たまりばユネスコ倶楽部会報

VOL.4  NO.1(通算26号)  2006年4月1日発行


内   容

2月例会講演   「人権と平和の世紀」における日本国憲法・教育基本法 ”改正”問題を考える   荒牧 重人

報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・藤尾 喜代子        2
荒牧氏の講演に寄せて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・森川  貞夫        4

韓国の三一運動87周年と民主化の「今」に思う・・・・・・・・・・・・・・・・・吉岡   淳         5

【資料】
「文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約」(抄・仮訳)・・・編 集 部           7

地域遺産・多磨霊園の散策  〜12月例会報告〜・・・・・・・・・・・・・・・足立和巳・足立和代   14

活動報告(2006年1月〜3月)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・事  務  局       15
 2006年度たまりばユネスコ倶楽部総会告示                               15
 たまりばお奨め地域遺産:その8・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・編 集 部          16


たまりばユネスコ倶楽部
代表世話人:藤森照信  副代表世話人:城戸一夫・森川貞夫
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たまりばユネスコ倶楽部2月例会講演

「人権と平和の世紀」における日本国憲法・教育基本法”改正”問題を考える      
                                            山梨学院大学院教授 荒牧 重人



2月11日(土)グリーンプラザにおいて、たまりばユネスコ倶楽部会員である荒牧重人氏による標記の講演が行われた。1時間半の講演の内容は、非常に密度が濃く、かつわかりやすいものであった。その中で、印象に残り、まさに「目から鱗」であった3つの点を中心に述べたいと思う。                                                                          (文責:藤尾喜代子)

まず、日本国憲法は「21世紀型憲法」であること、第2に憲法は国民が国に命令するものであること、第3に平和教育は日常レベルでのもめごとの解決にまで関わるということである。

 日本国憲法は「21世紀型憲法」
 最初に荒巻氏が指摘したポイントは、日本国憲法は、国民主権、基本的人権の保障、平和主義、平和的生存権を含んだ「21世紀型憲法」であるということである。近代市民革命を経て勝ち取られた思想、宗教、表現、学問の自由、奴隷的拘束からの自由、職業選択、居住・移転の自由だけでなく、生存権・福祉の権利、教育の権利、労働権、平和的生存権などが、日本国憲法によって保障されているのである。
 日本国憲法が一般に信じ込まされているようなアメリカからの押し付けでもなく、古びたものでもなく、非常に優れた憲法であることを、私は認識した。
しかし現実に目を向けると、本来「憲法を如何に実現すべきか」であるはずのところが、福祉政策を例にとってみても「予算が足りないから福祉予算を削ろう」という状態である。政府は国民に「憲法」「基本的人権」を自覚させないようにしているという。学校教育の現場においても、単なる条文の丸暗記などが主流で、現実の自分たちの生活に密接に関係したものとしての憲法教育は、意図的に排除されているそうだ。
 憲法は今の現実に合わないから変えるべきだと主張する人々がいる。しかし、目指すべき理想としての憲法を、問題が山積している現状に合わせて変えてしまうことによって、どのような社会を望み、また次の世代にどのような世の中を残そうというのだろうか。

 憲法は国民が国に命令するもの
 また、憲法は国民が国に命令するものであることを改めて確認した。憲法改正の当面の焦点は、第9条と第96条であるが、政府は第9条2項「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」を削除し、「内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持」と明記しようとしている。しかし現状においても、現2項は違反を重ねてきている。世界有数の軍隊である自衛隊、そしてその「国際貢献」「テロ対策」という名の下での海外派遣、また日米安全保障条約とその違反など、既成事実を積み重ねておいた上で、現状に合わないから国民に認めろというのであろうか。同時に、第96条を改正することによって(総議員の3分の2から過半数の賛成へ)改正手続きのハードルを低くし、政府改正派は何が何でも改正しようとしている。第9条の改正は、国民が政府の戦争や軍拡に対してNOと言う根拠を失うことに他ならないだろう。すべてに超越する憲法に明記されている第9条は、何としてでも守るべきものだと思う。

 平和教育は日常の紛争の解決にまで関わるもの
 平和の希求はすべての人の願いである。世界の平和の取り組みを見ると、1928年の「戦争放棄に関する条約」、1945年「国際連合憲章」と戦争を違法化している。紛争がおきた場合、まず友好的に外交で次に国連で解決すると定めている。それは、過去の戦争の経験から、軍事力で達成しようとした平和(らしきもの)は軍事力によって崩されるということは明らかであるし、核兵器の出現により、すでに破壊力は自国をも滅ぼすものになってしまっているからである。
 日本における平和主義も、憲法に前文の「戦争の惨禍と国民主権」「平和的生存権」、9条の「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を盛り込み、非常に優れた構造になっている。
 そして、平和への具体的な取り組みとして、軍縮教育、ユネスコが行っている「非暴力」でもめごとを解決する方法や攻撃的ではない話し方で話す力等の形成が挙げられる。つまり平和を築くことは、個人レベルでの日常的なもめごとの解決にまで関わってくるのである。
 ユネスコ憲章の冒頭にある「戦争は人の心の中で生まれるものである」という意味を今一度考えてみたい。相手(小さくは個人対個人、グループ対グループ、民族対民族、さらには国対国)との間にもめごとが起きたときに、相手を責める、罵倒する、暴力に訴える、このプロセスが喧嘩、紛争、戦争となると言えよう。お互いに違いを認め、相手を尊重し、話し合い、交渉によってものごとを解決していくことを、日々実践していく必要があることを痛感した。

メデイァでは、憲法改正をめぐって多くの情報が提供されているが、余りにも安易にそれらを信じてはいないだろうか。メデイァを通じて流される言説を、鵜呑みにするのではなく、情報はだれかが意図を持って構成したものであるということを意識しながら、情報を理解し判断する力をすべての市民が身につけることの必要性を強く感じた。
 最後に、難しい憲法問題を整理してわかりやすく講演してくださった荒牧氏に深く感謝したい。

荒牧氏の講演に寄せて                    森川 貞夫

 2月11日に開催された、たまりばユネスコ倶楽部例会での講演は、会員でもある山梨学院大学教授の荒牧重人氏による「『人権と平和の世紀』における日本国憲法・教育基本法“改正”問題を考える」でした。

 こういうときに「目から鱗」と言うのではないかと思うぐらいに、話はすっきりとして何が問題かがよくわかる内容でした。
 日本国憲法の歴史的な位置は「21世紀型憲法」だという説明に先ず感心しました。近代市民革命によって勝ち取られた「市民的自由」(王権からの解放による思想・宗教・表現・学問などの精神的自由、奴隷的拘束からの自由・刑事手続上の人権といった人身の自由、職業選択、居住・移転の自由といった所有の自由)だけでなく、生存権・福祉の権利、教育の権利、労働権、さらに平和的(に生きる)生存権をふくんだ先駆的な憲法だということです。問題は現実がどうなっているのかということです。革新自治体(この言葉も久しく聞かなくなった)華やかりし頃には役所の屋上から「憲法を暮らしの中に」という垂れ幕が下がっていました。今は医療費・年金等々もふくめて「自己責任」とばかりにどんどん「憲法的保障」が切り下げられても何か当たり前と言った国民の感覚、あまり抗議もしないというのはいかに憲法がないがしろにされてきたかという証拠でしょうか。

 法学者としては「改正」論者だというのも、おもしろい表現でした。というのは「環境権」や「平和の問題」で「世代を越え」「国境を越えて」の「連帯の権利」(第三世代の人権)などを今後は憲法に盛り込んで(「改正」)いくことが必要だというのです。地球を何回も破壊しつくしても余るぐらいに核兵器が世界中に存在しているというこの「核の時代」の現在(今)、未来の世代である子どもたちに「何を残していくのか」というのが「大人たちの責任」としてあるのではないかと、私なりに理解しました。ゴミ問題からはじまって核汚染・環境破壊はこの地球の未来を危うくするものです。同時にこのグローバルな時代のインターネットやNGOなどによる「世代や国境を越えた」運動が世界のどこからでも発信し、それを運動として広げ、さらに連帯が可能になった今こそ、think globally, act locally + think locally, act globallyが必要だというのです。

 しかし、今取り沙汰されている「憲法改正」問題は明らかに違う。ただひたすら「押しつけ憲法」だから変える、と言いつつ、何を変えるかと言えば「憲法前文」と「9条2項」を変えて「自衛のための軍隊」をもつ国にしたい(要するに「戦争ができない国」から「戦争ができる国」へ)ということでしょうか。今でもアメリカの要請に真っ先に応えて「海外派兵」をしているという「現実」、さらに世界有数(アメリカに次いで第2位か、第3位の軍備をもっている)「自衛隊」(あくまで「軍」ではない)の「現実」に憲法を「改正」して合わせるということでしょうね。これも戦後60年の「既成事実」を積み重ね、なし崩し的に「憲法」を変質させてきた挙げ句にこの「現実」を認めろということでしょうが、それは「現実」を変えて「理想」に近づけていくというのとはまったく逆の発想ではないかと思うのです。

韓国の三・一運動87周年と民主化の「今」に思う           吉岡 淳


  先日、二泊三日の日程で韓国ソウルに行ってきました。「3月1日」をソウルのパゴダ公園で過ごしてみたかったからです。ご存知のように、そこは87年前の1919年3月1日に、日本によって植民地化された韓国の民衆が多数集結し、独立宣言文を発表した場所です。すぐさま日本の官憲によって弾圧されましたが、独立宣言文はその後の韓国の独立運動の精神的支えとなったものです。

 これに因んで、毎年3月1日はパゴダ公園で記念行事があるほか、市中を当時のコスチュームで練り歩くデモンストレーションもやっています。日本の憲兵の衣装もあり、この日を忘れないようにしようという企画です。

また政府の記念式典も別会場であり、ノムヒョン大統領は日本の憲法改定の動きや小泉首相の靖国参拝を批判する挨拶をし、テレビで同時中継されました。式典の大半は独立宣言文の全文の朗読に割かれていました。長文の宣言文の内容は、決して日本および朝鮮総督府への批判ばかりではなく、当時の状況を招いた自分たちのありように対しても批判していることです。この宣言文に署名した33名のうち、数名がその後日本政府に協力したことが判明し、現在批判を受けています。


 同じ日、ソウルの繁華街の明洞(ミョンドン)では、「3・1」などどこ吹く風、若者を中心に町を埋め尽くす賑わいを見せていました。この日は国民の祝日になっていて、87年前の歴史的事実も風化したかのようでした。また韓国のイへチャン首相が、この日の政府主催の式典に、ゴルフに行っていて欠席したことが発覚し、辞任騒ぎになりました。イ首相は、韓国の民主化運動の闘士の一人で、投獄経験もありノムヒョン大統領の片腕の一人。しかし公式行事のすっぽかしは今回で4回目とかでおまけにその理由がすべてゴルフ。

 その後イ首相は辞任、その後任にはやはり民主化世代の闘志だったハンミョンスク(韓明淑)国会議員が韓国政権史上初の女性首相に任命されました。昨今の韓国の民主化を象徴する出来事です。韓国の民主化と政治改革の動きはすさまじく、失脚したノテウ、チョンドファン両元大統領は、大統領だったという称号以外のすべての勲章を剥奪されたのはその一例です。現在、日本統治下に日本政府や軍に協力した人物とその行為によって得た財産や地位などが検証されていて、その事実が証明されると、それによって得た不動産の売買が禁止される徹底振り。

 日韓国交正常化3年目の1968年に日韓ユネスコ学生交換事業で初めて韓国を訪れ、釜山(プサン)滞在中の夜に、市民から水や塩を巻かれたことが今でも鮮明に記憶に残っていますが、「恨500年」の伝統を持つ韓民族の歴史認識と反日感情は、僕たち日本人が考えているような半端なものではありません。今回で20回目の訪韓でしたが、激動の時代から今日の民主化に至る韓国社会の変化の過程を目撃し、韓国の人々の政治意識の高さは、日本のそれをはるかに凌駕していると実感させられました。
 さて、いま韓国は「スロー」ブームです。「well being」という標語がやたらと目に付き先進国に仲間入りした余裕が人々の表情に感じられます。スターバックスのカフェが日本以上に流行っています。無農薬ではないが以前の韓国のあのまずいコーヒーからは考えられないほど美味くなりました。

 さらには国中がマンションラッシュで、15-20階の高層ビルがソウルだけではなく、地方都市や38度線の非武装地帯の南側まで所狭しと林立しています。また、その北側にあるケソン(開城)では、韓国資本によって北朝鮮の人々が労働力として雇われる経済特区が稼動しています。また38度線の北側にある金剛山観光ツアーに参加した韓国人旅行者が100万人を超えたといいます。 それらの光景は、南北朝鮮が二度と一戦を交えることはないという韓国側の自信の表れでもありました。初めての世界野球大会(WBC)で日本が奇跡的に優勝を遂げたが、政治意識と歴史認識の分野でこそ日本は、韓国と競うべきでしょう。(吉岡淳)

【写真】 パゴダ公園での3・1運動記念式典(5ページ)
     当時の日本の憲兵隊の衣装で町を練り歩くパレード(6ページ)  

【三・一運動】(編集部注)
 1919年(大正8)3月1日から約1年間にわたって続けられた、日本帝国主義の植民地支配に反対した朝鮮民族の独立闘争。1910年(明治43)の「併合」後、朝鮮人民の抵抗は次第に活発化しはじめ、1918年(大正7)からはストライキも急増した。ロシア革命の影響も加わり、第1次世界大戦後の世界的な革命的雰囲気のなかで、朝鮮民衆の独立運動に新たな高揚をもたらす契機となった。また李太王(高宗)毒殺も民族的運動を激化させた。1919年2月8日東京留学生による独立宣言発表(二・八独立宣言)と、国内における「民族代表」33人による示威運動計画を経て、日本帝国主義侵略者に対する朝鮮民衆の憤激は遂に1919年3月1日、全民族的な反日蜂起となって爆発した。
 3月1日、ソウルでは数十万の群集が大規模な反日示威を決行し、「日本人と日本軍隊は出て行け」「朝鮮独立万歳」を絶叫しながら怒涛のように進出した。運動は満州と沿海州・日本・ハワイなど朝鮮人の居住する海外各地にも波及していった。日本は警察・憲兵・軍隊を総動員して示威群集に銃弾を浴びせ、多くの愛国者を虐殺した。大衆的な示威運動は、「日帝」の憲兵分遣所・警察機関・地方行政機関などへの襲撃破壊行動へと高まり、一部地方では武装闘争も展開した。この闘争は1年間も続き、200万人以上の民衆が参加した。
 4月中旬からは日本は軍隊を増派して、非武装の民衆に暴圧を加えた。4月に起こった「水原虐殺事件」はその典型であった。これは日本人官憲が、ソウル郊外の水原付近のある教会に一村民を監禁して放火し、必死に逃げ出す村民を無残にも射殺した事件である。日本官憲はその後も3日にわたり放火と虐殺を続け、数千名を殺戮、数百の民家を焼き払った。こうした事件は全土で繰り返された。三・一蜂起で犠牲になった民衆は、3〜5月の3カ月で、死者7,509名、負傷者1万5,961名、被検挙者4万6,948名に達した。(朴慶植『朝鮮三・一独立運動』などによる。)


【資 料】文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約(抄、仮訳)


 国際連合教育科学文化機関(以下「ユネスコ」という。)の総会は、2005年10月3日から21日までパリにおいてその第33会期として会合し、
 文化多様性が、人類の固有の特性であることを確認し、
 文化多様性が、人類の共同の財産を構成し、並びに全ての利益のためにはぐくまれ及び保全されるべきものであることを認識し、
 文化多様性が、選択の範囲を増加し並びに人間の能力及び価値を育てる豊かで多様な世界を醸成し、ゆえに地域社会、国民及び国家のための持続的可能な開発の主動力であることを認識し、
 文化多様性が、民主主義、寛容、社会正義及び国民と文化の間の相互尊重の枠組みにおいて繁栄し、地方、国家及び国際的なレベルにおいて平和及び安全のために不可欠であることを想起し、
 世界人権宣言及びその他の普遍的に認められている文書において宣言された人権及び基本的自由の完全な実現のための文化多様性の重要性を祝し、
 国歌及び国際的な開発政策並びに国際的な開発協力に戦略的要素として文化を組み入れる必要性を強調し、貧困の根絶に特に重点を置いた2000年の国際連合ミレニアム宣言をも考慮に入れ、
 文化が時間と空間を経て多様な形を構成し、及びこの多様性が個性の独自性かつ複数性並びに人間性を構成される国民及び社会の文化的表現に内包されていることを考慮に入れ、
 無形及び有形の財産の源である伝統的知識の重要性、特に原住民の知識制度及びその持続的な開発への積極的な貢献並びに十分な保護及び促進の必要性を認識し、
文化的表現(その内容を含む。)の多様性が、特に文化的表現が消滅又は重大な悪化の可能性により脅威にさらされる事態にある場合に、それを保護するための措置をとる必要性を認識し、
一般に社会的一体性のための文化の重要性、特に社会における女性の地位及び役割の強化のための文化の可能性を強調し、
 文化多様性が、意思の自由な交流によって強化されつつ、かつ、文化間の不断の交流及び相互作用によって育てられることを再認識し、
 文化的表現(伝統的な文化的表現を含む。)の多様性が、個人及び国民に思想及び価値観を表現させ、それらを他の者との間で共有させる重要な要素であることを認め、
 言語的多様性は文化多様性の基本的要素であることを想起し、かつ、教育が文化的表現の保護及び促進において果たす基本的役割を再認識し、
 伝統的な文化的表現を創造し並びに伝播し及び配分し、かつ、独自の開発に利益をもたらすよう伝統的な文化的表現にアクセスする自由の中で明らかにされてきた文化(少数民族及び原住民に属する個人のための文化を含む)の活力の重要性を考慮し、
 文化的表現を育て及び再生し、かつ、文化の開発に関与する文化的表現が社会全体の進展のために果たす役割を強化する文化的な相互作用及び創造性の決定的な役割を強調し、
 文化的創造性に関与する知的財産権を維持することにおいてそれらの重要性を認識し、
 文化的活動、物品及びサービスが個性、価値観及び意義を伝達し、ゆえに単に商業的価値を有するものと扱われてはならないことから、それらが経済的かつ文化的性質の双方を有することを確信し、
 情報通信技術の急速な進展により促進されている地球規模課の過程は、文化間の相互作用を強化するための前例のない条件を与えるが、特に富裕国と貧困国の不均衡の危機に照らし、文化多様性に関する挑戦をも象徴していることに留意し、
 文化の多様性のための尊重を確保し、言語及び表象による思想の自由な交流を促進するために必要な国際協定を勧告するためのユネスコの特定の任務を認識し、
 文化多様性に関してユネスコにおいて採択された国際文書の規定及び文化的権利の行使、特に2001年の文化多様性に関する世界宣言に言及し、
 この条約を10月20日に採択する。

T 目的及び指導原則

第1条 目的
   この条約の目的は、次のとおりである。
(a) 文化的表現の多様性を保護し及び促進すること。
(b) 相互に裨益するような方法で文化を繁栄させ及び自由に相互作用を行わせる条件を創造すること。
(c) 文化相互的な尊重及び平和の文化のために世界中のより広く及び均衡のとれた文化交流を確保するため文化間の対話を奨励すること。
(d) 国民の間に橋を架ける精神の下で文化的な相互作用を発展させるために文化相互性を育成すること。
(e) 地方、国家及び国際的なレベルにおいて、文化的表現の多様性の尊重を促進し及び文化的表現の多様性の価値を啓発すること。
(f) すべての国、特に開発途上にある国における文化と開発との関係の重要性を再認識し並びにこの関係の真の価値の認識を確保するために国内的に及び国際的にとられた行動を支援すること。
(g) 個性、価値観及び意義の伝達手段としての文化的活動、物品及びサービスの特有の性質を認めること。
(h) 自国の領域内において文化的表現の多様性の保護及び促進のために国家が適当と認める政策及び措置を支持し、採用し及び実践するための国家の主権的権利を再認識すること。
(i) 文化的表現の多様性を保護し及び促進するために、特に開発途上にある国の能力を強化するために協力関係の精神の下で国際協力及び連帯を強化すること。

第2条 指導原則
  1  人権及び基本的自由の尊重の原則
     文化多様性は表現、情報及び伝達のような人権、及び基本的自由並びに文化的表現を選択する個人の能力が保証される場合に限り、保護され及び促進される。いかなる者も世界人権宣言にうたう又は国際法によって保障される人権及び基本的自由を侵害するために又はその範囲を限定するためにこの条約の規定を援用することはできない。
  2  主権の原則
     国家は、国際連合憲章及び国際法の原則に従い、自国の領域内において文化的表現の多様性を保護し及び促進するための措置を及び政策を採用する主権的権利を有する。
  3  全ての文化の平等な尊厳及び尊重の原則
     文化的表現の多様性の保護及び促進は、全ての文化(少数民族及び原住民に属する個人の文化を含む。)の平等な尊厳及び尊重の認識を前提とする。
  4  国際的連帯及び協力の原則
     国際協力及び連帯は、国、特に開発途上にある国の文化的表現(その文化産業も含む。)の手段を、初期段階であるか又は確立したかを問わず、地方、国家、及び国際的レベルにおいて、創造し及び強化することを目的とすべきである。
  5  開発の経済的及び文化的側面の補完性の原則
     文化が開発の原動力の一つであることから、開発の文化的側面はその経済的側面と同程度に重要であり、個人及び国民は開発に参加し及び共有する基本的権利を有する。
  6  持続可能な開発の原則
     文化多様性は個人及び社会にとって豊かな資産である。文化多様性の保護、促進及び維持は、現在及び将来の世代の利益のための持続可能な開発にとって基本的原則である。
  7  公平なアクセスの原則
     文化的表現の豊かな及び多様な範囲への世界中からの公平なアクセス並びに表現及び伝播の手段への文化のアクセスは、文化多様性を強化し及び相互理解を奨励するための重要な要素を構成する。
  8  開放性及び均衡の原則
     国家が文化的表現の多様性を支援する措置をとる場合には、国家は適切な方法により、世界の他の文化への開放性を促進するように努め、当該措置がこの条約の下で達成される目的に適合していることを確保するよう努めなければならない。

U 適用範囲

第3条 提要範囲
   この条約は、文化的表現の多様性の保護及び促進に関して締約国によってとられる政策及び措置に適用される。

V 定義

第4条 定義
   この条約の適用上、次のことが了解される。
  1  文化多様性
     「文化多様性」とは、集団及び社会の文化を表現する多様な方法をいう。これらの表現は集団及び社会の中で及びそれらの間で伝播される。
     文化多様性は、人類の文化遺産が種々の文化的表現を通して表現され、拡大され及び伝えられる多様な方法によるのみではなく、いかなる手段及び科学技術が使われようとも芸術的な創造、生産、伝播、配給及び享有の多様な様式によっても明らかになる。
  2  文化的コンテンツ
     「文化的コンテンツ」とは、文化的な個性を起源とする又はそれを表現する象徴的な意義、芸術的な要素及び文化的な価値をいう。
  3  文化的表現
     「文化的表現」とは、個人、集団及び社会の創造性に起因し、かつ、文化的コンテンツを有する表現である。
  4  文化的活動、物品及びサービス
     「文化的活動、物品及びサービス」とは、特定の性質、使用又は目的としてみなされる時に、文化的表現が有する商業的価値のいかんにかかわらず、文化的表現を具体化する又は伝達する活動、物品及びサービスをいう。文化的活動は活動そのものが目的でありうる又は文化的物品及びサービスの生産に貢献することができる。
  5  文化産業
     「文化産業」とは、4に規定する文化的物品又はサービスを生産し及び配給する産業をいう。
  6  文化政策及び措置
     「文化政策及び措置」とは、地方、国家、地域的及び国際的レベルにおいて、文化そのものに焦点をあてていようと、個人、集団及び社会の文化的表現(文化的活動、物品及びサービスの創造、生産、伝播、配給及びそれらへのアクセスを含む。)に直接影響を与えることを目的としていようと、文化に関する政策及び措置をいう。
 7  保護
    「保護」とは、文化的表現の多様性の保存、保障及び強化を目的とする措置をとることをいう、
 8  文化相互性
    「文化相互性」とは、対話及び相互の尊重を通して多様な文化の存在及び公平な相互作用並びに共有された文化的表現を生み出す可能性をいう。

W 締約国の権利及び義務

第5条 権利及び義務に関する一般原則
 1  締約国は、国際連合憲章、国際法の原則及び普遍的に認められている人権に関する文書に従い、文化政策を策定及び実施し、文化的表現の多様性を保護し及び促進するための措置採用し、又はこの条約の目的を達成するための国際協力を強化する主権的権利を再確認する。
 2  自国の用域内において文化的表現の多様性を保護し及び促進するための政策を実施し及び措置をとるとき、その政策及び規定に適合いなければならない。

第6条  国内レベルにおける締約国の権利
 1  第4条6に規定する文化政策及び措置の枠組み内並びに独自の状況及び必要を考慮し、各締約国は自国の領域内において文化的表現の多様性を保護し及び促進するための措置をとることができる。
 2  その措置には、次のものを含む。
   (a) 文化的表現の多様性の保護及び促進を目的とする規制措置
   (b) 国内の文化的活動、物品及びサービス(それらの活動、物品及びサービスのために使用される言語に関する規定を含む。)の創造、生産、伝播、配給及び享有のために、領域内で利用可能なすべての文化的活動、物品及びサービスのうち国内の文化的活動、物品及びサービスに、適当な方法により機会を与える措置
   (c) 非公式部門における国内の独立の文化産業及び活動に、文化的活動、物品及びサービスの生産、伝播及び配給の手段への効果的なアクセスを提供することを目的とする措置
   (d) 公的な財政援助を提供することを目的とする措置
   (e) 非営利団体、公的・私的機関、芸術家及び他の文化的な専門家が、思想、文化的表現、並びに文化的活動、物品及びサービスの自由な交流及び伝播を発展し促進すること、及びそれらの活動における創造的かつ起業家の精神の双方を刺激することを奨励することを目的とする措置
   (f) 適当な場合には、公的な機関を設立し及び支援することを目的とする措置
   (g) 芸術家及び文化的表現の創造に関与する他の者を育て及び支援することを目的とする措置
   (h) 媒体(公的な放送サービスを含む。)の多様性を強化することを目的とする措置

第7条 文化的多様性を促進するための措置
 1  締約国は、次のことについて個人及び社会的集団を奨励する環境を自国の領域内において創造するよう努力する。
   (a) 特別な状況並びに女性及び種々の社会的集団の必要(少数民族及び原住民に属する個人を含む。)に妥当な注意を払い、独自の文化的表現を創造し、生産し、伝播し、配給すること及びその文化的表現にアクセスすること
   (b) 自国の領域内及び世界の他の国からの多様な文化的表現にアクセスすること。
 2  締約国は、また、芸術家、創造的な過程に関与する他の者、 文化的な地域社会及びおれらの仕事を支援する組織の重要な貢献、及び文化的表現の多様性を育てる際に果たすそれらの中心的な役割を認識するよう努力する。

第8条 文化的表現を保護するための措置
 1  第5条及び第6条の規定を害することなく、締約国は、自国の領域内の文化的表現が消滅の危機にある場合、又は重大なおそれのある場合、その他緊急の保障を必要とする場合には、それらの特別な事態を決定することができる。
 2  締約国は、この条約の規定に適合する方法で、1に規定する事態にある文化的表現を保護し及び保存するすべての適当な措置をとることができる。
 3  締約国は、事態の緊急性に合致するためにとられたすべての措置を政府間委員会に報告し、かつ、委員会は適当な勧告をすることができる。

第9条 情報の共有及び透明性
  締約国は、次のことを行う。
(a) 自国の領域内及び国際的なレベルにおいて文化的表現の多様性を保護し及び促進するためにとられた措置に関する4年ごとのユネスコへの報告書の中に、適当な情報を提供すること。
(b) この条約に関連する情報の共有のための責任を有する連絡上の当局を指定すること。
(c) 文化的表現の多様性の保護及び促進に関連する情報を共有し及び交換すること。

第10条 教育及び啓発
  締約国は、次のことを行う。
 (a) 特に、教育的及び一層の啓発計画により、文化的表現の多様性の保護及び促進の重要性についての理解を奨励し及び促進すること。
 (b) 本条の目的を達成するために他の締約国及び国際・地域機関と協力すること。
 (c) 文化産業の分野において、教育的な訓練及び交換計画を設定することによって、創造性を奨励し及び生産能力を強化するよう努力すること。これらの措置は、伝統的な生産の形態に悪影響を与えないような方法で実施されるべきである。

第11条 市民社会の参加
   締約国は、文化的多様性の多様性を保護し及び促進する市民社会の基本的な役割を認識する。締約国は、この条約の目的を達成するための努力の中で、市民社会の積極的な参加を奨励する。

第12条 国際協力の促進
   締約国は、第8条及び第17条に規定する事態を特に考慮しつつ、文化的表現の多様性の促進に資する条件を創造するための2国間、地域及び国際協力を強化するよう、特に次のことのために努力する。
 (a) 文化政策に関する締約国間の対話を促進すること。
 (b) 専門的及び国際的な文化交流並びに最良の実例の共有により、文化の公的部門機関における公的部門の戦略及び管理能力を高めること。
 (c) 文化的表現の多様性を育成し及び促進する時に市民社会、非政府団体及び民間部門との並びにそれらの間での協力関係を強化すること。
 (d) 新たな技術の使用を促進し、情報の共有及び文化的理解のための協力関係を奨励し並びに文化的表現の多様性を育成すること。
 (e) 共同制作及び共同配給の協定の締結を奨励すること。

第13条 持続可能な開発への文化の統合
    締約国は、持続可能な開発に資する条件を創造するための全てのレベルにおける開発政策に文化を統合し、かつ、この枠組み内で文化的表現の多様性の保護及び促進に関連する側面を育成するよう努力する。

第14条 開発のための協力
    締約国は、活力のある文化部門の出現を育成するために、特に開発途上にある国の特定の必要に関連する、持続可能な開発及び貧困の減少のための協力を、特に次の手段によって支援するよう努力する。
 1  開発途上にある国の文化産業を、次のことによって強化する。
(a) 開発途上にある国における文化的な生産及び配給能力を創造し強化すること。
 (b) 文化的活動、物品及びサービスのために地球的規模の市場及び国際的配給網へのより広範囲なアクセスを促進すること。
 (c) 存続可能な地方及び地域の市場を出現させること。
 (d) 開発途上にある国の文化的活動、物品及びサービスの先進国の領域内のアクセスを促進するために、先進国においてできる限り適当な措置をとること。
 (e) 開発途上世界からの芸術家の創造的な仕事の支援を供与しそれら芸術家の移動を可能な範囲で促進すること。
 (f) 特に音楽及び映画の分野において、先進国及び開発途上にある国の間の適当な協力を奨励すること。
 2 公的・民間部門において、情報、経験及び専門性の交換並びに開発途上にある国の人材育成により、能力形成する(特に戦略及び管理能力、政策開発及び実施、文化的表現の促進及び配給、中小零細企業開発、技術の使用、並びに開発技術及び移転に関連する。)。
 3 特に文化産業及び企業の分野において、技術及びノウハウの移転のための適当な奨励措置の導入により技術移転する。
 4 次のことにより財政支援を行う。
 (a) 第18条に規定する文化多様性のための国際基金を設立すること。
 (b) 適当な場合には、創造性を刺激し及び支援するために、公的な開発援助(技術援助を含む。)を供与すること。
 (c) 低利子借款、無償資金及び他の資金の仕組みのような他の形態の財政援助を行うこと。

第15条 協力の取極
   締約国は、文化的表現の多様性の保護及び促進における開発途上にある国の能力強化に関して、当該開発途上にある国と協力するために、公的民間部門非営利機関との及び当該機関の間における協力関係の発展を奨励する。これらの革新的な協力関係は、開発途上にある国の実効的な必要に従い、基盤整備、人材及び政策の更なる発展並びに文化的活動、物品及びサービスの交流を強調する。

第16条 開発途上にある国のための特恵待遇
   先進国は、適当な機関及び法的な枠組みを通じて、芸術家及び他の文化専門家及び実演家並びに開発途上にある国からの文化的物品及びサービスに対し、特恵待遇を与えることにより、開発途上にある国との文化交流を促進する。

第17条 文化的表現に重大な恐れのある事態における国際協力
   締約国は、互いに、かつ、特に第8条に規定する事態のある開発途上の国に対して援助し、協力する。

第18条 文化多様性のための国際基金
  1 この条約により、「文化多様性のための国際基金」(以下「基金」という。)を設置する。
  2 基金は、ユネスコの財政規則に従って設置される信託基金とする。
3 基金の資金は、次のものからなる。
  (a) 締約国による任意拠出金
  (b) ユネスコの総会がこの目的のために充当する資金
  (c) 締約国以外の国、国際連合の機関及び計画、他の地域・国際機関並びに機関又は個人による拠出金、贈与又は遺贈
  (d) 基金の資金から生ずる利子
  (e) 基金によって調達された資金及び基金のために企画された行事による収入
  (f) 基金の規則によって認められるその他のあらゆる資金
  4 政府間委員会は、その資金の使途を締約国会議が定める指針に基づいて決定する。
  5 政府間委員会は、特定の事業に関連する一般的及び特別な目的のための拠出金及びその他の形態による援助を受けることができる。ただし、当該事業が政府間委員会により承認されている場合に限る。
  6 基金に対する拠出に対し、この条約の目的と両立しないいかなる政治的又は経済的条件その他の条件も付すことはできない。
  7 締約国は、この条約の履行に向けて、恒常的に任意拠出金を供与するよう努力する。

第19条 情報の交換、分析及び伝播
  1 文化的表現の多様性及びその保護及び促進のための最良の実例に関する資料収集及び統計に関する情報を 交換し及び専門性を共有することに合意する。
  2 ユネスコは、事務局内の既存の仕組みを利用して、全ての関連する情報、統計及び最良の実例の収集、分析及び伝播を促進する。
  3 ユネスコは、また、文化的表現の分野に関連する異なる部門、政府、民間及び非政府機関に関するデータバンクを設立し及び最新のものとする。
  4 データ収集を促進するために、ユネスコはその援助を要請した締約国の能力形成及び専門性の強化に特別の注意を払う。
  5 本条が規定する情報収集は、第9条の規定において集められた情報を補完する。

【以下略】  X 他の文書との関連(第20条;他の条約との関連、第21条;国際的な協議及び協調)
        Y 条約の組織(第22条;締約国会議、第23条;政府間委員会、第24条;ユネスコ事務局)
        Z 最終規定(第25条;紛争解決、第26条;加盟国による批准、受諾、承認又は加入
                 第27条;加入、第28条;連絡上の当局、第29条;効力の発生
                 第30条;憲法上の連邦制又は非単一性、第31条;廃棄、第32条;寄託
                 第33条;改正、第34条;正文、第35条;登録)
        付表 調停手続

【編集部注】 「文化多様性条約」(通称)は、文化の多様性と固有性を守るため、各国が独自の措置をとれるよう取り決めた条約。モノ、サービスの自由移動を保障した世界貿易機関(WTO)協定との整合性で大きな語論になっていたが、同条約の最推進派のカナダとフランスは「文化は商品ではない」とし、これにEUやアフリカ諸国が同調。一方米国は文化の多様性の重要性は認めつつも、条約は経済的観点を除いたものに限定すべきだとして対立してきた。採決では賛成151、反対2(米国、イスラエル)、棄権2の圧倒的多数で採択された。日本は「文化多様性条約と他の条約・協定は整合性がとれている」との決議を通すことで、同条約に賛成した。(朝日新聞2005年10月29日などによる。)


地域遺産・多磨霊園の散策  〜12月例会報告〜       足立和巳・足立和代

 12月18日(日)、望年会を前に12月例会として地域遺産の多磨霊園散策が行われた。私たちは遅れて合流しようとしたが、霊園内は道が四通八達していて、とても探せるものではなかった。事務局長宮内さんの携帯電話にもなぜかうまく繋がらず、少々あせった。幸い早川美奈子さんの携帯に通じ、参加者全員(といっても、城戸さん、宮内さん、美奈子さんの3名であった)が戻って来て下さり、私どもは恐縮の極みで、5人で振り出しのスタートをした。

 風は冷たく参加者は想定外の少人数で、わびしい感じ! 一体どうなるかと最初思ったりしながら、案内・先導役でかつ健脚の城戸さんがすたすたと先頭を切って歩かれる後をとことこ追った。しばらく歩いて浅間山に登った。浅間山ではバードウォチングをしている方々がおられたのだが、私ども(他の皆さんも?)がわびしいなどどと思ったのはほんのつかの間のことだった。ちょっとしてから、早川夫妻のご先祖様はかつて瀬戸内海の制海権を握っていたかの有名な村上水軍で、ゆえにその末裔になる・・・とか伺ったりして、かしましく、バードウォッチングのお邪魔になってはとお互いに、「シッー、静かに!」と牽制しあうほどに良くしゃべり、よく聞き、よく笑い、そのうち、お天気までが味方をしてくれて、風も止み、暖かになって、何と楽しい半日散策であったことか・・・。

 下調べなど一切しないで参加した私たちにとってどこをどう歩いたか分からないうちに、与謝野晶子・鉄幹のお墓に辿り着いた。鉄幹・晶子は城戸典子さんの祖父母に当たると、こっそり(というのも、典子さんはあまり身内のことを話されるのは好まれないとのこと。そういえばごく最近インターネットで知ったのだが、城戸さんは昨年の12月5日に「社会教育功労者」表彰を文部科学大臣から受けておられるのに“たまりば”のどなたもお話になってはいらっしゃらないのでは・・・?)お聞きして、まったく知らなかった私たちは典子さんの文学的才能はやはりDNAの良さもあるのだ・・・、凄い!とつい思ってしまった。

 それから三島由紀夫のお墓にも行ったのであるが、見つけるのに苦労をした。それもその筈、本名の平岡公威で墓石は刻まれていたのだから。この平岡公威こと三島由紀夫は実は城戸一夫さんの人生を大きく変えた人なのだ! というのは高校までは結構文学青年だったのに、三島文学に触れて、自分との差を大きく感じ、自分で自分にその道は無理だと言い聞かせたといった風なことも伺い、人生は巡り合わせでどう変わるか分からず面白い!もし三島由紀夫に出会っておられなければ、違った人生で、もしかして今頃別の素敵な味のある城戸文学ができていたかも知れなかったのに惜しい!?!

 ところで多磨霊園には名誉霊域通りがあり、“八紘一宇”(大東亜共栄圏目標の)を象ったモニュメントがあり、そのすぐ近くに東郷平八郎や山本五十六のお墓があった。意味を知り、直接目にして、感慨ひとしおだった。その他、首相を務めた西園寺公望やまた内村鑑三、北原白秋、有島武郎ほか、中島飛行機の中島知久平、ホテルニュージャパン火災の横井英樹等々の墓その他著名人が数知れず眠る広大な公園墓地で、なかなか見ごたえのある地域遺産散策ができ、その後の望年会は参加者もぐっと増え、楽しい良い日であった。

たまりばユネスコ倶楽部活動報告(1−3月)
1月11日(水) 世話人会開催(府中市NPOボランティアセンター、18時〜20時3分)
 * 2月講演会の準備、打ち合わせ
 * 会報25号はページ数が多いため、第1部・第2部を分割発送と決定。第1部を1月に発送。
 * 世界遺産美術展の紹介と招待状を配布。
 * 日本ユネスコ協会連盟の全国大会の案内。2006年6月3〜4日、花巻市で。たまりばユネスコ倶楽部より1名参加、他数名が個人参加。
 * 地域遺産の今後の進め方の討議。
 * 「ユネスコ大学」設立の討議。設立案の作成に着手。
 * 本年度の国際交流会の開催について討議。
 * たまりばユネスコ倶楽部会員でメールアドレス所有者全員に世話人会の活動をオープンにし、全員参加の意見交換・情報交換を進めるこ    とに決定。
2月11日(土) 講演会開催(NPOボランティアセンター);2ページ参照
2月23日(木) カフェスローで役員打ち合わせ。「ユネスコ大学」設立、その他の意見交換。
3月11日(土) 世話人会開催(府中市NPOボランティアセンター、18時〜21時)
 * 2005年度事業報告、2006年度事業計画を審議。
 * 会費未納者の扱いについて審議。
 * 2006年度の講演会、日程について審議。
 * 全会員にメールリストへの参加を推進。
 * 国際交流会を他団体と共催の呼びかけ決定。
 * 2006年8月に伊豆で合宿の提案。今後具体化に向け準備。
 * 4月16日(日)、2006年度開催決定。
3月16日(月) NPOボランティアセンターで、会報25号の印刷・発送。

2006年度たまりばユネスコ倶楽部総会告示

日時  2006年4月16日(日) 14時〜16時
会場  カフェスロー2階 たまNGOセンター
主な議題  1.2005年度事業報告・決算報告
        2.2006年度事業計画・予算審議
        3.役員人事
        4.その他

たまりばお奨め地域遺産その8    武蔵国府とその周辺(府中市)

武蔵国府
大国魂神社一帯は7世紀以降、武蔵国の中心として国府の政庁が置かれたところとされている。住居跡の発掘による人口密度から、平安時代初期には国府内(府中)に数千人の人口があったと推定されている。武蔵国府はその後、10世紀前半の平将門の乱による戦火や律令制の衰退、鎌倉期以後の幾多の戦乱により繁栄は失われた。
国庁跡の正確な位置は今なお不明確であるが、府中市遺跡調査会による1976年からの発掘により、大国魂神社境内地が有力な候補となっている。国府域は8町四方(1町は109m)といわれ、条坊に区画された広大な地域。役人が執務した国庁域は2町四方とみられる。大国魂神社境内地での発掘調査域はそのごく一部に過ぎないが、当時の官庁跡に共通する掘立柱建築物5棟分の柱穴跡や多くの出土品から、同神社全体が国庁跡とする説が有力である。

大国魂神社
景行天皇41年(111)の創建と伝えるが、大化の改新(645)後、国司が武蔵国の著名な六所の宮(*)を合祀して大規模な神社となった。以後明治4年(1871)武蔵総社大国魂神社と改名されるまで、六所宮と呼ばれていた。都内屈指の古社として知られる。源頼朝が平氏の追討と妻政子の安産を祈願したことなどが社伝に残り、徳川家康にも崇拝されたという。北方の街中に残る馬場大門のケヤキ並木(国天然記念物:会報24号参照)が古い社歴を物語る。
鬱蒼と茂るクスやケヤキの大樹の中の参道をたどり、神門をくぐると左右に鶴石と亀石、左手に嘉永7年(1854)建設の鼓楼、正面に明治18年(1885)年改修の拝殿、その背後に本殿が建つ。本殿(都文化財)は寛文7年(1667)の造営で、三間社流造りの3つの建物を、横に連絡し相殿造りと呼ぶ珍しい形をもつ。構造的には九間社流造り、向拝五間、朱塗り、屋根銅板葺き。拝殿左側に拝殿改修記念に植えられたコウヨウザンの木がある。幹回り1.5m、樹高23m。ヒノキの幹にヒバのような葉をつけた珍木である。
社宝としては木造狛犬一対(鎌倉初期、国重要文化財)、木彫仏像5体(室町中期)、古鏡4面、古写本3種などがある。日本一の大太鼓や8基の華麗な神輿が繰り出す“くらやみ祭”が毎年5月5日に行われる。
(*) 一の宮:小野大神(多摩市)      二の宮:小河大神(あきる野市)
   三の宮:氷川大神(さいたま市)    四の宮:秩父大神(秩父市)
   五の宮:金佐美大神(埼玉県神川村)  六の宮:杉山大神(横浜市)

府中宿高札場跡
  高札とは、江戸時代に幕府の法度や禁令などを一般庶民に知らせるために立てた公共の掲示板。高札場がこの地に設けられたのは、かつてここが甲州街道と川越街道、相州街道(府中街道)が交わる交通の要衝であったからである。その大きさや希少性から東京都の旧跡に指定されている。隣には大国魂神社御旅所がある。