特殊映像ラボラトリー 第25回 「『イヴの時間』に、何が起こったか?」前編
■ ウェブ配信によるリアクションは、制作現場を大いに活性化にさせた。
ヤフー動画でのウェブ配信が実現し、最終的には全6話の総視聴回数が、実に300万回を超えた「イヴの時間」。そうした“量”的な成果もさることながら、視聴者からのリアクションが、制作現場のスタッフたちに影響を与えることもあったと言う。
−ウェブ配信に対する視聴者のリアクションと、スタッフの反応はいかがでしたか?
長江P
2008年の8月から1ヶ月間の第1話の配信期間が終了した後、監督と制作のコアメンバーと、お祝いを兼ねてご飯を食べに行ったんですが、みんな凄く感動していました。みんなが見てくれているという実感。このプロジェクトに関わって良かったという想い。ボク自身、確実に『ペイル・コクーン』の時とは拡がりが違うぞという手応えはありました。とりわけ、当時ニコニコ動画に、違法でアップされた1話に書き込まれていたコメント。最初は偶然見た人が、“なに?このクオリティーの高さは?”とか“驚いた”とか、中には“『ペイル・コクーン』の監督でしょ”って、知っている人がぱらぱらいる程度だったのが、2話辺りから次第にキャラへの感情移入がうかがえるリアクションが増えていく。サミィ萌えとでもいうか、カチューシャをとられるあたりは、リアクションもガーンと。なに?この弾幕は!?みたいな(笑)。
−アニメの制作現場は、基本的に密室作業ですから、視聴者からのリアクションが入ってくると、うれしいですよね。
長江P
とにかく否定的なコメントがほとんどない。現場は勇気づけられました。カットごとにリアクションしてくれたり。ああいう反応を見ると、現場的にはたまらないんですよ。「あのカット、力入れて良かった!!」「狙い通り!」とか。当時、ヤフー動画(現・ギャオ)で作品の誕生時から支えて下さっていた旦さんに「現場の支えになっているので、ニコ動はしばらく放置させてもらえませんか?」って(笑)。
−制作現場と視聴者とのコミュニケーションが成立し、それが作品内容にも活かされたという意味では、ウェブ配信の成果は大きかったわけですね。
長江P
配信というやり方は直接お金を生むものではないけど、現場的には効果絶大だったと思います。それを見て多少軌道修正したり、監督的にも出来上がったものを冷静に見直すきっかけになったり。第1話なんて、かなり後の方までいじってましたから、最低でも3バージョンありますよ。最初に完成した東京アニメフェア上映版と今年の暮れに出す配信版のブルーレイBOXでは、明らかに間とか違うんです。カットの長い短いとか、このカットは入ってなかったとか。収録するのは最終バージョンだけですが、相当マニアックな人でないと分からない。監督も納得行ってないカットは見せたくないという気持ちは人一倍強いですし。で、それが、ますます手が抜けないというプレッシャーにも繋がりますけど(笑)。そもそも吉浦監督もボクもどちらかと言えばアート・アニメの世界出身で、プロの業界ではまったくの門外漢だったわけですが、そうした受け手の気持ちを配慮するスタンスを崩すことなく継続させていったことも、コアな方向でまとまらず、幅広い受け手に届く作品が生まれた一因だと思っています。
ウェブ配信で得られたリアクションについて、吉浦康裕監督自身も「皆さん楽しんでくれていると分かって、うれしかった」と、そのトライアルを歓迎している。
「4話、5,話、6話と、後半になるにつれて新規の方が前半を見だして、そこからヤフー動画(現・ギャオ)のレビュー等を含めてリアクションが増えました。順番に配信して、当初からリアルタイムにリアクションを得るってわけではありませんでした。6本やったから反応してもらえたんでしょうね。これが1本だけだったら、反応してもらえなかった。面白いという具体的な内容に関しても、割と狙った通りでした。僕は物語を描きたかったので、脚本には時間も手間もかけました。それを面白いと言ってくれた人が多くかったのは狙い通りでした。また今回は魅力的なキャラを配置して、楽しんでもらう見通しでしたが、ここもみんな“このキャラが好き”といった反応があって、うれしかったです。実は1話目を配信する時は、 “本当に面白いのかな?”って疑心暗鬼にしていた時期でしたので、後半は気が楽になりました」(吉浦監督)。
■ シングルDVD、オールナイト・イベントから、 劇場版の製作へ・・・
長江P
ところが制作上の遅れから、3話と4話の間が4ヶ月空いてしまうことになり、下手をすれば忘れ去られてしまう。何かアクションを起こさないと!と。それで急遽、限定版のシングルDVDを出しました。さらにその休止期間中に、ニコニコ動画さんと知り合い、先方のサイト内でも特集ページを持てることになりました。これは大きかったですね。ニコ動さんと組ませて頂いたおかげで、コアターゲットの層にさらに強いアピールができ、実際、期待していた拡がりも出ました。
−シングルDVDは、あっという間に売り切れてしまったそうですね。
長江P
シングルDVDは一部アマゾンにも卸しつつ、主に公式サイトで売りました。限定発売にした1~3話は3000枚、売り切っています。出してあっという間に2000〜2500枚売れました。4話が配信される頃には、既に1,2話のDVDは売り切れていました。で、そのシングルDVDを出した直後に、それを持って東京テアトルに沢村さんを訪ねて伺いました。こちらも「時をかける少女」の成功例はかなり意識していて、最初から沢村さんをねらい撃ちです(笑)。そしたら沢村さんも吉浦監督のことはよくご存知で、機会があれば応援したいと思っていらしたらしく、まずはオールナイトで1回やってみようと話が決まりました。で、2009年3月28日、テアトル新宿でANイベントが実現したのですが、おかげさまで満席となり、それが後押しする形で劇場版の話が自然と前に進みました。
−劇場版の配給がアスミック・エースに決定したのは、どういう経緯によるものでしょうか?
長江P
劇場版の製作が内定し、配給としてアスミック・エースさんにも入ってもらうことにしたのは、劇場公開ともなると、配給や宣伝までまったく経験のない自社ではやりきれないだろうし、やるべきではないという判断です。さらにこの波を大きく拡げるための強力なパートナーが欲しいな、と思っていたタイミングでアスミック・エースの小野さんと出会えたので、願ってもないチャンス!と思い、おまかせしてみよう、と。それで正式に劇場版が動き始めたわけです。ネット配信があれだけの数字を出していたし、シングルDVDもほぼ売り切れている。たぶん、テアトルさんもアスミックさんも「まあ小規模にやる分には、損しないだろう」という感じの枠組みでスタートでした。それが夏前のこと。当時まだ配信版も6話まで完結してなかったので、実際に劇場版の作業が始まったのは10月ぐらいからでした。直前まで6話の作業をやっていましたので(苦笑)」
吉浦監督としても、降ってわいたような劇場版の製作に戸惑いを見せるものの、次第に熱が入っていったようだ。
「劇場版の話を具体的に聞いたのは、5話をやっている時かな。僕は劇場版は意識していませんでした。6話分をシーズン1と考えていて、シーズン1だけの総集編を作るつもりはなかったし、総集編には適さない映画だと思っていました。いきなり劇場版って言われたのは驚きましたが、劇場にかけることで、見てくれる人は確実に増えるだろうと。それと全体的に映像も作り込んでいるほうだったので、これは劇場でやらないともったいないだろうと考えて(笑)。ちょっとやり残したこともあるし、総集編プラス・アルファで出来ることもあるかな?と、割と見切り発車で(笑)決意しました」(吉浦監督)
ちなみに劇場版に新規挿入した30カットについて、「外注した作画のカット数であって、僕や作画監督がペンタブレットで描き直したカットもあるので、細かいことも言えば、修正したカット数は、把握仕切れないぐらいたくさんあります」とのこと。
後編へ続く