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2011年12月29日(木)付

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中間貯蔵施設―「双葉郡に」やむをえぬ

福島第一原発の事故で、除染作業を進めるのに必要となる中間貯蔵施設を、福島県双葉郡内に造りたいと、細野環境相が地元に申し入れた。県内の除染で生じる汚染土壌などの処理につい[記事全文]

発送電分離―腰をすえて踏み込め

枝野経済産業相が「競争的で開かれた電力市場の構築」に向けて、改革の論点整理を公表した。家庭向け電力の自由化や卸電力市場の活性化など、10項目を掲げている。震災後のエネル[記事全文]

中間貯蔵施設―「双葉郡に」やむをえぬ

 福島第一原発の事故で、除染作業を進めるのに必要となる中間貯蔵施設を、福島県双葉郡内に造りたいと、細野環境相が地元に申し入れた。

 県内の除染で生じる汚染土壌などの処理について、政府は市町村ごとに仮置き場を設け、そこから中間貯蔵施設へ運び込む手順を描く。ところが、施設の計画がまとまらないため、仮置き場の確保が進まず、除染が滞りかねない状況に陥っている。

 双葉郡は、福島第一原発がある双葉、大熊両町をはじめ、原発事故の被災地だ。多くの住民が故郷を追われ、避難生活をしいられている。

 首都圏の電力のための原発を受け入れ、原発事故の被害に遭い、さらに後始末のための施設まで押しつけられるのか――。反発や割り切れなさを感じる人は多いだろう。

 ただ、汚染の状況を見ると、長い間、自宅に戻れない地域があるのも事実だ。政府は来春、「帰還困難区域」を指定する方針である。細野氏は、その中でも年間の放射線量が100ミリシーベルト以上と特に高い地域に施設を造る考えを示した。

 住まいや働く場へと戻せる見通しが立たない場所に造ることは現実的な選択だろう。やむをえない、苦渋の決断である。

 政府は施設の用地を買い上げたり借り上げたりし、建設から運営まで責任を持つとする。

 それだけでは不十分だ。施設の設置期間は「30年以内」とされている。施設周辺の住民の生活や仕事、教育をどう保証するか。住民の意向をくみ上げ、対策の全体像を示してほしい。

 施設の受け入れを求められた福島県は、最終処分を福島県外で行うよう求めており、政府も改めて約束した。しかし、現時点で最終処分場の見通しは全くない。あいまいなまま先へ進むと後でこじれかねない。政府はこのことも肝に銘じつつ、調整を進めるべきだ。

 場所の決定だけでなく、施設をできるだけ小さくとどめるための取り組みも重要になる。

 政府は、施設全体の面積を3〜5平方キロメートルと想定している。ただ、除染で出た汚染土壌から放射性物質をしっかり分離し、土を元の場所へ戻すことができれば、施設の規模は小さくなる。様々な企業や大学、団体が研究開発を進めており、成果に期待したい。

 中間貯蔵施設の場所の決定と建設を急ぐ。各地に仮置き場を確保し、除染を着実に進める。

 政府の申し入れを、復旧・復興への大きなステップにしなければならない。

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発送電分離―腰をすえて踏み込め

 枝野経済産業相が「競争的で開かれた電力市場の構築」に向けて、改革の論点整理を公表した。家庭向け電力の自由化や卸電力市場の活性化など、10項目を掲げている。

 震災後のエネルギー政策を考えるうえで、電力制度改革は原子力事業の見直し、自然エネルギーの育成と並ぶ大きな柱だ。

 野田政権として、現在の地域独占体制に大胆に踏み込む姿勢を示した意味は大きい。年明けからの議論では、スピード感をもって取り組んでほしい。

 とりわけ、試金石となるのは発電部門と送電部門を切り離す「発送電分離」だろう。

 議論自体は以前からある。2000年代初頭の電力自由化でも検討されたが、電力業界の猛反発を受けて小手先の改革にとどまった。

 例えば、送電部門と発電部門の会計を分け、同じ企業内でも互いに情報が行かないようにしたり、新たに参入する発電業者が既存の送電網を公平に使えるよう調整役を担う協議会を設けたり、といった手だてだ。

 いずれも形だけだった。新規参入しようとする側から、送電網を利用する際の割高な料金設定や運用の不透明さに不満の声が聞かれて久しい。

 競争的で公平な電力市場への整備は、震災を経てより重みを増している。脱原発による電力不足を補い、新たなビジネスを育てる基盤になるからだ。

 そのためには、送電網が既存の電力会社の都合ではなく、きちんと中立的に運用される必要がある。発送電の分離を今度こそ実効あるものにしなければならない。

 自由化だけでなく、政策的な規制も必要になる。

 80年代から90年代にかけて進められた通信業界の自由化では新しい事業者を料金や手続き面で優遇する制度が採り入れられた。それが競争を促し、インターネットや携帯電話などの新ビジネスへ結びついた。

 欧米では電力改革を進めるなかで、競争を妨害する行為を取り締まったり、電力の安定供給を確保したりするため、第三者的な監視機関を設けているところが多い。参考にすべきだ。

 電力改革は大仕事だ。エネルギー基本計画の策定や東京電力の国有化問題とも絡む。全体として大きな絵を描きつつ、段階を踏んで着実に進めなければならない。

 当然、既得権を失う電力会社の抵抗は必至だろう。政治家として、どこを向いているかが問われる。野田政権も野党も、腰をすえて取り組んでほしい。

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