0.004%増。このご時世に医療機関の増収は認めたくないが、日本医師会や民主党内の声を無視するわけにもいかない。そんな苦悶(くもん)を表したような数字ではないか。「医療を維持していくという意思表示」。12年度報酬改定を微増で決着させた小宮山洋子厚生労働相は成果を強調するが、診療報酬を上げると保険料や患者の窓口負担も増える。物価も賃金も下がり、年金も物価に連動して支給を減らす議論がされている中、医療側の収入を増やすことが妥当なのか、割り切れなさが残る。
医療機関での検査や治療、処方される薬の値段を決める診療報酬の改定は2年ごとに行われる。当初、日本医師会は次期改定見送りを厚労省に申し入れていた。東日本大震災に人材も財源も集中すべきだとの理由だったが、前回改定で0.19%アップとなり経営が改善された医療機関は多い。マイナス改定されるよりは現状維持を図っているのだと指摘する医療関係者は少なくなかった。
ところが、小宮山厚労相がプラス改定を公言したのを機に、医師会は次期改定でアップを求める方針へ転換した。その後、事業仕分けで診療報酬の削減が打ち出され、事態は紛糾する。結局、薬価を1.375%下げ、医師の人件費や技術料に当たる「本体部分」を上げて差し引き0.004%増に落ち着いた。
もちろん医療体制を充実させることは必要だ。救急医療や産科などは相変わらず医師不足で、地方の医療機関や診療科の閉鎖も起きている。厚労省は報酬増を救急、産科、小児科、外科など急性期医療を担う病院勤務医の負担軽減に充てるほか、在宅医療、がんや認知症治療などの充実に回すという。在宅医療を支える有床診療所や訪問看護ステーションの拡充は最優先すべき課題だ。
それは報酬全体を引き上げるのではなく、報酬の配分を変えることで対処できなかったのだろうか。比較的手厚く配分されてきた開業医側の反対は強いだろうが、消費増税の議論がされているさなか、さらに負担が増すことに納得できない人は多いはずだ。今後は具体的な配分の論議に移る。数字上の微増にこだわるよりも、こちらの方が重要だ。
前回改定は民主党が政権交代を果たした直後だった。長らく自民党の支持母体だった日本医師会は報酬改定に影響力を発揮することができず、それが開業医から病院や勤務医へと傾斜配分できたことにつながった。現医師会執行部は民主党支持を明確にし、政権への影響力は強まっている。国民にとって負担増に見合った報酬配分ができるのか。安心できる医療体制を築くための筋の通った論議を期待したい。
毎日新聞 2011年12月26日 2時30分