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2011年12月19日(月)付

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日本と韓国―人道的打開策を探ろう

野田首相と李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領との首脳会談は、これまでとうって変わり、元慰安婦の問題をめぐる重い言葉が交わされた。個人が受けた被害にどう向きあうかは、歴史[記事全文]

行政委員報酬―住民が目を光らせねば

県の選挙管理委員会の委員には、月に1、2回開かれる会議や催しに出るだけで税金から約20万円が支払われる。日額制に切りかえ、働きに応じた額のみを支給するべきだ――。滋賀県[記事全文]

日本と韓国―人道的打開策を探ろう

 野田首相と李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領との首脳会談は、これまでとうって変わり、元慰安婦の問題をめぐる重い言葉が交わされた。

 個人が受けた被害にどう向きあうかは、歴史認識や領土問題とともに、双方の国民の感情に直接響きあう。ナショナリズムにも流されやすい。

 それだけに政治指導者は、互いに信頼を築き、冷静にことにあたる努力を続けねばならぬ。

 李大統領は日本との公式会談の場で初めて、元慰安婦問題を論じた。「日本政府が認識を変えれば直ちに解決できる」と訴え、「誠意ある温かい心」に基づく対応を求めた。

 なぜそう主張するのか、歴史的にわからないではない。

 日本政府は、1965年の国交正常化時の協定で完全解決したとの立場を一貫してとる。野田首相もそう主張した。

 けれども、正常化交渉の当時に想定していなかった問題が後になって出てきた。元慰安婦はその典型的な例だ。

 今年、韓国政府は憲法裁判所から、日本への個人賠償請求を「交渉しないのは憲法違反」と断じられた。米国との貿易協定や政治腐敗をめぐる政権批判も強まるいま、元慰安婦問題の進展を迫る世論を無視できない。そんな事情もあった。

 ただここで、韓国の人たちに知ってほしい点もある。

 国交正常化で日本が払った資金を、当時の朴正熙(パク・チョンヒ)政権は個人への償いではなく経済復興に注いだ。それが「漢江の奇跡」といわれる高成長をもたらした。

 また、元慰安婦への配慮がなかったとの思いから、日本は政府資金も入れて民間主導のアジア女性基金が償い事業をした。

 この事業は日本政府の明確な賠償でないとして、韓国で受け入れられなかったのは残念だったが、当時の橋本首相ら歴代首相のおわびの手紙も用意した。韓国は韓国で独自の支援をしたけれど、日本が何もしてこなかったわけではないのだ。

 元慰安婦は高齢化し、何人もが亡くなっている。なのに尊厳は侵されて報われぬままという怨念が、支援団体がソウルの日本大使館前にたてた「記念像」につながった。

 野田首相は李大統領との会談で「人道主義的な見地から知恵を絞っていこう」と語った。

 問題を打開する糸口は、ここにあるのではないか。65年の協定で解決したかしていないかではなく、人道的に着地点を見いだしていく。

 それは行政ではなく、政治の仕事だ。日韓の政治がともに探る。そういう時期にきている。

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行政委員報酬―住民が目を光らせねば

 県の選挙管理委員会の委員には、月に1、2回開かれる会議や催しに出るだけで税金から約20万円が支払われる。日額制に切りかえ、働きに応じた額のみを支給するべきだ――。

 滋賀県の住民がそう訴えた裁判で、最高裁は請求を退ける判決を言い渡した。選管だけでなく、行政委員とよばれる人々の報酬をめぐる訴訟は各地で起きているが、これによって法律上の争いに決着がついた。

 最高裁の考えを一言でいえばこうなる。「委員の仕事の内容は多様で、役所に来る日数だけでは評価できない。報酬を、どんな方式でいくら支払うか、地方自治法は地元議会が定める条例にゆだねている。よほど不合理な事情がないかぎり、その判断を尊重するべきだ」

 ずいぶん甘い結論だと批判的に受け止めた人も多いのではないか。だが国民の代表である国会がそのような法律をつくり、議会が条例を設けている以上、裁判所が口をはさむ余地は限られるとの考えも理解できる。思想・信条の自由など基本的人権の制約につながる取り決めではないことも、この問題を考えるときの一つの要素になろう。

 受け止めるべきは、首をひねるような厚遇を認めてきたのはまさに地元議会であり、その議員を選んだのは、有権者である私たち自身だということだ。

 判決は「月額制をとったからといって違法・無効とはいえない」と述べているだけで、特定の方式や金額を推奨しているわけではない。どうするか決めるのは議会、すなわち住民自身だと説いているのである。

 この裁判では、一審・大津地裁と二審の大阪高裁が原告側の主張を認めた。それがきっかけとなり、多くの自治体で月額制から日額制への転換が進みつつある。全国知事会は「各地の実情にあわせ、自主的に見直しを進めていく」との方向を打ち出し、滋賀県でも労働委員会と収用委員会の委員の報酬は、今春から日額制となった。

 こうした大きな流れを止めてはならない。議会の自律的な判断にまかされているという重みを、議員一人ひとりが改めて胸に刻む必要がある。

 私たちは、報酬とあわせて委員の人選のあり方も見直すべきだと主張してきた。議員や自治体職員OB、特定の団体関係者の指定席になっているポストが少なくないのではないか。

 住民が、自分の住む県や市町村、そして議会の動向に目を光らせ、おかしいと思ったら声をあげる。そうしてこそ、地方自治は強く豊かなものになる。

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