京都・都大路で25日にあった男子第62回、女子第23回全国高校駅伝競走大会(毎日新聞社、日本陸連、全国高体連など主催)で、県勢の女子・興譲館と男子・倉敷はそろって準優勝を果たした。連覇を目指した興譲館は2~4区の1年生3人が粘りの走りを見せ、昨年の優勝タイムに3秒差に迫る1時間7分53秒だった。倉敷は1区から上位につけ2時間5分13秒で過去最速。2位は県勢男子最高の順位だった【原田悠自、五十嵐朋子】
◆女子
「連覇を果たすために自分が先頭に立つ」--。1区の菅華都紀(すがかつき)選手(3年)が出遅れ、6位でタスキを受けた2区の矢本桜子選手(1年)は強い決意で走り出した。「最後はみんな力を振り絞る。だから私はその前から仕掛けたい」とレース前から早めのスパートを考えていた。前半は差を詰められなかったが、残り400メートルからペースを上げ、4人を抜いた。「本当はトップで渡したかったけど、勢いを付けられたと思う」と話した。
3区は藤井純菜選手(1年)。足立知世選手(1年)が予定されていたが、足のけがが響き、前日にメンバー交代を告げられた。付き添って準備運動をサポートしてくれた足立選手に「自信を持って行けば大丈夫だよ」と声を掛けられた。「おかげで気持ちが落ち着いた。足立選手の『私の分まで』という気持ちを受けて走った」と3位でたすきを渡した。
4区の奥野舞子選手(1年)は、左腕に「自分を信じて、強い心で」と書いてレースに臨んだ。「緊張した時にこの文字を見て、失敗を恐れずのびのび走れた」と、得意の下り坂でスピードに乗り、2位でアンカーの岡未友紀選手(3年)につなぎ、岡選手も順位を守って2位でフィニッシュテープを切った。
レース後、興譲館の応援団は競技場の外に集まり、選手たちの健闘をたたえた。「連覇を果たせず、すみませんでした」と涙を流す選手らに、「よく頑張った」「感動をありがとう」と大きな拍手が送られた。岡崎希実主将(3年)は、「次こそは優勝して」と後輩たちに願いを託した。
「みゆき!ラスト!」。岡未友紀選手が2位で競技場に入って来ると、菅華都紀選手は、涙ながらに声を張り上げた。両エースは抱き合い「ありがとう」とたたえ合った。
二人は昨年、優勝を経験し連覇を目標に掲げた。しかし今年はけがに泣き、二人そろって走ることができなかった。岡選手は9月に右足を故障した。初めての長期離脱に「なぜ、この時期に」と不安になった。しかし菅選手の頑張りを見て奮起した。自身が欠場した11月の県予選1区で、菅選手は、あこがれだった昨年のエース・赤松真弘(まひろ)さん(19)の記録を超えた。「都大路に間に合わす」と誓った。
菅選手も県予選後に両足に炎症を起こした。森政芳寿監督から「1週間は走るな」と指示され、エアロバイクをこぐなど別メニューで調整した。「早く練習したい」と焦った。欠場した中国大会では、故障明けながら自分の走りで1区の区間賞を取った岡選手を見て「しっかり治して走ろう」と思った。
菅選手はスタート直後から先頭集団を引っ張る。3キロ過ぎでは、沿道から「頑張れ!」と声援する赤松さんに笑顔で応えた。終盤ペースは落ちたが、先頭と6秒差の6位で走り切り「楽しめた」。アンカー岡選手は2位でたすきを受けた。豊川(愛知)のムルギ選手に一時、10秒足らずの差まで追い上げた。「私たちは二人で一つ。全国の舞台で力を出し切った」。二人の絆を笑顔で確かめ合った。【原田悠自】
井原市西江原町の興譲館では、大学受験に備え補習を受けている3年生と来春の入学希望者向けセミナーに参加した中学3年生ら約90人がテレビで応援した。
1、2年生や保護者らは25日早朝、バスで京都・西京極陸上競技場に向けて出発。残った生徒らは緑色の法被姿で声援を送った。アンカーの岡選手が残り1キロを過ぎると「頑張れ」「ラスト」とメガホンを握りしめた。
佐藤亜佑美さん(3年)は「粘り強くたすきをつないでいる姿を見て勇気づけられた」と目に涙を浮かべた。【石井尚】
○……岡未友紀選手がフィニッシュすると、興譲館応援団はスタンドの最前列に集まり、「みゆき!」と声を張り上げた。岡選手はスタンドに向いて涙を浮かべ、すぐに顔を覆った。野球部員やチアリーディング部員ら約200人は、大きな拍手を送った。
興譲館は最終走者がレースを終えるまで応援を続けるのが恒例。吹奏楽部部長の柿原睦美さん(2年)は「走っているみんなを応援したい」。すぐに楽器を構え直した。
◆男子
倉敷は1区の徳永照選手(3年)が区間3位と好スタートを切り、2区の下久保勇希選手(2年)が2位でつないだ。
3区の馬場翔大選手(3年)は、3年連続で3区を走った。曲がり角が多いが、道路のどの位置を走れば最短距離になるか心得ている。ディランゴ選手(世羅)、マイナ選手(青森山田)と外国人選手2人に抜かれ順位をを4位に落としたが「いいペースで来ている。流れをつくりたい」と粘り、上り坂が始まる6キロ地点で吉田匡佑選手(九州学院)を一気に抜き去った。
3位でたすきを受けた4区の藤井孝之選手(3年)がテンポよく走り出した。3キロを過ぎて堀合修平選手(青森山田)との差が縮まり「自分の方が調子がいいな」と冷静に考えた。右折時に相手の内側に回り、そのまま抜いた。「『自分が行かないと』と思った。沿道の応援を感じながら走った」と振り返った。
5区の森敏貴選手(2年)、6区の櫃本隼和選手(2年)が順調につなぎ、アンカーの日下粛基(ひしもとしき)主将(3年)にたすきが託される。念願の都大路を初めて走った。「選手に選んでもらったんだから頑張らないと」。沿道の応援から力をもらった。「名前を呼んでくれる人もいた。楽しかった」。スタンドの「新記録いけるぞ!」という歓声を受けながらフィニッシュした。
倉敷は初めての準優勝を果たした。1区の徳永選手が右くるぶしを痛めていたが、その分「残りの6人でカバーしよう」とチームの結束を固めた。入賞を逃した昨年の悔しさをばねに練習を重ねた選手たち。都大路を堂々と走り抜き、誇らしげな笑顔を浮かべた。
1区を走った徳永照選手は2位集団から離れずに走り抜き、2位と1秒差の3位でたすきを渡した。目標を上回る良い順位に「自分が前にいて、びっくりした」。右くるぶしを痛めていたが「前半スピードを出し過ぎなかった分、体力を温存できた」。後半の下り坂でラストスパートし、準優勝への流れを作った。
右足は京都入りした22日、急に痛みが出た。着地の際に足に負担がかかっていたことが原因で、痛みで走るのがやっとの状態だった。欠場も考えたが「走るためにここまで来たんだから」と調整に励んだ。チームメートに「たすきをつないでくれればいい」「カバーする」と言われ、気持ちが楽になった。
痛み止めを飲み、朝のランニングはなし。集中して走ると痛みはなかった。残り200メートルの地点で2区の下久保勇希選手の姿が見えた。「手を上げて待っていてくれた。きつかったけど『頑張ろう』と思えた」。最後の高校駅伝は楽しかった。
「駅伝は、一人で走る競技と違って、喜びが何倍にもなる」と魅力を語る。「全国の力を持った選手の中で冷静に走れたと思う。いい経験ができた」。大学進学後も陸上を続ける予定だ。【五十嵐朋子】
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【興譲館の記録】
1区(6キロ) 菅華都紀 (6) 19分27秒 6位
2区(4.0975キロ) 矢本桜子 (2) 13分 5秒 2位
3区(3キロ) 藤井純菜 (4) 9分57秒 3位
4区(3キロ) 奥野舞子 (2) 9分38秒 2位
5区(5キロ) 岡未友紀 (5) 15分46秒 2位
記録 1時間7分53秒(2位)
※カッコ内数字は区間順位
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【倉敷の記録】
1区(10キロ) 徳永照 (3) 30分 1秒 3位
2区(3キロ) 下久保勇希 (18) 8分29秒 2位
3区(8.1075キロ) 馬場翔大 (3) 24分 0秒 3位
4区(8.0875キロ) 藤井孝之 (2) 23分38秒 2位
5区(3キロ) 森敏貴 (6) 9分 5秒 2位
6区(5キロ) 櫃本隼和 (9) 14分56秒 2位
7区(5キロ) 日下粛基 (24) 15分 4秒 2位
記録 2時間5分13秒(2位)
※カッコ内数字は区間順位
毎日新聞 2011年12月26日 地方版