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[30005] 習作 空の精鋭はあの空に帰る (IS インフィニット・ストラトス)
Name: 柳旭◆d3104351 ID:4101596d
Date: 2011/12/23 15:56
まったく住み辛い世の中になったもんだ

お天道様の下では誰しも平等であると昔の偉い人が語っていたはずなのに、今の世の中は女がこの世の天下とばかりに男をこき使うなんてふざけた世の中になっちまった。
歴史の授業にある奴隷解放を推し進めた大統領がこの有様を見たら涙して怒りに震えて「情けないとは思わんのか」というくらいには今の世の中は世知辛いし住みづらい。
まあ、実際にあったことはないが、まったく人間ってのは誰しも自分の下を作りたがる。
「あんたもそうは思わないかい?」
思わず、なけなしの一万円札の肖像画に問いかけちまうほど今の世界は女が世界を動かしている。

公園の男性専用ベンチでタバコをふかしていると、そこら辺の女子学生が通りすがりのサラリーマンとは名ばかりのただ働きにナプキンを買ってこいなんて命令を下すなんてことはもう見慣れた光景だ。
まったく…お天道様もこの有様を見たら思わず涙をこぼすだろうね。尤も涙で道路が水浸しになっちまってはこちとら商売は上がったりだ。
そろそろ休憩時間も終わりだろう。お仕事に戻るとしますかね…
「帰りてぇな。藍色の世界に…」
俺が唐突に有無を言わせずに自衛隊を首にされた後、愛機のドルフィンはどうなってるんだろうか…
装甲も何も覆わないでいながら馬鹿げた破壊力を持っているあの腐れロボットにスクラップにでもされたのかねぇ
「帰りてぇな…もう一度お天道様の間近だったあの場所によ…」
携帯がアラームを鳴らすのを確認し、俺は駐車場にとめてあったトラックに飛び乗り、あの腐れロボットの装甲を指定された工場まで運ぶ仕事を再開した。
「ああ、金なんてもんのために俺はこいつを運ぶのか…俺を空から引きずり落としたこいつの武器を…まったく世の中ってのはやるせねぇな」
かつて、青の塗装を身にまとって誇りとまで言われた一員の俺が今じゃ運送会社の一ドライバーか…
あの塗装にあこがれて、血反吐を吐く訓練をして拝命の辞令を受け取り空の芸術を作り上げた俺が…
『中井正志一等空尉!国家と国民の防衛のためこの一命をささげ、平和の礎となることを誓います!』
思い起こすのはかつての栄光の日々。もうありえない男たちの栄光の部隊。白騎士の武勇によって打ち砕かれたかつての日々。

「ねえ、ちょっと!!あんたそこでアイス買ってきなさい。もちろんあんたの金で!」
「…申し訳ないが、私は仕事があるんで失礼」
女学生が俺に命令してきたのを嫌いな仕事を盾に断りトラックを工場に走らせた。重低音を響かせるエンジンも悪くはないが、やはり空を切り裂くあの音にはかなわない。
思い出は去った後が一番辛いというのは本当のようだ。配達先までの心はまるで今にも振り出しそうな曇天の空と同じだった。



「は?クビ?どういうことですか」
「うん。君、女学生に失礼なことをしたんだってね。だから今日限りで首、退職金は出ないからそのつもりで」
仕事を終えて、事業所に戻ればそんな無慈悲な言葉が社長の山内俊三から飛び出してきた。
「わかっているんだよ。本当はね…でも仕方ないんだよ、零細な上に客商売だからね。何でこうなったかね…輸送課の時はこんなことを気にしなくてもよかったんだがな」
「せめて退職金くらいといっても無駄でしょうね…」
「その退職金は、あの子達への賠償金になるから…退職金は出せないよ。もし出したら人権団体が押し寄せてくるし、お前のために俺は首をくくれないんだ」
「すんません」
「いや、いかれた時代に正論を言っても無駄なんだろうな…俺のほうからも口を利いておく。すまんな」
苦虫を噛み潰した言葉とともに私物を片付けさせられ、俺は仕事場を失った。おそらく、ハローワークでもこれが流れれば絶対に仕事なんてありつけない。
何しろ、不平等な世界で迫害される側に生まれてしまったのだ。プライバシーなんてあってなきものだからどうしようもない。

二ヵ月後

「山内さんでしたか。あなたは女性に対して失礼な態度を取ったとありますので、申し訳ありませんがなかったことにしてください」
案の定情報が回っていたらしく、会って一分もしないうちに出た面接官の冷たい声に、二十社目の面接はあっけなく黒星を飾った。
とぼとぼと戻る帰り道はため息しか出ない。家賃もそろそろ払えなくなるだろう。顔を上げてみれば男たちの苦い顔があちこちに浮かんでいる…うつむいたほうが精神的に楽だった。
「どうすっかな、これから…」
伝を頼ってもみんなその日の銭を稼ぐのに四苦八苦している有様じゃあ、どこも頼れない。
このままホームレスかそれとも非合法な稼ぎに手を染めるか、それとも首をくくるか。女ににらまれたやつの末路なんてその三つくらいしかありえない。

本当に、何でこうなっちまったんだろうか…自分さえも守ることができなくなっちまった今の世の中。それでも反旗を翻さないのはくたびれ果てた防人のプライドがあるからだろうか。
八年前、あの腐れロボットを操る女性団体が無理やり政権を奪い、憲法をはじめとした諸法律すべてを変えてしまったときに俺は何をすればよかったのだろうか。
くたびれ果てた防人のプライドは、この国を認めることを止めた。国家体制は変わり千代田のお方は今はどこかで幽閉されて病気がちの体だというのに無理をさせているらしい。
そしてそれを救うことは男性にはできないのだ。怖気づいているとかという精神的な部分ではない。単純に男性には基本的人権が制限されているのだ。
行動手段からして奪われ、かつては自由にこの国を歩くことができたのに今ではそれすら女性が集う役所で国語辞書程度の許可証をもらわなければ電車に乗ることすらできない。

それが日本だけだったら皆さっさと移住をしているのだが、世界すべてとあってはどうしようもない。
女性たちは今の世界を歓迎し、男性たちに何千年にも渡る迫害の復讐を支持して今俺たちは溝鼠のような生き方を強いられている。

ため息をついたそのとき、携帯の着信が鳴った。確認すれば登録されたアドレス。整備課にいた山田権六曹長、今は小さな町工場を経営していたはずだ。
「よう。中井の坊主、山内のやつから聞いた。手はいくらでも空いている。今すぐにこっちに来い」
「社長からですか?」
「ああ、製造業はまだ女が幅を利かせてないからな。たいした問題じゃねえよ。女性は油にまみれるのがお嫌いのようでな、香水が楽しめないんだとよ」
「ありがとうございます。すぐに行きます」
俺はその言葉とともに足早に山田製作所へと向かった。

下町の路地。その奥まったところに山田製作所は事務所を構えていた。ガラス戸を引くと以前よりしわが増したがそれでも剛毅な相貌をしていた山田曹長がつなぎを纏いそこにいた。
「きたようだな。まあ、手はいくらあっても足りんが、お前さんに任せたいのは…ついて来い。お前にしかできない仕事がある」
山田曹長の後についてゆく。所狭しと工作機械が置かれている工場の中を抜け、簡易なドアを開けるとトタン屋根で覆われた資材置き場があった。
「荷物運びですか?まあ力仕事は何年もこなしてきたんで問題ないですが」
「そこじゃねえよ。こっちだ!」
山田曹長が指差した先に無骨なロボットが置かれていた。
「ISじゃあないですね」
「…あんな女々しい姿のロボットなんかと比べるな。こいつは自衛隊から追い出された連中が作り上げたパワードスーツだ」

そのパワードスーツはひたすらに無骨という印象があった。手足の部分はかつての90式戦車の装甲を髣髴させる。そして胴体部分はかつて空の防人だったジェット戦闘機の胴体の流用。
飛行ユニットらしい機体のあちこちにあるのは幼いときに見た、はやぶさのエンジン。肩の部分の武装は技術研でうわさされていたレーザー砲だろうか…
そしてその大きさはISの三倍程度、だがその機体にはかつて俺が死ぬほど焦がれて手にしたあの塗装が塗られ、一瞬あの懐かしい『空の精鋭』の旋律が聞こえた。

「まあ、ここまで組み上げて、お前と同じくあぶれたパイロットを使って実用と量産までこぎつけた…普通なら五年ですむが、如月重工の例があるから秘密にしねえといけねえ。
だから、予定より時間がかかって、ここまでくるのに八年もかかっちまった。技術も凡庸なものだが、作ったところは腕に覚えがある工場ばかりだ。信頼性は保障する。
戻してやる…お前らと一緒に除隊させたあの腐れ統幕どもに一泡吹かせてやる。このスーツは俺たち職人、いや、男たちの意地と情熱の結晶だ!誰にも邪魔はさせん。
あの時お前らに誓った約束は今ここに果たしたぞ。中山、どうする?ここまで来てもしり込みするほどお前は男を捨てちゃいねぇだろう?」
「俺は…もう一度戻れるんですか?あの空に!だったら今すぐ俺をこれに乗せてください。あの空は、あの空は俺たちのもんだったんだ。取り戻さないといけないんだ!」
「山内のやつも、お前には空が似合うといっていたな…ああ、まさしくお前は空を飛ぶための男だ。もどしてやるよ。あの空に、あの腐れロボットに奪われた俺たちの空に!!
お前たちを引きずり落としたあいつらに、一泡吹かせてやるんだ!俺たちをなめ腐った奴らに目に物を見せてやれ!俺たちはまだ終わっていないと。もう一度俺たちはあそこに戻ると」

こうして俺は曹長の手をとった。そうだ。俺たちの空だ。あの腐れロボットなんかに渡してはいけないものだったんだ。
奪われたものは取り返す。もう一度俺たちが、あの日祖国と国民に誓った俺たちの元に!空にあこがれたあの少年たちの元に!!
「ところで、こいつの名前はなんていうんですか」
「IMPULSE……俺たちの希望だ」
ああ、まさしく俺たちのためにある名前だ。男なら誰もが一度はあこがれたあの青色の塗装とともに空を行き交い、世界最高の技術集団といわれたあの部隊の名前だ!
排気音とともに急上昇で押し付けられた後に重力の鎖を断ち切り太陽へと向かう鉄の翼を纏ったイカロスの証。
藍色の空を自由に行き交うのパイロットの特権だったあのころの証!雲をはるかに見下ろして神に近づいていたあの栄光の証。
空を切り裂く音とともにアクロバティックな機動とともに空に刻んだ雲を書き連ねた俺たちのために作られたこの機体。そうだ、俺はあのロボットから取り戻す!
「ああ…戻れる…戻れるんだ…もう一度、もう一度あの藍色の世界に、静寂の藍色の場所に…」
気がつけば、涙でコンクリートの床がぬれていた。このときをどれほど心の奥底で望んでいただろう…もがれた翼をどれほど望んでいたかわからない。
だが、こうして翼は戻った。ならば次は羽ばたかなければならない。羽ばたいてその爪と嘴であの腐れロボットから空を取り戻さなければならない!
「遅くなったが、お前を戻してやれる。さあ、エンジンを起動させろ!今日から俺たちの復権だ!」
「中山正志予備役一等空尉!本日より山田製作所謹製IMPULSEのテストパイロットを拝命いたします!」

凛とした声が、寂れたガレージの中に鳴り響いた。彼の顔はかつての栄光を見にまとっていたあのりりしい顔がよみがえっていた。
その顔を眺めながら、山田権六はかつての人間社会の破局の瞬間を思い起こさざるを得なかった。

八年前。司令官の召集が下り、基地の退院全員がグラウンドへと整列した。あの腐れロボットの登場から体内の男女間の中は険悪化をたどりつつあった。
それでも、私は整備課の総長としての任務を全うしていたため、まさか基地司令官の一言が男性隊員のこれからを破壊することになるとは思わず、女性隊員への軽い譴責程度であろうと思っていた。
「みな集まったか?」
斉藤隆正司令の確認もそこそこにいきなり彼は本題を述べた。
「昨今の防衛をかんがみ、有望なる女性隊員と国家に無料で奉職を希望する隊員を除き、本日以降予備役とする!」
静寂の後女性隊員は歓喜の声を上げて、男性隊員を有無を言わさず基地から追い出しにかかった。
「何でですか司令官閣下!」
「われわれはもう用済みということなのでありますか?違うでしょう!われわれは全て国旗に忠誠を誓った同胞ではありませんか!」
「…ドルフィンも用済みということなのか?ふざけるな!」
「ただ働きのみのこすだと?奴隷剣士になれというのか!」
男性隊員の怒号は女性隊員の無慈悲な言葉で打ち消されることとなった。
「用済みでしょう?あんたたちは所詮銃を撃つしか能がないんだから放逐されて当然よ。後、さっさと荷物をまとめて故郷で田んぼでも耕せば?」
「まあ、無料で奉仕してくれるなら残してやってもいいけどね」
「でもいやでしょう?節約よ、節約」
「さっさと出て行って。消臭剤かけなきゃならないから」
「女性が今は主役なの。みんな出て行ってもらいたいわ。ね?予備役さん」
そうして、男性隊員は司令官以下取るものもとりあえず基地を去っていった。だが、ただで転ぶわけもなく、ISを除いたあらゆるものを女性隊員が問い詰めたが、
退職金代わりだとごねてさっさと持ち出していったのを覚えている。もちろんそれらの武器は地下にもぐる開放闘士たちの武器となったのはいうまでもない。

この騒動はどこの場所でも起こり、政府は女性首相の平等をうたった差別政策を推し進めた結果、マンデラが廃絶したはずのアパルトヘイトが再び産声を上げた。
何がまずいかは言うまでもなく、公共の場では息をするのにも女性の許可が暗黙の了解となる中で男性たちの恨みは天井を突破していった。
そして、その結果が開放闘士という公職を追われた人々や職場を奪われ明日の飯すらおぼつかない人々がメンバーとなる団体に合流することになるのだ。
もちろん私もその一人に名を連ねた。決して私は恨みを忘れない。国家をのっとり国家の忠誠をたがえさせた存在を許すことはない。
中には息を潜めて、薄給を得ながら日々を過ごそうという面々もいたが遠からず女性の横暴によって開放闘士へと加入していった。
そして開放闘士たちは非合法な資金を活用して、女性たちに復讐をするために男性でも動かせるパワードスーツの開発を始め、如月重工の犠牲にもひるむことなく完成させた。
そう、衝撃と名づけられた機体を駆って中世の時間にまで時計を巻き戻した女性たちにひるむことなく引き金を引ける男を除いては…

そして、それは神の思し召しだろうか?だとすればずいぶんと神も意地が悪い。いまさらどちらも子供のけんかのように仲良くなんかできっこないこの世界においてその最後のパーツは…
人類のどちらかの性別が息絶えるときまで引き金を戻すことなどありえないのだから…

ふと、その疑問を中井に尋ねてみようと思った。その答えがその先を決めるような気がしてならなかったのだ。
もし中井がためらうことがなかったら、間違いなく人類は破滅するのだろう。
破滅するような答えならば、それは人類はもう戻れないところまで進んでいるに他ならないのだと、長年頼ってきた勘が答えを出していた。

「イオンエンジン起動確認」
『了解、起動シークエンスを続行せよ』
「了解、続けてリニアエンジン起動確認。非常時ロケットエンジン起動確認」
『中井…わかっているとは思うが』
「ええ…どこからこんな機体が出てきたのかなんてのは想像がついています。でもいいんですよ、男だからって人の名前も覚えられない奴がのさばっているよりは…」
『それもある……未練はないか?』
中井は一瞬答えを詰まらせたが、何かを打ち消すような声で語りだした。
「空を翔るものは翼を求める…それがこうもりの翼であろうとも…」
『誰の言葉だ?』
「隊長の言葉です」
『岡崎か…あいつは確か…』
中井は確か、日本平等会の会長ではなかったか?二年前に霞ヶ関を自衛隊の馬鹿高いミサイル一ダースで攻撃した
「ええ、今じゃ立派なテロリストですよ」
マイク越しの会話は暗闇の中だった。やはり、もう引き返す道は過去の中なのだろう。
『続けて、武装の確認を行え』
「了解。電磁加速砲、プラズマランス、超高電圧ナイフ、支援火器類異常なし」
『了解…運動能力はテープが張られているところがあるだろう?エレベータになっているから地下で行うことになっている。まだ公表するわけにはいかんからな…』
「了解…それで運動テストの後・・・」
『すでにこれはロットに乗っている。これの単価は十億程度だ…スクラップの寄せ集めだからな。もう五千機が世界中のあちこちで作られている。日本はそのうち五百機程度だ』
「数で押せば?」
『そういうことだ。それを駆るのはお前たちと同じ空にあこがれた奴らだ…正直言ってな、俺は希望と同時に絶望も見えているんだ。考えても見ろ、これは有史以来初めて経験する生物戦争だ。
その兵器を作り出したんだぞ。高々曹長程度の老いぼれていくはずの整備士だった俺の発言でな。歯車を俺は動かしてしまったんだ…こいつは本当に希望なのか?』
「暗闇には提灯がいるし灯台がいるんですよ。空を飛び続けるなら必ず敵がいるんです。鳥はその敵を叩き落してきたから飛び続けられる…」
『ためらいはないのか?』
「曹長にはあったんですか?」
『いや、ないな…俺たちも鳥と同じく叩き落されたなら再び挑んでそれを叩き落すだけだな』
「そうですよ。だからこそ曹長は俺を選んだんだし、俺はそれを承知で翼を求めた。俺たちは国を取り戻すことを考えればいい………陛下を蔑ろにして幽閉した罪を知ってもらわなければならない。
男性たちを奴隷のようにした為政者を等しく地獄に叩き落さなければならない。なぜヒトが進化の過程で女性単性から男性を生み出したのかという理由を思い出させなければならない。
その理由を思い出させるにはこの期待がなければならない。これは文字通り衝撃なんですよ。かつての祖国がなぜこの文字を選んだのかを女性に思い出させなければならない。話はそれからです」
そして小声で試していたんですか。それとも怖いんですかと中井はたずね返してきた。
それでいまさらながらに私は、この破局を作り出したことを、人類という歴史のピリオドを作ってしまったことを恐れていたのだと気づいた。
『怖気づいていたか』
「すでに八年前に賽を振っているんでしょう?もう引き返せないんではないですか?」
『老人の妄言だったな…今エレベータを下ろす』
そうだ…何を迷うことがある。解放を目指しておいて、土壇場になって後世のことを気にするなんてな…後は墓場に入るだけのこの身がそんなに惜しいのか?
中井はすでに覚悟を決めた。誰がそれを望んだ?誰がそれを選ばせた?翼を見せれば返ってくる答えなどわかりきっているはずなのに選ばせたお前は逃げるのか?
逃げた先には何もないというのに今更じゃないのか…そして、その恐れは一国も許されないかのお方のともし火の時間がせかしたからなのだろう。
何しろ設計上あの化け物が持つバリアーを凌駕できなかったが故の不安から出ているのではないのか?それを補うために数で押そうと決めた。貧弱な武装も同じやり方で補おうと決めたはずだというのに…
山田権六は自嘲の笑みを浮かべ、エレベーターのスイッチを入れた。これが終われば後は若干の訓練の後開放闘士のリーダーであるお方の命を待つのみだ。
全てを始めるのはそう遠くない。真耶、悪いが勝たせてもらうぞ。孫娘といえどこの戦いは負けることは許されんのだ・・・千年の未来を決めるグランドデザインがかかっているからな。

そして、運動テストの結果は、暗闇を照らすともし火にふさわしい結果であった。

機体から降りた中井と山田曹長は吹っ切れたような笑みを浮かべ、男性専用の看板を掲げる酒屋から買ってきた錆の浮いた缶ビールを開けて新入荷の期限のぎりぎりのつまみとともに祝杯を挙げた。
機体の性能はテスト時と変わりないことが証明された。そしてそれは坂を転がり落ちてゆく酒樽以外にたとえるものがない。その坂に何があるのかはわからなかったが今はただ酔いつぶれたかった。



[30005] 鳥かごの鳥は願いを歌う
Name: 柳旭◆d3104351 ID:c7e42415
Date: 2011/11/07 15:22
IS学園の教員寮のベッドは彼女の実家にあるベッドよりも柔らかかった。国家があらゆる贅を尽くして建造されたその建築物は夢見る少女たちにその裏側を見ることを放棄させるには十分だ。
山田真耶は眠る前に必ずブランデー入りのココアを常用するようになったのはいつからだろうかとふと昔を振り返った。
眠る前にココアを飲むようになったころ、どじでおっちょこちょいな性格を演じるようになった。
ココアにブランデーを入れるようになったころ、周囲には偽って伊達めがねをするようになった。
このココアが習慣になったころ、すでに彼女が教える生徒たちは国が目指す模範的な国民となって巣立っていった。
このココアを飲む前は…私はあの空をひたすらに上り詰めるこのISを手に入れて、人間が最後のフロンティアと称する宇宙を夢見ていた。
そしてココアを飲み始めたとき、世界は厳格なカーストによって区分けされ私はその最上位に近い位置に区分けされ、この学園と称する鳥かごに閉じ込められた。
「明日も早いって言うのに…」
明日は定期的に訪れる政府高官の応接が待っている。あまりいいうわさは聞かないが、それでも仕事だと言い聞かせて彼女はブランデーの量を足した。
「うわさじゃ、あの人洗脳した美少年をはべらしてハーレムを気取ってるらしいけど…それって分かっていてやっているのかしら?」
自分をさらけ出せる場所はここしかない。彼女は自分が酒びたりに近いことを自覚しつつ、一向にやってこない眠気を招くためにさらにブランデーを足し続ける。
そこに宇宙を夢見た少女は泣く、鏡があるとすれば世の中に押しつぶされそうな酔っ払いがいるだけだった。
「何で…眠れないのよ」
泣き出しそうな顔をしながら、真耶はブランデーのビンを傾けるがすでに瓶は空だった。仕方なく戸棚を空けるが、今空になったのが最後の一本だったらしい。

「真耶いるか?」
扉の向こうで誰かが呼んでいる。頭とろれつが回らないが辛うじて開けないでくださいといえたはずだった。
「またか…」
その願いは客人は通じないようで、マスターキーでドアノブをあけたのは今尤も会いたくない人物だった。
「千冬さん…」
「織斑先生…いや今は千冬でいいか……またなのか?」
「何がまたなのかは分かりませんが、酔っ払っている姿をあなたが見たのはこれで三回目ですか?」
「いや、その十倍では利かないな…」
そういって千冬は無言のまま真耶にミネラルウォーターと書かれた2Lのペットボトルを手渡した。首を振る真耶に千冬はため息をついた。
「そうだったな…アルコールがないとあの内閣官房の応接に耐えられんのだったな」
「あの人…私たちを部品としか見てないんですよ。私たちだけじゃなくあの子達も…」
「…そうだな…そしてそれを止めるべき秘書官は感情を殺し、生き残ることだけを考えるロボットに成り下がった哀れな男たち…」
千冬は真耶にブランデーはとたずねた。また首を振ったのを見て、とって置け馬鹿者とこぼした。
「まあ…飲まなければやってられんよ。お前も私も」
そういってペットボトルのふたを開けるとそこから焼酎のにおいがこぼれだした。
「千冬さん…」
「黙っておけよ。この鳥かごの中では手に入れることが難しいんだからな」
「おつまみは?」
「塩でもなめてろ。大馬鹿者」
「ひどい」
「ブランデーを飲みつくす馬鹿にはちょうどいい」
そしてコップに注がれる原液そのままの焼酎を飲み始めた千冬と真耶は無言のままコップに空けられた分をあけた後、真耶はポツリとつぶやいた。
「一回だけでいいんです。もう一度、もう一度空に帰りたいんです。それが最期になってもいいんです。藍色から黒に変わる狭間に浮かぶ星が見たいんです」
「…一夏があいつらの手の上になければ付き合ってもいいんだが…」
「別にいいですよ。あの世界にいるのは……私と…同じ夢を抱いた人たちがいると思うから……私思うんです。空にあこがれた人たちが最期に帰るのは地球じゃなく…」
「いつまでも夢を見るのはいいと思うぞ」
赤みが買ってきた千冬は寄った上での冗談だと理解した。それ以外の何物でもないと千冬は思い込んでいたかった。

その台詞は彼女自身が何度も心のうちに思い浮かべた願望。逃避以外の何物でもないと理解しながら思い浮かべる願い。
弟以外の家族を失い、世界を変えた後で怖くなって逃げ出した親友を恨み、希望の翼を利用した輩に押し付けられた望みもしない世界の看板を人質にされた弟のために演じ、
世の中の男性すべての恨みを引き受け、女性絶対の世界で行われる見世物にされた挙句、何も与えられることなく鳥かごの中に押し込められ今にいたった彼女が望む願い。
弟を連れて逃げ出せたなら彼女はとっくの昔にそうしている。だが、ドイツで見世物にされている間に弟は政府のありもしない誘拐事件の保護という名目でどことも知れぬ場所に監禁された。
生きているという希望は彼女がここに縛られる最大の理由。もしそれが無残にも打ち砕かれたなら彼女は迷うことなく人間と呼びたくない輩を血祭りに上げた上で願いを実行に移すだろう。

だからこそ、彼女は真耶の願いが身を裂くほどの痛々しさを持っていることを知っている。知っている上で冗談にしなければ自分自身が保てないと知っているからあえて冗談にするしか手立てないのだった。

「そうですね・・・夢なんです。けど、そう遠くはないと思うんです。この鳥かごから私が解き放たれて…」
そして真耶はそのまま眠りに落ちたようで規則正しい寝息を立て始め、千冬は重いため息をついた。
「眠ったか…鳥かごの鳥じゃなかったはずなかったのにな…お前も私も…私たちを盾にしたあの女共が国をのっとっるまで自由に空を飛べた…そこは自由だったのにな
こんなことになった後さ、ISさえなければと思うことがあるんだよ。碌でもない人生だったけどお前に合えたのは弟以外では唯一の報酬だと思っているんだ。
だからさ、もし願いがかなうときが来るんだったら弟と一緒にあの世界を見せようと思うんだ。そのときにはお前に案内を頼みたいんだ。だからしばらく待ってくれ」
こんなこと、こんな場面じゃなければ言えんがなと彼女はつぶやいて真耶をベッドに戻した後部屋を出て行った。


時計はもうすぐ日付を変えて、迫り来る願いの日から日付を一つ減らす


これは夢なんだ。だって、男の人も女の人も分け隔てなく笑い会ってるから。みんな笑いあってそこにいるから。
そこにはISなんてものはなく、私の家族はちゃんと誰もかけることなくそこにいたから。
空には今はもうない青色の塗装をした戦闘機が芸術的な模様を描き、地上ではぴかぴかの管楽器を持った軍楽隊が空の精鋭と空の神兵のメドレーを奏でています。
おじいちゃんは紺色の軍服を着て鋭い顔をしながら点検をして、下手糞な飛び方をしたパイロットを怒鳴りつけていました。
昔あった中村さんは、秘密だぞといって私の大好きなミルクココアにブランデーをたらしておじいちゃんに怒られてる。
ほらといって風船を差し出したのは…怖い顔の司令官さん。でも実は子煩悩な人だったっけ…
そっか、これって昔の出来事なんだ。じゃあ私は特性ココアでふらふらになって心配したパイロットさんに助けられたんだっけ
確か名前は、岡崎さん!腕利きのパイロットで将来はブルーインパルスの隊長の有力候補だったって言われてた人だ。
そして私はあの飛行機に触らせてもらったんだ。ひんやりとして冷たいけど、どこかその冷たさが格好よかったっけ。
あれ?その後私は心配したお母さんに連れられて家に帰るはずだけど、どうして迎えに来ないんだろ?
そして、どうして私の目の前にあの機体が下りてくるんだろ?松島に帰るんじゃないの?
そしてコクピットから降りてきたのは…中井くん…私よりもちょっと年上でおじいちゃんが私と同じように目をかけてたパイロット…
だけど、その目は悲しそうな目をしながらも私に対して敵意を向けていた。この鳥かごに閉じ込められてから覚えた敵意や殺意の目を…
そして中井君はそのまま戦闘機に乗って空へと消えていきました。途中、何度か旋回をした後一直線に空へと機体を向けて…
「追わなくていいのか?」
おじいちゃんの声がした。あわてて振り向くとそこには誰もいない荒涼とした基地があった。ううん、基地の後があった。
ああ、夢も終わりが近いんだとそのとき悟った私はいつも見につけているコアを起動させて夢が覚める前に中井君が向かったあの世界へと飛び立っていきました。
その先の世界は何度も見慣れているけど、今は狂おしいほどに懐かしい世界が広がっている。宇宙に変わる狭間に見える宝石箱の世界が…
今はもう見ることができない神様が作り出した宝石たちの海が…私が少女のころ自由に泳ぎまわれた海が…

「夢…どうしてなの?どうしてあの世界を映してくれないの?」
私は夢ですらかなわないあの世界にあこがれているのに…あの世界にもう一度いきたいのに…
そして、また繰り返される鳥かごの日々。中井君が飛び立ったあの世界は私にはもう許されない世界なの?
また、あの卑怯な人間に微笑みかけなければならないのにどうしてあの世界は私を受け入れてくれないの?

悔し涙で顔が汚れながら洗面所へ向かうと、そこには夢にあこがれて空を手に入れた私じゃなく、閉じ込められて狂いそうな弱い女が映っていました。
「ひどい顔だよ…結局中井君とあの空にいけたのは私のISの性能試験のときだけだったっけ」
帰りたいな。どんな形であっても、その世界で散ってもいいからもう一度帰りたい。帰りたいよ…
そしてふと頭によぎったのは、随分前に訪れたおじいちゃんの仕事場。相変わらずの態度で迎えてくれたけどそこにはどこか影があった。
乱雑に散らばった書類に書かれていた見慣れない仕様の部品と墨で塗られてたけど斑があった設計書。
光に透かせばロボットの手のパーツらしき設計書だった。何事もないように装って学園に戻ってきたけど、今思えば…


あはっ。案外戻れるのは早いかもしれないですね。
中井君ともう一回あの世界に…ううんあの人たちともう一回戻れるかもしれない

昔の様な暖かい世界じゃないけど。宝石がちりばめられた世界に。

戻ったら何をしようかな?まずはこの目にあの世界をもう一度収めて…
それからあの世界で思うままに飛び回ろう

すべてが焼ききれるまで思いっきり宝石箱の海で泳ぎまわろう

そして足元に輝く特大のアクアマリンと遠くに浮かぶシリウスを眺めて
最後に北極星を目指して最大加速で突っ切って

そして飛び疲れた私の目に映るのは極大のルビー…そしてそのまま落ちて行く私を中井君が支えてくれたら最高かもしれない

そしたら付き合ってくれてありがとうって笑顔を浮かべて眠りたいな


「叶わないなんて思わないよ」
真耶はそうつぶやいて部屋を出た。途中千冬さんが何かいいことでもあったのかって聞いてきたので、笑顔でとってもいい夢をと返したらそうかといって黙ってしまいました。
「真耶…弟のことが何とかなったら一緒に飛ぼう」
「いいえ。あの世界をともに分かち合う人がいることが分かりましたから」

真耶はそういって、内閣官房の待つ応接室へ軽い足取りで向かっていった。

「真耶…お前は身勝手だよ…あの世界に勝手に行こうとしているんだから。この鳥かごで私はいつまで叫べばいいんだ?」
千冬は誰にも聞こえない音量で藍色の世界へと飛び立とうとしている彼女を羨んだ。




[30005] 人間の証明 12/23 加筆
Name: 柳旭◆d3104351 ID:c7e42415
Date: 2011/12/23 15:55
いつのことだったでしょうか

今でもあの日々を私は思い出します

あのテニスコートで

プロポーズの日

首都を馬車で練り歩いた日

初めての口付けの日

子供ができたと分かった日

子供たちが巣立っていってさびしくなった日

孫ができた日

そして、あなたと引き離されたあの日。住まいに無粋な輩の手が伸び、首相たちがあの人とともに地下へと逃れようとしたときのこと
あの日、息子と孫。そして親類たちを逃すために私たちは手をとって時間を稼ぎました。
なのに、あなたは私を連れて行ってはくれませんでした。首相たちに私を頼むといって、あの狂人たちの元へと向かっていってどこかへ消えてしまいました。
泣き叫ぶ私を首相たちがなだめ、私を逃そうとしました。
けれど、私もまた逃れることがかなわぬと知り、あえてあの者たちの元へと向かい…唯一人この家に取り残されました。
そして始まった地獄の時代。悔し涙でないていた夜、昼夜問わず掘り進めた穴から土にまみれた作業着を着た息子かやってきて…

息子は私に尋ねました

その答えは私にとって当たり前のこと

そうして私は待つことをやめました

あの人を取り戻そうと決めました

どんな手を使ってもあなたをもう一度抱きしめたいのです

たとえそれによって私が地獄へ行くことになろうとも

あなたにもう一度会いたいのです

あなたは今どこにいるのですか

あなたにもう一度この言葉を言いたいのです




人間が人間でいられるのはなぜかという疑問に、昔の哲学者は単純明快な答えを出した。
「われ思う、ゆえにわれあり」自分があるからこそ自分でいられる。すなわち人間であることの証明。

ならば、この一枚の紙の上に描かれていることはまさしく人間を殺す手段なのだろう。
「これは…あいつら正気…いやありえる、やらない理由がない!」
そこに書かれていたのは男性という種族の絶滅政策の要綱。自意識を改造し女性に奉仕させるだけの生物に改変するための計画書。
行方不明の天才科学者が処分し切れなかった遺伝子操作技術の応用で、男性を人工的に作成し女性に絶対服従を刷り込んだ上に知識の欠片すら与えられることなく単なる歯車とするための計画書だった。
「これは、どこで手に入れたんだ?」
男がメンバーの一人に問いかけると、そのメンバーはあいつらに絶対服従を誓いながら裏ではわれわれとつながっている人物からですと答えた。
「確か…命令は」
「ええ、時が来たならば万難を排してでも伝えろと…」
「ばれてはいないだろうな?」
「あいついわく、洗脳は解けないが催眠はいくらでも応用が利くと…今頃あの女達は美少年達の突然の求めに歓喜して集団でベッドの上で腰を振っていることでしょうよ…」
「なるほど、お抱えの医者と秘書官が共同で謀ったか」
「首相閣下、この計画は来年度のはじめから…もう時間はありません。陛下の居場所はまだ見つからないのですか?」
「その名で呼ぶな。気分が悪くなる…お前も官房長官と呼ばれるのは気にいらんだろうに。陛下の件だが…どこかの収容所で苦労しているとしかわかっていない」
二人はため息をついて、結構のタイミングがやってきているのに兵を挙げられない状況に歯噛みをしていた。
「どこかの収容所ですか…何かヒントでもあればいいんですが…」
「それができていたなら私たちはここにはいない。無能であるからこそこんな場所に隠れ潜んでいるし、いまだに陛下の居場所すらわからないんだろうが」
「せめて陛下を連れ出せたならば、リーダーの心労も軽かったでしょうが…」
「ああ…陛下はみなを逃げさせるためにあの場に残ってしまわれた…本来は私たちが壁とならんといけないというのに…それができなかったばかりに…」
部屋の中には沈黙が満ちた。どこにいるのかすらわからない、日本のどこか、いや世界のどこかには確実に陛下は居られる。
もしも陛下が害されたならば、今の世界に満足している女性たちもあの女たちを血祭りに上げることだけは確実だ。
それは理論ではない。ましてや楽観の類でもない。日本人が日本人であることは万世一系の血統がすべてを語っているのだから…
だからこそ、陛下は生きておられる。そして速やかに奪還を果たしてあの女どもを誅殺しなければいけないのだ。
だが、その奪還が速やかに運ばない場合、とち狂ったあの女どもは陛下を道連れにするだろうということもメンバーの心理学者が太鼓判を押している。

どこに居られるのかさえ分かるならば…

「浅生さん!リーダーが参られます」
かつての秘書官がドアを開け要件を告げた。
「リーダーが!」
あわてて確認を取ろうとしたが、それより早くリーダーが部屋に入ってきた。
「お忙しいのにすみませんね」
「いえ…皇后陛下にご足労願うまでもなく、まもなく報告に参上するところでした」
「浅生さん…」
「申し訳ありません、リーダー」
浅生の失言をとがめたリーダーは机のうえにある報告書に目を留め指を折り曲げよこすように指示をした。
元官房長官はその書類をリーダーに渡し浅生の脇に控えた。一瞥しただけでリーダーの眉が潜まった。
「時が来たようですね。陛下を速やかに探してください。資金はいくら使ってもかまいません…必ず陛下を助け出してください」
「リーダー…ご承知とは思いますが…」
「分かっています。ですが、私は誰ですか?私はこの国の何ですか?」
「万世一系の皇統にあらせられる天皇陛下の妻であり後の御世に続く皇統を紡いだ国母であります…まさか」
「私のわがままを聞かぬ民は?」
「おりませぬ…陛下を除いては…しかしそれでは御身に危難が及ばぬとも限りませぬ」
「黙りなさい!何年、何年待てばいいのですか?陛下に合えぬこの身の辛さをあなたたちも欠片くらいは知っているでしょう!夫のいない皇居で唯一人…文字通り唯一人となって…
あの狂人どもを何年もの間眺めているだけの苦しさをあなたたちは知っているでしょう!もう時間はありません。これ以上、これ以上あのもの共を視界に納めることなどごめんこうむります!
いいですか?私がなんとしてでも陛下の居場所を突き止めます!そのためなら私は聞き分けのない女を演じます。皇后にふさわしくないといわれても駄々をこね続けます。
その隙に、あなたたちが潜ませたスパイを使って陛下の場所を探るのです!いいですね?陛下を失うようなことになれば私たちはあの女共に膝を屈さねばならないんですよ!
陛下を取り戻すと同時に、あなたたちはあのスーツを用いて後顧の憂いをたちなさい。この国を取り戻すには…陛下の悲しみを知ってもなお成さねばならないんですから…」
リーダーがはじめて下した命令に彼らは敬礼を持って応えた。
「陛下は無用の争いを嫌うお方でした…でも、待っていられないんです…この世界はあの人にとって毒にしかなりませんから」
「そうでしたね…しかし、リーダー。あなたが危難に陥った場合私たちはあなたを救い出せる方法がありません。あのスーツを使えば別ですがその前に…」
浅生はその一転をリーダーに尋ねるとリーダーは笑みを浮かべて奥歯を抜いた。そこには極小の機械が埋め込まれていた。
「発信機です。衛星に伝わるように細工がされています」
「皇后陛下!」
「浅生さん…これは典医と相談の上でなしたことです…もちろんあの狂人たちには秘密の上ですが…あの狂人はもう欲におぼれきった豚と同じです」
にっこりと笑い、奥歯を戻したリーダーは明確に断言した。
「それが分かる理由は、私がそう仕向けたからですよ。あのもの共の瞳を見て私は時間をかけて彼女たちを堕落させて酒と金と男以外に興味をなくさせました。
そして、唯々諾々と従うさまを見せ付けて増長させ、私利私欲をさせるように誘導し、明確な失点を稼がせ続け…ようやく大義名分をあなたたちは得ることができました。
それが、どんなに悪辣で外道かは承知の上で私はあなたたちに苦労を強いさせました。私はそれでも陛下と過ごせる日々がほしかったのです。地獄におちると承知の上で…」
リーダーの言葉に浅生たちは首を振った。
「リーダー…私は生来のキリシタンでしてね…あいにくと地獄なんて信じないたちなんですよ。悪辣?外道?大いに結構なことじゃありませんか!そもそもの責はあの女どもに帰結します。
我々は我々のなすべきことをいたします。リーダーは陛下との日常が戻ることを信じてください。頼りないといわれても臣下の最後の矜持です。信じていただきたい」
「そうですとも。それはわれらが成すべきことであったのにリーダーに行わせたわれらの不徳です。リーダーは陛下に語る言葉を考えておいてください」
その言葉にリーダーは陛下に語る言葉はもう決まっていますと答えた。
その言葉を尋ねるとリーダーは唯一言つぶやき、彼らに早々に実行に移してくださいと穏やかに告げて部屋を去っていった。

「お帰りなさい」

という言葉を残して



「お帰りなさいか…もう耳が忘れかけた言葉だな…」
浅生はリーダーが発した言葉を何度も反芻していた。その言葉は家族という最小単位の人間の集まりがあってこその言葉だった。
だが、この十年でその家族というものはすべて過去のよき思い出のみ活用される言葉となりつつあった。
自らの身を振り返ってみれば、神の作ったたった二つの人間の種類によって分かたれたこの世界で永遠に失ったかけがえのない言葉だった。
「浅生さん…もう一度聞きたいですね」
「ああ。たとえそれが最後の言葉になろうとしても聞きたい言葉だな」
そして浅生はくしゃくしゃになったソフトパッケージの三級煙草「アオバ」に火をつけ深く吸い込んだ。粗雑な味は今の世界に比べれば十分体に収められるのが忌々しい。
「川村…陛下の居場所をなんとしてでも見つけねばならんな…八年もの長き間手がかりひとつ見つからぬとはいえ、生きているのだけは確かなのだからな。
もし陛下が害されていたならばすぐにわかる程度には網をあっていた。なのにその最悪がないということは生きているということだろう?」
「ええ。プライドを捨てたとまでいわれながらも官僚の席にしがみついていてくれている彼らの働きは確かです。間違いなく陛下は生きておられます。
それに、陛下の生存を肯定する最たる理由である科学誌に掲載されているあのハゼの論文は間違いなく陛下の御親筆ですから…しかし…」
そう。その論文が掲載できるということは早々無体を強いられていないということ…だが、陛下の姿が見えないということは軟禁は少なくともされていて無理を強いられているということでもある。
「出版社に問い合わせれば、陛下の論文が入った封筒に記された住所はでたらめだった。まあ、あの悪知恵が働くやつらがそんな初歩的なミスをするわけがあるまい…胸糞悪いがな。
それ以外にもめぼしいところはあたった…皇族関係の建築物や思い出の軽井沢はすでにあの女たちの薄汚い小屋と成り果てた…陛下に関係があるところにあの女どもが隠すわけはないがな。
主要な都市にいるホームレスたちにそれとなく当たってみてもだめだった。日本にいないと考えたがそれはさすがにありえない…いまだ空港や港湾は私たちのものだ。そんなへまはしない。
地方都市か?そんな狭い場所なら最初のうちに奪還できた。たとえ兵器のリサイクルといえるスーツがなくてもだ!ならば山の中か?山岳会を手中に納めているんだぞ見つかってもいいだろう?
もしやと思ってあの女どもの巣窟のIS学園にも探りを入れた!だがそこにも陛下はおられなかった。日本人なら一目でわかるあのお方を発見すらできないのだぞ!国を失って当然だな!」
勢い余って立ち上がった浅生は唐突にひらめきに近いものが見えた。
「川村…まさかとは思うんだか…」
「浅生さん?」
「まさかとは思うんだが…あの女どもに陛下は捕らえられていないんじゃないのか?まあ、あの女どもが陛下の居場所がわかる程度には近い組織がいるということだとは思うが…」
「それこそまさかかもしれないですね…もしそうであったならどの組織が?」
タバコをもみ消した浅生は一瞬考え込み、すぐに答えを出した。
「男たちを機械としか見ないあの女どもが妥協をせねばならない人間など一人しかおらんよ。自らの栄光の礎をもたらした篠ノ之束だ」
「あの篠ノ之博士ですか?しかし彼女は自由奔放な人間ですよ…まさか」
「まさかだからこそありえるかもしれんのだ。何せ彼女は自由奔放なのだろう?」
川村の疑問に浅生はそうつぶやき、また煙草に火をつけた。
「彼女がそうするといった確証もまたないが…これだけ探せば答えはもうこれくらいしかない…彼女の手がかりを探ってくれ」
「わかりました。伝えてきます」
川村が部下に命令を下すために部屋を去ると、浅生は煙草をくゆらせた。

「お帰りなさい…か、帰るべき家がない鳥はどこで羽を休めるんだろうか…」
崩れ落ちる煙草の灰は灰皿の中で砕ける。その有様は今現在も続く人間社会の崩壊に似ていた。
かつての優しい母を求める声、愛した人へぶつけられる憎悪。愛した日々を忘れるかのように夫や息子を奴隷のように扱う豹変した女性。
平等は崩れ、性別のみが変わったかのように繰り返される中世の日々のような有様。
そこに希望を見つけるのは難しい。たとえ愛した人がいたとしても、それが永遠になるわけではないのだから…
「今動かなければ…人間は残らん…」
昔はやった歌がなぜか耳にこびりつく。確かそれは人間の終わり行くさまを淡々と歌い上げた歌だった…そんな未来は真っ平ごめんだと思っていたのにその歌よりもひどい未来がここにある。
浅生はそれを振り払うように、煙草に火をつける。そのしぐさは傍から見れば、いまだ姿を見せぬ神に祈りをささげるように見えていた。




[30005] 妄執と執念の境 12/23 加筆
Name: 柳旭◆d3104351 ID:c7e42415
Date: 2011/12/23 15:55
糸をつむぐように繰り返し、布を織るように丁寧に、服を作るように精緻に、そして出来上がったときの躊躇いと安堵はひとつになる。
ありえぬものを作り出すときの緊張葉は幾度経験しても震えるかのような歓喜にみちて、常世のすべてを見渡せばそこは…
「光に満ちて黄金となる。常世のすべてはひとつから始まりひとつに終わる」誰がいったかわからない言葉だけど、今の私にはそれが何よりもつらい。
すべてを満たすには十分な糧は一握りの詐欺師にささげられ、人々は永遠に終わらぬ飢餓に満たされる。そして、その果ては何よりも酸鼻な終わり。
栄光はすべて汚され、原始的な世界に成り下がった世界において、多数が生きるには王様気分の詐欺師を除かなければならない。

そして、そこからしか人間の進歩は始められない

間違いだらけのテスト用紙を返され、途方にくれた子供の顔になった彼女は地下深くの研究室を抜け出した。
「今の時間ならまだ起きてるよね?」
「博士?」
後ろから唐突に声がして振り向けば、彼女の右腕たる存在がいた。
「ああ、くーちゃん。ちょうどよかった。例の件だけどあの人たちの催促がうるさいんだ…ちょっと黙らせる飴を用意しておいて」
「かしこまりました。何ヶ月程度黙らせればよろしいでしょうか?」
「うーん…二ヶ月くらいは持たせて。それを榊原に渡したら、後はもう手切れにしていいよ。心配そうな顔をしてるね?大丈夫私が御旗を奪われるわけないじゃない。
もうすぐ箒ちゃんといっくんをここから出せる算段もたったし…それが終われば再テストの時間が待ってるからあまり時間をとるわけにはいかないね」
束はそういってにっこりと笑い、クーちゃんにそういうことだからといって再び廊下を歩き出した。

東京湾を一望できる二つの人工島。かつての帝都防衛の最終拠点、彼女は忘れ去られたその島を自らの手によって地下で連結し、表向きは風光明媚な住居に改造し研究に打ち込んでいた。
地下道は大型トラックが行き交えるだけのスペースを確保し浦賀と館山を連結した後、二つの人工島を可能な限り自己完結できるほどの機能を詰め込み要塞化を果たした
政府は表向きには防衛ドクトリンの一部変更という名目で政治的決着をつけ、彼女はそれを押し通すために自分が持つ技術を二十件ほど政府に譲り渡した。

無論、何に使われているのかは知っている。ろくでもない世の中という名詞に「なんという」がつくほどに悪化することは目に見えていた。
それでも、それを成し遂げるだけの意味が彼女にはあった。そこには彼女がつまらなく思いながらも愛していた国の証であるお方と自らが何よりも守りたい人を抱えていたのだから。
そこに理由なんてものを問うのは野暮だろう。理由など怒りに任せれば何時間でも話せる。ISという人間の希望を汚し、圧制の象徴へと変化した事実はこの先何百年と語り続けられる事実ひとつとってもだ…
そしてその歴史をつむぐとき、その筆頭の悪人として後々の人間から憎悪もあらわに紡がれてゆくならばまだましで、その歴史が賛美とともに英雄として語られるならばそれこそ憤死してしまうだろう。

だからこそ汚名を晴らさねば私は私ではなくなる。自らの手であいつらを除かなければ私は単なる俗物として語られるそんな未来など天才と自負する私自身が許さないのだ。
だからこそ私はあの日ISを用いて今まさに殺されようとしている陛下を有無を言わさずにさらった。この人がいなければ永遠に私は汚名を雪ぐことができないと知っていた。
その代償は計り知れなかったがいずれ転げ落ちる椅子に安穏と構えている滑稽さは暗い笑みを浮かばすには十分だ。今に見ていろ。私を罪人に貶めた代償を知るがいい。

「失礼いたします」
そう断り、部屋の扉を開けると。箒と一夏が老境に入った紳士から勉学を受けていた。
「おや、あなたでしたか」
「ええ、研究室にこもりきりというわけにはいかなくなりましたので…」
「どうやら野暮な話のようですね。一夏くん、箒さん。済みませんが席をはずしてください」
二人はハイと答え一例の後に部屋を去った。
「それで…彼女たちの排除にめどがついたということですか?」
「はい。ライン生産されていたIMPULSEの最終性能試験が終了したと三笠宮様から報せを受けました」
「叔父上には酷なことをさせていると思いますが…あなたの言うとおりここから私は出ることが叶いません…こうしなければ妻の安全は保障されないのですからね…」
そのお方はため息をつき、かつて宮内庁にいた年老いた従卒が手渡した緑茶をすすった。
「皇后陛下は、修羅となってでも会いたいと自らを賭けにしようとしています。あのものたちに陛下に合わせろとごり押しを始めておるとのことです」
「…それは!思いとどまるようにいってください…あと二ヶ月のときが満ちれば…」
「せめて会話ができればいいのですが…盗聴される危険性があります…一分程度であれば何とかなります。しかし、陛下の安全を買うために譲り渡した技術の中に…」
「彼女たちも馬鹿ではないということですか」
「はい。発明した特権で裏技も使うことができますが、その発信内容は露見することはないでしょうが、IS一機あれば簡単に発信と受信程度の記録は残ります」
「地下通路を用いてもいずれは地上に出る。そして露見すれば皇居までの穴を伝って…」
ここにある地下道は網の目のように連なり、タブーとなっている皇居にすらつながっている。もし、それが露見したならば間違いなく暗殺の刃はここに迫る。何よりも忌む方法だ。
「彼女たちは独裁者にありがちな猜疑心に満ちています。パワードスーツの件がそれを物語っています。」
如月重厚のいきなりの襲撃、そしてその開発者たちの末路は等しく物言わぬ屍と成り果てた…その猜疑心は自らには当てはまらぬということにはならない
「私は…文字通りかごの鳥ですね……この事態は覚悟していましたが…妻に一言でも知らせることができればつながりを確かめられるのですが」
それに束は返す言葉を持つことができなかった。この島は陛下を閉じ込めるかごの鳥であると同時に不埒なやからから守る要塞でもあるために、ここから出すことなどできない選択肢だった。
どうすればという考えにとらわれたとき、ふとこの島の由来から露見せぬ手法があることを思い出した。

「陛下…陛下は日光に居られたときのことを覚えておられますか?」
「ええ、疎開のときのことを話しているならばそれは是です」
「では…陛下は軍事教練に置かれてあの信号を教授されたことは?」
「あの?ああ、なるほどそれならば今の時代ならば知るものは数少ないでしょうね」
ポケットから取り出した二枚の布を見て陛下はなるほどとうなづいた。


いつからここは伏魔殿になったのでしょうか…誰も私を単なる老婆としか見ない。栄養剤と怪しげな錠剤が手渡されそれを飲み込むまで今日一日の自由は与えられない。
いつもどおり、政府のひも付きである若い女性の侍従が去った後錠剤を吐き出し口を濯ぐとようやく人間として生きていられると実感します。
人払いをさせ、年老いた生え抜きの侍従が部屋を固めた後、床下から長年勤めてきた典医がかばんと岡持ちを抱えてやってきました。
「皇后陛下。今日は二つのお知らせがあります」
典医がすばやく診察を済ませ、岡持ちから取り出した朝食を取り出した後そう告げた。
「まずはじめに、皇后陛下が望んでいた陛下の面会ですが…潜ませていた官僚の情報からかなわぬと見たほうがよいかと」
「会えぬと…私の望みはかなわぬと?」
「皇族方の強い要望です。特に皇太子殿下と秋篠宮殿下の反対です」
端を持つ力が抜けそうになりながらも何とか耐えることができました。ですが、それ以上に強い悲しみと憤りが胸にこみ上げてきます。
「お怒りをお静めください。これができたのは、回天が起きたが故です」
「回天?ようやく居場所がつかめたということですか」
「今よりその回天を伝えます。まず、私もだいぶ記憶が定かではないことをご承知おきください」
そうして、典医が取り出したのは赤と白の二枚の布でした。そしてそこから伝えられる内容はだいぶ昔に教わった解読法を紐解いて覚束ないながらも三回目でようやく納得しました。

ああ、そこにおられたのですね…そこに…近いのに遠いですね…近いのに遠いという感覚はあの成婚の日が近づいてゆくとき以来です

「陛下、そろそろお時間です…まことに申し訳ありませんが、怪しまれぬように手を引いていただきたいのです。今伝えた内容から二ヶ月のご辛抱ですから」
「ええ、もう限界でしょうね。次に会えるのは翌日ですね…そして指折り数えればもう一度…」
「はい。陛下とともに歩めるかと」
「では陛下に私からの言葉を伝えてください」
「何なりと」
一礼の後典医は二枚の布を差し出しました。
「ずいぶんとおぼつかないですが…愛していますの五文字くらい振れぬわけがありません」
「なにやら胸がいっぱいになってまいりますな」
「久しぶりのことなのです。我慢してください」
ええ、久しく忘れたこの感情は干天の慈雨なのですから…そうして、メッセージとコサージュを典医に託した後、彼は穴の中に消えてゆき、私は床板でそれを覆い生え抜きの侍従を呼び出しました。
「失礼いたします・・・陛下。うれしいことがあったのはわかります。ですが」
「今だけです。今だけですよ」
「左様ですか。それでは私は紅茶を淹れて参ります」
侍従はそういって部屋を出てゆきました。そして一人になった部屋に取り残された私は、東京湾のほうを眺め決して伝わらぬ言葉をつむぎました。

「お慕い申しております陛下。こんなにしわくちゃになりましたけど、もう少しの我慢ですわね」

ワ・レ・ダ・イ・バ・ノ・サ・キ・ヨ・リ・キ・ミ・ヲ・オ・モ・フ・フ・タ・ツ・キ・ノ・ノ・チ・イ・マ・イ・チ・ド・ア・ノ・チ・デ・ノ・コ・ト・バ・ヲ・キ・ミ・ニ
陛下の言葉を聴きたいというのはわがままですね。これだけでもどれほどの危険を冒しているのかがわかってしまいます。
オ・シ・タ・イ・シ・テ・オ・リ・マ・ス・フ・タ・タ・ビ・ノ・ヒ・マ・デ・ゴ・ジ・ア・イ・ク・ダ・サ・イ
ですから、私は陛下の言葉通り耐えて見せます。もう一度が近くて遠いですけど…八年よりはましですね
そして、ポケットにしまった紅白の布から愛しい人の香りがします。もう少しですね。もう少しで陛下にお帰りなさいといえるんですね

お慕いしております。耐えて見せます。ですから、神様。陛下ともう一度あわせてください。



「そう…やっとあの婆はあきらめたのね?」
「はい。やっと聞き分けてくれました」
「ふん!私たちの苦労を思い知るといいわ。男ができなかった中国韓国を浄化してやったのは私たちよ」
「ええ!あの汚らわしい中韓の雄豚をISで根こそぎ刈ったのは骨でしたけどね」
「何も知らないまま、不自由しない暮らしを保障しているんだからはいつくばって感謝の一言くらい言ってもいいのに!」
「それに、この国の周りにいる敵対国家を民族浄化をして安寧をもたらして中韓を女だけにして日本の繁栄に役立たせたんですからこれくらい役得ですよね」
「そうよね。来なさい私たちのかわいい子犬ちゃん」
官邸内でけん制をほしいままにする女性たちはそういって子犬とさげすまれるうす布一枚を羽織った少年を呼び寄せた。
「ほらほら、じゃれつかないの」
「後でたっぷりかわいがってあげるからね」
そう語る彼女たちは気づくことはない。彼らは子犬ではなく一端の猟犬であることを…
「そういえば、榊原さん。博士の様子は?」
「いつもどおりでした。いつもどおり私たちに技術をよこしてきました」
「そう。それにしても陛下をかくまうなんて酔狂よね。今をときめくのは私たちじゃない?わざわざ古臭い人間を保護するなんて博士って本当に奔放な人よね」
「そうですね。でもそれが博士ですから」
「まあ、あの人に関してはそういう風に扱うのが一番よね。ほら子犬ちゃんそんなに舐めないの」
「首相閣下。ずいぶんと活きがいい子犬ちゃんですね」
「まあね。ここに着て二ヶ月くらいの…弾くんだったかな?妹さんを守るためとかいってたわね」
「犬の考えはわかりませんね。IS学園には入れるんですから栄光の出世といってもいいのに」
「人殺しをさせたくないんですって。もう、舐めるならちゃんとお舐めなさい」
「まあ、一人くらいいなくても変わりありませんからどうでもいいことですね。それでは私は学園に戻りますね」
「ゆっくりして言ってもいいのよ?そこに控えている子犬ちゃんと遊んで帰っても咎めはしないわよ」
首相はそういって少年たちを指差した。薄布からは痛々しい傷跡が見て取れる。
「そうですね…久しぶりに鞭で遊びましょうか」
榊原はそういって目に付いた少年を一人選んで適当な部屋に消えた。

「そうよ。どうせ一度きりの人生ですものやりたいことをやって消えるべきなのよ」
首相はそういっていまだ死に至らぬ瞳を持つ子犬を押し倒し享楽にふけった。
「ずいぶんと反抗的な瞳ね。もうすぐ男たちは歯車となるのにね」
「あら、お気に召さないの?そう。ならもっといいことを教えてあげる。男たちの次は…」

「あら、輝きが消えちゃった。ちょっと刺激が強かったかな?」

また一匹の子犬が彼女に繋がれた




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