きょうのコラム「時鐘」 2011年12月27日

 新幹線は遅い。在来(ざいらい)線は早い。逆だろう、と言われそうだが、北陸新幹線延伸(えんしん)の報を聞いての感想である

新幹線は金沢まで届くのに30数年かかっている。敦賀まで延伸できても14年以上はかかるという。合計すると半世紀である。新幹線のレールがゆっくりと延びて行くのと対照的に、在来線の夜行や寝台特急列車の廃止は早々と決まっていく。「きたぐに」「日本海」と矢継(やつぎ)ばやだ

明治以来、国の基盤づくりのプロジェクトが半世紀以上かかった例はあったろうか。50年と言えば、ライト兄弟が飛行機を発明してからジェット機が飛ぶまでの時間に等しい。何と遅々(ちち)としたことか。まるで鈍行(どんこう)列車だ

だが、鉄道はもともとふたつの顔を持っている。1分1秒のスピードアップに挑(いど)み続ける顔と、のんびりと目的地に行くまでの時間を楽しむ顔。その2つを使い分けできるのが旅客機との違いだ。スピードアップした新幹線を楽しむ人が、ゆっくりと夜行や寝台列車で行く旅も好むことに矛盾(むじゅん)はない

鉄道ファンの作家、嵐山光三郎さんはいう。「行く汽車の流れはたえずして、しかも、もとの鉄路はない」