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更新が遅れて、申し訳ありません。風邪をこじらせ、肺炎でダウンしてました。
それでも、完全復活!

それでは、第三章どーぞ!
第三章




僕とユウガオの生活が始まった。

僕は毎日三回、温室へ真っ赤な薔薇の花を摘みに行く。
血は飲みたくないと、毎日ぐずる主のために。
真っ赤な薔薇。
きれいな血の色だと、彼女は笑う。

真っ赤なものを、彼女は次々と口に運ぶ。

気休めだと言いながら、これで生きていくことが出来ればいいのにと笑う。
吸血鬼には、血液が必要だ。
どうしてなのか良く分からないが、人の血液からでなければ栄養を摂取出来ないのだという。
なのに彼女は要らないという。
極力、別なもので補おうとする。
夕食の時、僕は彼女にこう問いかけた。

「どうして、血を拒むの?
生きるのに必要なものなら、受け入れないと」

「・・・そうね。
人が私と同じ形の生き物でなければ受け入れられたかもしれない」

囁くように紡がれる言葉に、僕は少しだけ眉を寄せた。

「今まで、君はどうしていたの?
これまで生きていたなら、血を飲んできたということだろう?」

「その辺でウサギや何かを捕まえてきて血を吸っていた。
・・・でも、やっぱり人の血でないと身体が持たないから、たまに人を襲って少しだけ血をもらっていたの。
薬で眠らせて、腕とかからね」

首筋からじゃ、人ではなくなってしまうから。

そう続けて、彼女は薔薇の花をもう一輪口に運ぶ。
花弁が一枚、ひらりと落ちた。
ぼくはそれを拾い上げ、自分の口に運んでみる。
不味い。

「やっぱり、僕の血を飲みなよ」

「あまり吸いすぎると貴方が死んでしまう。
・・・他の人のはもう、身体が受け付けないのに」

その呟きに、思わず笑ってしまった。

まるで、貴方がいなければ生きていけないとでも言われているようで、酷く依存的な告白を受けているようで、思わず笑ってしまった。

彼女は‘食糧’として僕を見ているだけなのに。

依存しているのは、僕なのに。

腕に残る傷跡を見る度、癒えていく傷を見る度、その度にここから離れられなくなっている。

腕の傷跡は、彼女との関係を証明するもの。
増えた傷跡は、彼女との関係が増えたと証明するもの。
癒えていく傷跡は、ここが現実の世界であると証明するもの。

全部ぜんぶ、僕のもの。

想う度、ここから離れられなくなっている。

まぁ、もともと離れる気なんかないけれど。

「ねぇ、カイ?」

綺麗なソプラノの声。
それに、何?
と一言答える。

「・・・・・・」

「・・・ユウガオ?」

僕の名前を呼んだきり、彼女は黙る。
だから、彼女の名前を呼んでみた。
ユウガオ、・・・ユウガオ?

二度、三度。
でも彼女はただ左右に首を振った。
そして、何でもないと微笑んだ。










「ねぇ、カイ?」

「何?」

柔らかに笑む彼の眼に、一瞬見惚れた。

「・・・ユウガオ?」

言葉が、出てこなかった。
二度、三度、彼は私の名を呼ぶ。
穏やかなテノール。
優しい声に、私は眼を閉じて左右に首を振った。
・・・この人は、知っているのだろうか。
私がどれだけの年月を生きてきたのか。
いや、知らないだろう。
教えていないのだから、当然だ。

私はもう何百年も生きてきた。

なのに、彼は私と同じになりたいと言う。
あぁ、彼は分かっているのだろうか。
もし私と同じになったら、私が死んだ後、何百年も一人で生きなければいけないのだということを。

人の生と比べたら、私はまだ、とても長い年月を生きる事が出来る。
だけど、吸血鬼としての命は半分以上が終わっているのだ。

あぁ、早く、気付いてくれればいいのに。
一言、聞いてくれればいいのに。

薔薇を口に運びながら、ただひたすらに彼を想う。

想っても、考えても空しいだけなのに。

私は何百年も生きてきた。
何百年も生きて、色々な物を見てきた。
色々な事を知った。
色々な事をした。

なのに、何も出来ない。

私は今までどうやって生きてきたのだろう。

たった一人の人間に、私はこんなにも囚われている。
彼が死んだら、私は一体どうやって生きていくのだろう。

「・・・ユウガオ?」

頬に、ひんやりとした手のひらが添えられた。
彼の手は、気持ちいい。
その手に自分の手を添えると、彼は眼を細め、細い眉をわずかに寄せた。

「泣いているよう見えた」

優しい瞳は、相変わらず。
何かあった?
と彼は心配そうに首をかしげる。

「何でもない」

彼の眼を見ている事が出来なかった。
だから彼の手を振り払い、窓の外に視線をそらす。
まぁるい月が、空にいた。

「なんて、綺麗」

「月?」

無言で頷く。

だけど、あまりにも綺麗で、綺麗過ぎて、なんだか、耐えられなくなった。
彼の眼も、空の月も、見ていると狂ってしまいそう。
ねぇ、今にも壊れてしまいそう。
壊れてしまいそう。

「・・・ユウガオ」

その声に、ゆるりと彼を見る。

「ピアノのレコードがあるんだ。
一緒に聞かない?」

静かに頷いた。

優しい瞳も、優しい声も、相変わらず。
だけどやっぱり直視することは出来なくて、私の視線は彼のスーツの胸元辺りを行き来する。
ふわふわと焦点の定まらない視線。
彼は私の髪を二、三度撫でて、ちょっと待っててねと部屋を後にした。

その後ろ姿にでさえ、私はぼんやりと、見惚れていた。













読んでいただきありがとうございます。これからはどんどん更新していくので、次回もよろしくお願いします。

良い点、悪い点があればどんどん感想に書いていただければ嬉しいです。


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