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 この物語はフィクションです。
 この物語の舞台はこの世界とよく似た別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
第二章・新人戦編
2−(25) スナイパー
 最終日を待たず総合優勝を決めた第一高校だったが、祝賀パーティは明日以降に繰り延べられた。(またぁ? という声もあったが無視された)
 明日は九校戦を締め括るモノリス・コードの決勝トーナメントが開催される。
 第一高校チームは順当に予選一位でトーナメント進出を果たしており、選手もスタッフもパーティどころではなかったのだ。
 とは言っても残り一競技であり、半数以上のメンバーが手空きの状態になっているのも事実。
 ミラージ・バットの優勝により一高の総合優勝を決めた形となった深雪を中心に囲んで、プレ祝賀会的な意味合いのお茶会がミーティングルームで開催されていた。
 仕切り役は真由美と鈴音、参加者は女性選手・スタッフが中心。もっとも男子生徒の姿が全く見られない訳ではなく、部屋の隅で一年生の男子生徒も怪我人を除いて居心地悪そうにカップを持っている(二、三年生の男子は明日の試合の準備に駆り出されている)。
 この場に幹比古とレオだけでなくエリカと美月の姿まで見られるのは、真由美の、単なるお祝い以上の意図によるものだろう(エリカは固辞の姿勢だったが、深雪が強引に引っ張って来た)。
 しかし、何故かこの場に、達也の姿が無かった。
 
「……んで、朝まで起こすなって?」
「ええ」
「無理もない」
「ずっと大活躍でいらしたものね……」
 一年生女子が一人の男子生徒の噂話をしていたところへ(順に、エリカ、深雪、雫、ほのか)、二年生のカップルが近づいてきた。
「あれっ? お兄さんはもう寝ちゃったの?」
 花音と五十里の二人である。
「ええ、流石に疲れた、と申しまして」
「それは……そうだろうね。怪我もしていたんだし」
 深雪の答えに、五十里が深く頷いた。
 そして深雪の隣に目を遣って、軽く目を瞠った。
「んっ? エリカくんじゃないか」
「啓先輩、明日の調整は終わってるの?」
「いや、チョッと一休み……って言うか、花音に引っ張ってこられたんだけど」
 軽くからかうように問われて、五十里が苦笑いを浮かべる。隣で花音が少しムッとした表情になっているのは、単に今の物言いが気に入らなかったから、ではあるまい。ここにも何かしらの因縁があるようだった。
「……あら、エリカは五十里先輩のことを存じ上げているの?」
「家同士の付き合いでね」
 しかしエリカは花音のむくれ顔に全く気付かず、と言うか、注意を払わず、深雪の方へ身体ごと顔を向けた。
「千葉家は五十里家に、とてもお世話になってるの」
「そんなことないよ」
「イエイエ、客観的な事実ですよ」
 慌てて首を振った五十里の言葉を、エリカはおどけた口調で更に打ち消した。
「あたしのホウキも啓先輩のトコにお願いして作ってもらったものだし。
 てかコレ、啓先輩が作ってくれたんじゃなかったっけ?」
 そう言って、何処に持っていたのか伸縮警棒形態のCADを、エリカは手品のように取り出した。
「うん、まあ……『刻印』の部分はそうだけど」
「刻印型術式をご自分で組まれたんですか?
 凄いんですね……」
「啓は天才だもの」
 素直に感心した美月に、花音は不機嫌だったことも忘れて胸を張り、五十里は益々照れくさそうにもう一度「そんなことないよ」と呟いた。

◇◆◇◆◇◆◇

 自分の不在が話題に上らなくなった頃、達也はホテルを抜け出して基地の士官が使っている駐車場に足を向けていた。
 待ち合わせの相手は既に到着していた。
「女性を待たせるなんて、マナーがなってないわよ」
「すみません」
 TPOを無視しているがそれなりに一理ある――女性云々ではなく、約束に遅れたことに関してだ――非難に対して、達也は素直に謝罪した。
 一言の言い訳も無かったことに拍子抜けしたのか、遥もそれ以上の文句を言わず、自分が寄りかかっている車に乗るよう、達也に身振りで指示した。
 言われたとおり助手席に乗り込んだ達也に続いて、遥が運転席に乗り込む。
 自動車は中も外も暗いままだ。
 モーターの始動スイッチには目もくれず、遥はドアポケットから携帯端末を取り出した。
 それを見て、達也もブルゾンの内ポケットから端末を取り出した。
 スタッフ用ユニフォームではなく、黒一色のタップリしたブルゾンだ。
 その両脇下が僅かに膨らんでいたが、遥は気付かない振りをした。
「地図データだけで良いわよね?」
「構成員が分かっていれば、そのデータもいただけますか」
 ため息をつく遥の端末へ向けて、達也は自分の方から先にデータを送信した。
 ディスプレイを見て、遥は目を丸くした。
「足りませんか?」
「いえ、十分よ」
 表情を消して、遥は自分の端末を操作した。
 送られてきたデータにざっと目を通して、達也は一つ頷いた。
「ありがとうございました」
 小さく頭を下げてドアの開閉ボタンに手を掛けた達也に、
「保険、なのよね?」
 遥が硬い声で訊ねた。
「ええ、保険です」
 短い答えが遥の耳に届いた時にはもう、達也は背中を向けていた。

 遥の運転する電動クーペがゲートの向こう側へ消えたのを見届けて、達也は別の車へ歩み寄った。
 窓を叩くまでも無く、助手席の扉が開く。
 運転席には遥とほとんど同年代の女性が座っていた。
「今の女性(ひと)は?」
「公安のオペレーターです」
 遥の素性をアッサリばらして、達也は藤林にニヤリと笑った。
「本人はカウンセラーが本職だと言い張っていますが」
 クスッ、と藤林が笑いを溢した。
「パートタイムオペレーターというわけね」
「能力的には問題ないと思いますよ。
 すれたプロよりも駆け出しのセミプロの方が、守秘義務をマニュアルの字面通りに守ってくれますので、内職を頼む時も安心です。
 本当は副業を受けることそのものが職業倫理に反しているんですが、そこはまあ、地獄の沙汰も――というヤツですね」
 黒い台詞を嘯いた達也に、藤林は目を細めた。――瞳は冷たく醒めたままで。
「時々思うんだけど、キミって十歳くらい年齢詐称していない?」
「年齢ではなく経験の問題だと思いますが。
 何しろ常日頃から、色々な経験を積ませてもらっていますので」
 色々な、の部分にアクセントを置いて答えた達也から、藤林はさりげなく目を逸らした。
 達也も特に返事を求めたりはしなかった。
 彼は馴れた手つきで助手席からナビゲーション・システムを操作し、グローブボックスからデータケーブルを取り出すと、有線接続で遥から手に入れた地図データを転送した。
「……私もバイト代を貰おうかしら」
「時間外手当を請求すべきだと思います」
「ウチは労働基準法の適用対象外なのよ」
 フレックスが勤務形態の主流になった現代でもしぶとく生き残っている法令をネタにした、ステレオタイプのコントを作り笑いも浮かべず達也と交わして、藤林はパームレストタイプの片手操作コントローラーを前に倒した。
 現在最も普及している大衆電動車は、カタログに載っていない低騒音性を発揮して闇に紛れた。

◇◆◇◆◇◆◇

 藤林に時間外勤務(?)を命じた当人は、時間外の来客を迎えていた。
「どうぞお入りください、閣下」
 風間が従卒に任せず自ら案内した相手は九島老人だった。
 老人の現役時代には、「十師族は表立って高位高官にならない」という原則が確立されていなかった。
 この原則は九島自身が様々な軋轢に曝された経験から作られたようなものだからだ。
 九島老人の退役時階級は少将。
 風間の示した儀礼は、十師族の長老に捧げられる私的なものではなく、公的な秩序に則ったものだった。
 風間はランクBのライセンスを持つ魔法師であり、十師族を頂点とする魔法界コミュニティのメンバーではある。
 だが彼は「忍術使い」に分類される古式魔法の魔法師であり、現代魔法の象徴である十師族に対して、どちらかと言えば冷ややかな感情を持っている(無論一部隊の長として、部下に対する感情は別だ)。
 従って――と言うべきかどうか――風間の態度は丁寧ではあるが「形式的」の範囲を超えるものではなかった。
「席を外せ」
「ハッ」
 風間は飲み物を持ってきた従卒を部屋の外へ下がらせて、改めて九島老人へ目を向けた。
「本日はどのようなご用件でしょうか。
 藤林でしたら使いに出してこちらにはおりませんが」
「孫に会うのにわざわざ上官を通す必要は感じんな……
 なに、君が珍しく土浦から出て来ていると聞いたので、顔を見に来たのだ」
「光栄です」
 光栄と言いながら少しも恭しさのない風間に、九島は軽く苦笑した。
「十師族嫌いは相変わらずのようだな」
「以前にもそれは誤解だと申し上げましたが」
「誤魔化す必要はないと以前にも言ったはずだが。
 元々兵器として開発された我々と違って、君たち古式の魔法師は(いにしえ)の智恵を受け継いだだけのニンゲンだ。
 我々の在り方に嫌悪感を抱いていても無理はない」
 人間、という言葉を一音一音区切るように(わざ)とらしく発音した言い方に、風間は思わず眉を顰めた。
「……自らを兵器と成す、という意味では古式の術者も同じです。
 我々とあなた方に、大した違いはない。
 自分が嫌悪感を抱くとすれば、自らを人間ではない、とする認識を子供や若者に強要する遣り口です」
「ふむ……だから彼を引き取ったのかね?」
 聞きようによっては辛辣な風間の発言を、九島は余裕綽々たる口調で切り返した。
「……彼、とは?」
「司波達也君だよ。
 彼が三年前、君が四葉から引き抜いた、深夜の息子だろう?」
「…………」
 風間の沈黙は、言葉に詰まったと言うより、「ムッとした」という類のものだった。
「私が知っていても、何の不思議も無かろう?
 私は三年前の当時、師族会議議長の席にあり、今もなお国防軍魔法顧問の地位にあり、一時期とはいえ深夜と真夜は私の教え子だったのだから」
「……ならばご存知でしょう。
 四葉が達也の保有権を放棄してなどいないことを。
 アイツは今なお四葉のガーディアンであり、ガーディアンとしての務めに支障なきに限り司波達也は軍務に服すること、ガーディアンとして以外、四葉は司波達也に関して優先権を主張しないこと、それが我々と四葉の間で交わした約定です」
「惜しいとは思わぬか?」
「惜しい、とは?」
 意味ありげに身を乗り出して訊ねた九島に、風間は素っ惚けた答えを返した。
 九島老人は気を悪くした様子もなく、微かに笑った。
「昨日の試合は見事だった。
 唯一の成功例とは聞いていたが、あれ程のものとは想像していなかった。
 彼は将来、一条の息子と並んで我が国の貴重な戦力となるだろう。
 あれ程の逸材を私的なボディガードとして一箇所に貼り付けておくのは勿体ないとは思わないか?」
「……閣下は四葉の弱体化を望んでおられるのですか?」
「君だから正直に言うがね。
 十師族という枠組みには、互いに牽制しあうことで、魔法師の暴走を予防するという意味合いもある。
 だがこのままでは、四葉は強くなり過ぎる。
 司波達也君とその妹がこのまま成長し、遠くない将来、真夜が健在なまま司波深雪が四葉深雪となり司波達也がそのガーディアンとなったなら、四葉は十師族の一段上に君臨する存在となってしまうかもしれない。
 現時点でさえ、他家にない特殊な技術と少数ながら強力な魔法師を揃えた四葉は、十師族の中でも突出した存在なのだ」
 九島の言葉に、風間は唇を皮肉げに歪めた。
「あの家は閣下の仰る『兵器として開発された魔法師』の伝統を、最も忠実に守り続けている一族ですから、単純に戦闘力だけで見れば突出した存在になって行くのも当然かと思われます」
「それでは困るのだ。
 風間少佐、君の言うとおりだよ。
 元来は兵器として開発された存在であっても、今は違う。
 ただ兵器として在るだけでは、人の世界からはじき出されてしまう」
「閣下。
 閣下がこちらの事情をご存知であるように、自分も閣下のご事情をある程度存じ上げております。
 閣下が達也のことを気に掛ける本当の理由についても承知しておるつもりです」
 今度は九島が黙り込むことになった。
「その上で、一つの進言と一つの訂正をお許し頂きたい」
「……言ってみたまえ」
「達也を憐れむ必要は無いと存じます。
 彼は哀れな実験動物などという、大人しい存在ではありません。
 寧ろ憐れまれることこそが、彼にとって不本意ではないかと」
「それが、進言かね」
「ハッ。
 そして訂正ですが……
 将来、ではありません。
 達也は現在において既に、我が軍の貴重な戦力です。
 こう申しましては身贔屓に聞こえるかもしれませんが、達也と一条将輝では戦力としての格が違います。
 一条将輝は拠点防衛において、単身で機甲連隊に匹敵する戦力となりましょう。
 しかし達也は、単身で戦略誘導ミサイルに匹敵する戦力です。
 彼の魔法は幾重にもセーフティロックが掛けられていて当然の戦略兵器だ。
 その管理責任を彼一人に背負わせることの方が余程、酷というものでしょう」

◇◆◇◆◇◆◇

 東へ向かう車の中で、達也がくしゃみを連発した、というような事実はなかった。
 藤林が運転する電動車――正確に言えば、交通管制システムに誘導された藤林の車は、ハイウェイを東進し、真夜中になる前に横浜市内へ入った。
 東に横浜港、北に(度重なる日中直接軍事衝突にも関わらず)二十一世紀末の現在においても尚、繁盛を続けている横浜中華街を臨む高台に、二人を乗せた電動車は止まった。
「……敵国の工作員がウジャウジャいるって分かってるのに閉鎖も検問も行わないなんて、政治家は一体何を考えているのかしら」
 中華街を見下ろしながら忌々しげに呟く藤林の隣で、達也は肩をすくめた。
「あの街は本国の圧政から逃れた華僑の、本国に対する主要抵抗拠点の一つ、というのが建前ですから」
「そんなの嘘に決まってるじゃない」
「建前ですから」
「限度というものがあります。
 こっちが勝ったといっても講和条約が締結されていない以上、我が国と中華連合は三年前から休戦状態にあるだけで、法的には交戦関係が継続中なのに。
 工作活動の拠点になってる、って誰もが分かっていながら、誰もメスを入れようとしないだなんて」
「もしかしたら、その『誰か』は結構な数に上るかもしれませんよ」
 今にも舌打ちしそうな勢いの藤林に、達也は飄々とした口調で答えた。
 そのつまらなさそうな回答に、藤林は目を丸くして達也を凝視した。
「……何か知ってるの?」
「いえ、単なる願望ですよ」
 この話題はこれで終わり、とばかり、達也は背中を向けてそう答えた。
 彼が踵を返した先には、この都市で最も高い建物がある。
 値段的にも高いが、物理的に、最も高い建物。
 今世紀半ばまで「港の見える丘公園」と呼ばれていたこの場所は、現在では横浜港とその沖合を一望できる三棟一体の超高層ビルが建てられている。
 名前は「横浜ベイヒルズタワー」。
 市民からは「ベイヒルズ」の略称で親しまれている、ホテル、ショッピングモール、民間オフィス、テレビ局の複合施設だ。魔法師の親睦団体、「日本魔法協会」の関東支部も東京ではなくこのビルに置かれている(本部は京都にある)。
 もっともこのビル、純粋に民間施設というのがこれまた建前に過ぎないことは、市民ならずとも周知の事実。ここには東京湾を出入りする船舶を監視する目的で、国防海軍と海上警察が民間会社に偽装したオフィスを置いている。
 魔法協会の支部がこのビルに置かれているのも、有事の際の防衛手段というのがもっぱらの噂だ。――そして達也も藤林も、それが「噂」ではなく完全な「事実」であることを知っていた。
「少尉、お願いします」
「本当に時間外手当を請求しようかしら」
 既に時刻は真夜中近く。
 警備員のいる通用口ではなく、内側からしか開かない非常口の脇に、藤林は小型の情報端末を押しつけた。
 もう片方の手でCADを操作する。
 外部からの入力端子もなく、無線入力の機能もないはずの開閉装置が、導電率の分布を改変された壁面を通して送り込まれたハッキングプログラムによって、二人を迎え入れるべく扉を開いた。
 内部の監視装置も藤林のハッキングにより、二人に対してのみ無力化されていた。

◇◆◇◆◇◆◇

 横浜グランドホテル――今世紀前半、香港資本によって中華街に建てられた高層ホテルで、ニューグランドホテルの前身である同じ名前のホテルとは何の関係もない――の最上階、の一つ上の階、客には知らされていない、存在しないはずの本当の最上階の一室では、慌しく引越しの準備が進められていた。
 この部屋は、香港系犯罪シンジケート「無頭竜」の東日本総支部、謂わば東日本における活動の指令室として使われている部屋だった。
 このホテルを経営している香港資本自体が、随分前に無頭竜によって乗っ取られていたから、犯罪活動の指令室、と表現する方が正確かもしれない。
 引越しと言っても家具の運び出しがある訳ではなく、主な荷物はコンピュータシステムに記録されていない極秘帳簿の類だ。
 厳重なセキュリティが施されたシステムにも登載できないほど秘密性が高い帳簿だから、部下に荷造りを任せるわけにも行かない。
 高級ブランドスーツを身に纏った壮年(と言うよりも初老)の男たちが、シルクのハンカチで汗を拭きつつ、金銀宝石で煌びやかな指輪をはめた手で不器用に荷造りする姿は、第三者の目から見れば中々に滑稽なものだった。
 無論、当人たちにとっては、笑い事ではない。
「おのれ……このままでは済まさんぞ」
 一人が手を止め、歯軋りが聞こえてきそうな声で呪詛を漏らした。
「それにしても、ジェネレーターが戦果ゼロで取り抑えられるとはな……」
「想定外だ。まさか日帝軍の特殊部隊がしゃしゃり出て来るとは」
「お陰で我々は夜逃げの真似事だ」
「一度勝利したくらいで増長しおって……」
 この場の誰もが心に秘めていた本音が表に出たことで、焦燥感に堰き止められていた愚痴の歯止めが利かなくなっていた。
「日帝軍に対する報復はいずれ必ず果たすとして、それ以上に優先すべきはあの餓鬼の始末だろう」
「我々の計算を(ことごと)く覆した生意気な子供か」
「司波達也と言ったか? どんな素性の餓鬼だ?」
「それが……詳しい素性が分からんのだ。
 調べがついたことといえば、氏名、住所、学校における所属と外見のみ。
 係累はおろか家族構成も不明、親の職業も会社員という以外の詳細は不明。
 日常的に必要となるデータ以外のパーソナルデータは一切判明しなかった」
「何だそれは?
 この国は世界的に見てもパーソナルデータのDB[データベース]化が進んだ国だ。
 民間のデータベースを覗いてみるだけでも、それだけの情報しか取れないというのはおかしいだろう」
「データがロックされているのではなく、“司波達也”に関するデータは組織的に消去されていると見るべきだろう。
 それ以外に考えられない」
 無頭竜東日本総支部の幹部たちは、発言者(である同僚)の顔をまじまじと見詰め、次いで、互いに無言で顔を見合わせた。
「……ただの高校生ではないのか……?」
「あらゆる民間のデータベースを組織的に書き換えるとなれば、国家権力でも、相当高いレベルの権力が必要だ。
 あるいは、国家の最高権力へ自由に介入できるだけの影響力が」
「一体、何者だ……?」
 荷造りの手がすっかり止まっていた彼らの耳に、突如、くぐもった苦鳴が届いた。
 部屋の隅にぼんやりと立ち尽くす四つの人影。
 彼ら東日本総支部幹部の護身道具として貸し与えられたジェネレーター。
 外部からの攻撃を遮断するため、四種類の術式を担当する魔法発生装置の内の一つ、外壁の情報強化を発動していたジェネレーターが、苦鳴の発生源だった。
 その原因はすぐに分かった。
 望まず、理解させられた。
 南側の壁に大きな穴が開いていた。
 突き破られたのではなく、切り裂かれたのでもなく、砕けたのでもなく、鉄骨と鉄筋と鋼管を残してコンクリートが砂とセメント粉末になって崩れたのだ。
 苦鳴は、情報強化の魔法を破られた反動による苦痛によるもの。
 だが苦しげな声が発せられたのは、ほんの一瞬だった。
 幹部たちが苦鳴の原因に思い当たったのは、後追いの思考によるものだった。
 無頭竜は単なる犯罪シンジケートではなく、魔法を悪用する犯罪組織。
 幹部として取り立てられる為には、魔法師であることが条件になっている。
 当然のこととして、東日本総支部の幹部たちも皆、魔法師だ。
 魔法を使い、魔法を認識できる。
 だから、今、何が起こっているのかも認識できる。
 苦鳴を漏らしたジェネレーターの身体から、身体情報のエイドス・スキン――魔法師が無意識に展開している、他者の魔法から自分の身体を守る情報強化の防壁――が剥ぎ取られた。
 否、イメージとしては、鎧が融け落ち蒸発した、と言う方が近い。
 そして次の瞬間、ジェネレーターの全身に、実体でありながらまるで立体映像のようなノイズが走り、着ている服ごと輪郭が消えた。
 それまでジェネレーターの身体が在った空中に、ポッと、薄い炎が生じた。
 青と紫と橙が混じり合った炎は、スプリンクラーが作動する間も無く、フラッシュのように一瞬で消えた。
 絨毯に落ちた、僅かな灰。
 それだけを残して、ジェネレーターの身体は消え失せていた。
 幹部たちは度肝を抜かれて叫ぶことも喚くことも出来ずにいた。
 慄然とした表情で、互いに、交互に、顔を見合わせる。
 と、そこへ不意に、電話が鳴った。
 それは組織の中でしか使われていない、秘匿回線からの呼び出し音だった。
 幹部の一人が恐る恐る受話器を取った。
 映像は無く、音声のみの通話であることがパネルに表示される。
『Hello,“No Head Dragon”東日本総支部の諸君』
 スピーカーから聞こえて来たのは、若い男の――少年の声だった。

◇◆◇◆◇◆◇

 達也と藤林は、横浜ベイヒルズ北翼タワーの屋上に来ていた。
 ここにはテレビ局の放映アンテナと共に、無線通信の中継装置が設置されている。
 その中継装置に、藤林は例の端末を押し当て、タッチパネルをあれこれ操作していた。
「……よし、ハッキング完了。無線通信は全てこちらにつながるように書き換えたわよ」
「流石は『電子の魔女エレクトロン・ソーサリス』。こればかりは、術式をどう捏ね回しても真似できませんね」
「ありがとう。
 そう簡単に真似されては(たま)らないけどね」
 冗談めかした笑顔ながらも、藤林も本音のところ、満更でも無さそうだった。
「有線は切断済みでしたね?」
「そちらは真田大尉の方で措置済みよ」
 達也は情報端末を左手に持った。
 藤林から指示されたコードを打ち込んで、残りワンプッシュで音声通信が可能な状態にしてホールドする。
 風除けのバイカーズシェードを、胸ポケットから取り出して目を覆う。
 そして、左のショルダー・ホルスターからロングタイプのCADを抜き出した。
 銀色の、拳銃形態特化型CAD。
 落下防止柵の手前に立ち、右手を斜めに伸ばす。
 CADの「銃口」が向く先は、遥か丘の下、横浜グランドホテル。
「……これが『ジェネレーター』ですか」
「ええ、間違いないわ。
 捕獲したのは初めてだけど、特徴が情報部のレポートと完全に一致していたから」
 ベイヒルズの屋上からグランドホテルの最上階まで、直線距離で優に1キロ超。
 達也が構えているのは拳銃形態のCADで、照準スコープなど当然ついていない。
 にも関らず、藤林は「見えるのか?」とは訊かなかった。
 達也に視えているのは分かり切ったことだからだ。
 藤林自身、達也とは視え方が違うが、室内に何人の魔法師がいてその内の何人がジェネレーターであるか、視えているのだから。
「自我を奪われた魔法発生装置。
 兵器として開発された魔法師の成れの果て、か……」
「…………」
「……言い過ぎですね、すみません」
 藤林から無言で白い目を向けられて、達也は気まずげな声で謝った。
 魔法師の全部が全部、兵器に甘んじている訳ではないので、確かに不適当な発言だろう。
 しかし謝ったからといって、自分が共感を覚えたことまで否定するつもりは、達也には無かった。
 ジェネレーターの在り方と、自分の在り方は似ていると、達也は思った。
 故に、残された感情の範囲内で、最大限の嫌悪を覚えた。
 有害であり、不快な存在。
 この「装置」を破壊することに対して、達也の心には何の躊躇いも生じなかった。
 シルバー・ホーン・カスタム、『トライデント』。
 達也は、彼の魔法に最適化された愛機の、引き金を引いた。
 分解の魔法が発動する。
 コンクリートの外壁を原料の粉末に分解する術式。
 媒体となっていた壁に物理的な穴が開いたことで、外部からの魔法干渉を妨害する「閉鎖」の概念にも穴が開く。
 達也の「視界」に今までより鮮明に、室内の様子が映った。
 発動中の魔法を強制的に破られてショックを受けているジェネレーター。
 普通なら、魔法が破られたからといって、魔法師に此処までダメージが返ることは無い。
 自分の意思で魔法を中断・中止できない為の弊害だろうか。
 観測した事象を冷静に分析しながら、彼の攻撃意志――殺意は、止まらなかった。
 一人のジェネレーターが生み出した五人の幹部を覆い守る広域干渉と、それとは別に三人のジェネレーターが自分を守る広域干渉のフィールドを識別。
 トライデントの引き金を引く。
 外壁の分解によってダメージを受けているジェネレーターの「広域干渉フィールド」、「エイドス・スキン」、「肉体」の情報を、変数として魔法式にインプットする。
 三つの魔法工程が、刹那のタイムラグも無く、次々に発動した。
 第一の工程が、標的を守っていた広域干渉を分解する。
 第二の工程が、標的の肉体を守っていた情報強化を分解する。
 そして第三の工程が、標的の肉体を元素レベルに分解した。
 有機物としての存在すら認められず、生物としての痕跡すら残せず、蛋白質は水素と酸素と炭素と窒素と硫黄に、骨はリンと酸素とカルシウムとその他の微量元素に、血液も神経も蓄えられた栄養素も排泄物でさえも全て、単一元素によって構成される分子あるいはイオンに分解された。
 可燃性の高い元素のガスが解放された酸素と結びついて自然発火した。
 その様は、あるいは、人体発火現象に見えたかもしれない。
 だがその真相は、焼失ではなく、消失。
 一つの魔法式に工程として組み込まれた分解の三連魔法が、魔法力で守られているはずの魔法師の肉体を、一切の抵抗を許さず消し去ったのだ。
「トライデント……本当に、身の毛も弥立(よだ)つとはこの事だわね……」
 三連魔法の発動用にチューンナップされた特化型CAD。
 魔法大全において『トライデント』の名称は、別種の魔法に割り当てられている。
 だが独立魔装大隊において『トライデント』とは、この無慈悲な三連分解魔法のことであり、その魔法に最適化されたCADのことでもあった。
 藤林が思わず漏らした呟きに頓着せず、達也は待機状態にしていた情報端末の、音声通信を立ち上げた。
 中継器のハッキングにより、専用回線の認証システムは意味を失っていた。
「Hello,“No Head Dragon”東日本総支部の諸君」
 達也は不自然に陽気な口調で、そう話し掛けた。

◇◆◇◆◇◆◇

 電話を取った幹部は、戸惑いを隠せぬ顔で同僚へと振り返った。
 この回線は幹部同士の通信用であり、本部との通信用の専用回線だ。
 支部長、あるいは総支部評議員クラスの幹部でなければ、組織の構成員であっても使用できない、存在も知らない通話回線。
 無頭竜には十代の幹部どころか二十代の幹部もいない。
「……何者だ?」
 問い掛ける声が詰問調の居丈高なものにならなかったのは、たった今、目の当たりにした人体消失によって、心に恐怖を撃ち込まれた故か。
『富士では、世話になったな』
 声は十代の少年のものだったが、口調は一人前の大人のものだった。
『ついては、その返礼に来た』
 その台詞と共に、彼ら幹部を守っていた広域干渉のフィールドが、いきなり消失した。
 電話に出ている男だけでなく、意思を持たぬ魔法装置以外の全員が、反射的に部屋の片隅を見た。
 その視線の先で、薄い炎が燃え上がって、消えた。
 続け様に生じた熱源にインパルス・スプリンクラーが反応し、高圧の霧が天井から吹き付けられた。
 其処に立っていたはずのジェネレーターは、跡形も無く消えていた。
「何処だ!? 十四号、何処からだ!?」
 幹部の一人が、ひっくり返った声で叫んだ。
 魔法師であれば、現象改変の反動から、何に対して、何処から魔法が使われたのかを知覚することが出来る。
 人体を分子レベルに分解してしまうような強い魔法がこれ程の至近距離で作用したなら、それが何処から放たれた魔法なのか、本来ならば分からないはずは無い。
 正確な距離は掴めなくても、少なくともどちらの方向に術者がいるのか程度のことは分かるはずなのに――この幹部は、喚くことしか出来なくなっていた。
 対して、動揺を知らない――動揺する心の機能を壊されているジェネレーターは、同類が壊されても怯えてパニックに陥るようなことは無い。
 十四号はのっそりとした動作で、壁に開いた穴を指差した。
 その穴の向こう、この街で最も高い場所を。
 別の幹部が慌てて狙撃銃を手に取った。
 光学・デジタル複合スコープに目を当て、倍率を上げて行く。
 横浜ベイヒルズ屋上、西に傾いた月の光に半身を浮かび上がらせて、一人の少年が立っていた。
 倍率を最大に上げる。
 バイカーズ・シェードに隠されて人相は分からなかったが、隠されていない唇が嘲る様に歪められたのは見えた。
 男が悲鳴を上げて(うずくま)った。
 突然分解し弾け散ったスコープの部品で眼球を傷つけられたのだ。
 しかし、片目を押さえ呻き声を漏らす同僚を気にかける余裕は、男たちには無かった。
「十四号、十六号、やれ!」
 ジェネレーターに反撃を命じる声は、一人のものではなかった。
 だが――
「不可能デス」
「届キマセン」
 機械は、出来ることしかやらない。
 どんな状況でも安定的に魔法を行使することを目的に改造されたジェネレーターには、死に物狂いで限界以上の力を振り絞るという機能が無い。
「口答えするな! やれ!」
 抑揚が全く無い口調で口々に応えた十四号と十六号に対して、目を押さえ膝をついたまま癇癪を破裂させる幹部。
 応えは、電話口からもたらされた。
『やらせると思うか?』
 十四号と十六号の身体にノイズが走る。
 二人は仲間と、全く同じ運命を辿った。
『道具に命令するのではなく、自分でやってみたらどうだ?』
 揶揄する声の前に、嘲笑が聞こえた。
 だがそれに怒る気力は、男たちから奪い去られていた。
 肉眼では人がいると見分けることも出来ない距離。
 視認出来ない、認識できない相手に魔法を届かせる程の技量を、この場の誰も持ち合わせていない。
 一人が有線電話に飛びついた。
 別の男は携帯端末で必死に無線通話をつなごうとしている。
 だが、有線電話は断線のシグナルを返すのみであり、
 情報端末の音声通信ユニットは、
『無駄だ。今その部屋から通信できる相手は、俺だけだ』
 最初の受話器と、同じ声を返すのみだった。
「バカな、無線通話まで……一体どうやって……」
『電波を収束した。どうやって、かは、お前たちが知る必要の無いことだ』
 彼らには、その意味を理解する知識があった。
 その知識は、絶望感を高める役割しか果たさなかったが。
『では、本番だ』
 悪魔の宣告と共に、片目を押さえたままの男に、ノイズが走った。
 男の顔が、真の絶望に歪んだ。
 その表情は歪み続け――塵となって消えた。
 三度の散水によって湿度が上がった室内では、最早発火現象は起こらない。
 弔いの送り火すらなく消え失せた同僚に、男たちの顔は凍りついた。
 一人が、出入り口へ突進した。
 その背中にノイズが走り、輪郭が崩れ、散り失せた。
 男たちは、無頭竜東日本総支部の幹部である残された三人は、自分たちの命が魔神の手に握られていることを悟った。
 悟らずには、いられなかった。
「待て……待ってくれ!」
 東日本総支部の支部長の地位にある男が、受話器を奪い取って叫んだ。
『何を待てというんだ?』
 思わず叫んだ言葉だった。
 見逃してくれる相手とは思っていなかった。
 人をデータのように消し去る遣り口は、そんな情けのある人間のものではなかった。
 だが予想に反して、応えが返って来た。
「わ、我々はこれ以上、九校戦に手出しをするつもりは無い」
『九校戦は明日で終わりだ』
「九校戦だけではない!
 我々は明朝にも、この国を出て行く!
 二度とこの国に戻って来ない!」
『お前たちが戻って来なくとも、別の人間が戻って来るのだろう?』
「我々無頭竜は日本から手を引く!
 東日本だけでなく、西日本総支部も引き揚げさせる!」
『お前にそんな約束をする権限があるのか、ダグラス=黄?』
 名前を知られていたことに心臓が止まってしまいそうなショックを受けながら、黄は必死で言い募った。
「私はボスの側近だ!
 ボスも私の言葉は無視できない!」
『何故そんなことが言える?』
「私はボスの命を救ったことがある!
 命の借りは、救われた数だけ、望みを叶えることで返すのが我々の掟だ!」
『その「貸し」で命乞いするつもりだったのか』
 二人分の視線が黄に突き刺さった。
 裏切りに対する憎悪と殺意がそこには込められていた。
 だが、黄にそれを気に掛ける余裕は無かった。
『その貸しは、自分の命を買い戻す為に必要なんじゃないのか?』
「違う!
 そんなことをしなくても、ボスは私を切り捨てたりはしない!」
『お前にそれだけの影響力があると?』
「そうだ!」
『それを証明できるか?』
「それは……」
『No Head Dragon、頭の無い竜。
 その名はお前たち自身が名乗り始めたものではなく、リーダーが部下の前にすら姿を見せぬことから敵対組織によって付けられたものらしいな。
 部下を直々に粛正する時も、意識を奪って自分の部屋へ連れて来させる徹底ぶりだと聞く』
 死の恐怖、消滅の恐怖とは別種類の戦慄が黄を襲った。
 余りにも詳しく、自分たちのことが知られている。
 自分たちは一体何に、手を出したというのだろうか。
『お前がそれだけの影響力を持つというなら、当然、首領の顔を見たことがあるはずだな?』
 だが、考えている暇は無かった。
 生き延びる為には、この悪魔の示した気まぐれに付け入るしかないのだ。
「私は拝謁を許されている」
『リーダーの名は何という?』
 黄は口を閉ざした。
 それは組織の最高機密。
 長年にわたりすり込まれた恐怖と忠誠が、目の前の恐怖を凌駕した。
 しかしそれは、僅かな時間のことだった。
「ジェームス!?」
 また一人、仲間がこの世界から消し去られた。
 人としての死をも許さぬ、消滅。
 それは、彼らの首領の手により下される、死者に対する冒涜と同じくらいおぞましいものに思えた。
『今のがジェームス=朱だったのか。
 手配中の国際警察には気の毒なことをした』
「待て……」
『次はお前にしようか、ダグラス=黄?』
「待ってくれ!
 ……ボスの名はリチャード=孫だ」
『表の名は?』
「……孫公明」
『住まいは?』
 香港の高級住宅街の住所、オフィスビルの名称、行きつけのクラブなど、訊かれるがままに黄は喋った。
「……私が知っていることはこれで全てだ」
『こちらの質問も丁度終わりだ。ご苦労だったな』
「では、信じてもらえるのか?」
『ああ、お前は紛れもなく、無頭竜首領、リチャード=孫の側近のようだ』
 打ちのめされ虚無感を漂わせていた黄の顔に、僅かな喜色が浮かんだ。
 その、ほんの少し、取り戻した希望は、
「グレゴリー!」
 最後の同僚と共に、完全に消え失せた。
「……何故だ!?
 我々は、命までは奪わなかった。
 我々は誰も殺さなかったではないか!」

◇◆◇◆◇◆◇

『……我々は誰も殺さなかったではないか!』
 音声通信ユニットから、都合の良い理屈が聞こえてきた。
 それは結果論に過ぎない。
 彼らは大量殺人を目論み、それを柳、真田、藤林に阻止されただけだ。
 そのことは達也も聞いていた。
 だがそのことを、達也は指摘しなかった。
「そんなことは関係ない」
『なに……?』
「お前たちが何人殺そうが何人生かそうが、俺にはどうでもいいことだ」
 気の乗らぬ腹芸にいい加減ウンザリしていた達也は、言葉を飾る気を失っていた。
 必要な情報を全て聞き出した今となっては、その必要も無くなっていた。
「お前たちは、触れてはならないものに手を出した。
 お前たちは俺の逆鱗に触れた。
 ただそれだけが、お前たちの消え去る理由だ」
『……悪魔め!』
「その悪魔の力とやらを振るえるのはお前たちのお陰だよ、ダグラス=黄。
 力は意思によって引き出されるものだが、その力を更に高めるのは感情だからな。
 お前たちが俺の持つ唯一つの感情を引き出してくれたお陰で、俺は久々にこの『悪魔の力』を解き放つことが出来た」
『悪魔の力だと……?
 ……この魔法、これはまさか、Demon Right[デーモン・ライト]!?』
 それが黄の断末魔だった。
 それきり、黄の声は途絶えた。
 ダグラス=黄という存在自体が、この世界から消えていた。


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