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きょうの社説 2011年12月27日
◎新幹線敦賀延伸 北陸に活力、工期短縮が課題
1日遅れとはいえ、これほど大きなクリスマスプレゼントは久しくなかった。北陸新幹
線金沢―敦賀の新規着工が決まり、早ければ2025年度には北陸3県のほぼ全域が高速鉄道のネットワークで結ばれる見通しである。敦賀延伸で、夢物語に近かった大阪までの全線整備も現実味を増し、「正夢」になる期待が膨らんでくる。北陸3県がしっかりとスクラムを組んで、地域浮上の願ってもないチャンスを最大限に生かしたい。東日本大震災の復興事業に膨大な予算が配分されるなか、整備新幹線事業の進展は、風 前の灯火にも見えた。それが大震災の教訓から、新幹線システムの耐震性の高さが改めて証明され、潮目が変わった。私たちが繰り返し指摘してきた通り、北陸新幹線は、東海地震などを想定した場合、東海道新幹線の代替ルートとして重要である。東京―大阪間の人の流れが止まれば、日本経済への打撃は計り知れず、リスク分散の発想が不可欠だ。震災復興を通じて「国土の複線化」の重要性が政府の共通認識となった意義は大きく、北陸新幹線は震災復興の関連事業として位置付けられよう。 今後の課題は、最短でも14年に及ぶ工期の短縮である。これまでは「おおむね10年 」とされてきたが、財政上の制約がより厳しくなり、資材の値上げもあって大幅に延びた。財源不足を理由に工期がさらに長引く可能性も指摘されている。何としても開業までの工期延長を回避し、一年でも早める努力が必要になる。 北陸新幹線の場合、福井−敦賀は北陸トンネルの工事を抱えており、大幅な工期短縮は 容易ではない。その半面、金沢―小松間、さらには小松―福井間の工期短縮はさほど難しくないとの指摘もある。財源確保のハードルは高いが、金沢―福井間が20分、富山―福井間が35分で結ばれることになれば、北陸3県の一体感はさらに増すだろう。新幹線の経済効果をできるだけ早く得られるよう地元が一丸となって工期短縮の知恵を出していきたい。 白山市は北陸新幹線白山総合車両基地に「JR白山駅」(仮称)を新設する構想を温め ている。これは敦賀開業が相当先になると見て打ち出したのだろうが、延伸が現実となった今、構想そのものを再検討すべきだろう。仮に地元負担で白山駅を整備しても乗降可能な新幹線には限りがあり、費用対効果は疑問である。 鉄道・運輸機構が公共事業再評価の際に実施した試算では、北陸新幹線の金沢開業後1 0年目の効果は年間約1600億円に達する。北陸経済連合会の試算では、敦賀延伸でさらに年間960億円の経済波及効果が加わる。採算性の高さは折り紙付きであり、政府・与党の言う「選択と集中」の考え方に合致する。 在京メディアのなかには、整備新幹線事業と聞くと、反射的に「コンクリートから人へ 」の理念に反すると決め付けてしまうような風潮がある。これは公共事業を一律に「悪」と見なす短絡的で、木を見て森を見ない発想だ。北陸新幹線は、整備効果が建設コストを上回る利益を生み出す。日本の国土軸の防災力を高め、省エネを推進し、内需主導の景気回復を後押しする副次的な効果も期待できる。環境に優しく、時代に適応した必要不可欠な「コンクリート」であることを胸を張って訴えていきたい。 今後は大阪までの全線整備の論議も活発化してくる。関西圏から見れば、敦賀開業で北 陸と首都圏の関係が強化されてしまうのは避けたいところだろう。大阪、京都など2府5県でつくる関西広域連合はインフラ整備強化の一環として既に敦賀以西のルート選定を始めており、早々と空気が変わり始めた印象である。 特に首長としては抜きん出た発言力と影響力を持つ橋下徹大阪市長は、府知事時代から 北陸新幹線の全線開業に熱心で、関西広域連合の会合の席上、「大阪から北陸新幹線を迎えに行く。米原ルートに絞って検討したい」と表明したこともある。敦賀以西のルートには諸説あり、一筋縄ではいきそうもないが、関経連と一層連携を深め、敦賀以西の青写真を描いていく作業をスタートさせたい。
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