特殊映像ラボラトリー 第25回 「『イヴの時間』に、何が起こったか?」 後編
斉藤守彦の「特殊映像ラボラトリー」
特殊映像ラボラトリー 第25回 「『イヴの時間』に、何が起こったか?」
斉藤 守彦
[筆者の紹介]
1961年生れ。静岡県浜松市出身。
映画業界紙記者、編集長の経験の後、映画ジャーナリスト、アナリストとして独立。「INVITATION」誌で「映画経済スタジアム」を連載するほか、多数のメディアで執筆。データを基にした映画業界分析に定評がある。「宇宙船」「スターログ日本版」等の雑誌に寄稿するなど、特撮映画は特に得意な分野としている。
■ ロングテールの商品展開になる確信は、あった。
−プロデューサーとしては、最初からこうしたビジネス展開を構想していたのですか?
長江P
ボクは配給や流通のプロではないけど、何かモノが売れるタイミングって、絶対あると思っている人間なので、いくら営業をかけてもダメな時はダメ。機が熟するタイミングを待つことが肝心と思いながら、開き直ってやってきました。で、粘りに粘って、待ちに待った結果、本当にいい展開や良い出会いを引き寄せたと思っています。
ボクの中では、割といいペースで来たつもりです。普通の大作映画なら、公開2〜3ヶ月前からパブリシティを集中投下し始めて、直前の1ヶ月になると話題がピークになり、公開後1ヶ月ぐらいすると沈静化して行くという、だいたいは数ヶ月という短いタイムスパンで勝負するものだと思いますが、大作の場合、公開する映画館の数が多いし、その後のパッケージ販売でも十全にパブが打てるから、ビジネス的にも十分勝機はあります。
それに対し「イヴの時間」の場合はパブも含め、予算的にも小規模でいわゆる単館上映スタイル。無料配信に始まり、急場しのぎのパッケージ販売、そして再編集ともいえる劇場公開に至るまで、制作の遅れも含め(苦笑)、じっくり時間をかけて熟成し、それでも愛してくれるコアなファン層を形成してきたという流れ。短期勝負では大作にかなわないけど、細々とでもいいから長続きしてくれれば、それなりの結果が残せるかもと。まさにロングテールな展開があっているという意識はありました。
でも、まさかそれが地方にまで飛び火するなんてことは、考えていませんでしたね。全国10箇所以上で上映されるなんて・・・。
■ 劇場版の宣伝には、ツイッターが貢献してくれた。
「イヴの時間・劇場版」の公開にあたり、配給のアスミック・エースは、各種メディアに対して吉浦監督自身の口から「イヴの時間」の魅力を語ってもらうべく、多くのインタヴュー・取材をセッティング。これは吉浦監督にとっても、新鮮な体験となったようだ。
「1月の1週目に完成し、3月6日が公開日だったんですが、劇場版完成から公開までの間って、下手な制作末期よりも忙しかったです。もうインタヴューやら取材やら、がんがん入るんですよ(笑)。とは言え僕もしゃべるのは好きだから、なんとかこなせましたけど。アニメ雑誌だったらアニメのこと、SF雑誌だったらSFのことを突っ込んで話すんですが、一回『メガミマガジン』って萌え系雑誌の時は、サミィがいかにして萌えるかを、延々と話しました。イヴって色んな切り口があるのを発見しました (笑)」(吉浦監督)
しかし長江プロデューサーとしては、「イヴの時間」という作品が持つ、独自の魅力がメディアに伝わらないのでは、という懸念もぬぐいきれなかったようだ。
長江P=宣伝・配給のプロフェッショナルであるアスミックさんが参加してくれたとは言え、パブリシティは苦戦するであろうことは当初より想定していました。劇場公開に漕ぎ着けても、まさかここまで大手のアニメ雑誌、声優雑誌が反応してくれないとは思いませんでした(苦笑)。
−アニメ雑誌を出す出版社や関連会社が、それぞれ新作アニメに何らかの形で関係しているから、という理由もあるのでしょうか?
長江P
相当早い段階から、アスミックさん側で熱心にアプローチしてくれていたのですが、編集部では「シンパシーは感じるけど、この作品に誌面を割くわけにはいかない」と言われてしまうらしく・・・。実際、いわゆるアニメ・ファンが喜びそうな要素は少ないですし。SFではあるけれどメカやセカイ系は出てこないし、萌えもほとんどない。かなりストイックな内容だったので、商業メディアでどこまで扱ってくれるかと危惧はしていたのですが、それが現実となった。じゃあ、逆にこの作品を見てくれているコアな層というのは、一体どういう構成なんだろうか?と、試行錯誤を続ける中、劇場版に突入してしまったんですが、そんな状況下で心強い味方になってくれたのがツイッターでした。
たまたまボク自身もその前年の夏からツイッターを始めていたんですが(@tomnaga)、1月の後半からスタッフと共にアカウントを立ち上げて、『イヴの時間』を見てくれそうな人とのダイレクトにコミュニケーションを始めました(@timeofeve0306)。そういうレベルで存在感が伝わっているか否かを判断するしかなかったんです。前売りもそんなに売れてなかったし(笑)。
−ではパブリシティに最大の貢献を果たしたのは、ツイッターということになりますね。
長江P
宣伝の段階でどこに向かって情報を投げればいいの?っていうのは、アニメに限らず今やどの作品も苦労しているんじゃないですか。そういう時だからこそ、我々としては配信時代に培ったファンの生の声や反応を通して情勢を判断するという原点に立ち返りました。そうしたコミュニケーションを信じ、ボクらが一番力を入れたのがツイッターでした。
たまたま『イヴの時間』についてつぶやいている人を見つけると、率先してフォローする(笑)。最初は不気味がられましたよ。「なんか、つぶやいただけでフォローされた」って(笑)。みんな、かなり引いてたかも(笑)。でも、次第にそれも含めてウェルカムされるようになっていって。映画館に人が何人来たとか、そうした実数以外のことって、情報誌みたいに現場で出口調査しているわけでもないし、結局ツイッターでしか測れなかった。そういう方向で、この作品に合った盛り上げ方みたいなことを試行錯誤しながら実践してきた感じです。
「ささやかながら、この盛り上がり感が、この映画に一番合っている」に続く