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特報アンカー/バックナンバー
目次 > 2011年12月26日放送の特報アンカー/バックナンバー


アンカーズアイ 〜原発への責任は誰が負う〜
霞ヶ関、経済産業省の敷地に、なぜかテントが立っていました。
 
「何やっているんですか?」
と尋ねると
中にいた男性は
「経産省の一角を占拠して、原発が止まるまで頑張ろうと、座り込みの抗議だ。」
と、笑いながら答えました。
男性は続けて、
「(座り込みに来るのは)みんな311以降、デモに初めて出た、とかそういう人がほとんどです。
(私のように運動の)軸にいるのは、60年70年(の安保闘争世代)だから
結構、世間的に見れば筋金入りだろうけど…」
と笑みを浮かべて話します。
 
彼らは長年、さまざまな運動をしてきましたが、脱原発の運動はこれまでのものとは、何かが違うといいます。
 
別の男性は
「ほとんどの人は子どもたちを放射能から守りたいっていう、そういう気持ちですよ。
だから最近、福島の母親たちが(ここに座り込みに)来てから以降だけども、
(ここに来るのは)女性が非常に多いですよね。
運動の広がりっていうのは(他の運動とは)全然違いますよね。桁が違いますね。」
と話し、脱原発の動きの裾野の広さを協調しました。
 
大阪では原発の是非を問う市民投票を行う条例を、住民請求するための署名集めが、始まろうとしていました。
 
この説明会に集まった人たちも、その多くが、これまでは、社会運動にたずさわることの無かった人たちです。
 
集まっていた女性のひとりは
「今までは(運動に参加するとか)そんなの無かったです。
でも今回の原発の問題で、すごくやっぱり憤りを感じることもあるので、これがどういう風になるかわからないですけど、
自分たちにもできることがあるっていうことがなんとなくイメージできたので、
(運動に)関わっていきたいなって思ってます。」
と、ここにいる理由を話してくれました。
 説明会には社会運動からは遠かった市民も多く集まった
大阪市内で会社を経営する森田敏一さん(58)は、
この市民投票を求める運動の共同代表なのですが、それでも社会運動は初めてです。
 
森田さんは
「人任せにして、選挙で人を選んでしまったらあとはその方(の考え方)が変わろうがどうなろうが、
我々には(異議を言う)力が無いんだという風に思っていたんですけれども、
こういうこと(直接請求)を出来るってことに気が付くってことは、
とてつもなく大きいことだと思いました。」
と話します。
 
立命館大学の大島堅一教授は、福島で事故が起きる前から
原子力発電のコストが経済産業省の2004年の試算結果である5.9円ほど、
「安くはない」として、10円を超える試算結果を示してきました。
その研究は、原子力発電を推進する電力会社や国など、
いわゆる「原発ムラ」からは無視されてきましたが、
事故後、国家戦略室のコスト等検証委員会のメンバーに選ばれ、
発電コストについての話し合いに加わりました。
 
大島教授は
「電力会社の寄付金からなにから、全てタブーなく議論して、
真のコストを国民の皆さんにきちっと明らかにするという方向で報告書をまとめようとしていますので、
それは本当に画期的なことだ。」
と、この委員会の意義を話します。
 
原発の事故がもたらした、コストに上乗せされる被害とは、どんなものでしょうか。
 
福島県二本松市の福島第一原発から直線距離でおよそ40キロ離れた農地で
「りんご」や「さくらんぼ」を育てている熊谷耕一(56)さんはインターネットなどを使って、
消費者に直接販売することや、果樹園に果物狩りに来る観光客が主な収入源です。
福島でりんごを育てる「マルカりんご園」の熊谷さん
 
熊谷さんは
「北関東の方からサクランボ狩りの人が、だいぶ来てたんですが、今年はほとんど来なかった。
特に家族連れで小さい子供のいる家庭なんて、全然来てなかったです。」
と事故以降の状況を振り返ります。
この地域のサクランボやりんごからは、暫定規制値の約20分の1ほどの放射性物質が検出されました。
 
熊谷さんは
「りんごは、うちは大体がお客様直接の贈答品などをあつかっているんですが、
平年の半分以下で、やっぱり若い世帯の人は今年はいいやってことで購入を断られる。」
と寂しそうに話しています。
 
ひとまず、売上が半分になったサクランボの分だけで、約200万円の賠償請求を8月に東京電力にしました。
 
それからすでに4ヶ月が経ちますが、いつ、いくら賠償するのかについての返事はいまもありません。
 
熊谷さんは
「今年はうちも含めて、(福島で)農業やってる人は収穫の喜びっていうのはないですね。
(作物を)獲ったってこれはどうなるのか、どれだけセシウムが入っているのか、
こんな心配ばっかりして。(収穫の)喜びっていうのは全然…。
ことし、これからも何年も、今年だけの話じゃないから、これから先もずっと何年もこういう状況なのかなあって。」
と先の見えない不安を感じています。
 
同じ二本松市内に、ずっと休んでいるゴルフ場がありました。
 
たった一人でゴルフ場の管理を任されている渡辺要治(60)さん。
営業のめどが立たないために、渡辺さん以外の従業員は、すべて職を失いました。
ゴルフ場はいまも2μSv/hを超える放射線が検出される
 
渡辺さんは6番ホールにつくと
「この辺は(線量が)多いですかね。ここが一番高いっていうか雪が降ったんですよね。
積もった、結局風に飛ばされて。」
と説明してくれました。
 
二本松市が6月にこのコースの放射線を測定したところ、平均して1時間あたり2マイクロシーベルトを超える値でした。
今も高い場所では毎時2マイクロシーベルトを超えています。
 
こちらの、サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部の山根勉社長は
「東電の方にも問い合わせをしたんです。
営業もできていないし、これからも放射能高いから営業厳しいじゃないかと。
それはお客様だけじゃなくって働く従業員にとってもね。
『被害を補償してもらえますか』みたいなことを言ったんだけど
(東電は)『受け付けはしました』・・・
そこで(東電との話は)終わりです。」
と、怒りを思い出しながら話しました。
 
結局、東京電力に対し被害の補償と除染を求める仮処分の申立てを行い、
司法の判断を仰ぐことになりましたが、東京電力は驚くような主張を行いました。
東電の答弁書には、放射性物質は「無主物」との主張が
 
それは「放射性物質は『無主物』と考える」との主張です
東京電力は、福島第一原発から飛び散った放射性物質は、
誰の持ち物でもない「無主物だ」としたうえで、仮に所有権が認められても
土地にくっついたものの所有権はすでに放棄していると主張しました。
山根社長は
「ゴルフ場にある放射能は自分とこの物じゃないと…いうことですよね、おっしゃたのは、まず…。
それを聞かされた時には自分の耳を疑いましたね、自分の物じゃない…。」
と呆れた表情で話します。
 
「裁判の中では『無主物』と主張していましたが、別の場所にもそれは当てはまる事だと思うんですが、
無主物ということになるんでしょうか」
と東電の考えを問いただす記者の質問に、
東京電力の松本純一原発立地本部長代理は次のように答えました。
 
「私どもといたしましては、
私どもの見解は裁判の中で申し上げている通りでございます。」…
 
あくまでも「放射性物質は無主物」と主張する東京電力。
 
もしも撒き散らされた放射性物質が
すべて「無主物」だとしたら…。
 
賠償すべきなのはいったい誰なのでしょうか。
 
結局、裁判所は無主物という主張は認めませんでしたが、
一般の被ばく限度である年間1ミリシーベルトの20倍となる、
年間20ミリシーベルト以下ならばゴルフ場は営業できるとして、仮処分の申立を却下しました。
 
 
12月に国の委員会は原子力発電のコスト試算を終えました。
 
事故の賠償以外にも、これまでは入れられてなかった国からの交付金など
社会的費用を加えて計算した結果、「最低でも」との注釈がついた上で8.9円以上とされ、大幅に上昇しました。
 
この試算に用いられた被害額は東京電力が提出したものがベースで、
本当に福島の人たちが納得できる除染や、補償の費用に足りるのかはわかりません。
検証委員会の大島委員「事故費用はまだまだ増える」
 
検証に加わった大島教授は
「事故を含めた損害賠償額と事故費用に関しては、今後非常に増えると思っていまして、
これに関しては、いずれにせよ国民が負担せざるを得ないお金になりますので、
それははっきりと国民の前に出すべきだと思いますね。」
と話し、情報公開した上で国民的な議論が必要だとしています。
 
「原発は、いるのかいらないのか、
それを問いかける市民投票のために署名集めていまーす。」
と街を行く人たちに呼びかける声が響いています。
 
大阪では、原発のことを自分たちで決めるための署名活動が続いていますが、
素人の多い、手探りでの活動は、決して順調とは言えない状況です。
「原発」大阪市民投票の署名集めは難航中
 
森田さんは言います。
「世の中は何となく(原発)反対の方に向いてるじゃないかと(あなたから)お話しがあったが、僕はそうは考えてないです。
空気としてはそれ(脱原発)はあります、でも、空気は民意じゃないんですね。
民意ははっきりこういう形で投票して決めると、その出てきた数字そのものがやはり民意だと思います。」
 
原発に賛成なのか反対なのかを決断する責任が、いま、主権を持つ私たちに託されています。
 
2011年12月26日放送

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