きょうの社説 2011年12月29日

◎世界で最も美しい駅 発信したい「三つ星玄関口」
 外国からの高い評価を受け、地域の魅力にあらためて気付くことがある。仏ミシュラン の星の格付けが代表的な例だが、JR金沢駅を「世界で最も美しい駅」に選んだ米専門誌の記事は、驚きに近い評価だった。

 米の旅行誌「トラベル・レジャー」ウェブ版記事は、「世界で最も美しい駅」に14駅 を挙げ、ニューヨークのグランド・セントラル駅、ロンドンのセント・パンクラス駅などとともに、日本から唯一、金沢駅を掲載した。

 ガラスの「もてなしドーム」と鼓門について「未来観を醸し出したデザインのエントラ ンス」と紹介し、噴水時計は「超クールなデジタル時計」と表現する。

 厳格な格付けと違い、執筆者の主観もあるようだが、外国人の目からみれば、金太郎飴 のような日本の駅では、個性的なデザインがひときわ斬新に映ったのだろう。

 戦前の赤れんが建築を復元中の東京駅丸の内駅舎などは別格としても、金沢駅は確かに 個性が際立っている。「三つ星」級の高評価を得たからには、これを金沢の魅力発信に生かさない手はない。

 1990年代に本格化した金沢駅周辺整備で加賀宝生の鼓を模した「シティーゲート」 とガラスドームの骨格が決まり、鼓門、もてなしドームと命名された。2005年に完成し、すっかり金沢の景観に溶け込んだが、賛否飛び交う議論のいきさつを振り返れば、金沢の「伝統」と「現代」を表現したその狙いは、今回の米誌の評価からも間違っていなかったことを確信する。

 駅が都市の個性を示すなら、金沢駅はひとまず成功した。だが、北陸新幹線開業へ向け 、玄関口を形成する取り組みはこれからも続く。「最も美しい駅」を追求するには、新幹線駅舎整備、さらには駅周辺の景観創出も重要になる。

 今月開催された金沢創造都市会議は、テーマとなった「都市の再創造」の代表例として 、金沢21世紀美術館、金沢城公園、しいのき迎賓館の3施設を挙げ、「歴史の審判に耐えうる施設」と評価した。金沢駅がそれらに続く空間となるよう、米誌の評価を弾みに、より高いレベルで玄関口の魅力づくりを考えていきたい。

◎普天間移設「評価書」 そろそろ首相が出るとき
 米軍普天間飛行場の移設計画に伴う環境影響評価書の沖縄県提出に関し、防衛省がとっ た一連の対応は拙劣というほかない。現状では、最悪の事態である普天間飛行場固定化の恐れが強まるばかりである。同飛行場移設に関する政府と沖縄県の交渉において、残念ながら防衛省はもはや当事者能力を失ったと認識せざるをえない状況であり、そろそろ野田佳彦首相が沖縄県に足を運び、仲井真弘多(なかいまひろかず)知事と直接協議をするときであろう。

 政府は2012年度の内閣府の沖縄振興予算案を今年度比27%増と大幅に増やした。 震災復興最優先で各省庁の予算を削る中、沖縄に特別の配慮を示したが、振興費というアメで事態が動く状況ではない。野田首相はまだ沖縄を訪れておらず、熱意や誠意に欠ける印象を県民に与えている。普天間飛行場の現移設計画の受け入れを要請するだけでなく、さらなる基地負担の軽減策を含め、めざす沖縄像について仲井真知事と腹を割って話し合ってもらいたい。

 沖縄県への環境影響評価書提出について仲井真知事は「行政手続きであり、県としては 法令にのっとって対応する以外にない」と拒否しない考えを示していた。行政機関として当然であるが、政府は反対住民との衝突を避けたいとして、配送業者に評価書を届けさせる方法をとり、阻止されると、沖縄防衛局幹部が翌日未明、県庁守衛室に搬入する手段にでた。安全保障に関わる重要手続きの進め方として、姑息(こそく)と批判されても仕方のないやり方である。沖縄県が手続き上の問題を理由に拒否しなかったのは救いである。

 政府が評価書の年内提出にこだわったのは、米政府の要請にこたえるためである。オバ マ政権は、普天間移設とセットの在沖縄米海兵隊のグアム移転予算を議会で削除される事態に追い込まれている。このため、日本政府として移設計画の進展を米側に示したいというわけであるが、前沖縄防衛局長の不適切発言、一川保夫防衛相の問責決議可決、さらに評価書の不手際と問題続きの防衛省は沖縄の信頼を失ってしまった。