た・・・、体育会の新歓コンパか、これは・・・。 いつもはモスコミュールかワインを頼むはずの咲子の顔は、すっかり上気して赤くなっちゃってる。 この子、大丈夫かな・・・? 私の心配をよそに、絶妙なハモりかたで、また手拍子とコールが始まる。 「脱いで脱いで脱いで、脱いで脱いで脱いで、脱いで脱いで脱いで、咲子!」 咲子はビール瓶を畳に置くと、コールに乗ってリズムを取りながら、ノースリーブの白いセーターの裾に手をかけて、思いっきりまくり上げちゃう。 光沢のある白いブラに包まれた、迫力のバストがみんなの前に晒されちゃう。 「ちょ、ちょっと、咲子、何してんのアンタ。ハシャギすぎだってば!」 私が駆け寄ると、咲子の手の甲が、ピシャリと私のお腹を打ちました。 「お前もだろ!」 素肌に咲子の手が当たって、自分の格好を思い出した私・・・。 下着姿で漫才の突っ込みみたいなポーズをとってる咲子と、絶句してる私を みんなは苦しそうに笑い転げて見ています。 あ・・・悪夢。 またすぐに、ふざけたコールが始まりました。 「揉んで揉んで瑠美子、揉んで揉んで咲子、揉んで揉んで揉んで、見せて!」 なんとこの、変なコールをリードしてたのは、淑恵です。 でもみんなすぐにそのコールに、まるで何度も練習したみたいにピッタリ合わせてくる。 コールが始まると、私と咲子は満面の笑顔で、リズムに合わせてお互いの胸を ブラの上から揉みしだいてしまいます。 こんなこと、本当はしたくないのに、コールがかかると、止められない。 それになんだか、頭のネジが何本もハジケとんじゃったみたいに、見世物になってるのが楽しくてしょうがない。 コールの最後に合わせて、私と咲子は抜群のタイミングで、お互いのブラをずり下げて、二人とも胸を完全に露出してしまいました。 ひー、みんな見ないでーっ! こ・・・こんなバカ騒ぎしてたら・・・、さすがに店員の人に・・。 案の定、すぐに襖があけられて、茶色がかった髪を後で束ねた、女子大生風の可愛らしい店員さんが、申し訳なさそうに入ってきました。 そして私たち二人のイッちゃった姿を見て、ショックを受けながら厳重注意・・・と思ったら。 ニッコリ笑った店員さんは、両手を叩いてコールに参加し始めちゃったんです。 しかもご丁寧に、コールの最後には右手でコブシを振り上げて、叫んでる。 ど、どう考えても店員さん、ノリが良すぎるでしょう? 私が(咲子と胸をジカに揉み合いながら)うらめしそうに淑恵を睨みつけると、淑恵はニッコリ微笑んで頷きました。 部屋のみんなどころか、店員まで、術中にあるってことね・・・。この性悪女。 『性悪女はお互い様でしょうってば。留美子ったら、考えが全部読まれちゃうって、何回やっても忘れるんだから。ほら、いま私の悪口なんか言ってもいいんだったっけ?』 あっ、嘘。やめて。 これ以上は無理だってば。 私の必死の抵抗もむなしく、次の瞬間には「気をつけ」の姿勢になって、選手宣誓みたいに右手を真っ直ぐ上げて、真顔になってしまいました。 「一番、広幡瑠美子。店員さんを歓迎して、一発芸を披露します!」 やだやだ、何させる気!? 変なことさせないでよーっ! 私は男性陣の歓声と指笛の中、真顔のまま両腕を「小さく前にならえ」みたいに 体の横で直角に曲げると、ゆっくりとその腕を回転させ始めました。 「人間機関車。シュッ、シュッ、シュッ、シュッ」 パンツ一枚身にまとっただけの、ほとんど裸の私が、子供がする汽車の真似みたいな仕草で両手をぐるぐる回しながら、大真面目に部屋を走り回ると、店員さんも含めて、みんな大喜びで手を叩きます。 だんだん動きが激しくなってくる私は、腰を前後に振りながら、ちょっとずつ変な気持ちになってきました。 どういうこと?なんで、私、こんな・・あ・・・駄目っ。 「シュッ、シュッ、シュッ、シュッ・・・ポーーーーッ!!」 突然ガニ股に足を開いて腰を落とした私は、汽車が蒸気を上げる口真似をしながら、両手でバンザイをして、なんとその場でイってしまいました。 そう・・・、本当に、エクスタシーが来ちゃったんです。 そのまま尻餅をついて、余韻に浸りながら腰をビクビクさせてる私。 みんなはそれを私の演技だと思って、大受けしています。 もう駄目、私・・・。女として、終わっちゃったかも・・・。 『あら、そんなに落ち込むことないってば、ほら、仲間がちゃんといるわよ。』 「二番!」 威勢のいい、声が聞こえる・・・。 ひっくりかえってる私の視界の隅で、タイトスカートを脱いじゃった咲子が、両手を「小さく前へならえ」みたいに体の横にそえて、私とそっくりに機関車の真似を始めるのが見えます。 わ・・・私も後に続かないと・・・。 ショーツの股の部分が濡れちゃってて、私が本気で感じてることがばれちゃってる。 私の前で芸を披露してる咲子の声も少しずつ上ずってきていて、高そうなシルクのショーツのお尻の下の部分が濡れはじめちゃってる。 こんな格好、会社の人たちにこれ以上見られたりしたら、明日即退社してやるんだから! 聞いてんの?淑恵っ。私本気よ! 私が睨みつけると、淑恵は赤い顔でお腹を抱えて笑ってる。 お酒・・・弱いんだっけ? ちょっと・・・、アンタが酔っ払って悪ノリしちゃったら、誰が止めんのよ。 誰か・・・、あの馬鹿を止めてーっ 「ポーーーーッ!」 咲子と私が同時に叫ぶと、私はまた激しくイッちゃいました。 こんなの・・・、体が持たない。もう頭が真っ白。 また畳に転がった私は、ガニ股になったまま、ビクン、ビクンと体を震えさせます。 その度に、ジュッ、ジュッって、パンツに恥かしい液を噴出しちゃう。 畳に染みが出来てるのがわかって、死ぬほど恥かしいのに、足が閉じられないんです。 「ッハン、・・・ハァン、」 咲子が、情けない声を出して、隣でヨガってる。 この子、結構感じやすいんだ・・・。 「ほらっ、一発芸は引き際が大切っ!ゲームしましょ〜。」 鼻がつまったような声を出して、フラフラと立ち上がった淑恵。 目が完全に座ってます。ゲームって・・・、もういいよ。 私はさっきからずっと罰ゲームやってる気分だってば。 「王様ゲームやろう、王様ゲーム。いっぺんやってみたかったの。」 「おっ・・結構ベタなところついてきますねー、淑恵さん。」 シュン君がフォローしようとした瞬間、淑恵は勢いよくコブシを突き上げました。 「王様の言うことは?」 「ぜったーいっ!」 皆がその瞬間、慌てて声を揃えて土下座をしていました。 店員さんまで、伸ばした両手と、おでこを深々と畳につけて、土下座しちゃってる。 淑恵・・・、もしかしてゲームのルール、よくわかってないんじゃない? さっきまで、絶頂の余韻に浸っていた私の背筋が、ゾワーッとまた、寒くなっちゃいました。 「だから嫌だったのよ。淑恵を連れてくるのなんて。もう最っ悪のコンパじゃない。アンタ、本ばっかり読んでるうちに、すっかり感覚がオヤジになってんじゃないの?なによ、この趣味の悪さはっ! 温泉で浮かれたハゲオヤジかって感じよ。」 文句を言いまくりながらも、私は身動き一つ取れません。 王様にお皿になるように言われたんだから、こうしているしかありませんよね? テーブルの上で全裸で大の字になってる私の体には、お刺身やサラダ、料理が色々とトッピングされて、変態的なオブジェみたいになっちゃってます。 「あれ?お皿が喋っていいんでしたっけ?王様?」 店員さんが嫌味ったらしく言うと、私の口は貝みたいに固く閉じちゃう。 そうだった・・・、私はお皿なんだから・・・。でも・・・。 なんかこう、釈然としないよーっ。 可愛い顔したバイトの店員さんは、王様のご指名で 『とってもサディスティックな盛りつけ師』になりきっちゃって、私の体をイジメてくる。 トロロとマグロがかけられたお腹はさっきから痒くて仕方がないし、脇の下の辺りに置かれたパセリがさっきからくすぐったいのに、私は全然抵抗できないんです。 そりゃ、お皿なんだから、盛り付けられるまま、お客さんにつつかれるまま、我慢しなきゃいけないのはわかるけど、これって酷すぎだと思いません? だいたい、左右に広げられた足の付け根、私の大事な部分に 何本、アスパラを突っ込んだら気が済むんだーっ!! お皿にはこれっぽっちも権利ってモノがないの? 畳の上では、ユイと康志君とが大きな振りつきで野球拳に励んでる。 清純そうな水色の下着を左手で隠そうとしながら、必死で野球拳やってます。 でも、ユイの右手は最初からチョキになってて、さっきからチョキしか出してない・・・。 王様がそれで満足ならしょうがないけど、このままじゃすぐにユイもスッポンポンだってば。 咲子は・・・、シュン君とコースター越しにずいぶん長い間、キスしちゃってる。 コースター越しっていうところは一応コンパのマナーにそってるのに、首から下は、全裸の二人が抱き合ってヤッちゃってるから、全然意味ないような気がするんだけど。 キスを終えた二人が、「えー、照れる。」、「恥かしいっすよ。」とか言い合って、両手で頬を隠したり、頭を掻いたりしてるんだけど、体を密着させた二人が、下半身をドッキングしたまま皆に弁解してるから、恥かしがってるのか、恥知らずなのか、訳わかんない状況になっちゃってる。 意外と筋肉質なシュン君の体に、見栄えのするオッパイを押しつける咲子。 二人の下半身は、毛が絡み合うぐらい密着してて、時々姿勢をかえると、咲子のアソコからシュン君のモノが顔を出す。 二人とも・・・、キスで人目を気にして照れてる場合じゃないでしょっ。 こんなの、こっちが見てらんないってば。 もうっ・・・淑恵! あんた・・・、いくら私たちの王様だからって、調子に乗りすぎよっ! 許さないからっ! 口を閉じたまま、モゴモゴいっている私に、淑恵が、泥酔したような目で首をかしげる。 アンタが持ってるの、それ焼酎?もうお酒はいい加減にしなさいってばー。 「ん?・・・どうしたの?お皿ちゃん。もっとマサさんに優しくされたいの?」 口で私の体から直接お刺身を食べていたマサさんが、急に私の乳首に吸い付いちゃう。やだーっ、き、気持ちいいけど、こんなところ、感じてるところなんて、淑恵に見られていたくない・・・。 自分でも形がいいって思ってて、それなりに自信がある胸なんだけど、こんな風に、お皿になってる時に、マサさんに吸われちゃったら・・。 え?・・・今、醤油かけた? 私の大事な胸を、ワサビ醤油で味わうのはやめてーっ 染みる・・・、痛いような、気持ちいいような。 お・・・お皿・・・なのに・・。 また、イッちゃうぅぅぅーーーーーっぅううううっ! 「あ、王様、茹でアスパラが、プルプル震えてます。」 もう駄目・・・。 誰か、このコンパ、早くお開きにしてー。 「ほら、ついに瑠美子ちゃんの希望がかなったわね。今夜は貴方の望みどおり、イケメンがっちりゲットよ。しかも一気に3人も、っていうか3本も独り占め。大満足じゃない?」 私はもう、淑恵に返事をする余裕もありません。 畳に寝そべって腰を突き上げるマサさんの上に騎乗位で乗っかって、マサさんのアレとしっかりつながりながら、康志君のモノを胸の谷間でスリスリと撫で上げてご奉仕。 首は90°右を向いて、シュン君のおチンチンをお口で・・・。 口が閉まりきらなくて、涎が垂れちゃって、胸もとの康志君のモノにまでかかっちゃう。 男性陣はみんなそれぞれ、届く範囲で私の体を揉みしだいたり舐め回したり。 もう、みんなの汗と、涎と、変な液が全部混ざっちゃって、ドロドロになっちゃってる。 私の体中がグチュグチュと音を立てて、私の頭をもっともっとおかしくしていっちゃう。 もう・・・どうにでもして・・・。 王様・・・。もっとヤバイこと命令して・・・。 「はい、じゃー、大漁を記念して、瑠美子ちゃん、チーズ!」 王様が構えた携帯のカメラから、フラッシュが光る。 私はマサさんに下から揺すられながら、左手はしっかり胸を包んで康志君へのサービスを 続けながら、シュン君のおチンチンを口から離さずに視線だけカメラに向けて、右手でなんとかVサインを作ってみせました。 「ほらほら、女の子たちもチーズ!」 私がなんとか目をやると、咲子とユイは部屋の片隅で裸で四つん這いになっていました。 なんと店員さんが、ビールの小瓶を二人の大事なところに遠慮なく ジュボジュボと、入れたり出したりしてる・・・。 普段はお高くとまった、セレブ気取りの咲子と、清純派路線で上司たちのオアシスになっているユイが、ビール瓶をアソコに出し入れされて、盛りのついた犬みたいに嬌声を上げています。 自分自身も股に瓶を埋めてる、年下の店員さんに責められて、あられもない声を漏らしてよがっている二人。 みんな私の組んだコンパを楽しんでいてくれてるみたい。 王様にカメラを向けられた美形の三人組は、立ち上がるとお互いに寄りかかって、体をクネクネさせながら、股間のビール瓶を指差すと、もう片方の手で親指を立てて、嬉しそうにポーズをとりました。 「よしっ・・・記念撮影も済んだことだし・・・。そろそろラストオーダーの時間みたいだし、じゃ、みんな、乾杯〜。」 へべれけの淑恵が、焼酎と氷の入ったグラスを掲げると、みんなその瞬間に絶頂に達しちゃった。 今日は・・、何度もイッちゃったけど、これが一番強烈。 私は自分の大事なところの中と、胸と口の中に熱い液が何度も出されて、私から溢れ出すのを感じながら、誰かにしがみついて昇天しちゃいました。 こんなに感じたら、一生変になっちゃうんじゃないかっていうぐらい、ぶっ飛んだオルガズム。部屋中のみんなで、精液も愛液も絞り切って撒き散らして、一緒に天国に行ってしまいました。 快感も・・・、強すぎると、辛いよ〜。 ・・・でも幸せ。 誰彼かまわず折り重なって、放心状態で寝そべる私たち。 「えぇっと、もう閉店が近いから、後片付けしないとね。その後は・・・、二次会行っちゃう?」 フラフラと腕時計を確認しながら、上機嫌に話す。淑恵。 みんなろくに返事も出来ないってば。 「二次会・・って、もう私、足腰・・・立たないんですけど・・・。」 「あら・・そうなの。大変ね。 ・ ・・でも王様の言うことは?」 「ぜったーいっ!」 失神寸前で寝そべってたはずのみんなが、慌てて正座をして、声を揃えて平伏しちゃう。 こっ・・・、このゲーム、まだ続いてたの? いつおわんのよ〜。 「お姉ちゃん、もういい加減起きてよっ! 土曜だからって、もうお昼前だってば。一緒に国立図書館行って、研究進めるんじゃなかったの?」 「ちょっと・・・、頭が痛いんだから、近くで怒鳴らないで・・・。幸恵ちゃんお願い。いい子だから、お姉さんのために、冷蔵庫からポカリ持ってきて頂戴・・・。」 藤宮家。二日酔いの淑恵の部屋に怒鳴り込んだ幸恵が、強引にカーテンを開けると ベッドの中の淑恵が、恨めしそうに寝返りをうって掛け布団に頭を埋める。 「一体、いつまで飲んでたのよ? たまに遊びに出ると、歯止めがきかないんだから、お母さん怒ってたよ。ストレス発散もいいけど、周りの迷惑も考えてよね。」 「迷惑・・・。ハッ・・・。またやっちゃった。幸恵ちゃん、お願い。お姉ちゃん今は集中できないから、この五色髪の後始末だけ、済ませちゃってもらえないかしら? 記憶を消して、トラウマとか出来そうだったら治療をしてあげるの。修行の一環だと思って、手伝ってよ。お願いだから。」 淑恵が辛そうに布団の間から右手を出すと、小指には何本もの糸のようなものが、色を変えながら光っていた。糸は壁を貫通して、それぞれの方向に伸びているように見える。 「もーっ、またー? 呪術は遊びのためのものじゃないって、お祖母ちゃんにそのうちまた怒られるよ。ったく、みんなのゆうべの記憶を消せばいいの?」 「あっ・・・、瑠美子って子と昌弘さんっていう人は、なんか両想いになれそうだったから、昨日上手くいっちゃって、今日デートする約束したってことにしておいて。性格悪い子なんだけど、一応会社で仲いい悪友なの。私もちょっと昌弘さんって、惹かれたけど・・・、まぁ、いいや。」 「性格悪いのはお互い様じゃないの? ひょっとしてお姉ちゃんが、からかって遊ぶのが楽しい相手ってだけだったりしない?」 「ふふふっ、内緒。ねぇー、幸恵ちゃん。早くポカリーっ。」 甘えたような声を出す姉に、枕をぶつける幸恵。 土曜の昼前、じゃれあって遊ぶ、仲のいい姉妹。 妹は、シーツに広がる姉の髪の毛を、いつくしむように手でゆっくりとかき分けると、部屋を出て、階下の台所へ向かっていった。 < 姉編 おわり >
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