「嘘であって欲しい」、既に創価学会から離れて15年、大石寺からも離れて10年近いの歳月が経過しているわたしでも、心のどこかで「本門戒壇の大御本尊様が偽物のわけがない」、そんな最後の、そう、一縷の思いがあったのかも知れません。わたしは、この写真を手に握ったまま、この画像を見据えていました。
「この本尊を信じて、人生を擲ってきた人はどれだけいたのだろうか」、あの熱狂的な正本堂供養前夜が思い起こされました。「一生に一度の御供養」という指導を信じ、家財産を売り払った人もいました。わたしはまだ小学生でした。「御供養があるから」という親の言葉で、食べたいものも、欲しいものもすべてを我慢していました。はじめて正本堂のなかに入れたとき、わたしは高校生になっていました。言論出版妨害にもめげず、既にわたしはれっきとした活動家でした。大学のときが、宗創第一次紛争、‘昭和52年度路線’でした。その後の闘病生活、そして、第二次紛争で創価学会と決別し、大石寺へ…。そして、この山からも辞したのでした。このわたしの半生、否、大石寺と創価学会のみならず、正信会、顕正会の会員信徒を突き動かしてきた「本門戒壇の大御本尊」の正体が、一片の『河邊メモ』のとおりであったとは…。
さらに検証を進めるために、「本門戒壇の大御本尊」と日禅授与漫荼羅の鮮明な写真を探しました。前者の写真は熊田葦城著『日蓮上人』に載る以上のものは見つかりませんでした。後者はみつかりましたが、大石寺蔵ではなく北山本門寺蔵でした。しかし、北山蔵の日禅授与漫荼羅と彫刻写真の二つを重ねてみたとき、中央題目がほぼ重なったということは、大石寺蔵・北山本門寺蔵はいずれが相剥(あいへぎ)であるか、また、かなり、正確な模写であるとことを意味します。いずれにしても「本門戒壇の大御本尊」は、日禅授与漫荼羅を原本として、臨模・作為された彫刻であることは動かしがたい事実です。
 彫刻に日禅授与漫荼羅から取った輪郭を配置して重ねる |
このように記すと「だが、四大天玉と不動・愛染は重ならないではないのか」と思われる方もいるかも知れません。しかし、『河邊メモ』では「お題目と花押を模写し、その他は時師か有師の 頃の筆」と、中央題目・花押とその他が別のものであるというのです。つまり、この彫刻(「本門戒壇の大御本尊」)は文字を寄せ集めて創られたパッチワークであるというのが、その意味です。この指摘は既に稲田海素がしており『板本尊偽作の研究』で木下日順が紹介しています。(ただし、原本が日禅授与漫荼羅である点は両師ともついに辿り着けませんでした)つまり、中央題目(と花押)以外が重ならないからこそ、パッチワークであることが証明されるわけです。
右図は、彫刻に日禅授与漫荼羅から取った輪郭を、それぞれに配置し直したものです。つまり、パッチワークを再現したものです。『河邊メモ』では、四大天玉は他のものとしますが、文字の書き癖を除けば、文字の大きさの比率は日禅授与とさほど変わらないことが、図からわかります。
ただし、細かく検証すると、その四大天玉、不動愛染は、臨写して使用されている部分もあるとわたしは分析しました。(この点はページ末に紹介する拙書をご参考ください)
こののち、わたしは『御本尊集』掲載の写真を加工し、南無妙法蓮華經の‘南’字から‘經’までの長さを揃えて、彫刻写真の輪郭と次々と重ねてみました。しかし、その結果、日禅授与漫荼羅とほど、ぴたりと七文字が重なるものは他にありませんでした。また、同様の技法で、他の二つの大漫荼羅の中央題目を重ねてみました。しかし、彫刻と日禅授与漫荼羅のように重なるものが一つとしてありませんでした。日蓮聖人の大漫荼羅は、当然のことながら、一幅一幅すべて手書きですから、同じように重なるものが、そもそもあるはずはないのです。
わたしはこの事実を受け入れ、そして、この事実を人に伝える義務があると決意しました。昨年暮れ、研究発表もし、講演も始め、書に記し出版したのも、その決意に基づきます。事実を受け入れることは、過去の一切の自分自身を否定する作業であり、身を切り裂かれる苦痛を伴います。それを受け入れることは至難であり、強い勇気が必要です。
「本門戒壇の大御本尊」信徒である方が、ここまで、読み進んでくださったのであれば、どうか、それが苦悶の選択であっても、真実を受け入れる勇気を持ってください。この彫刻が偽物であっても、必ずや未来は開けますから。
また、この彫刻本尊の信者ではない方々は、この本尊を究極の本尊と思いこみ、信仰という美名に言い換えられた活動に人生を無駄にし続けている人にこの事実を告げて上げてください。人生には限りがあります。わたしのように人生の大半を無駄にする人を一人でも減らす協力をしていただきたく、お願い申し上げます。
上述の前提を以て、『所謂「本門戒壇之大御本尊」の真偽について』をお読みになってみてください。また、末尾に記した拙書も参考になさってください。(識 犀角独歩)
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