日本に広がる「男性不況」、製造・建設業で解雇進む-大黒柱は女性に
12月27日(ブルームバーグ):パナソニックの本社がある大阪府門真市。オガワ・セイヤさんは週3回、同市の職業安定所に自転車で通う。息子の大学最終年度の学費や生活費を賄うため、職探しを続けているからだ。
オガワさん(49)は「もうこういう状況ですから、仕事があればなんでも良い」と語る。かつて製造業で栄えた大阪市郊外の門真市で、電子回路基板を組み立てていた。職業安定所に登録してから今月で1年になる。「失業してから長すぎる。なにか人間性が否定されているような気になってくる」と話す。
オガワさんと息子は、妻と娘の収入が頼りだ。日本ではこのような社会的な立場の逆転が広がりつつある。工場や建設会社が人員を解雇し、女性中心のサービス業が採用を拡大しているためだ。新たに創出される仕事の平均賃金が低いため、野田佳彦首相はデフレ脱却に向け消費を刺激しすることが一段と難しくなっている。一家の大黒柱としての負担が増えているため、女性が早く結婚して子供を産むという意欲がそがれている。日本は既に先進国で最も早いペースで高齢化が進んでいる。
第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは、企業の海外移転加速や人口減で、建設の仕事が増加する可能性は低くなっており、こういった産業は以前のように男性労働者を吸収できないと 指摘。その結果、名目賃金は下がり続けており、この「マンセッション(男性不況)」は当分終わりそうもないとの見方を示した。
国の誇り
日本経済は国が誇りとする「ものづくり」から、64歳以上の高齢者2900万人を対象とした介護を中心とするサービス業への転換が進んでいる。人材サービス会社、リクルートのワークス研究所によると、男性が10人中7人を占める製造業・建設業は、この10年で400万人の雇用が失われる見通しだ。厚生労働省のデータによると、女性が74%を占める医療分野の雇用は過去3年間で16%増と、全産業で最も速いペースで拡大している。
円が戦後最高値付近で推移する中、この産業構造の変化は加速している。パナソニックやソニーなどの輸出業者の利益が円高で吹き飛んでおり、政府に変化を和らげるような時間的余裕はない。パナソニックは今年度、過去10年間で最大の損失を予想しており、ソニーは損失を900億円と見込んでいる。
パナソニックの株式は年初来で45%安、ソニーは53%安、その結果TOPIXは20%安となっている。一方、部屋数で介護施設運営2位のメッセージは1.6%高、施設数で1位のニチイ学館は25%高だった。
「日本の未来」
米プロスペクト・アセット・マネジメントの創業者、カーティス・フリーズ氏は、介護や医療などのサービスは「日本の未来だ」と述べた。メッセージは雇用対策で従業員の離職コストを削減できる可能性があるため、プロスペクトが運用する3億ドル(約234億円)の資産に同社株を追加することを検討しているという。一方、製造業は「リストラの最中にあり、苦戦するだろう。雇用の大半を担うのはより小規模のサービス企業だ」と指摘した。
厚生労働省によると、2010年に雇用されている人のうち女性の割合は42%と、データが比較可能な1973年以来最高となった。73年は38.5%だった。
日本の労働人口では女性の割合が増えつつあるが、企業の人員削減が進む中、他の先進国でも同様の変化が見られている。経済協力開発機構(OECD)のウェブサイトによると、昨年のOECD諸国の男性の失業率の平均は8.5%、女性は8.1%だった。2000年は男性が5.8%、女性が6.8%と、女性の方が高かった。
失業率格差
昨年の日本の失業率は男性が5.4%、女性は4.6%となり、格差は過去最大水準に拡大した。ワークス研究所によると、失業率は20年までに男性が7.1%、女性は5.9%になる見通しだ。
門真市のさびついた閉鎖工場近くに住むオガワさんにとってこれは先行きの暗さを示している。工場はかつて日本全国から労働者が集まり、パナソニック本社と共に栄えていた。オガワさんによると、景気停滞を受け、オガワさんの息子や娘のような20代の若者の態度は変化している。若者は稼いだ金を消費するより貯金するという。
「自分が仕事一つ見つけられない状況で、彼らに目標を高く持ってとは言いづらい」とオガワさんは話す。「私が楽しんだ若き良い時間を彼らにあえて話そうとは思いません。彼らが理解できるとはとても思えない」。
記事に関する記者への問い合わせ先:Aki Ito in Tokyo at aito16@bloomberg.net;Toru Fujioka in Tokyo at tfujioka1@bloomberg.net
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更新日時: 2011/12/27 07:25 JST