社説
慰安婦問題/乗り越える手だて模索を
年間500万を超す人々が相互交流し、経済の緊密化も進む。それでもなお、両国に歴史の重しがのしかかり、前途を危うくする。過去の問題の根深さをあらためて実感させられた。 京都で先ごろ行われた野田佳彦首相と李明博大統領による日韓首脳会談。大半の時間が、旧日本軍の従軍慰安婦問題に費やされた。 「未来志向の関係構築」と口では言っても、実際の歩みがそう容易に進むものではない。 今は北朝鮮の金正日総書記死去という事態に直面し、朝鮮半島の安定確保のため、両国は米国と共に緊密に連携しなければならない。万難を排し、万全の態勢を整える必要がある。 だが、今後、日韓の間に慰安婦問題が立ちはだかることは間違いない。感情的な対立をいたずらにあおらないためにも、過去を克服する努力を粘り強く続けるべきだ。 慰安婦問題が再燃した背景には、8月に韓国憲法裁判所が出した判決がある。韓国政府が元慰安婦らの賠償請求権に関する措置を講じてこなかったのは「違憲」と判断したのだ。 今月になって、ソウルの日本大使館前に慰安婦を象徴する少女像が設置されたことで、日本政府による謝罪と賠償を求める世論が沸騰した。政権の求心力が低下する大統領としては、そんな国内状況を深く考慮せざるを得なかったのだろう。 日韓協力路線を堅持してきた従来の姿勢から一転。会談では「慰安婦問題を優先的に解決する真の勇気を持つ必要がある」などと述べ、野田首相に政治決断を強く求めた。 日韓の請求権に関する問題については、1965年の国交正常化に伴う協定に「完全かつ最終的に解決された」と明記されている。この合意に基づき、首相は「解決済み」との立場を伝え、少女像の撤去も求めた。 村山富市内閣時の93年、政府は官房長官談話で旧日本軍の関与を認め「おわびと反省」を表明。65年協定で被害女性らの請求権は消滅したとしながら、95年に「女性のためのアジア平和国民基金」を発足させ、国民の募金などを原資に、元慰安婦への「償い金」支給に当たった。 国家による賠償ではないなどとして、実際には被害女性の多くが受け取りを拒否した経緯がある。ただ、日本政府は水面下で女性周辺に接触し、要望を聞く努力も続けてきた。 会談で首相は「人道的な見地から知恵を絞っていこう」と提案した。請求権の問題で譲れないのは当然だとしても、高齢化が著しい元慰安婦に手を差し伸べる手だてを考えることに異論はない。民間ベースの仕組みの活用も含め、理解を得る取り組みを模索したい。 韓国では来年、国会議員選挙と大統領選がある。政治の季節が迫っているとはいえ、韓国も冷静に対処することが肝要だ。 北朝鮮情勢を見れば分かるように安全保障、経済でも日韓は重大な利益を共有する隣国同士だ。両国関係の未来を開くため、懸案を乗り越える努力が双方に必要であろう。
2011年12月29日木曜日
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