この物語はフィクションです。
この物語の舞台はこの世界とよく似た別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
待ち合わせ場所には、誰もいなかった。
(別にいいけどな……)
達也は入学以来すっかり習い性になってしまったため息をついて、携帯端末のLPSを立ち上げた。
敷地内の平面図と、その中をゆっくり移動する赤い光点が表示される。
端末の電源を切らない程度の配慮はしてくれているということだ。
まだそれほど遠くへは行っていない。
(もしもの時の用心だったんだがなぁ)
探しに来ることを完全に当てにされている。
表示を拡大して位置を特定し、エリカの端末が発している信号へ向けて、達也は歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇
校庭一杯、校舎と校舎の間の通路まで埋め尽くしたテントは、さながら縁日の露天だった。
「お祭り騒ぎね、文字通り……」
ぼそりと独り言を呟くエリカ。そしてそんな自分に気付いて、独り笑いの衝動に呑まれそうになった。
彼女は元々、独り言が多い方だった。
だが、入学式からずっと、この癖は影を潜めていた。
(一人が珍しい、かぁ……案外、女の子を見る目がないよね、達也くん?)
約束をすっぽかした――彼女の方から、だ――男の子に向かって、心の中で話し掛ける。
中学生時代も、その前の小学時代も、彼女は一人でいることの方が多い少女だった。
人間嫌い、という訳ではない。
どちらかといえば、愛想は良い方だ。
誰とでも、すぐ仲良くなれる。
その代わり、すぐ疎遠になってしまう。
四六時中一緒にいる、いつも連れ立って行動する、ということが出来ないからだ。
人間関係に執着が薄いからだと、自分では分析している。
比較的仲良くしていた友人からは、醒めていると言われた。
気まぐれな猫みたいだ、とも言われた。
仲違いした友人から、お高く留まっていると言われたこともある。
纏わりつく男の子は絶えなかったが、長続きした男の子もまた、いなかった。
自由に、気ままに、何の約束にも縛られず。
それが彼女のモットーだったのだ。
(……モットーだったんだけどねぇ……最近のあたしはチョットおかしいかも)
客観的に見て、最近の自分は彼に付きまとっている気がする、とエリカは思った。
自分から一緒に回ろうと言い出すなんて、少し前なら思いもよらなかったことだ。
まだ一週間足らずだから、その内、いつものように飽きるかもしれない、とも思う。
同時に、今度はいつもと違うかもしれない、とも思うのだ……
◇◆◇◆◇◆◇
「エリカ」
約束の時間から十分。
意外と早く追いついたな、とエリカは思った。
「達也くん、遅いわよ」
「……悪かった」
瞬時、苦い顔が垣間見えたが、すぐに何事か納得した表情になり、達也は素直に頭を下げた。
「…………謝っちゃうんだ?」
予想を外されて、仕掛けたエリカの方が間誤付きを覚えてしまう。
「五分とはいえ、遅刻したのは確かだから。
俺が遅れたことと、エリカが待ち合わせ場所にいなかったことは別問題だろ?」
「あぅ……ごめん」
いささか変な表現だが、大真面目な顔で微笑みかけられて、エリカは一矢も射返すことが出来なかった。
「……達也くんってさ〜、やっぱり、性格悪いって言われない?」
「心外だな。
性格に文句をつけられたことはない。
人が悪いと言われたことならあるが」
「同じじゃん! てか、そっちの方が酷いよ!」
「ああ、違った。
人が悪いじゃなくて、悪い人だった」
「そっちのがもっと酷いよ!」
「悪魔と呼ばれたこともあるぞ」
「もういいって!」
荒く息をつくエリカを前に、深遠な哲学命題に思索を委ねているような風情で、達也は首を傾げた。
「随分疲れているようだが、大丈夫か?」
「……達也くん、絶対、性格悪いって言われたことあるでしょ?」
「実はそうなんだ」
「今までの流れ全否定なの!?」
エリカはがっくりと膝をついた。
◇◆◇◆◇◆◇
機嫌をとるのに少し手間取ったが、何とか、周りからおかしな目で見られる前に巡回――エリカの場合は見学、あるいは冷やかし――に復帰した。
予想通り、エリカの足が向く先は武術競技系が多い。
予想外だったのは、二科生のエリカに勧誘の声が多く掛かったことだ。
それも、結構熱心に。
「人気者じゃないか」
「失礼しちゃうわ、ぷんぷん」
素で言われたら五メートル以内に近づきたくなくなる台詞だが、棒読み口調でふざけているのは――幸いにも――明らかだ。
それに――ふざけて見せる仮面の下では、結構本気で怒っているのが伝わって来ていた。
「マスコット扱いがそんなに嫌だったのなら、試技をさせてもらえばよかったのに。
そうすりゃ一発で黙らせられたんじゃないか?」
宥めるつもりの軽い一言、だったのだが、エリカは目を丸くして彼を見返した。
「……そうか、達也くんにはもうバレてるんだっけ」
「隠すつもりはないんだろ?
隠すことでもないと思うし」
「そうなんだけどね〜
勝手に期待されるのも逆に嫌だし」
「ははぁ……色々と複雑なんだな」
「そっ。乙女心は複雑なの」
そう言って、悪戯っぽくクスッと笑うエリカ。
達也も釣られて笑いをこぼす。
はぐらかされているのは分かっていたが、それはそれで構わなかった。
本当の自分を隠しているのは、達也も同じなのだから。
◇◆◇◆◇◆◇
校庭一杯にテントが並んでいるとはいっても、それはあくまで「校庭」のことで、専用の競技場では、そこを普段から使っているクラブのデモンストレーションが行われている。
体育館も同様だ。
二人が足を運んだ時、格闘技用体育館、通称「闘技場」では、剣道部の演武が行われていた。
「ふーん……魔法科高校なのに、剣道部があるんだ」
「どこの学校にも剣道部くらいあると思うが?」
何の気なしに訊ねた達也の顔を、エリカは短くない時間、マジマジと見詰めた。
「……なんだよ?」
「……意外」
「何が?」
「……達也くんでも、知らないことがあったんだね。
それも、武道経験者なら大抵知ってるようなことで」
エリカが本気で驚いているのを見て、達也は少し悩んでしまった。
「……俺って、そんなに知ったかぶりかな……?」
「えっ、いや、そんなことないよ?
ただ何となく、達也くんって何でも知ってそうな気がして。
実際、美月の目のこともあたしのCADのことも、多分あたしの家のことも、本当に良く知ってるから」
「そりゃあ、多少他人より詳しいこともあるけど、その分知らないことも多いんだぜ?
で、剣道部が何故珍しいんだ?」
「そ、そうよね。同じ一年生だもんね……同じって言葉にチョッと違和感あるけど……
ええと、剣道のことよね。
魔法師やそれを目指す者が高校生レベルで剣道をやることはほとんどないんだ。
魔法師が使うのは『剣道』じゃなくて『剣術』、術式を併用した剣技だから。
小学生くらいまでなら剣技の基本を身につける為に剣道をやる子も多いけど、中学生で将来魔法師になろうって子たちは、ほとんど剣術に流れちゃうの」
「へぇ、そうなのか……
剣道も剣術も同じものだと思っていたよ」
「達也くんの場合はきっと、剣道を剣術と同じものだと思ってたんでしょ」
「よく分かるな?」
「あたしにも段々達也くんのことが分かって来た。
何だかんだ言ったって、達也くんの知識って、魔法が軸になってるよね。
もうどっぷり魔法に漬かってるって感じ。
魔法だけで食べてるA級魔法師並みじゃない?
興味湧いて来ちゃったな、あたし。一体どんな家庭環境だと、ここまで魔法漬けの高校一年生ができあがるのか」
「俺の家庭環境については、おいおい話すとして……
今は大人しく見学しよう。そろそろ視線が痛くなってきた」
達也に促されて左右を見ると、こちらをチラチラと見ている目があちらこちらに。
エリカは愛想笑いを浮かべた後、無言で俯いた。
レギュラーによる模範試合は中々の迫力だった。
中でも目に止まったのは女子部二年生の演武だった。
女性としてもそれほど大柄とは言えない、エリカとほとんど同程度の体格で、二回り以上大きな男子生徒と互角以上に打ち合っている。
力ではなく、流麗な技で打撃を受け流している。
しかも、彼女の方にはまだまだ余裕がありそうだった。
模範試合に相応しい華のある剣士だ、と達也は思った。
観衆もほとんどが彼女の技に目を奪われていた。
しかし、ここにも例外はいた。
それも、ごく身近に。
彼女が、殺陣のように鮮やかな一本を決めて一礼するのと同時。
不満げに、鼻を鳴らす音がすぐ傍で聞こえた。
「お気に召さなかったようだな」
「え? ええ……」
自分が問われたのだとすぐには分からなかったようで、エリカの答えが返って来るまで、少し間が空いた。
「……だって、つまらないじゃない。
手の内の分かっている格下相手に、見映えを意識した立ち回りで予定通りの一本なんて。
試合じゃなくて殺陣だよ、これじゃ」
「いや、確かにエリカの言う通りなんだが……」
達也の口許が、自然に綻んでいた。
「宣伝の為の演武なんだから、それで当然じゃないか?
よくプロの武術家で真剣勝負を見せることを売りにしている人達がいるけど、本物の真剣勝負なんて、他人に見せられるものじゃないだろ?
武術の真剣勝負って、要するに殺し合いなんだからさ」
「……クールなのね」
「思い入れの違いじゃないか?」
不機嫌な顔でそっぽを向くエリカ。
だがその表情は、怒って見せている類のものだった。
多分エリカには、見栄え重視で武の本質を疎かにしている立ち回りを、不誠実なものと捉え、憤りを感じているのだ。
ただ、それを口に出すとますます臍を曲げそうだった。
乱入する、等と言い出したりはしないだろうが、それに近いことはやらかしかねない。その前に、と達也はエリカを促してその場を後にした。
否、後にしようと、した。
二人が体育館の出口に差し掛かったとき、勧誘の口上とは別種のざわめきが背後から伝わった。
ハッキリとは聞こえてこないが、何事か言い争っているのは分かる。
隣を見れば、エリカも彼を見上げていた。
頷き合った二人は、興奮の高まりつつある人の輪の中へ飛び込んだ。
◇◆◇◆◇◆◇
顰蹙を買いながら人混みを掻き分けて――喧嘩にならなかったのは、エリカの愛想笑いの威力に依るところが大きい――なんとか中が見える所まで辿り着いた二人が目撃したもの。
それは、対峙する男女の剣士の姿だった。
女の方は、ついさっきまで試合に出ていた――エリカに言わせれば殺陣を演じていた――女子生徒。胴はまだつけているが、面は取っている。セミロングストレートの黒髪が印象的な、なかなかの美少女だ。あの技にこのルックス、勧誘には打ってつけだろう。
「ふ〜ん、達也くん、ああいうのが好み?」
「いや、エリカの方が可愛い」
「……棒読みで言われても少しも嬉しくないんですけど」
斜に睨み付けながらも、上目遣いの目元はほんのり紅に染まっている。
「慣れてないんでな」
「……もう!」
まだ何やらぶつぶつ呟いていたが、取り敢えず絡むのは止めたようなので、今度は男の方へ観察の目を移す。
それほど大柄ではない――多分、達也より小さい――が、全身がバネのような体つきをしている。此方は竹刀こそ持ってはいるが、防具は全くつけていない。
一体何が起こっているのか、適当に見物人を捕まえて聞き出そうか、と達也は考えたが、その必要はなかった。
「剣術部の順番まで、まだ一時間以上あるわよ、桐原君!
どうしてそれまで待てないの!?」
「心外だな、壬生。
あんな未熟者相手じゃ、新入生に剣道部随一の実力が披露出来ないだろうから、協力してやろうって言ってんだぜ?」
「無理矢理勝負を吹っ掛けておいて!
協力が聞いて呆れる。
貴方が先輩相手に振るった暴力が風紀委員会にばれたら、貴方一人の問題じゃ済まないわよ」
「暴力だって?
おいおい壬生、人聞きの悪いこと言うなよ。
防具の上から、竹刀で、面を打っただけだぜ、俺は。
仮にも剣道部のレギュラーが、その程度のことで泡を噴くなよ。
しかも、先に手を出してきたのはそっちじゃないか」
「桐原君が挑発したからじゃない!」
切っ先を向け合っておいて、今更口論もなかろうに、とは思ったが、当事者同士が疑問に答えてくれるのは好都合だった。
――当人たちにその気はなかっただろうけど。
「面白いことになってきたね」
独り言ともそうじゃないともとれる口調でエリカが呟いた。
ワクワクしている、ということが、声音からも窺われる。
「さっきの茶番より、ずっと面白そうな対戦だわ、こりゃ」
「あの二人を知っているのか?」
「直接の面識はないけどね」
達也の問い掛けに即、応じたところを見ると、独り言ではなかったらしい。
「女子の方は試合を見たことあるのを、今、思い出した。
壬生紗耶香。一昨年の中等部剣道大会女子部の全国二位よ。当時は美少女剣士とか剣道小町とか随分騒がれてた」
「……二位だろ?」
「チャンピオンは、その、……ルックスが、ね」
「なるほど」
マスコミなぞ、そんなものだろう。
「男の方は桐原武明。
こっちは一昨年の関東剣術大会中等部のチャンピオンよ。
正真正銘、一位」
「全国大会には出ていないのか?」
「剣術の全国大会は高校からよ。
競技人口じゃ比べ物にならないからね」
それはそうだろう、と達也は頷いた。
剣術は剣技と術式を組み合わせた競技、ならば魔法が使えることが競技者の前提条件となる。
魔法学の発達により魔法を補助する機器の開発が進んでいるとはいえ、実用レベルで魔法を発動できる中高生は、年齢別人口比で千分の一前後。
成人後も実用レベルの魔法力を維持している者は更にその十分の一以下。
この学内でこそ二科生は落ちこぼれ扱いだが、全人口比で見れば彼らもエリートなのだ。
「おっと、そろそろ始まるみたいよ」
張り詰めた糸が限界に近づいているのは、達也にも感じ取れていた。
女子生徒の方には、防具をつけていない相手へ打ち込むことに対する躊躇もあっただろう。だが、切っ先を向け合って互いに引かない以上、剣を交えるのは避けられないことだ。
おそらく、男――桐原の方が先に動く。
「心配するなよ、壬生。剣道部のデモだ、魔法は使わないでおいてやるよ」
「剣技だけであたしに敵うと思っているの? 魔法に頼り切りの剣術部の桐原君が、ただ剣技のみに磨きをかける剣道部の、このあたしに」
「大きく出たな、壬生。
だったら見せてやるよ。
身体能力の限界を超えた次元で競い合う、剣術の剣技をな!」
それが、開始の合図となった。
いきなりむき出しの頭部目掛けて、竹刀を振り下ろす桐原。
竹刀と竹刀が激しく打ち鳴らされる。
悲鳴は、二拍ほど遅れて生じた。
見物人には、何が起こっているのか分からなかったことだろう。
ただ、竹と竹が打ち鳴らされる音、時折金属的な響きすら帯びる音響の暴威から、二人が交える剣撃の激しさを想像するのみ。
――少数の、例外を除いて。
「……女子の剣道ってレベルが高かったんだな。
あれが二位なら、一位はどれだけ凄いんだ?」
二人の剣捌きに、とりわけ紗耶香の技に感嘆の吐息を達也が漏らせば、
「……違う……
あたしの見た壬生紗耶香とは、まるで、別人。
たった二年でこんなに腕を上げるなんて……」
呆気に取られながらも、顔を隠して舌舐め擦りしているような、どこか好戦的な気配を放ちながらエリカが呟く。
鍔迫り合いで一旦動きの止まった両者が、同時に相手を突き放し、後方に跳んで間合いを取った。
息をつく者と、息を呑む者。
見物人の反応は、二つに分かれた。
「どっちが勝つかな……」
息を潜めてエリカが問う。
「壬生先輩が有利だろう」
囁き声で達也が答える。
「理由は?」
「桐原先輩は面を打つのを避けている。
最初の一撃は受けられることを見越したブラフだ。
魔法を使わないという制約を負った上で、更に手を制限して勝てるほど、実力に差は無い。
平手の勝負でも、竹刀捌きの技術だけなら壬生先輩に分があると思う」
「概ね賛成。
でも、桐原先輩がこのまま我慢しきれるかな?」
エリカの台詞が聞こえた訳でもないだろうが、
「おおぉぉぉぉ!」
この立ち合いで初めて、雄叫びを上げて桐原が突進した。
両者、真っ向からの打ち下ろし!
「相討ち!?」
「いや、互角じゃない」
桐原の竹刀は紗耶香の左上腕を捉え、
紗耶香の竹刀は桐原の右肩に食い込んでいる。
「くっ!」
左手一本で紗耶香の竹刀を跳ね上げ、桐原は大きく跳び退った。
「……途中で狙いを変えようとした分、打ち負けたな」
「そうか、だから剣勢が鈍ったのね。
完全に相討ちのタイミングだったのに……結局、非情になれなかったか」
勝負あった、と見たのは達也たちだけではない。
剣道部の面々は安堵の表情を浮かべている。
見物人だけでなく、
「……真剣なら致命傷よ。あたしの方は骨に届いていない。
素直に負けを認めなさい」
凛とした表情で勝利を宣言する紗耶香。
その言葉に、桐原は顔を歪めた。
紗耶香の指摘が正しいことを、感情が否定しようとしても、剣士としての意識が認めてしまっているのか。
「は、ははは……」
突如、桐原が虚ろな笑い声を漏らした。
負けを認めたのか?
そうは見えなかった。
達也の中で、危機感の水位が急上昇した。
彼以上に、脅威を肌で感じ取ったのは、対峙を続ける紗耶香だっただろう。
改めて構え直し、切っ先を真っ直ぐに向け、桐原を鋭く見据えている。
「真剣なら?
俺の身体は、斬れてないぜ?
壬生、お前、真剣勝負が望みか?
だったら……お望み通り、『真剣』で相手をしてやるよ!」
桐原が、竹刀から離れた右手で、左手首の上を押さえた。
見物人の間から悲鳴が上がった。
ガラスを引っ掻いたような不快な騒音に耳を塞ぐ観衆。
青ざめた顔で膝をつく者もいる。
一足跳びで間合いを詰め、左手一本で竹刀を振り下ろす桐原。
片手の打ち込みに、速さはあっても最前の力強さはない。
だが紗耶香は、その一撃を受けようとせず、大きく後方へ跳び退った。
当たってはいない。
せいぜい、かすめただけだ。
それなのに、紗耶香の胴に、細い痕が走っている。
追撃をかける桐原。
再び振り下ろされる片手剣。
その眼前に、達也が割り込んだ。
飛び込む直前、腕組みをするように、左右の腕にはめたCADへ、一瞬で右左の指を走らせていた。
今度は、見物人の中に口を押さえる者が続発した。
乗り物酔いに似た症状が、急激に連鎖する。
その代わり、不快な高周波音が消えていた。
肉を打つ竹の音、は、鳴らなかった。
生じた音は、板張りの床を鳴らす落下音。
音と揺れから解放され、何が起こっているのか確認する余裕をようやく取り戻した見物人たちが見たもの。
それは、投げ飛ばされた桐原の左手首を掴み、肩口を膝で抑え込んでいる達也の姿だった。
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