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 この物語はフィクションです。
 この物語の舞台はこの世界とよく似た別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
第四章・追憶編
とある幕間劇~お嬢様の華麗な(?)休日~
 西暦二〇九五年十一月二日。
 国内は戦勝気分の浮かれたムードに包まれていた。
 国防軍が秘密兵器――とだけ発表されていて、その正体は明かされていない――により中華連合艦隊を基地ごと殲滅した、と報道されたのが一昨日の夜のこと。
 北京がワシントンに講和の仲介を打診した、というスクープがお茶の間に流れたのは昨日の深夜だ。
 余りに速過ぎる展開にスクープの信憑性を疑う意見もあったが、そういう冷静な判断力を保っていたのは国民のごく一部だった。
 多くの国民が俄か軍事評論家になり。
 普段は政治に無関心な少年たちが学校で声高に外交と現実的国際政治力学(パワー・ポリティクス)を語り合う。少女たちの呆れたような、迷惑そうな視線も、今回ばかりは抑止力になっていない。
 それは何も、学校の中だけの話ではなかった。
 画面の中で無責任にはしゃいでいる芸能人にため息をついて、七草真由美はテレビのスイッチを切った。

 時刻は現在午前十時。
 今日は平日であるからして、いつもであれば学校に居る時間だ。
 しかし、横浜事変の当事者だった魔法科高校各校は昨日に引き続き休校となっており、第一高校も例外ではない。
 年明けに受験を控えた身としては、学科はともかく今の時期に実習が休みになるのは心中複雑なものがあるはずだが、現場に居ただけの当事者ではなく正真正銘の当事者だった真由美は「良い休養」と割り切っていた。
 ――残念ながら、リラックスした気分にはなれなかったのだが。
『お嬢様、お寛ぎのところ失礼致します』
 テレビを消したのが分かったのだろうか?
 タイミングよくインターホンから聞こえていた家政婦の声に、偶然と知りつつ、真由美はそんなことを考えた。
「今開けます」
 答えて椅子から立ち上がる。
 本当はHAR〔ホーム・オートメーション・ロボット〕の音声認識インターフェイスに開錠を命じれば良いのだが、真由美は何となくそうせず、自分で歩いてドアを開けた。
 ドアの向こうにいたのは彼女の身の周りを担当している家政婦だ。
 今尚幅広く支持されているサブカルチャーに染まった人間ならば、最初が「メ」で最後が「ド」の単語に「さん」をつけて呼ぶであろう制服を着ている。
 まあ、スカート丈は脹脛(ふくらはぎ)の長さだし襟は首下まで覆っているし背中が大きく開いているということもない、実用的な制服だが。
 それにこの家では、この種の制服を着た家政婦の存在など少しも珍しくは無い。
 真由美は特に違和感を覚えることも無く、二十代半ばの家政婦に問い掛けた。
「何でしょうか」
「旦那様がお呼びです」
 それを聞いて、真由美は微かに顔を顰めた。
 またか、と思ったのだ。
 昨日も根掘り葉掘り事情を訊かれたばかりだというのに……そう心の中で愚痴っていた真由美は、次の一言に首を傾げた。
「応接間でお待ちになっていらっしゃいます」
 首を傾げたといっても、それもまた心の中に秘めた仕草だったが。
――応接間?
――書斎じゃなくて?
 それが、真由美の抱いた疑問だった。
「お客様なの?」
「そのようです」
 長い付き合い、と言える程ではないが、ほぼ専属で世話を焼いてもらっている相手だ。今の短いやり取りで、彼女が客の素性を知らないということは分かった。
「すぐに着替えて参ります、と伝えてください」
「お召し変えを、お手伝い致しましょうか?」
 一拍、考え込んで、すぐにピンと来た。
 今時のファッション事情を考えれば、一人で着られないドレスに袖を通す機会などそうそうあるはずも無い。
「大丈夫よ。ちゃんとフォーマルな格好をして行きますから」
 つまりは、そういうことを命じられているのだろう。
 案の定、真由美の答えに家政婦は、恭しくお辞儀をして引き下がった。

◇◆◇◆◇◆◇

 柔らかな生地で仕立てられたワンピースの(くるぶし)丈のスカートを、太腿(ふともも)の辺りで軽く持ち上げてレースで縁取られた裾を整え、真由美は応接間の扉をノックした。
「入りなさい」
 部屋の中から聞こえて来た、ように聞こえる声は、扉の化粧板に内蔵された平面スピーカーが再生した父親の声だ。
 肉声とほとんど聞き分けられない精度で再現されたその声は、家族だから分かる余所(よそ)行きのものだった。
 どうやら今日のお客様は、余りざっくばらんに話せない相手のようだ。
「失礼します」
 いつもの二割増しで淑女の仮面を装着し、トーンを下げた声で常套句を述べて、真由美はしずしずと入室した。
 目を伏せたまま来客の顔を窺い見る。
 父親の向かいに腰を下した男女は、どちらも彼女が見知った顔だった。
 それも、余り歓迎したくない類の知り合いだ。決して、嫌いという訳ではないのだが。
 しかしそんな内心はおくびにも見せず、真由美はにこやかな笑顔で父親の隣に立つと、二人の客に向けて優雅に一礼した。
「いらっしゃいませ、洋史(ひろふみ)さん。(みお)さんはお久し振りですね」
 彼女が声を掛ける前に、青年の方は立ち上がっていた。
 だが、少女の様な外見の女性は、座ったままだ。
 そして、その事に眉を顰める者はいない。
 表情を取り繕っているというのではなく、真由美も、父親の弘一(こういち)も、失礼だとは考えていない。
 何故なら彼女、五輪澪(いつわ・みお)が腰掛けているのはソファではなく車椅子だからだ。
 しかし彼女の弟、五輪洋史(いつわ・ひろふみ)は、失礼とは考えぬまでも後ろめたさを覚えているようで、答礼の口調は少し歯切れの悪いものだった。
「おじゃましています、真由美さん」
「どうぞ、お掛けになって下さい。澪さんもそのままでご遠慮なく」
「ありがとうございます、真由美さん。
 こちらこそご無沙汰しています」
 寧ろ本人の澪の方が開き直っている感じで、真由美の言葉にニッコリとあどけない笑みを返す。
 洋史が腰を下すのに合わせてソファに浅く腰掛けながら、この人は本当に自分より年上なのだろうか、と顔を合わせるたびに抱く疑問を真由美は今回も思い浮かべていた。
 五輪澪が今年で二十六歳になった、というのは嘘偽りの無い事実である。
 しかしこうして本人を視野に入れると、その事実を疑いたくなってしまう。
 身長は真由美より一、二センチ低い程度だが、真由美と比べると身体つきがまるで違う。
 一言で表現すれば、未成熟。「女らしさ」が余りに乏しい。
 実を言えば、彼女は足が動かない訳ではない。
 極端な虚弱体質の為、長時間の歩行に身体が耐えられないのだ。
 車椅子を使うようになったのは二十歳を過ぎた頃からのことだが、昔から身体が弱く十分な運動が出来ない為、食が細くその所為で栄養が不足するという悪循環、彼女の未成熟な体型はその結果だ。
 胸の膨らみも服の上から見た限りほとんど(全く)無く――真由美は言うに及ばず、あずさでもそれなりに胸はある――腰回りも少女の様に細い。サイズだけ見れば、ローティーンの少女に近い。
 顔立ちも体型に合わせたように幼い。
 何となく、「女性」に成り切れていない印象があった。
 しかし、幼い外見はともかく、大学卒業後は外出もままならず大学院もほとんどオンラインで済ませていた(もちろん特例である)という澪が、今日は一体何の用なのだろうか。
 まさか洋史さんについて来たということは無いと思うけど、と真由美は内心で首を捻っていた。
「今日はお別れのご挨拶に参りましたの」
 澪がそう切り出したのは、真由美の眼差しに宿っていた疑念を正確に汲み取って先回りしたのだろう。
「本宅にお帰りになられるのですか?」
 見透かされた動揺を押し隠して――動揺する必要など全く無かったのだが――真由美はそう問い返した。
 五輪家の本宅は愛媛県にあるのだが、澪は大学に通学する必要上で東京に出て来てから、そのまま東京の別宅で生活していた。
 彼女の大学院卒業と入れ替わるようにして弟の洋史が進学してきた為、そのまま一緒に暮らしていたのである。
「本宅にも戻るんですけど、その前に」
 澪が言葉を切って形式的な、内心を隠す為の笑みを浮かべ、洋史は僅かな表情の変化ではあったが、不機嫌そうに眉を顰めた。
「出征することになりました」
「しゅっせい、って……戦争に行かれるんですか!?」
 シュッセイという音を脳内で漢字変換して、真由美は思わず大声を上げてしまった。
「――失礼しました。しかし、何故……」
 自分の無作法を急いで詫びて、真由美は澪と父親に戸惑いの視線を向けた。
「公式発表は来週になるが、これは正式な決定だ」
 答えは父親から返って来た。
「澪さんたちは一旦佐世保基地に向かい、そこから海軍に同行して海路、西に向かう。行き先は私たちにも明かされていないが、目的は中華連合に講和条約締結を促す示威行動だ。
 言うまでもないだろうが、正式に発表があるまで他言は無用だ」
「ええ、心得ております」
 念を押す父親に、真由美は即、頷いた。
 もっとも、納得できたのは他言無用についてだけだったが。
 軍が澪を担ぎ出した理由は分かる。
 彼女は公式に認められている限り世界に十三人しかいない、隠れている、あるいは隠されている人数を合わせても五十人に満たないと言われている戦略級魔法師の一人。
 日本政府が公式に認定している、日本でただ一人の戦略級魔法の使い手。
 彼女の戦略級魔法「深淵(アビス)」の本領は海上兵力の迎撃にあるが、地上拠点攻撃用としても十分な破壊力を有している。彼女が同行しているというだけで、敵に多大なプレッシャーを与えることが出来るだろう。
 しかしそういう理由付けも、今回は合理性に乏しいような気がしていた。
――横浜沿岸部に対する侵攻に端を発し、朝鮮半島南端に大破壊をもたらした今回の軍事行動は、十月三十一日の段階で事実上終結している。
 領土割譲に準じる成果を求めるのでもない限り、こちらからの逆侵攻は、戦略的に見れば最早不必要なのだ。
 そこまで徹底的にやる覚悟も無く健康面で不安が大きい澪を何週間も同行させるのは、メリットよりもデメリットの方が大きいと言わざるを得ない――
 言葉で説明できるほど明確に意識している訳ではないが、真由美が概ね、このような違和感を覚えていたのである。
「僕も姉に同行します」
 似たような不満を抱いているのだろうが、政府が決定し、五輪家当主が受諾した以上、洋史にこれを覆すことは出来ない。
 彼は五輪家の次期当主と定められた身だが、今はまだ「次期」でしかなく、この段階で彼一人が異を唱えたところで事態は変わらない。
 それならばせめて自分がついて行って姉の手助けをしよう、という決意が洋史の顔に表れていた。
「本当は」
 悲壮感を漂わせ始めた弟の気分を変えようと考えたのか、澪の口調が冗談めかしたものに一転した。
「真由美さんが弟のお嫁さんになってくださる姿を見たかったんですけど」
 雰囲気を変える効果は十分にあった。
 但し、意図したものとは逆方向に。
 この台詞は、直前の話題に続けてしまうと、俗に言う「死亡フラグ」の様で冗談として笑えなかった。
「姉さん……」
「ごめんなさい……」
 深刻の度合いが増した空気の中、沈痛な声音で注意されて、澪はしゅんと萎れてしまう。
「ま、まあ、その話は、洋史君が戻って来てから改めて」
 ホストとしての義務感からか、弘一が早口でそうフォローすると、澪が弱々しいながら笑顔を取り戻し、洋史と真由美は表情の選択に窮した結果の無表情となった。
 洋史と会ったのが「お久し振り」で無かった理由、澪が洋史について来たのではないかと真由美がチラッと考えた理由がこれだった。
 洋史は真由美の婚約者候補の一人なのだ。洋史は五輪家の総領だから、真由美が洋史の婚約者候補、と言うべきかもしれないが。
 同じ十師族直系で、年の近い男女、男の方が跡取りで女の方は跡目を継ぐ兄がいる長女、という好条件である。
 実を言えば克人も同じ条件で、弘一は洋史か克人のどちらかに真由美を嫁がせたい、と考えていた。(将輝は年下ということで除外されていた)
 無論本人の意思もあるし、他にも無碍に出来ないお見合い話が舞い込んで来るので、婚約、という段階には至っていないが、洋史と真由美は五輪・七草両家のセッティングで何度も食事をしたり観劇したりの間柄なのである。
 ――大人たちの思惑に反して当人は二人ともその気が無く、その所為で揃ってポーカーフェイスになってしまっている訳だが。
 ただ、いつまでも「無言の行」では、雰囲気が悪くなるばかりだ、ということは真由美も弁えていた。
「ところで、いつご出立に?」
 そう水を向けてみると、ホッとした雰囲気を隠し切れずに漏らしながら――こういう脇の甘いところが真由美には不満だった――洋史が答えた。
「今週末に佐世保へ向かいます。
 出航は来週の金曜日と聞いています」
 真由美の方はと言えば、不満に思ったことなど一厘一毛も覚らせない。
「それはまた、急なお話ですね……どうかお気をつけください。無事のお戻りをお待ちしております」
 非の打ちどころが無い猫の覆面で武装して、真由美は座ったまま深く腰を折った。
「ありがとうございます」
 真由美は視線を自分のつま先に向けたまま、これでお役御免だろう、と考えていた。
「実は、出征に先立ち、真由美さんにもお力添えをいただきたく……」
 だから洋史がこう言い出したのを聞いて、顔を上げるスピードを調節するのに少し苦労しなければならなかった。
「私に、ですか?」
 言外に、「私に出来ることなんてありませんよ」という意思を込めながら、わざと少し子供っぽく首を傾げてみる。
 彼女の(いわお)の様な同級生なら気にも留めないだろうし、大人びた(生意気な、とも言う)下級生なら見透かして白けた眼差しを向けてくるような演技だが、洋史は動揺を隠し切れず目を泳がせていた。
「いえ、お力添えと言うより、お知恵を貸していただきたくて」
 しかし澪には通用しなかった。やはり同性には効果が薄いのか、あるいは子供っぽく見えても流石は「お姉さん」ということなのか。
「真由美さんも仰ったように、何しろ急なお話ですから、下調べをする時間も不十分で」
「そう、ですね。解ります」
 心底困った、という風情で頬に手を当てる澪に(こういう仕草は確かに大人の女性を感じさせるものだ、が、子供が背伸びをしているような印象が強く色気よりも微笑ましさをもたらしていた)、真由美は警戒感を押し隠して頷いた。
「魔法には魔法を以って対抗する。
 魔法師には魔法師で。
 それはきっと、共通だと思うんです」
 共通、というのは、日本も中華連合も、国を問わず共通、という意味だろう。
 そう解釈して、真由美は次の言葉を待った。
「姉が同行することは、あちらも十分、承知でしょう」
 洋史の台詞に、真由美は首肯して同意を表す。
 そもそも日本側に秘匿の意図は無く、尉官以上の氏名を連ねた参戦士官名簿に澪も洋史も交戦資格保有者として登載される予定なのだから。
 抑止力はその存在が相手に伝わってこそのもの。
 本当の意味での秘密兵器は、相手の譲歩を引き出す交渉材料とはなり得ない。
「姉の深淵(アビス)に海上兵力では分が悪い、ということは理解しているはずですから、あちらは空軍兵力と魔法の組合せを迎撃部隊の主力に据えるだろう、というのが我々の予想です」
 移動系・戦略級魔法「深淵」は、半径数十メートルから数キロメートルにわたり、水面を球面状に陥没させる魔法。海上で「深淵」の発動領域に呑み込まれた艦艇は、急勾配の水面を滑り落ち、あるいは落下し、転覆し、魔法解除に伴う水平面復帰が引き起こす巨大な波に海の藻屑と化す。半径一キロの「深淵」は最大で深さ一キロの半球面を作り出し、海中の潜水艦を容易に巻き込む。
 彼我の距離が近過ぎると、押し退けられた水が魔法を解除する前に押し寄せて、こちらもダメージを被ってしまうという欠点はあるものの、数十キロレベルの射程を持つ澪の戦略級魔法は海上・海中兵力にとって天敵と言えるものだ。
 しかし同時に、澪の「深淵」は航空兵力に対して全くの無力である。
 連続水面にしか発動できず、陸上拠点の攻撃に使用する為には予め十分な地下水を注入しておく必要があるなど、使用に際しての制約も多い。
 洋史が口にした敵軍の布陣は、他の選択肢が無いものだった。
「航空兵力の方は国防軍にお任せするとして、魔法師対策は僕たちで考えなければならない問題です」
 これも、異論の唱えようが無い事実。
 形式はともかく実質は、政府に所属していようと軍に所属していようと民間に所属していようと、日本国内の魔法師は現代魔法師も古式魔法師も十師族を頂点とする魔法師のコミュニティに所属し、その自治に従っている。
 国防軍所属の魔法師も当然同行するだろうが、彼らもまた「僕たち」の範疇に含まれるのだ。
「真由美さんは横浜で敵の魔法と敵を撃退した味方の魔法を見ていますよね?
 敵が使う魔法の傾向と、敵に対して有効な魔法についてご存知のことを教えていただきたいんです」
 実に難しく、厄介な質問だった。
 情報提供の必要性は疑いようも無く、断ることは出来ないし断ることでもない。
 しかし、である。
「……敵の魔法を見た、といっても、私はずっと後ろの方に居ましたし、実際に矛を交えたのはヘリの上からの狙撃、一度だけですから……」
 実際には直立戦車の破壊と合わせて二回だが、真由美は嘘をついた訳ではなく、単に、印象に残っていないだけだった。
「ですが、最後まで一般人の脱出に尽力されていたとか」
 一般人とは、非魔法師のこと。
 魔法師を特別な存在と見做(みな)し、非魔法師を無力な存在と断ずる偏見は、双方にとって不幸なだけだと真由美は常々感じているが、今はそれを指摘する場面ではない。
「最後まで、というのは誤解があるのですが……ヘリを待っていた間も、敵を食い止めてくれたのは同級生や下級生ですし」
「では、その方々を紹介していただけませんか。実際に中華連合の魔法師と交戦した一高生を」
 そう言われて真っ先に思い浮かべたのは、大人びた、生意気な、だけど頼りになる下級生のこと。
 大型トラックを塵に変え、眩いサイオンの輝きを纏い、奇跡に等しい治癒の技を揮った一年生。
 しかし、直後、ほぼ同時に蘇った「国家機密」の一言が、彼女の舌を麻痺させた。
「真由美さん?」
 口ごもってしまった真由美を、訝しげな目で見詰める澪。
 不審を表しているのは澪だけではなかった。
 洋史はともかく、父親に疑念を持たれたことに真由美は焦りを覚えた。
「あ、いえ……そうですね、十文字家をお訪ねになれば、詳しいお話を聴けると思います」
「克人君、ですか……」
 洋史は決して性格が悪いという訳ではなく、寧ろ好青年だが、普通の意味で良い人すぎる、と以前より真由美は感じていた。
 洋史が二歳年下の少年に対して競争心と劣等感を抱いているのは知っていたし、無理もないことだと理解もしているが、今の文脈で嫉妬を見せるのは(年下の少女に見抜かれるのは)、余り褒められたものではない。
「あと、お役に立てそうなのは、百家の渡辺摩利、五十里啓、千代田花音、といったところでしょうか。
 皆には私の方から連絡しておきますが」
「お願いします」
 まあ、相手の欠点ばかりあげつらっても、こちらが愉快ではない気分になるばかりだ。
 真由美は事務的に名前を挙げて、面談のセッティングを約束した。

◇◆◇◆◇◆◇

 あの後、その場ですぐに摩利、啓、花音へ電話を掛け(克人は不在だった)、全員のアポイントメントを取ってから、真由美は父親と共に五輪家の姉弟を送り出した。
 真由美の本音は、ここで一息つきたいところだったが、父親の表情を窺うに、解放されるのはもう少し先になりそうだ。
「真由美、少し話をしたいんだが、構わないかい?」
 案の定、エントランスポーチ(「ポーチ」と言うより「車寄せ」と表現した方が相応しいサイズだ)からホールに戻って来たところで、弘一が真由美を呼び止めた。
「書斎で話そう」
 返事を待たず、さっさと歩き出す。
 弘一は前世紀後半のエリートビジネスマンを彷彿とさせる外見をしている。どちらかと言えば線が細い身体つきで、威厳より人当たりの良さを感じさせる顔つきをしており口調もそれに応じて柔らかだが、家族に有無を言わさぬ家長主義的なところは七草弘一も十師族当主の例に漏れない。
 そして、無意味に反抗的な態度を取るのは真由美のスタイルではない。
 普段着ではまず身に着けない、裾の長い窮屈なワンピース姿のまま、真由美は父親の背中に続いた。

 書斎にはクラシックな本棚と重厚なデスクと、背もたれの高い革張りの椅子が一脚、置かれているだけだ
 弘一はさっさと椅子に腰掛け、必然的に真由美は立ったまま父親の言葉を聞くことになる。
 これはいつものことなので、真由美も今更、気にはしない。
「さっき真由美があげた名前の中に、一年生がいなかったようだが」
 弘一は二メートル程の距離を置いて立つ娘に、前置きも無くそう切り出した。
「千葉家のお嬢さんや吉田家の次男も中々活躍したと聞いているが?」
 真由美は心の中で「狸親父」と呟いた。
 弘一の容姿は狸というよりは狐、狐というよりは狼なのだが、自分の父親に関する限り、外見は中身を表していないと真由美は確信している。
「何分まだ一年生ですから、洋史さんや澪さんに上手く説明できないのでは、と思いまして」
(どうせ名倉さんから詳しい報告を受けているんでしょ)
 なるほど、と呟いている父親を見ながら、真由美はそんなことを考えていた。
 大体、昨日も同じような切り口で散々「訊問」を受けたばかりだというのに、しつこいところは狸というより猟犬ね、と心の中で毒づく。
「しかし、一年生とは思えない奮闘振りだったそうじゃないか。
 特に彼女、今年の九校戦でも大活躍した――」
「深雪さんですか?」
「そうそう、確か、司波深雪くんだったね」
 薄い色のついた伊達眼鏡のフレームが、キラッと光を放った、様な気がした。
 この眼鏡は右目の義眼を隠す為の物だが、何か特殊なギミックが仕込まれているのではないか、と真由美は疑いを持つことがある。
「とても優秀な女の子だそうだね。
 今年の主席入学で生徒会副会長、順当に行けば来年には真由美と同じ生徒会長か」
「ええ、とっても優秀な子ですよ。それに、とても綺麗(きれい)な子です」
「ほう、真由美の目から見てもそう思うのかい?」
「女の子の目で見ても、という意味ですか?
 そうですね、深雪さんの美しさは性別を超えていると思います」
 弘一の唇が少し(ほころ)んだ。
 眼鏡の奥の左目に、色欲の濁りが見られない。
 その事が余計に、真由美の警戒心を刺激した。
「それはそれは……『インフェルノ』や『ニブルヘイム』といった高難度魔法を使いこなすばかりでなく、非常に強力で特殊な系統外魔法まで使えるということだし……一度会ってみたいものだ。
 我が家にご招待できないかな?」
「さあ……それは、訊いてみなければ」
「そうだね、都合を訊いてみてくれないか。
 そう言えば確か、深雪さんにはお兄さんがいただろう?
 九校戦の時には真由美も力になってもらったと言ってたじゃないか。
 良い機会だから、お礼も兼ねて一緒にご招待したら良い」
 人当たりの良い笑顔が心の裡を読ませない。
 色のついたレンズが瞳の中の思惑を読み取らせない。
 だがそこは生まれた時からの付き合いだ。
 十八歳にもなれば、見透かされてばかりの一方的な関係でもなくなる。
(これが狙いなのね……!)
 確かに真由美は、ヘリの中で名倉に秘密を守ることを約束させた。
 達也の特殊な魔法に関するエピソードは、父親の耳に入っていない、はずだ。
 しかし、全く何も伝わっていないとも思っていない。
 楽観していない。
 海千山千の名倉は守秘義務に反しないやり方で雇い主に対して隠された事実を示唆しているだろうし、百戦錬磨の父はそこから得られる限りの情報を発掘しているはずだ。
 父は彼を――司波達也を疑っている。
 それも、自分が知らない、思い至らない「何か」について。
 真由美の中にはそれを知りたいという気持ちも燻っていたが、秘密に触れる忌避感の方が今はまだ強かった。
 秘密に触れて、今の人間関係が壊れてしまうことを無意識に怖れていた。
「それも、訊いてみないと……」
 そう答えを返すのが、今の彼女には精一杯だった。

◇◆◇◆◇◆◇

 真由美を下がらせた書斎で、しばらくデスクに向かっていた七草家当主は、ドアをノックする小さな音に顔を上げた。
「入れ」
 書斎の扉は応接間の扉と違って、スピーカーを仕込んでいない。
 呟くような小さな声が、分厚い扉と壁を通して廊下に届いたとは、常識的に考えれば、思えない。
 だがノックが繰り返されることは無く、書斎の扉は音も無く開いた。
 入ってきたのは、白髪をキレイに撫で付けた初老の執事、名倉だった。
「調べはついたか」
 断片的に過ぎる問い掛けだったが、名倉は主の許へ歩み寄ると、恭しく、無言でメモリーカードを差し出した。
 弘一は、データがマイクロメートルレベルの微細パターンで印刷された紙のカードをスキャナにセットし、デスクに広げたディスプレイに解読された文書を呼び出した。
「101旅団独立魔装大隊か……厄介だな。確か、四葉が熱心にアプローチしている部隊だったか」
「度々接触しているようですが、その目的は不明です」
「我々が軍に接触する目的は一つしかないと思うが?」
 ここで弘一が「我々」と言っているのは、七草家に止まらず、十師族に止まらず、国内の魔法師、全般のことだ。
 この国の魔法師は、地位を求めない。
 国家に裏付けられた「公式の」権力を手にすることを、十師族により禁じられている。
 その代わり、政府や軍や警察や財界といった、様々な意味で権力を持つ者に魔法のスキルを提供することで自らの存続する基盤を得る。
 使い捨ての道具ではなく使われ続ける道具となり、不可欠の道具となることで、主を操る(しもべ)と成り上がる。
 その為には「使われ続ける」こと、「必要とされること」が必要であり、継続的な協力関係が必要だ。
 それを得るには、力量だけでは不十分。
 鋭利な剣は、その刃が反転して自らに向かう恐怖をも(もたら)すもの。
 継続的な協力関係は、裏切らないという信頼関係が有ってこそのものだ。
 魔法師が軍に接触しているならば、それは信頼を獲得し、維持すること、協力関係を構築し、より堅固なものとすることを目的としている、と考えるのが、そのような事情に通じている彼らの常識だ。
 しかし、名倉は主人の言葉に頷かなかった。
「独立魔装大隊は旅団長・佐伯少将が、十師族から独立した魔法戦力を備えることを目的に創設したもの。
 隊長の風間少佐は九島退役少将、ひいては十師族に批判的な人物として知られております。
 いかに異端の四葉といえど、の部隊を取り込むのは難しいのではないかと」
 名倉の言葉に、弘一は眉を顰めた。
「……初めて聞いたな」
「これまで独立魔装大隊が七草家の利害に触れることはございませんでした故」
 では何故そんなことを知っているのだ、という質問を弘一は口元で引っ込めた。
 今回調べた、と釈明されればそれまでだし、自分に長く仕えている相手であっても、弘一は名倉を七草の身内とは考えていない。それはきっと、相手も同じなのだろう。
「……ならば何故、四葉は独立魔装大隊に接触している?」
 訊ねたのは別の事柄。
 そして質問した直後、弘一は自分でその答えを得ていた。
「旦那様のお考えのとおりかと」
 名倉に読心のスキルは無い。
 弘一にもそんなスキルは無い。
 だが確かめてみるまでも無く、名倉が自分と同じ推定に至っていることを弘一は確信していた。
 弘一はスキャナから抜き取ったカードを右手の人差し指と中指で挟んで、そのまま軽く手を振った。
 放り投げられた紙のカードが、空中でポッと光を放って一瞬で燃え尽きる。
 灰がゴミ箱に収まる前に、名倉は一礼して背を向けた。
 
◇◆◇◆◇◆◇

 七草の屋敷の広大な敷地の端に、細長い直方体を基調とした建物がある。
 シンプルでありながら無骨ではないその建物は、七草家の私設射撃練習場だった。
 七草家の、といっても、事実上、真由美の為に作られた施設だ。
 五年前、真由美が全国レベルの大会で初めてトロフィーを獲った時、その記念にと建てられた物。
 朝から気疲れを溜め込んだ真由美は、昼食後すぐこのシューティングレンジにこもって、もう三時間が過ぎていた。
 細長い杖にグリップをつけたような形状の特化型CADを構え、ひたすらターゲットを撃つ。
 撃ち抜く。
 破壊する。
 実銃を使っているのではなく魔法による射撃だから反動で手を痛めるということはないだろうが、精神的な疲労は寧ろ激しいはずだ。
 だが散々鬱屈をため込んでいた真由美には、その疲労すら心地良かった。
 ペース配分も考えずにひたすら撃ちまくっていると、気がついた時にはターゲットのストックが尽きていた。(正確には、ターゲットがいつまで待っても出て来ないのを不審に思って、ようやくストック切れのメッセージに気がついたのである)
 時計に目をやって今更ながら時間の経過に驚き、CADをラックに立てかけて後片付けに取り掛かる。
 ――取り掛かろうと、した。
「お姉ちゃん、ただいま!」
 しかし、情報端末を兼ねたゴーグルを外したところで不意に後ろから抱きつかれて、取り掛かる前から予定変更を余儀なくされてしまった。
「香澄ちゃん、いきなり飛びついたりしては、お姉さまのご迷惑よ」
「チェッ、泉美はホント、口うるさいんだから」
「香澄ちゃんがはしたないからです」
 迷惑というか、単によろけただけなのだが、すぐに離れてくれたのは(引き剥がしてくれたのは)正直ありがたかった。
「香澄ちゃん、泉美ちゃん、おかえりなさい」
 双子がいつもの口げんか――じゃれ合い、とも言う――をしている間に体勢を立て直して、真由美は改めて妹たちを迎えた。
「ただいまです、お姉さま」
 手を揃えて丁寧に一礼した少女が、双子の中で妹の方の七草泉美(いずみ)。肩に掛かるストレートボブの、フェミニンな少女だ。
 最初に抱きついてきたのが真由美の妹で泉美の双子の姉、七草香澄(かすみ)。ショートカットの、泉美とは対照的にボーイッシュな少女である。
 この二人は一卵性双生児だが、ファッションや雰囲気が正反対な為、普通にしていれば見間違えることはまず無い。
「何の練習をしてたの? 実体弾の移動魔法じゃないよね。仮想領域魔法?」
「仮想領域伸展型の貫通魔法でしょうか? お姉さま、最近よくこのタイプの魔法を練習されてますわよね?」
 ただ魔法に対する感性の鋭さは共通している。
 真由美はどちらかと言えば魔法行使にあたり理論より感性を優先する方だが、この双子も同じく感性を重視するタイプ。発動された術式を見抜く直感的な洞察力は、もしかしたら真由美より優れているかもしれない。
 今も、ターゲットに残された「弾痕」から、使用された魔法を正確に見抜いてみせた。
 真由美はこの妹たちを可愛がり過ぎなくらい可愛がっており、二人も真由美に良く懐いている。
 しかし最近はそういう年頃なのか、少し生意気なところが目に付くようになっていた。
「それにしてもお姉さま、随分と撃ちまくられましたわね」
 ターゲットの残数がゼロになっているのを目敏く見留め、泉美が少し呆れたような声を出すと、
「さては、洋史さんが来たんだね?」
 香澄がにんまりと笑ってそう言った。
「お姉ちゃん、洋史さんが来ると決まって機嫌悪くなるもんね」
 動揺を覚られないよう咄嗟に表情を消したが、隠し切れたとは真由美も思っていない。
 この二人はとにかく、勘が鋭いのだ。
 それとも、自分が分かり易すぎなのだろうか? と、真由美は少しブルーになった。
「ボクは洋史さん、そんなに悪い人じゃないと思うけどなぁ」
「悪い人じゃありませんけど、それだけです。
 あんな頼りない(ひと)はお姉さまに相応しくありません」
「泉美は採点が辛すぎだよ。
 じゃあ、どんな人だったらいいのさ。
 例えば克人さんとか?」
「チョッと香澄ちゃん、十文字くんと私は別に」
「そうですね、器量に不足はありませんけど、乙女心にご理解がないと申しましょうか、そこが些か残念なところですわね」
 何故か――と真由美は本気で思っている――克人の名前が出て来て、真由美は慌てて妹たちの「誤解」を解こうとしたのだが、泉美も香澄も聞いていなかった。
「ですわね、って、ボク相手にキャラ作ってどうするのさ……
 それはともかく、男の人にオトメ心が理解できないのは当たり前だと思うけど?
 ボクたちだって男の人が何を考えているのかなんて分からないんだからさ」
「甘いっ! 甘すぎですわ、香澄ちゃん!
 乙女が男心を理解するのは恋人同士になった後で十分なんです!
 乙女のハートを射止める為には、まず乙女心を理解していただかなくては」
「乙女のハートって……いいけど。
 じゃあ要するに、器量以外の何があれば良いわけ?」
「やはり愛……は、いきなりハードルが高過ぎですから、熱い恋心でしょうか」
「生まれた時から一緒だけど、泉美がこんな少女趣味(ロマンチスト)だとは知らなかったよ。
 お堅いだけかと思ってた」
「今『ロマンチスト』におかしな字を当てていたような気がするのですけど……まあ、いいです。
 それに、わたくしがロマンチストなのではなく、香澄ちゃんが気にし無さ過ぎなだけです」
「ハイハイ、どうせボクは女の子らしくないですよ。
 で、結局、お姉ちゃんに恋してればいいの?
 服部さんとか?」
「香澄ちゃん! 貴女が何故はんぞーくんのことを知ってるの!?」
 いつの間にか(と言うか最初から)置いてきぼりにされていた真由美も、流石に黙っていられなかった。
 真由美には、妹たちに服部を紹介した記憶がまるで無かった。
「お姉さまにまとわりつく悪い虫のことでしたら、知っていて当然です」
「泉美ちゃん、まさか貴女たち、覗き見なんてしてないでしょうね!?
 て言うか、私が誰とお付き合いするとか、もういいから!」
「やだなぁ、お姉ちゃん。ボクたちだって学校があるんだから、自分で覗き見になんて行けるわけ無いでしょ」
(他の人を使ってだったらやるの!?)
 心の中の悲鳴は、もちろん他人には聞こえない。
 いや、もしかしたらこの双子には何らかの形で聞こえていたかもしれないが、そんな素振りはまるで見せない。
「それにわたくしたちはお姉さまのことを心配しているのですよ?
 お姉さまったらこんなにお美しいのに、十八歳にもなって恋人の一人もいらっしゃらないなんて……
 もうすぐ高校も卒業ですのに」
「それは出来ないんじゃなく私の立場として……」
 作らないだけで、と言いかけて、それが随分と言い訳がましく聞こえることに気づいた。
 しかも結構「情けない」あるいは「(みじ)めな」類の言い訳だ。
「だ、大体、男の子とお付き合いしたことがないのは貴女たちも同じじゃないの」
 で、急遽話題を変えてみたのだが、これもかなり情けない台詞であることに真由美は気づかなかった。
 ――妹たちからカウンターを喰らうまでは。
「そこはほら、ボクたち、まだ十五歳だし」
「告白なら今日もお二人ほど。丁重にお断りいたしましたが。
 なかなか、これは、という方には巡り会えないものですね」
「お堅いんだよ、泉美は。
 とりあえず付き合ってみりゃいいじゃん」
「香澄ちゃんは危なっかし過ぎます。
 香澄ちゃんのボーイフレンドの皆さんが全員、香澄ちゃんのことを『ただのお友達』だと思っている訳でも無いでしょうに……
 そういうお気楽な心得だと、いつか痛い目に遭いますよ」
 自分の情けなさを自覚して、妹たちの会話をBGMに、真由美は地味に落ち込んでいた。

◇◆◇◆◇◆◇

 十一月四日。
 ようやく授業が再開した日の昼休み。
「会長、じゃなくて、真由美さん。
 何だか、随分お疲れみたいですけど」
 事後処理の手伝いにと生徒会室を訪れた真由美は、あずさから心配そうな目を向けられていた。
「ん、まあね。
 でも大丈夫よ」
「来週まで休まれていた方が良かったのでは……」
 今日は金曜日。
 土曜日も授業があるとはいえ、事実上の自由登校になっている三年生は、今日明日と自宅学習にしている生徒も少なくない。
「自分で思っている以上に疲れがたまっている、ってこともありますし」
「そうね。だから学校に出て来たの」
 真由美の回答に、あずさはキョトンとした顔で首を傾げている。
 まあ、家にいると余計に疲れるから学校に出て来た、なんて他人には中々理解できないものだろう。
 説明するのも何だか恥ずかしいことのような気がする。
 だから真由美は、あずさの疑問には答えず、片手を口に当て「ふわぁ」と小さくあくびをした。
 両手をテーブルの上に重ねる。
 頬をその上に乗せる。
 突然テーブルに突っ伏して居眠りを始めた真由美に、あずさが目を丸くしている気配がしたが、
 真由美は気にせず、すやすやと寝息を立て始めた。

 この番外編は第五章公開時に「魔法科高校の少年少女」の方へ移動する予定でしたが、構成について再検討中ですので当面このままにさせていただきます。


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