2002年12月19日(木) 東奥日報 特集



■ 松井、敏腕代理人により念願のヤンキース入り/松井の夢かなえた代理人

 プロ野球、巨人からフリーエージェント(FA)宣言した松井秀喜外野手の大リーグ、ヤンキース入りが固まった。ニューヨークの伝統チームは、松井のあこがれだった。東京にとどまった松井に代わって、夢の実現に動いたのが弁護士ででもある敏腕代理人、アーン・テレム氏(48)だ。総年俸抑制に動きだした大リーグで、選手に好条件で働き場所を提供することで、競争の激しい代理人もまた生き残りを懸ける。

 ▽相思相愛

 九日に東京で松井と代理人契約を結んだテレム氏は、帰米後、表舞台から姿を消した。各球団幹部や有力選手の代理人が集まり、FA選手の契約やトレードを進めるウインター・ミーティングにも参加せず、隠密裏に交渉を進めた。

 松井獲得にはメッツやレッドソックスなども名乗りを上げた。しかし米球界では「ヤンキースと関係が深いテレムが松井の代理人に決まった段階で、松井のヤンキース入団が見えていた」と言う関係者がいる。

 やはりテレム氏と契約しているヤンキースの強打者、ジアンビが「007」ばりの秘密指令を受け、十一月の日米野球で来日した際に「松井にテレムを勧めた」という話もある。テレム氏は他球団に動きを見せずに、相思相愛のヤンキースと松井を結び付けることだけに専念したとみられる。

 ▽代理人間の競争

 米スポーツ界の代理人は一九六○年代に、ゴルフの人気選手、アーノルド・パーマーの契約代行を始めた弁護士が第1号とされる。大リーグの代理人は、複数年契約や付帯条項の整備など、高額契約獲得に貢献した。「選手の年俸高騰化を招いたのも代理人が活躍したから。でも松井選手は、ベストの選択をしたと思う」と、プロ野球アナリストの千葉功氏は解説する。

 二○○○年に総額2億5200万ドル(約300億円)で、アレックス・ロドリゲス遊撃手とレンジャーズの間で破格の10年契約をまとめたスコット・ボラス氏は、高校時代から同選手と契約していたという。

 同氏が経営するスコット・ボラス社の佐藤隆俊氏は「報酬は契約の5%。契約は、選手契約のほか野球用具契約やブランドイメージ向上契約など多岐に及び、オフには選手のバカンスを手配するサービス業務もある」という。弁護士過剰の米国内での競争に勝つには「選手の信頼を維持するのが最も重要」と同氏は語る。

 ▽全米トップ5

 松井は「最初は代理人なしでやろうと思ったけれど、とても無理だと分かった」と話している。契約は複雑で「付帯条件を含め、契約書が何十枚になる場合も」(佐藤氏)。タイトルのボーナスや、打席数が100刻みで増えるごとに報酬が増す出来高契約も一般的で、法律知識以外に野球の知識も必要。日本のプロ野球では「ヒットエンドランを知らない代理人がいる」(関係者)が、大リーグは進化した契約社会だ。

 佐藤氏によると、松井の信頼を勝ち取ったテレム氏は「全米で五指に入る」実力代理人だ。相思相愛だった今回の交渉は、金持ち球団ヤンキースから好条件を引き出すことだけが主眼に置かれたようだ。伝えられる契約は3年で20数億円。敏腕代理人にとって「それほど難しくない仕事だったのではないか」(同氏)とも分析される。


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