大阪・なみはやドームに集まった5千人あまりの観客たちが、静まり返った。大勢集まったカメラマンたちのシャッターの音も、心なしか遠慮がちに聞こえる。
12月24日、クリスマスイブの日に開催された全日本選手権、女子ショートプログラム。氷の上にいるのは、浅田真央だ。12月9日に最愛の母親を亡くしたばかりの彼女は、以前よりもさらにほっそりし、顔色が少し沈んで見える。それでもこの大会に出てきたのは、本人の希望だった。報道陣には、「選手への質問は競技のことのみ」とあらかじめ日本スケート連盟から規制がしかれていた。
演技終了後、天から見守る母に向かって微笑むようだった浅田。
シェヘラザードのメロディがはじまり、滑りはじめる。2アクセル、3フリップ+2ループ、3ループ。ノーミスだった。観客たちもほっとしたようで、ようやく惜しみない歓声と拍手が沸き起こった。
「いつもと違う緊張があった。でも音楽が鳴り始めたら、いつも通りに滑れたと思います。終わってほっとしています。次につながる演技ができたかと思います」
普段はキラキラとよく光る瞳は、やはり少し元気がない。それでもけなげにときおり笑顔を見せながら、メディアの質問に答えた。勢いのあるすばらしい演技を見せた村上佳菜子に次いで、僅差の2位スタートになった。
そして翌日のクリスマスは、フリーの決勝だった。浅田真央は、最終グループ6人中4番目の滑走だった。「愛の夢」のメロディに合わせて、3フリップ+2ループ、2アクセル+3トウループなどを着氷していった。後半のサルコウとループが2回転になり、いくつかほかにも回転不足になったジャンプはあったものの、最後まで大きく崩れることのないまとまった演技だった。
演技が終わった浅田真央は、ほっとしたように天井を見上げた。まるで天から見守る母に向かって微笑んだように見えた。
逆転優勝。2年ぶり、5度目の全日本タイトルだった。
「選手として、やるべきことをやらなくてはならなかったので」
「得意なループで失敗したのはすごく悔しかったです。スタミナは問題なかったけれど、パーフェクトに滑れるかと思って気持ちがあせってしまって」
SPの後のときよりも、少しだけ表情が明るかった。GPファイナルを棄権した後、4日間練習を休み、再開したときは筋肉痛もあったという。
「とにかく試合まで時間がなかったので、余計なことを考えている暇がなかった。選手として、やるべきことをやらなくてはならなかったので」
そう言いながら、浅田真央は何度かぐっと何かをこらえるように唾をのみこんだ。これまでじっくり悲しむ暇もなく集中してきた緊張感が、少しだけ溶けてきたのだろうか。
<次ページへ続く>
フィギュアスケート、氷上の華 バックナンバー
- 浅田匡子さんに届けと渾身の滑り。 GPファイナルの日本勢、各々の想い。 2011年12月12日
- 男女ともに宿命の対決があり必見!! 混戦必至なフィギュアGPファイナル。 2011年12月8日
- 女子の熾烈な戦いで勝利を得た14歳、 女王の中の女王、トゥクタミシェワ。 2011年11月22日
その他スポーツ ニュース
浅田真央ら観客魅了 全日本エキシビション
2011年12月26日(月)21時47分 - 共同通信
フィギュアスケートの全日本選手権で優勝し、来年3月の世界選手権代表に決まった女子の浅田真央が一夜明けた26日、大阪なみはやドームで行われたエキシビションに出演し、華麗な演技で観客を魅了した。世界選手…記事全文
その他スポーツ コラム
-
[SCORE CARD]
スランプを乗り越えた、伊達の向上心と覚悟。~全豪オープン本戦出場へ~ -
[SCORE CARD]
有馬記念に見る、“黄金時代”再来への道。~オルフェーヴルvs.ブエナビスタ~ -
[SCORE CARD]
良き仲間の協力を得て、笑顔を取り戻したレブロン。~“悪役”D・ウェイドの言葉~