特殊映像ラボラトリー 第20回 「ONE PIECE/STRONG WORLD」大ヒットの秘密/東映・谷口毅志宣伝プロデューサーに聞く(前編)
■ 劇場版「ONE PIECE」シリーズ10年間の試行錯誤が、
一気に開花した。
ここに至るまでの「ONE PIECE」シリーズは決して楽な道を歩んできたわけではない。むしろその逆で、試行錯誤の連続であったと言えるだろう。1作品ごとに観客層や興行成績を分析し、その都度あらゆるトライアルが行われたのだという。
谷口 「ONE PIECE」で特に素晴らしいのは、ストーリー。連載されている物語が素晴らしい。そこにお客さんがついていると思います。その原作のお客さんを映画に呼び込めたら良いですね、ということは前々から関係各所と話していました。劇場版の1作目、2作目は勢いがありました。第1作は、興収21.6億円行きました。2作目が30億円と、凄い勢いで上り詰めたわけです。それが3作目で20億円に落ちてしまった。当時は映画と原作は別だったのですが、5,6,7作目で数字が落ちてきた時に「原作に寄ろう」と。それで「エピソード・オブ・アラバスタ 砂漠の王女」と「エピソード・オブ・チョッパー+冬に咲く、奇跡の桜」が生まれました。
−例えば「オマツリ男爵と秘密の島」とか…。
谷口 あれは「原作から離れた」というより、別ものですよね、原作とは。「カラクリ城…」以前はすべてそうですが。
−そういう作品をやることによって、原作のファンが離れていったということですか?
谷口 もともと1作目から3作目までは「東映アニメフェア」として展開していました。そうすると、大人の観客ではないですよね、映画館に来るのは。1作目から4作目までは、子供の観客が圧倒的です。1、2作目ですと子供たちが80%でした。小学生ですね。男女比は男の子がほとんど。4作目から1本立てになるのですが、これは「ONE PIECE」のファンをもってすれば、1本で成立するだろうと考えての船出だったわけです。そこでも20億円は行った。ところがその20億円を境に、ダウンが始まった。子供をターゲットとしたアニメとしてスタートしたものの、連載が長引くことで、大人化して行った。
−原作そのものが、大人向けになったということですか?
谷口 違います。原作を読んでいる方ですね。読者の年齢が、上がっていった。その中で作られている映画が、原作ファンとの間で乖離を起こしていった。物語としては13年続いているので、小学生から読み始めても、大学生になってしまう。5、6作目の時でも原作が始まってから7、8年経っていましたから。それを子供向けの映画という立ち位置でどうするか。お客さんにシフトすること、上の年齢層に向けて作らなきゃ行けないのではないか?という意見がありました。5作目「呪われた聖剣」は、非常に渋い作品になりましたが、これが興収18億円に落ちている。大人に向けて売っても興行が上がらない。子供向けにもっと楽しいものを作ろうというので、翌年「オマツリ男爵…」になったわけです。脚本の段階では楽しい作品だったのですが…。
−だいぶダークな作品になりましたよね。
谷口 もともと脚本では、笑いたっぷりのコメディになっていたのですが、作品としては違うものになってしまいました。で、もうちょっと子供に向けてちゃんと作ろうというのが、その次の「カラクリ城…」。ただ子供たちに、映画だけでアピールするのは難しい。これ以上続けるのであれば、やはり原作の力を借りなくてはいけない。ところが尾田先生の時間がとれない。ならば原作を使ってなんとかしようというのが「エピソード・オブ・アラバスタ」。ところが原作の7、8巻にあたるものを90分にまとめるというのは、かなり無理がある。それよりも、短いエピソードでもちゃんと作り込んで、その上で原作に、ひとエッセンス足したモノを作ったらどうだろう?と作られたのが「…冬に咲く、奇跡の桜」。さらに、もっと原作にコミットしてお客さんを呼ぼうというので、今回の「STRONG WORLD」が生まれたんです。流れ的には、子供作品から始まったものが、コンテンツが成熟していく中で、ターゲットが変わっていった。その中で、どうアプローチしたらヒットするかという、しごくまっとうなことが確立され、今回は大成功を収めた。ただこれ(尾田先生が関わったこと)に関しては、メモリアルな作品という前提があります。
−でも、10年間の蓄積があったから、今ブレイクしたんじゃないですか?
谷口 うーん…そこらへんは、分からないです。2作目3作目で尾田先生が登場していたらどうかとか、これは比較が出来ないと思うんですよ。全部後付けの説明に聞こえてしまう。勝てば官軍ですから。次回作だって、まだわからない。どういう形になるのか。さすがに、ここまでヒットしたものを、やめてしまおうという考えはないと思うんです。でも次の出し方は、慎重にならざるを得ない。
−今すぐにどうこうというわけでなさそうですね。じっくりとやっていく。
谷口 付け焼き刃でやっていく作品ではないですよね。原作あっての映画ですから、その歩調を合わせることが大切。今回の映画にしても、5社で構成されている製作委員会の力が、大きかったと思います。
−それは10年間「ONE PIECE」をやって、その可能性が分かっていたからなんでしょうね。
谷口 そういうことかもしれません。10年やってきたことで、脈々と受け継がれていることがあると思います。
−シリーズというものは、続けていくことで、作るほうも売るほうもノウハウが蓄積されてくる。それって大きいですね。
谷口 そうだと思いますね。やはり組んでいる企業さんと、いかにプラスの方向でお話が出来るかが重要ですよね。続き物のメリット、デメリットはあります。ただ、宣伝に関してはメリットのほうが大きいと思います。認知されているって大きいですから。
−作品やキャラクターを、ゼロから認知させることは大変ですよ。
谷口 なので、売れているコンテンツを扱うというのは、そういう意味では、どこを劇場に呼ぶか。明確なターゲット化が必要になってくる。でも、どこにファンがついているのか分からない作品を売るよりは、分かりやすい。ただ、成功してればしているほどプレッシャーは大きいと思います。
■ 製作委員会の多大なる協力と、熱気があった宣伝会議。
昨今の映画製作の多くには、複数の企業が出資する、いわゆる製作委員会システムが用いられているが、社内に映画調整部を設けて、各作品の委員会と緊密なコミュニケーションをとっている東宝と比べ、東映はその企業カラーの強さ故か、外部企業とのコラボレーションに対する積極性が、あまりうかがえなかった。
−私見ですが、東映はあまり積極的に外部の企業と組まれない。特に宣伝面では、いわゆる東映カラーを出してきたじゃないですか。
谷口 出ちゃうんでしょうね、会社のカラーが。会社のポリシーとしても、「うちはTVと組むというより、映画発信だ」という考え方を感じますし。ただ今回、映画発信より原作発信という形にしてもらったほうが、作品としてメリットがある。それをどういう形でやれば良いか?今は製作委員会システムで映画を製作していますから、東映グループだけではなく集英社さん、フジテレビさんといった各社の協力がないと成立しない。ただ、協力してもらうからには、作品にとってプラスの方向でなければいけません。原作を無視して映画をやろう、TVとは違う方向に走ろうというのではダメです。原作と寄り添った関係がありますので、その中でベスト・チョイスをしていく。そういう意味では、今回「ONE PIECE」を売るために、どうしたら良いかを考えられる委員会だったと思いますね。
−それは、理想的な委員会ですね。
谷口 1〜2週間に一回、宣伝会議をやるんです。そうすると皆さん、ガツガツ言うんですよ(笑)。普通、出資会社の委員会だと報告事項だけで終わるのですが、皆さん、まあよく宣伝に関するアイディアが出てきますよ。それは良くして行こうという流れの中でなので、ある行政においては難しいことでも、こういう立場だったら活かせるという、活発な意見を出し合える場であると言えますね。
(後編に続く!!)