2011.12.25 Sunday
「フェルメールからのラブレター展」
Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の
「フェルメールからのラブレター展 コミュニケーション:17世紀オランダ絵画から読み解く人々のメッセージ 」に行って来ました。 Bunkamura展覧会特集ページ 約半年間のリニューアル作業を終え12月23日よりオープンしたBunkamuraザ・ミュージアム(←サイトも一新)で開催される最初の展覧会。 世界に約35点しか存在しないヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer, 1632年 - 1675年)の作品が東京に3点もこのご時世来日していること自体奇蹟的なことです。(京都、宮城と巡回し最後はここ東京渋谷へ) これまでも数だけであれば、2008年に上野、東京都美術館で開催された「フェルメール展〜光の天才画家とデルフトの巨匠たち」に7点。2000年の大阪市立美術館で開催された「フェルメールとその時代展」に5点フェルメール作品が来日しています。 参考:「これまで来日したフェルメール作品」 しかし、日本にフェルメールブームが興り既に10年以上経過し数多のフェルメール関連書籍も刊行されている今、単に数だけではなく、描かれた作品のテーマでフェルメールの世界観にアプローチしようとする、新たな契機になる展覧会が今回の「フェルメールのラブレター展」です。 「フェルメールからのラブレター展」公式サイト http://vermeer-message.com/ 監修者のダニエル・ローキン氏(左)と修復を終え所蔵するアムステルダム国立美術館での公開に先がけ、日本で初お披露目となったフェルメール「手紙を読む青衣の女」 展覧会の構成は以下の通りです。(京都展とは第3章と4章が逆になっています。またフェルメール作品の展示位置も違います。同じ展覧会ながらこれによりかなり違った印象を受けます。) 1:人々のやりとりーしぐさ、視線、表情 2:家族の絆、家族の空間 3:手紙を通したコミュニケーション (映像コーナーVTR約6分) 4:職業上の、あるいは学術的コミュニケーション フェルメールは「3:手紙を通したコミュニケーション」展覧会の丁度真ん中程に展示されています。シュテーデル美術館の「地理学者」があった場所と同じです。 フェルメール以外にもご紹介したい作品は沢山あるのですが、今日はフェルメール中心で! ヨハネス・フェルメール「手紙を書く女」 1665年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー 「手紙を書く女」は久々の来日です(1999年:ワシントン・ナショナル・ギャラリー展)。「かしっ!」としたまとまりのある良品です。女性が美しい三角形を形成し、そこにフェルメール作品に共通する左から差し込む光がまるでスポットライトのようにあたっています。 ライトと言えば、京都市美術館では、照明がこの作品だけややてかって(光って)いたように見えました。作品に塗られたニスの状態の所為かもしれませんが… Bunkamuraは今回のリニューアルで会場の照明の一部をLEDにしています。作品を照らすライトはこれまでと変わりませんが、会場内のスポットがLEDとなった為、全体的に柔らかな感じとなりました。 さて、書いている手紙はどのような内容のものなのでしょうか?2005年にドイツ、シュテーデル美術館で開催された展覧会「Senses and Sins」では、この作品に「E-mail」と大きく文字をかぶせポスターにしていました。 今ならワンクリックで世界中瞬時にメール飛んでいきますが、17世紀のオランダでは例えば日本(長崎・出島)まで片道一年も要していたそうです。当時の人々の「手紙」に対する思い入れ現在ではとても想像できません。 熱心に手紙をしたためているところを、あたかも覗き見しているかのような距離感。覗き見が女性にばれ、何だか迷惑そうな顔つきでこちらに目を遣っているようにも見えなくもありません。 この作品には「手紙」だけでなく、アーミン柄の衣装、真珠、ライオンの頭部が付いた椅子など他のフェルメール作品にしばしば登場するアイテムが盛りだくさん描き込まれています。 壁に掛けられた画中画は人生の無常を描いたヴァニタス画。判別できませんが、ヴィオラ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)と頭蓋骨を描いた静物画だそうです。 絵の中から饒舌さを極力排除するフェルメールですが、真珠や頭蓋骨等「虚栄」ないしは「空しさ」を想起させるアイテムがとてもさり気なくですが配置されている一枚です。 鑑賞者に目を向けている作品はこの他にも4点ほどあります(「真珠の耳飾りの少女」のようなトローニーは除く)。その中でも最も出来栄えの優れている作品がこの「手紙を書く女」です。 →参考:フェルメール35作品 先ほど覗き見と書きましたが、もしかして手紙を書いている最中に文面に行き詰まりふと顔を上げ思案にふける瞬間を捉えたものかもしれません。でもこの女性の目、立ち位置変えてもずーと追いかけてくるんですよね。。。横移動しながら確かめてみて下さい。 あまりじろじろ見て彼女に嫌われない程度に。 (双眼鏡で眺めていた人いたな〜←自分) ヨハネス・フェルメール「手紙を読む青衣の女」 “Woman in Blue Reading a Letter”1663-64年頃 アムステルダム国立美術館 世界中が注目するこの修復作業を無事終え、まっ先に「フェルメールからのラブレター展」で公開されます!初めて日本にやってきたフェルメール作品でもあります。 2010-2011年にかけ「手紙を読む青衣の女」は長年に渡るワニスの変色などを最新の技術により修復され全世界に先駆けて日本で初お披露目です。 「フェルメールが意図した繊細な細部のニュアンスに富んだ色彩を可能な限りよみがえらせることに成功」したと図録には記されています。 修復以前のこの作品をよく知る者としては、かなり青味が強くなり想像以上に画面全体が明るくなった印象を受けます。仏像など経年変化し独特の味わいを出すものを佳しとする日本人にとっては、この修復は少々躊躇いがあるやもしれません。 しかし、初めてこの作品と対峙する方にとっては「何て美しい作品だろう」という好印象をまっ先に抱くはずです。それは単にラピスラズリの美しい発色の青色に魅せられるからだけでなく、フェルメール作品の中でも大変シンプルで構成、バランスに優れた作品だからです。 画面右端に見える椅子の背を試しに隠してみると、あら不思議。途端に絵のバランスが崩れてしまいます。女性を中心に構成されている貴重な縦軸が無くなってしまうからです。また壁に掛けられた地図も若干右上がりになっていたりします。 この他にもX線調査により、フェルメールが描く過程で細かな修正を所々で行っていたことが解説されています。寡作の画家たる所以もこんなところから来ているのでしょう。一年に2,3枚のペースで描いたとの説もある程です。 また、よく観るとこの女性は口を少し開けていることが分かります。今まさに手紙を音読しているのでしょう。音読の習慣は当時一般的なものだったそうで、まさにこれこそ「風俗画」と言えます。 風俗といえば、ゴッホはこの作品を観て「妊娠している女性」と理解したそうですが、さて真相はどうなのでしょう?映画「ブリューゲルの動く絵」(時代考察を入念に行っている作品)では当時の女性がわざとお腹に物を入れふっくらさせていた風俗が現わされています。 このようにフェルメール作品は観る者に様々な物語りを想起させます。これが人気の大きな理由であることは間違いありません。そう、極端に言うなら水墨画の世界に通ずるものがあるのです。 (クリックで拡大) そうそう、「手紙を読む青衣の女」背景に描かれている地図(ブラウ=ベルケンローデ図)は、この作品以外にもNYフリックコレクション所蔵「兵士と笑う女」にも描かれています。 ただ「兵士と笑う女」では陸地は淡青色で、それに褐色や赤色で着彩されているのに対し「手紙を読む青衣の女」では全体的にくすんだ黄色と褐色で同じ壁掛け地図とは思えないほどの違いがあります。 またこの地図はアムステルダム国立美術館所蔵「恋文」にも登場します。さて何処に描かれているでしょう?探してみて下さい。 「手紙を読む青衣の女」は、個人がアムステルダム市に寄贈した作品であり、貸出しは不可能と以前から聞いていました。今回どのような訳で日本で公開されることになったのか、その経緯は定かではありませんが、とにかく渋谷でこの作品が拝めるのは大変有難いことです。 ヨハネス・フェルメール「手紙を書く女と召使」 1670年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー 2008年の「フェルメール展」にウィーン美術史美術館の「絵画芸術」のピンチヒッターとして急遽初来日した作品。今回は堂々と主役としての登場です。 自分自身思い入れの深い作品。フェルメール全作品中で最も最後に観たのがこの作品なのです。 女性単身像の前2点と違い、「手紙を書く女と召使」には2人の人物が描かれています。しかも距離感がぐんと離れます。全体に引きで描いている為、床の市松模様も描かれ構図的にも面白いものとなっています。 この作品では、画中画として描かれた「モーセの発見」(「川から救い上げられるモーセ」)がはっきりと見て取る事が出来ます。それにより、女性が書いている手紙の内容が、恋愛に関するものとの意見もあります。 また、「余計な詮索をフェルメールは許さない」と断言する千足伸行先生のように、画中画との関連性を否定する見方も一方であります。 この作品に描かれているステンドグラス。フェルメールの他の作品でも観ることが出来ます。「フェルメールのステンドグラス」 蛇足ですが、これまで二度も盗難の憂き目にあっている「手紙を書く女と召使」泥棒さんの心を捉えてやまないもの、何かあるのでしょうか?盗難事件に関しては、朽木ゆり子氏の「盗まれたフェルメール」に大変詳しく書かれていて参考になります。 しかし、この盗難によって新たな発見があったことも事実。画面手前テーブルの前の床に赤いシミのようなものが確認できます。嘗て行われた修復の際は上から絵具を塗られ消されてしまったものです。 盗難後の修復により赤いシミが手紙(封筒)を留める蜜蝋であることが判明。手紙の大事なモチーフがあるのとないのでは大違いです。しかしどうして床に落ちているのでしょうね。 今回展示されているフェルメール作品の中ではこの作品が最も状態が良いように見えます。でもそれはまやかしのようです。修復の際に手を加え過ぎてしまった故にカッチリとし過ぎているとのお話を耳にしました。なるほど言われてみればそうかもしれません。柔らかな光に包まれるフェルメール作品とはちょっと違います。 そして、上野で初めて拝見した時から、手紙を書く女性の白い頭巾が、夏の暑さに溶けてしまったソフトクリームのように観えてしまい…もうそれ以外の見方出来なくなってしまっています。 「手紙」をモチーフとしたフェルメール作品残り3点。 ↓ 「窓辺で手紙を読む女」ドレスデン 「恋文」アムステルダム 「女と召使(婦人と召使)」ニューヨーク 今回の音声ガイドおススメです! ナレーションは 道上洋三アナウンサー(朝日放送)と武内絵美アナウンサー(テレビ朝日)が担当。当時のオランダの音楽をBGMに、17世紀オランダの恋愛事情や、模範的なラブレターなどの紹介もあります。 Bunkamuraザ・ミュージアムの「フェルメールからのラブレター展」は2012年3月14日までです。1月1日を除く毎日オープンしています。なるべくお早めに!混雑必至です。 注:会場内の画像はプレス内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。 「フェルメールからのラブレター展」 コミュニケーション:17世紀オランダ絵画から読み解く人々のメッセージ 会期:2011年12月23日(金・祝)〜2012年3月14日(水) 会場:Bunkamuraザ・ミュージァム(渋谷・東急本店横) 〒150-8507東京都渋谷区道玄坂2-24-1 http://www.bunkamura.co.jp/museum/ 開館時問:午前10時〜午後7時(入館は各閉館の30分前) 毎週金・土は午後9時まで(12月30日、31日は除く) 休館日:2012年1月1日(日) お問含せ:03-5777-8600(ハローダイヤル) 展覧会公式ホームベージ:http://vermeer-message.com Bunkamuraホームページ:http://www.bunkamura.co.jp 主催:Bunkamura、テレビ朝日、朝日放送、博報堂DYメディアパートナーズ 特別協力:朝日新聞社 特別協賛:大和ハウス工業株式会社 後援:オランダ王国大使館 フェルメールの良きライバルであったハブリエル・メツーの展覧会図録にはフェルメールとの関連性も数多く図版入りで紹介されています。 ↓ 『Gabriel Metsu』 Gabriel Metsu, 1629–1667 April 10–July 24, 2011 National Gallery of Ireland, Dublin, September 4–December 5, 2010; Rijksmuseum, December 16, 2010–March 21, 2011; National Gallery of Art, Washington, April 10–July 24, 2011 最後に「今日の美味」 Bunkamuraドゥ マゴ パリ展覧会開催記念メニュー「ショコラ・アムール」 この他にも、1667年に出版された食の指南書『賢い料理人』を基に当時の食卓を再現した『フェルメールの食卓 暮らしとレシピ』(林綾野著 講談社刊)より、「ハート形」が愛らしい"ひき肉のロースト レモンソース"も!美味しゅうございました。(撮影する前に食べてしまった…) 今回の展覧会キュレーターでもある林綾野さんのインタビュー記事はこちら。 facebookページ「クラブ・フェルメール」も引き続き宜しくお願いします! 「いいね!」押してね。 http://www.facebook.com/clubvermeer 【情報提供・運営管理】朝日イベント・プラス×青い日記帳 Twitterやってます! @taktwi この記事のURL http://bluediary2.jugem.jp/?eid=2724 JUGEMテーマ:アート・デザイン オランダ黄金期の巨匠、ヨハネス・フェルメール。精緻な空間構成と独特な光の質感をあわせもつ作品群は、今なお人々を魅了してやみません。現存する30数点のフェルメール作品のなかでも、日常生活に密やかなドラマをもたらす手紙のテーマは、重要な位置を占めています。本展は日本初公開となる《手紙を読む青衣の女》をはじめ、《手紙を書く女》、《手紙を書く女と召使い》の3作品が一堂に会するまたとない機会です。さらに、同時代に描かれた、人々の絆をテーマにした秀作も併せて紹介し、人物のしぐさや表情、感情の動きに注目することで、17世紀オランダ社会における様々なコミュニケーションのあり方を展観していきます。 |