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短いお話でしたが、とうとう最終章です。
それでは、どーぞ!
第五章






「君の傍に居るには、僕はどうしたらいいのかな」

私を抱きしめ、彼はそう言った。

疑問の形を取らず、ただ、呟きのようにも聞こえる言葉。
・・・私の、傍に居るには?
あぁ、なんて酔狂な。
本当、可笑しな人。
私の傍に居たところで、幸せなどなれないのに。

「私の、傍に居るには・・・?」

彼の言葉を繰り返して、私はもう一度口を開いた。

「・・・じゃあ、生きて」

「・・・え?」

彼の腕の中から離れ、私は静かにその目を覗いた。

「私の傍に居たいなら、人のまま、長く、長く生きて。
出来る限り、ずっと、長く生きていて。
そうしたら私は、自分の意志で生き続ける。
貴方の傍に居ることが出来る」

彼は眼を細め、そう、と囁くように言うと、胸の薔薇を抜き取り私に差出してきた。


「・・・リナリア」


それは、捨てたはずの名前。

・・・どうして?

どうして、その名で私を呼ぶの?

「ねぇ、リナリア。
どうか、受け取って。
・・・この薔薇が、僕の想いだから」

彼の言葉に、私は一歩後退りした。
その名前は、『幻想』の花は、偽物も否定も嫌いだと、前に話したはずなのに。

「・・・どうして、その名で私を呼ぶの?
やめて、どうか、私は・・・私は『幻想』なんていらないのに!」

「リナリア」

手を、掴まれた。

彼はワルツの続きを求めるように優しく、けれども力強く私の右手を掴んだ。
・・・逃げられない。
振りほどこうにも、紡がれる言葉すべてが悲痛に響いて、動けなくなる。

「『私の想いを知ってください』」

カイは、そう言った。

「僕も幻想なんかいらない。
偽物も否定も、いらない。
欲しいのはリナリアだけなんだ!
だからどうか・・・受け取って」

紅い薔薇の花言葉は『愛情』。
そして、『貴方に尽くします』。

差出された、紅い薔薇。
甘く匂い立つ綺麗な花弁。

「『安らかな死』も、今日はいらない。
僕たちは今、ここに居るんだから・・・」

泣きそうな声で紡がれる言葉。
あぁ、どうして。
悲しい響きが、私を捉えて離さない。
話してくれない。

あぁ、なんて愛しい。

私も真っ赤な薔薇を彼に捧げ、そして、その花にそっと手を伸ばした。










『私の想いを知ってください』

リナリアの、もう一つの花言葉。

祈りのようなその言葉が、とても綺麗だと思った。

愛されているのだと、感じた。

愛しても良いのだと、感じた。

そして、生きたくなった。

なにもかも、あの人の所為。
死ねなくなったのも、生きたくなったのも、全部、あの人の所為だ。

人の命は短すぎる。

吸血鬼の命は長すぎる。

あぁ、なんて厄介なのだろう。
それを知りながら生き続けることを選んでしまうなんて。

真っ赤な血と、真っ赤な薔薇。

静かな狂気と依存関係。

アメジストの瞳と、傷だらけの腕。

軽やかなワルツと、覚束のないステップ。

手を取り合い、腰に手を回し、見つめ合い、古い蓄音機から流れるピアノにターンとステップ。

くるくる、くるり。

貴方のために、いつまでも回り続けよう。



・・・この命、果てるまで。










完結です!
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

これからも、精進していきますので、次回作品もよろしくお願いします。
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