明日の医療

南相馬市の放射能検査をやめさせた総務省

官僚の論理を最優先、被災地の健康問題は二の次、三の次

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 第2次大戦後、医療倫理についてさまざまな議論が積み重ねられ、医療における正しさを、国家が決めるべきでないという合意が世界に広まりました。国家に脅迫されても患者を害するなというのが、ニュルンベルク綱領やジュネーブ宣言の命ずるところです。

 これは行政上の常識にもなっているはずです。ナチス・ドイツでは、国の暴走に医師が加わることで、犠牲者数が膨大になりました。医療における正しさの判断を、国ではなく、個々の医師に委ねなければ、悲劇の再発は防げません。

 これは日本の医師の間でも広く認識されています。例えば、虎の門病院で2003年に制定された『医師のための入院診療基本指針』の第1項目では、「医師の医療上の判断は命令や強制ではなく、自らの知識と良心に基づく。したがって、医師の医療における言葉と行動には常に個人的責任を伴う」と定められています。

 坪倉医師は、南相馬市で活動する医師の中では、被曝医療について最も多くの知識と経験を有しています。被曝問題の重大性からみれば、坪倉医師が市長と内部被曝の検査体制について直接話すのは当然のことです。事務官を通じて間接的に話すと、誤解、歪曲、握りつぶしが生じかねません。

 内部被曝のデータの取りまとめと解析は坪倉医師が担当しました。このデータは、坪倉医師が、協力した他の医師や学者の合意を得た上で公表すべきものです。法令に基づく権威勾配が関わるべき問題ではありません。

 法令による強制力を持った権威は、合理的な議論を阻害するので科学と相容れません。宗教裁判という神学による強制力を持った権威が、地動説を排除したのと同じです。

 「庁内調整」をして、事務官の許可を得た上で、論文なり研究成果を発表するという習慣は、学問の世界にはありません。事務サイドに対しては、公表について、混乱が起きないよう協力を求めるだけです。

 むしろ、市役所は関わらないようにすべきかもしれません。坪倉医師が知り得た市民の健康についての重要情報を、市民に伝えるのは、坪倉医師の責務でもあります。たとえ公表するなと脅迫されても従ってはならないというのが、医師の常識です。

 下に示すジュネーブ宣言は、世界医師会の医の倫理に関する規定です。主語からも分かるように、徹底して個人が重視されています。臨床試験についての規範を定めたヘルシンキ宣言などとともに、日本を含む多くの国で、実質的に国内法の上位規範として機能しています。官庁内での事務官の行動規範とは異なります。

 総務省内では、医学上の判断について役人が医師に命令できるというのが常識かもしれませんが、世界には通用しません。

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