この物語はフィクションです。
この物語の舞台はこの世界とよく似た別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
「私たちも今月で引退かぁ……」
夏休みの話題で盛り上がっていた生徒会室の空気が微妙に変わったのは、真由美のこの発言がきっかけだった。
相変わらず男女比率が著しく偏っている生徒会室のランチタイムは、新学期初日ということもあって「一夏の体験談」で盛り上がっていた。
最早男扱いされていないのか、それとも居ることさえ忘れられているのか――故意に、という可能性もあるが――異性には普通聞かせられないような話題もポンポン連発されて、些か居心地の悪い思いをしていた達也は、少し前から魔法書(風紀委員会室にあった珍しい紙媒体の書籍だ)へ目と意識を移していたので、どういう経緯でその話題が出たのかは聞き逃していた。
「そういえば、会長選挙は今月でしたね」
だがもしかすると――というか、多分確実に――彼にも関わって来る話題なので、聴覚が意識に働きかけたのである。
「ええ。
選挙は月末ですが、一応の体裁を整える必要がありますので、来週中には選挙公示をして諸々の準備に取り掛からなければなりませんね」
答えは鈴音から返って来た。
しかしこの先輩、十八禁とはいかないまでも十五禁には該当するであろう「女の子同士のお喋り」の最中までこの沈着冷静な表情が崩れないというのは、年頃の少女として一寸、どうだろうか?
という疑問を達也は抱いたが、再質問の内容は当然別だった。
「体裁だけなんですか?」
実質は無いんですか? という趣旨の質問だが、鈴音は達也の意図を正確に理解した。
「立候補者が複数いれば、選挙は行われます。
とは言っても、生徒会長になろうという生徒は限られていますから、所詮は身内同士の争いですが」
「身内同士?」
「過去五年、生徒会長は主席入学だった生徒が務めています」
そう言えばこの部屋に呼び出された最初の日に、そんなことを聞かされた記憶がある。
「つまり、選挙をするまでも無く生徒会長は決まっていると?」
「そうとは限りません。過去五年、ということは、六年前は違っていたということです。
とは言っても、直前の生徒会役員でなかった生徒が生徒会長になった例はありませんし、今回もまた、選挙になったとしても、服部君と中条さんの一騎討ちでしょうから。
おそらく選挙前に、話し合いで立候補者は一本化されるでしょう」
なる程、それなら確かに「身内同士」だ、と達也は納得した。
納得できなかったのは、有力候補と名指しされた本人だった。
「わたしには生徒会長なんて無理です!
話し合いなんてしなくても、立候補するつもりはありません」
今の段階から涙目になっているようでは、確かに生徒会長は務まらないだろうな、と、これまた達也は納得した、が、
「そうすると、六年ぶりに主席入学以外の生徒会長の誕生となるな」
「次の会長は、はんぞーくんかぁ……」
口とは裏腹に、風紀委員長と生徒会長は納得していない様子だった。
確かに、個人的な好悪は別にして、ポリシー的にはあずさの方がこの二人には近いだろう。
だから彼女を次の会長に据えたい、と考えるのも分かる気はするのだが……
(……本人にヤル気が無いのでは、な……)
全く立候補者がいないのなら、あずさを説得するという必要性も出てくるだろうが、服部が立候補するならそれが一番順当ではないか、と達也は考えた。
「去年の主席入学は中条先輩だったんですね」
しかし深雪の考えていたことは、達也と角度が違っていたようだ。
多少意表を衝かれた感もあったが、妹の指摘に、達也は「なるほど」と思った。
深雪の指摘がきっかけで、自分も「去年の主席入学者は服部だろう」と、何となく思い込んでいたことに達也は気付かされた。
「そうなのよ。
今でも総合成績はほとんど差が無いのよね?」
深雪に頷き、あずさ本人に訊ねた真由美に、答えを返したのは鈴音だった。
「理論は五十里君が学年主席で中条さんが次席、服部君が三席。実技は服部君が学年主席で中条さんが僅差で次席。総合成績も服部君が主席、中条さんが僅差の次席でした」
わざわざ、学内掲示板に貼られた一学期の席次表を、会議用の大型ディスプレイに映し出して説明する意味は……特に無いんだろうな、と達也は思った。
朱に交われば……と言うが、真面目一方の生徒なら、そもそも最初からこの会長やこの委員長と対等に渡り合えるはずが無いのだ――というのが達也の鈴音に対する評価だったりする。
「実技の成績も中条先輩の方が千代田先輩より上なんですね?」
この表は深雪も既に見ているはずだが、九校戦を通じて親しくなった名前を改めて見ると、以前とは違う印象が生まれるのだろう。
「花音のヤツは大雑把だからな」
「せめて、豪快さが持ち味、と言ってあげるべきじゃない?」
身も蓋もない摩利の評価を、真由美が苦笑しながら修正した。
「逆に細やかさがあーちゃんの持ち味だから、九校戦のようなスポーツ系競技には向かないのよ」
「だが来年は中条も選手として出なければならないだろうな」
真由美のフォローには他人事のような顔をしていたあずさだったが、摩利が投げ込んだ爆弾にはビクッ、と身体を震わせて反応した。
「……話題を振ったあたしが言うのも何だが……来年の話だぞ、中条?
今からビクビクしてどうする」
「そ……そうですよね、来年のことですよね……
来年は千代田さん以外にも、司波さんとか北山さんとか光井さんとか、有望な選手も一杯いますし……」
上滑り気味の笑い声を無理矢理交えながら応えたあずさを、摩利は呆れ顔で見返した。
「確かに今年の一年女子は有望なヤツが多かったが……学年次席が下級生に責任を押し付けてどうする」
「いえ、そんな、押し付けるだなんて、わたしはただ、適材適所といいますか、その……」
それなりに筋の通ったことを言っている気もするが、半眼で見据えられただけで反論も出来なくなるようでは、確かに生徒会長は辛いかもしれんな、と達也は改めて思った。
◇◆◇◆◇◆◇
六週間ぶりに足を踏み入れた風紀委員会本部は、珍しく賑わっていた。
「会議の予定はお聞きしておりませんが」
何故か出入り口の横に立っていた摩利に訊ねると、彼女は勿体振った仕草で頷いた。
「そうだろうな。
あたしも通知した記憶が無い」
「では、新学期初日のセレモニーでも?」
「発足式は年度初めしかやらないよ」
「特に委員会の行事という訳ではないんですね?」
「まあね」
摩利のこの回答に、達也は軽く一礼して、自分用のビデオレコーダーが収納されているロッカーへスタスタと歩み去った。――が、三歩進んだところで足を止めた。
後ろを振り返り、先程と同じ距離に立っている――つまり、歩調を合わせてついて来たということだ――摩利へ向き直った。
「……何でしょうか?」
「行事ではないが、風紀委員会にとって一大イベントであることに変わりは無いよ」
「はぁ……」
達也の気が抜けた返事に、摩利は「やれやれ」と言いたげな表情を浮かべた。
「……その世事に関心が薄いところは直したほうがいいぞ」
「主なニュースは目を通していますが」
「あたしが言っているのはもっと身近のことだよ」
そう言いながら首を振っているのは「処置無しだな……」という意思表示だろうか。少なくとも達也にはそう見えた。
結局、折れたのは摩利だった。
「風紀委員には任期が無い」
「知っています。選出元が入れ替わっても辞める必要が無いというのは、少し不思議な気もしますが」
「しがみついたからといって旨味のある地位じゃないしな。卒業生の分は毎年必ず入れ替わるのだし、卒業前に辞める委員も少なくない。
実は、前学期末付けで部活連選任枠の三年生が一人、辞任していてね。
今日はその補充が来るんだよ」
「歓迎会ですか?」
「いやいや、そんな団結力のある組織じゃないことくらい、もう君にも分かっているだろう?」
確かに風紀委員会は「団結」よりも「分裂」や「対立」の文字が似合う組織だ。
「ただ、女子が風紀委員に選ばれるのは珍しいのでね。
暇人が見に来てるんだよ」
「委員長が選ばれた時も注目を浴びたのでしょうね」
達也の指摘に、摩利は不機嫌な顔で黙り込んでしまった。
どうやら、余り思い出したくない類の出来事だったようだ。
もしかして、後輩が不快な思いをしなくても済むように、出入り口で目を光らせていたのだろうか。
「……まあ、あたしのケースは置いておくとしてだ。
今回、新委員を迎えるに当たり、しばらく君に面倒を見て貰いたいんだが」
「……俺が、ですか?」
達也が改めてこう問い返したくなったのも、道理だろう。
雑用は下っ端の仕事だが、新任者のフォローは一番の下っ端に任せるような仕事では断じてない。
「君が、だ」
だが摩利は、百パーセント本気の顔だった。
「……来られる方が誰なのか、分かったような気もしますが……それでも、一番の下っ端に任せる仕事ではないと思いますが」
「いやいや、風紀委員会に君以上の適任者はいないよ」
風紀委員会、にアクセントが置かれた言い方に思わず納得してしまった時点で、達也の敗北は決まった。
新委員は達也の予想したとおりの人物だった。
「これで一通り顔合わせも終わったし……花音、今日のところは達也くんに同行して、巡回のイメージを掴んでくれ」
花音のような有名人に顔合わせが必要だとは思えなかったが、そこはお約束ということだろうか。
あちこちでやたらと盛り上がっていた着任の挨拶を終えて、その間待たされていた達也の所に戻って来た摩利の台詞がこれだった。
相変わらず、達也に拒否権は無いようだ。
「えーっ!? 摩利さんが教えてくれるんじゃないんですか?」
本人を目の前に、もしかしなくても結構失礼な態度だが、達也は心の中で「もっと言ってやってくれ」と花音を応援していた。
「あたしじゃ参考にならんよ。
後ろめたいヤツは、あたしの姿を見るとコソコソ逃げてしまうからな。
その点、達也くんは委員会の中でも事件遭遇件数ナンバーワンだ。ついでに検挙数もナンバーワンだが」
「あっ、そうなんですか。なるほど」
ついで、なんですか? と達也としては問い詰めたい気分だったが、すぐに諦めた。
徒労に終わることは目に見えていたからだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「巡回ルートに決まりはありません。
校内を隈なく見て回る必要もありません。
俺は他の委員の巡回に同行したことはありませんが、特定のルートだけを回る委員の方が多いようですね」
「ふーん……司波君って順応性が高いのね」
「はい?」
「だって、入学早々、校内パトロールなんて大役を最初から一人でやってたんでしょ?
新勧週間の武勇伝はあたしも色々聞いてるわよ」
「まあ、あの時は色々と……」
何だか見当違いな感心をされているような気がしたが、敢えて反論するような真似はしない。――いきなり一人で巡回業務へ放り出されるのが普通であり、花音の扱いが過保護なのだ、等と本当のことを言っても、誰一人幸せにはならない。
「俺の場合は実習室を重点的に見て回ることにしています。
過去の巡回報告を見ても、教室で問題が起こったケースは僅かですから」
「教室はモニターされてるからね。小説みたいに怪シカランことなんて、やりたくてもできないだろうし」
「小説、ですか……」
一体どんな小説を読んでいるのか少なからず興味をそそられたが、「官能小説」等と告白されたらどんな顔をしていいか分からなくなるので、好奇心には蓋をすることにした。
「体育館やグラウンドには行かないの? 実習室より問題が起こりそうだけど」
「新入生勧誘期間のような特別なケースでない限り、そっちは原則として部活連の管轄です。
勿論、一旦私闘が発生すれば、風紀委員会の出番になりますが」
花音は部活連枠で委員会入りしたのだし、彼女自身も陸上部のレギュラー(専門は障碍物競争)なのだから、部活連の自治特権を知らないはずは無い。
「見て回るだけなら構わないでしょ?
何か問題が起こってから駆けつけたんじゃ手遅れだし」
それなのにこんなことを言い出したのは……なわばり荒らしをやる気満々なんだろうなぁ、と達也は思った。
◇◆◇◆◇◆◇
花音の強い要望により、今日の巡回は体育館を重点的に見て回ることになった。(自分がお供をする必要があるのだろうか、と達也は結構真剣に悩んだ)
校舎との位置関係で、最初に訪れたのは第一格闘技用体育館。
単なる偶然だが、今日は剣術部の練習日だった。
「……司波兄。お前って見る度に連れてる女が違うのな」
「人聞きの悪いことを言わんで下さい」
本気か冗談か判別がつきにくい口調で――何割かは間違いなく本気が混じっていたように達也は感じた――話し掛けて来たのは桐原だった。
「そうよ、桐原君。
そんなこと言ったら、千代田さんに失礼じゃない。
千代田さんは五十里君一筋なんだから」
「……まあ、それでも良いですけど……」
花音を身悶えさせ、達也に深い溜息をつかせた発言の主は紗耶香だった。
剣道部の紗耶香が剣術部の練習に参加している理由は、部活時間を利用したデートの為、ではない。
春の事件以来、魔法系競技のクラブと非魔法競技系のクラブの間で、もっと相互の交流を持つべきだという気運が高まった。特に元々同じ競技で、ルール上、魔法を許容しているか許容していないかの違いで分かれていたクラブは、自分たちの殻に閉じ籠もらずお互いの長所を積極的に取り入れていこう、という風潮が生まれた。
その先鞭をつけたのが剣道部と剣術部であり、紗耶香と桐原はそもそものきっかけ、そもそもの当事者として、イの一番で相互交流に参加しているのだった。
――だからと言って、練習中に二人が仲良くしていない、ということではないのだが。
閑話休題。
達也は、紗耶香の口添え〔?〕にも関わらず、まだ胡散臭げな目つきをしていた桐原に向かって事情を説明することにした。
「渡辺委員長から同行するように命じられたんですよ」
それでも良い、と言いながらもやはり、言い訳せずにはいられなかった。
自分から手を上げたならまだしも、仕事を押し付けられて汚名まで擦り付けられたのでは堪ったものではない。
「ほぉ〜、じゃあ、あの噂は本当だったんだな」
桐原は予想外にあっさり信じてくれたが、意味ありげなオマケがついていた。
「噂ですか?」
「えっ、司波君は知らないの?」
「千代田を次の風紀委員長にしようと、渡辺委員長が根回ししてる、って噂なんだがな。
正直、あの人が根回しなんて面倒臭い真似をするか? って思ってたんだがよ」
その噂は完全な事実であることを達也は知っていたが、この場面では沈黙を選択した。
「だから言ったじゃない。千代田さんだったら例外だって。
渡辺先輩は千代田さんを特に可愛がってるんだから」
彼が何も言わなくても、盛り上がりに欠けることはなかったが。
「へぇ? あの人、見掛けだけじゃなく中身もタカラヅカな人だったのか。
まっ、確かに委員長と千代田だったら、絵になるよな」
少女歌劇は近代以降に発生した舞台芸能の中で最も伝統があるものと言える。だから「中身が宝塚」という評価は別段不名誉なものではないと達也は感じたのだが、花音の感性は異なる結論を出したようだ。
「ホ〜、あたしだけならともかく、摩利さんまで百合扱いするなんて……
桐原君、いい度胸じゃない」
「チョッと待て!」
花音の背後から不動明王も斯くや、とオーラの炎が燃え上がった。(正確には活性化したサイオン粒子の噴出)
「俺は『百合』だなんて言ってねえぞ!」
単純なパワーなら二年生ナンバーワンの呼び声も高い花音の怒気に、桐原は大慌てで手と首を振った。
「問答無用」
ヤケに力強い花音の宣告に、達也は深く溜息をついて、
右手を素早く、軽く、突き出した。
「ひゃんっ!」
調子外れな悲鳴と共に、サイオンの乱舞が収まった。
「な、何するのよっ!」
床にへたり込んだまま、赤い顔で達也を詰る花音の両目は、苦痛ではない原因で潤んでいた。
「……予想以上の効き目でしたね」
八雲譲りの点穴術。
背中にある「快感のツボ」――今朝教わったばかりだった――を突いた己の人差し指を、繁々と見ながら嘯くように答えて花音を益々赤面させた後、達也は表情を改めた。
「千代田先輩、風紀委員が自ら騒動を起こしてどうするんですか」
「うっ……だって……」
「だって、ではありません。いいですか、セクハラを受けた場合は後で懲罰委員会に訴追すればいいんです。
風紀委員の証言は原則として単独で証拠採用されるんですから」
「おいっ!?」
いきなりの風雲急を告げる展開に、慌てて桐原が口を挿もうとするが、達也も花音も目を向けさえしなかった。
「い・い・で・す・か? こんな瞬間湯沸し機みたいな真似は、今後慎んで下さい」
「……分かったわよ」
拗ねた顔で目を背けた花音は、「……今の司波君のもセクハラなんじゃ……?」という紗耶香の呟きに気付かなかった。
「そう言えば生徒会長選挙も、もうすぐよね?」
ようやくカオスな状況が収まったところで、風紀委員長後任の話から連想したのか、紗耶香が本日二度目(達也にとって、ということだ)の話題を切り出した。
「月末だろ? もうすぐ、って言や、もうすぐだが」
「服部君と中条さんの一騎討ち、って言われてるね」
同じ二年生故か、一科だ二科だに拘りがない故か、花音もすぐ、フレンドリーに会話へ加わった。
「いや、服部は出ないぜ」
達也にとってこの話題は本日二度目、だが、今回、新事実が発覚した。
「えっ、そうなの?」
「ああ、服部のヤツは、部活連の方で次の会頭に推されてんだよ。
本人もその気で、会長選挙には出ないって言ってたぜ」
「へぇ〜、服部君がねぇ……
だけどまあ、順当かな。部活連の方は腕力が無いと務まらないもんね」
花音が納得、といった態で頷いている。
言われてみれば確かに、部活連は生徒会より荒っぽいイメージがある。
ただでさえ引き抜きとか場所取りとかで揉める要素が多いのだ。
今は克人が睨みを利かせているから大した騒動も起こらないが、並大抵では同じようには行かないだろう。
しかし――と、達也は思う。
これで次期生徒会長の最有力候補が、二人とも選挙に出ないことになった。
次の生徒会長は、誰になるのだろうか……
◇◆◇◆◇◆◇
パトロール終了後の帰り道。
生徒会が終わった深雪。
クラブが終わったレオ、エリカ、美月、雫。
実験室で自主トレを終えた幹比古。
図書室で(表向き)雫を待っていたほのか。
達也はいつものメンバーと久し振りに合流し、駅までの道の途中にある喫茶店でテーブルを囲んでいた。
そして、何時の間にかまたしても、生徒会長選挙の話題になった。
「う〜ん……正直言って、チョッと頼りねえかなぁ」
レオはあずさに厳しい意見。
「でも実力はピカイチ」
「生徒会長は、優しい人の方がいいような気がします」
雫と美月は、あずさを支持する派のようだ。
「とにかく、服部先輩の可能性は完全に消えたんだよね?」
「ああ。本人から聞いたらしいから間違いないだろう。
いくら会長でも、部活連の次期会頭に決まった人間を横取りできないだろうからな」
「そうねぇ……いくらあの人たちでも、十文字会頭には敵わないような気がするな」
「ではやはり、中条先輩が立候補するしかないのではありませんか?」
「でも本人はやりたくない、って言ってるんでしょ?
……そうだ、深雪が立候補しなさいよ!」
「チョッとエリカ、何を言い出すの?」
予想外の台詞に、深雪が目を丸くした。
だがエリカは意外と、自分の思い付きが気に入っているようだ。
「別に一年生が生徒会長になっちゃダメ、って規則がある訳じゃないんでしょ?
深雪はミラージの本戦でも優勝してるんだし、実力も知名度もバッチリだと思うけどな」
「無茶言わないで。
大体、高校生の『実力』は魔法力だけで測られるものではないわよ?」
「学力だったら達也くんがいるじゃん。
生徒会長になったら役員を自由に任命できるんだよ」
「そうですね。七草会長は、一科生縛りのルールを廃止するって仰ってましたし」
「美月まで……」
表面的には窘める台詞だが、深雪の声には揺らぎが感じられた。
「そーそー。
達也くんを風紀委員会から引き抜くことだって出来るんだよ……」
メフィストフェレス(の少女版)の様なエリカの囁きに、深雪は目に見えて動揺した。
「逆に達也が生徒会長になってもいいんじゃない?」
「おっ、そりゃ面白そうだな」
幼馴染に張り合ったわけでもないだろうが、今度は幹比古が突拍子も無いことを言い出した。
悪乗り気味に同調するレオを呆れ顔で見遣り、達也は「それゃ無理だ」と言い切った。
「確かに深雪だったら一定の支持を得られるかもしれんが、俺に票が集まるはず無いだろ」
「でも達也さんは、九校戦優勝の立役者」
「いや、雫、それはな……百歩譲って優勝に貢献があったとしても、競技には一つしか出てないんだから。
裏方の仕事なんて表から見たって分からないって」
「でも私は、達也さんが立候補したら絶対投票します!」
「わたしもです、お兄様。
お兄様が選挙に出られるなら、わたしは応援演説でもビラ配りでも何でも致します」
両隣で微妙に張り合ってる深雪とほのかの熱気に当てられたのか、達也は軽い頭痛を覚えた。
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