俺もあいつも、お互いに料理は不得手。
だが……
せっかくの2人きりのクリスマスを、
自分達の手作りケーキでお祝いしたい! と、
あいつは強い要望を俺に求めてきて……
その想いに応えるべく、
俺はあいつとともにケーキ作りに挑戦することにした。
だがしかし……
ケーキ作りは、
俺の予想をはるかに超えた難易度の高いものだった。
材料の軽量を、寸分違わないように
間違わないようにしなければならないという
プレッシャーとの戦い……
薄力粉等の粉類を
しっかりふるわなければならない等、
通常の料理以上に求められる密な作業への取り組み……
生地を完成させただけではなく、
オーブンに入れた後も
温度等に入念に気を遣う必要がある等の難儀さ……
「まるで、あいつの扱い方並みに難解だな……」
オーブンの中で膨らんでいく生地を見守りながらポソっと呟くと、
『どうしたの?』とあいつが尋ねてきた。
「な、何でもない!
ところでクリームはもう混ぜ終わったのか?」
俺の問い掛けに、
うーん、と渋い顔をするあいつ。
あいつが手にしているボウルの中身を覗きこむと、
クリームはまだまだ水っぽい。
俺は「代わりにやる」と申し出て、
あいつの手からボウルと泡立て器を受け取った。
女のあいつの力では、泡立てる勢いが足りないから
クリームがうまく出来ないんじゃないか?
そう思った俺は、勢い良くシャカシャカと泡立てる。
だが……数十分後。
ボウルの中身は、何とも無残な状態になってしまった。
『泡立てすぎると、クリームが分離して
ボソボソな状態になっちゃうんだって……』
ケーキ作りの本を見直したあいつが、
こわごわと俺に告げた。
「す、すまない……本当に……」
俺の愛するクリームというものは、
自分で作ろうとすると
こんなにも労力を費やすものだったのか……。
一つの大きな知識を得ることが出来たが、
その代わりに失うものがあまりにも大きすぎた。
自分の役立たずさが申し訳なくて、
俺はがっくりと肩を落とす。
するとあいつは、
俺が手にしているボウル中身を覗きこみ、
クリーム(となるハズだったもの)を指ですくい取った。
それを、自分の口元へと運ぶ。
微妙な表情を浮かべるあいつ。
……それはそうだろう、
完璧なクリームではないのだから。
だが……
『失敗は成功のもとだよね。
まだ材料はあるから、もう一度頑張ろう!』
あいつは両手でぎゅっと握り拳を作って、
満面の笑顔を浮かべた。
まったく……お前という奴は。
あいつのポジティブさに救われた気持ちになりながら、
俺はあいつの指を掴み、付着しているクリームを舐め取る。
……確かに、微妙な味だ。
「次こそは頑張ろう。
本に書いてある知識は頭に入れたから、
次こそは成功するはずだ……む? どうした?」
ふとあいつの顔を見ると、
その頬は薄紅色に染まっている。
俺が疑問に思って尋ねると、
あいつは『何でもない』とそっぽを向こうとする。
そんな顔をされて、見逃すことができるほど……
俺は人間が出来ていない。
「……なぁ、待て」
その腕を掴み、俺のもとへ引き寄せ……
俺はあいつの唇に、自分のそれをあてがった。
「俺のせいで、
微妙なクリームを食べさせてしまったから……
だから、その、口直しだ」
自分の頬が上気していくのを感じる。
その後、生地の焼き上がりを知らせる
オーブンの音が鳴るまで……
俺達は見つめ合ったまま、
ただただ真っ赤になってしまっていた。