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[29814] 【習作】骨と斧【オリジナル・異世界・転生】
Name: 家守◆8cd86407 ID:ce175945
Date: 2011/12/23 18:33
前書き

この話はオリジナル作品練習の為の作品です。
書きあげるつもりではありますが今後どうなるのか。

・日記調の話が含まれます
・テンプレートの様なふぁんたじー世界です
・淡々と話が進む描写が含まれてしまいます
・書けたら投稿、という形なので不定期です
・少ない文章での投稿があります

作者の力不足によりおかしな部分、文章、その他諸々があると思われますがどうぞご指摘いただけましたら嬉しい限りです。

では。



[29814] 骨と斧/1
Name: 家守◆8cd86407 ID:ce175945
Date: 2011/09/18 19:02
 空が白い。

 最早騒音に近いほどのタイヤの摩擦音とエンジンの駆動音が徐々に遠のいていく。そんなに慌てなくてもいいから静かに走って欲しい。あんなうるさい音を出して何が面白いのだろうか、引き篭もりには理解できない。
 残ったのは静寂。深深と降る雪はとても美しくて、明るい空が割れて粉々に散っているように見えた。ぼやけた視界でも十分に幻想的だったその光景は私の最後には少々勿体無いと思ってしまう。ただ、ぶつけられた拍子に鼻がやられたのか鉄寂びた匂いしかしなかった。これこそ勿体無い、こんな美しい光景は二度と見れやしないだろうに。一体どんな匂いだったのか……匂いなどある筈が無いか。
 赤い血に濡れた服越しに背中が冷たくなるのが分かる。こんなに濡れてしまって、明日は風邪をひいてしまうのだろうか。
 酷く、冷静だ。誰でもない自分が。私は、そうだ轢かれたのだ。なんとも喧しい車だったが生き物を轢くのはいただけない。私だけでなく猫も駄目だ。
 久々に家をでてみればこの様。愛くるしい猫に命を差し出すとは、私も末期か。何の末期なのかは知らんが。
 思えば黒猫だったような気がする。黒猫、なんと縁起が悪い…。まさか人を殺すまでの縁起の悪さとは恐れ入る。流石黒猫。
 今や社会に何の貢献もしていない私が猫とはいえ命をかけて助けるなんて思いもしなかった。人間何をやらかすか分からないものだ。

 首が動かせない私の視界の外で、猫がか細く鳴いたような気がする。
 それが心配してくれているように聞こえて、私は思わず笑顔になってしまう。私を看取るのが猫一匹とは、神様も粋なものだ。三途の川の渡し賃は確か生前どれだけの人に想われたか、らしいが、私ではこんなものだろう。一銭ではどう考えても河に蹴落とされてしまう。

 それでも。

 まだ鳴き続けてくれる猫には悪いが、中々良いものだ。何かを助けて死ぬなんて私の人生の幕引きには立派過ぎだ。頑張って生き続けてきた老人方には悪いが、私にとっては大往生。

 終わり良ければともいうが成程、悪くない人生だった。


 どうやら限界のようだ。終わりというのはこんなに清清しいものなのか、なにかから解放される感覚。天から降り注ぐ白い光は見えなくなり、私は吸い込まれるような強烈な流れに身を任せた。私の身体はどんどんと遠のいていき、黒猫はこちらを向いて悲しそうに鳴いていた――。







 気がついたら何も見えなかった。暗いとか、黒いとかそういうものではなく、見えないと分かるような闇が広がっていた。なぜ私が自我を保っているのか不思議な程に透き通るような世界。見渡すという行為も行ったのか行っていないのか分からなくなってきた。

 そんな不安定になりそうな世界に、一つだけ小さな光が灯った。ありがたい、あれを基点にすれば。そう想った瞬間、その光は驚くほどの速さで広がり、大きくなって世界を呑み込んでいった。そうして私も呑み込まれて――


 鬱蒼と生えた木々が見えた。急いで身体を起こして自分の身体を確かめると、腕が二本、足が二本。ただし肉体全て骨。意味が分からなかったが自分の顔を確かめるのが先と思い、手で顔に触れる。触れたはずだが感触はしなかった。これではよく分からない、麻痺でもしているのだろうか。というか骨に触覚などあるはずなかった。やはり混乱しているらしい。
 仕方なく辺りを見回すと、木々が見える。木々が見える。木、木、木。辺り一面ということは、ここは森の只中なのだろう。少し不安になってきた。
 手元には斧。無骨で、木こりが使うような斧だ、多分。木こりなんて会ったことないから判らないが、漫画とかではこんな感じだったような。
 ためしに拾ってみると、ひょいっ、と案外軽く持てた。骨だけでは支えられないはずなのに不思議なものだ。
 ……いや、不思議なものだ、じゃない。何を言っているんだ私は。骨だぞ、骨になるなど…いやはや、現実は小説よりも、とはよく言ったものだが……これは少々度が過ぎているような。この分では顔もどうせ頭蓋骨一つだろうて、まるでスケルトンにでも転生したかのようだ。
 いやそうか、私は魂だけとなり、どこかの骨に憑依でもしたのだろう。とりあえずそういうことにしておく。一度納得すれば気にならないものだ。

 手持ち無沙汰というか、わけが分からな過ぎて何をしたらいいものやら。斧で肩の骨をとんとんと叩く、骨は砕けない。さてどうしたものか。

 ……とりあえず、この身体は睡眠できるかどうかは分からないが、寝ようか。
 明日から頑張ろう。



[29814] 骨と斧/2
Name: 家守◆8cd86407 ID:ce175945
Date: 2011/09/18 20:12
転生(?)から2日目
 別に日記というわけではないが、余りに暇なので木を削った板に石を砕いた刃物もどきで彫ってみることにした。
 昨日野晒しで寝ていたためか、野犬らしき動物が私の骨を噛んでいた。特に痛いわけでもなく感触がないので鬱陶しいわけでもないが、これからも餌として認識されてはたまらない。斧を振り回して追い払うとさっさと森の中に逃げていった。相当驚いていたのでやはりこういう骨だけ、など一般的ではないのだろう。犬に常識を聞くわけにもいかないが。
 ところで斧が簡単に振れたのだが、やはり力が強まっているようだ。生前より骨だけの方が強いというのも複雑だが、悪いことではない。木を切ってみたが、二回振っただけで切り倒してしまった。成人男性の骨である私が抱えられない胴回りの木を、だ。幾許か振り回してみても息切れなど当たり前のように無かった。骨だけで活動できる魔法的加護でもあるのだろうか…。
 不可解だな、と思いながら寝るとする。


転生(?)から3日目
 面倒なので次からはハテナを外すことにする。
 起きてみれば昨日の倍ほどの野犬と、そのリーダーっぽい狼に囲まれていた。何だこれは。
 もしかしなくても復讐なのだろうか、と考えながら斧を振り回していた。どうやら移動速度は生前と同じかそれ以下のようで、狼や犬たちには全く追いつけなかった。私に出来るのは斧を振り回して牽制するくらいであるが、それも統率された犬には通じず、何匹か斧に当たりながらも大方の犬は斧を掻い潜って私に体当たりをしてきた。倒れた私にとどめとばかりに爪や牙を振るうが、残念ながら私の骨はカルシウムばっちりらしい。逆に犬達の爪や牙がボロボロになってしまった。
 それを見た狼は一声鳴いて、なんと立ち上がった。そして倒れた私に肉薄し、その腕を振るって私の頭蓋骨を吹き飛ばした。勝利の雄叫びを上げて喜ぶ狼たちは私に何の恨みがあるのか。
 しかし残念ながら私は頭蓋骨もカルシウムばっちりらしい。転がった視界を頼りに頭蓋骨を拾って頭に乗せると、頭蓋骨は落ちずに首の骨に鎮座した。
 自分の身体が骨というのも面白いものである。とりあえず驚いている雰囲気の狼(人狼でも良い気がする)と犬達を追い払う。
 それから木こりの真似事をして寝るとする。実際することがない。当座の目標でも立てなければならないな。


転生4日目
 起きたら狼たちに囲まれていた。意味が分からない。
 全員立ち上がっていることからみると、昨日の同属なのだろう。仲間に縋りつかれて一緒に私を倒そうという話にでもなったのか。なぜここまで目の敵にされているのか、何度も追い払っているが、殺してはいないというのに。あ、いや犬は何匹か殺してしまっているな。そのせいだろうか。
 もう戦闘風景を書くのは面倒になってしまったので省略。狼を何匹か殺して追い払ったとだけ。
 さて、下手に動くのも面倒だし、とりあえずここを本拠地にするために家でも造ろうかと思う。どうやって造るかなど忘れたが、なに、何とかなるさ。
 とりあえず材料として木でも適当に切っておけ、と思い何本か切り倒した。近くに落ちていたのが斧で助かった。
 何本か切り倒したところで熊らしき一本角の動物を発見。猪ばりの突進をしてくれた。骨がバラバラになってしまったが、なぜか個別で動かせたので丁度熊の背後に落ちた斧を持った手で熊を叩き割っておいた。
 この身体に食事が必要か分からないが、熊の捌き方なぞ分からないので放置。角だけは折って持つことにした。
 寝るとする。

転生7日目
 今日は書くことが多い。
 なんと一昨日はバラバラにされて川に落とされた。あの狼たちにそんな知能があったのかと驚いたが、しかして私の骨は無駄に万能だった。一本の腕の骨が流れる間に岩に捕まり、それに引き寄せられるようにして私の身体は元に戻った。骨ってこんなに凄かったのか…。
 どことも知れぬ森の中、一晩さ迷い歩き続けた。結構な数を伐採したので、元の場所に戻れば分かるはずだが、その元の場所が分からなかった。
 とにかく歩いていると、見知らぬ老人を見つけた。大きな大きな樹に寄りかかるように座り込んでいる老人は、近づいてみれば乞食のようだった。皺くちゃの顔、痩せ細った体、上半身から足先まで隠しているのは服とも呼べぬボロボロの黒布。乾いた白髪と虚空を見詰める眼が更に貧相さを助長させた。全身骨だけの私が言うのもなんだが、人間ではないかのようだ。
 これでは話し掛けても無駄かな、と思ったが、切り開かれた場所を知っているか、と聞けばその老人はなんと指をさすことで反応してくれた。ありがとう、と一言礼をして指をさされた方向へ向かう。
 ……あの老人は悪い者ではなさそうだが、私が話し掛けた途端にぎょろりとこちらを見詰めてきたあの眼は恐ろしいと感じた。できればあまり会いたくはない。
 辿り着いた頃にはもう昼頃であった。そして、やっとの思いで元の場所に戻ってみれば、そこは狼達がたくさん集まっているではないか。
 やってられない、と放り出してしまいたいが、狼たちが屯している場所の隅に私の斧があった。仕方なく、斧に目掛けて私の腕を投げる。こうすることで離れた場所でも斧を操れるようになる。ある意味、こういうことに関しては狼たちに感謝したい。
 とにかく振り回し、追い出したそこで私は寝転がって就寝し、起きたら夜中。とりあえず7日目として書き記した。
 今日の分だが、狼たちは流石に襲ってこなかった。代わりにというと変だが、あの老人がいつのまにか私の傍にいた。いつのまにいたのか分からない、なんと不思議な老人だろうか。あの、最初に抱いた乞食という印象は捨ててしまわねばなるまい。今では賢者もしくは隠者のように思えてきた。
 そう考えると面白いもので、彼が万能なような気がしてならなくなった私は、駄目元で「家を造ってくれ」と頼んだ。するとどうだ、彼は何の反応もしなかったが、今まで積み重ねてきた私の伐採した木々が形を変えていった。
 あれはまるで魔法のようだった。
 何と地面が円形状にへこんだのだ。でこぼこの木々は皮が剥がれ綺麗な材木と化し、どんどんとそのへこんだ場所で独りでに組み立てられていく。結果としてできたのは、ログハウスなどとは言えないが昔の日本の、竪穴式住居のような木だけを材料として作られた家だった。
 彼は魔法使いなのか。
 そうは思ったが確信は出来ず、それよりも造られた家に興味を向けた。
 なんの捻りもない一部屋だけの家だが、私しか住まないのだから十分すぎる。そもそもこんな森の中でこんな家を一人だけで建てられること自体が奇跡なのだ。私は彼に感謝しようと彼に目を向けたが、そこには既に誰もいなかった。
 本当に不思議な老人だった。常に座り込んでいたのも気になる。
 いつかまた会えるだろうか、いや次は私から会いに行ってみようと、そう思う。最初に抱いた印象、そして恐怖は、全て何処かへと消えていた。
 不思議な日だったとし、寝るとする。

転生10日目
 板に彫るのはどうも書きづらい。紙とペンでもあれば良いのだが。
 しかしこうして書いていくと、早くも十日も過ぎたのか、と感慨深くなる。何気なく過ごしていれば味わうまい。そう考えると生前では勿体ないことをしていた。
 さて今日の事だが、あれから少しだけ飾り立てをした家もあることだし、そろそろ体を隠す物が欲しい。別に骨なので何が困るというわけでもないが生前の習慣だ。それに服が無ければ見栄えも悪い。だがしかし絹または麻で出来た布など森の中にあるはずもなく、蚕を探すにも紡げず、そもそも元の世界の生き物っているのかここ。
 ならばと葉っぱで代用してみたが当然のように無理だった。隠すべき股間はただの骨、隠す方が恥ずかしいかもしれない。
 ふと、そういえば人はいるのだろうか、と気づいた。
 あの不思議な老人がいるからにはどこかに住んでいる可能性もある。丁度良いので周囲の地理を把握するための散策ついでに人探しもすることにした。集落でもあれば分かりやすいのだが、いかんせんこの森は深いようだ。
 中々見つけられず、とりあえず今日は寝るとする。

転生16日目
 散策ばかりしていたのでこの森の事は大体分かるようになってきた。あの一角熊(角の生えた熊を命名)はこの辺ではあまり多くないようで、見つけた数も人狼(立つ狼をそう呼ぶことにする)より少ない。
 ああ、彼ら人狼はもう滅多に私を襲うことは無かった。というよりもこちらを見つけるなり逃げ出すのだ。全く失礼な犬っころ達め。
 ところで、この六日間ずっと森の中を歩いていたわけだが、ついに森を出る事ができた。満足して森に戻ったが、もしや私は生来のひきこもりなのだろうか。
 しかし深い森の木々や根っ子を見ることなく果てしない草原を見た時は圧巻だった。素晴らしい景色のあまり、人は自然と共存すべきだったと本気で思ってしまったほどだ。
 自分でもわけが分からない。
 明日からは森の外を中心に散策することとし、寝る。

転生21日目
 どうも私は運が悪いようだ。
 ずっと歩き詰めにも関わらず、周囲に見えたのはちょっとした森や丘、遠くに見える山、そして草原を闊歩するおかしな動物たちだ。
 あれらはもうモンスターと言って良いだろう。翼の生えた蛇、足が長い兎、大きな蟷螂、どう考えてもドラゴン。
 森の中でも手が長い猿を見かけたが、草原は更に上を行く魔境だった。この世界ではこれが普通の動物なのだろうかと疑ってしまう。
 とにもかくにも、もう日が暮れてしまったので、そこらへんで寝るとする。斧を持ってくればよかった、と少し後悔した。

転生22日目
 起きたらピンク色の壁に取り囲まれていた。見回せば液体に浸かっている。脈動したぬらぬらとする壁、微かに残る物体をじゅうじゅうと溶かす液体。揺れる部屋。出口らしき場所は天井に空いている穴だけ。
 私の骨はなぜか溶けないので、指を突きさして天井まで登る。突き刺すたびに部屋が揺れるが、指の骨とは結構尖っているもので、中々抜けない。天井に辿りついてそこからもよじ登って行くと外に出れた。
 私はどうやら寝ている間にドラゴンに食べられていたらしく、ドラゴンは胃から這い出た私を睨みながら苦痛に悶えていた。
 そして、私はここがどこだか分からない。ドラゴンは私を胃に入れて飛んでいたようで、森がどこなのかさっぱりだった。やはり私は運が悪い。
 ところで、この板も存外に丈夫だな。

転生24日目
 歩き回る事二日。
 人、というよりも人の様な影を見つけた。人狼のような種族でないことを神ではない誰かに祈り、人影が入った洞窟に入る。
 すると、毛深くて腰に何かの皮を巻いている、しかし確かな人間を見つけた。
 人間というのは正確ではない。彼らはおそらく、原人だ。骨格がおかしいし、言葉がまったく発達していない。皆ウンババウンババと叫んでいる。ウンババって何だ。
 この世界の文明レベルが原始人とは些かショックだったが、とにかく人間(原型)を見つけたことに変わりないので、彼らの住処に止まらせてもらうことにした。ボディランゲージはいつの時代でも通じるようだ。
 目的の一つを果たしたので、次はどうしようかと考えながら寝るとする。

転生25日目
 今日もウンババしている。
 ウンババはきっと原人の言葉でウンババでウンババなのだろう。こんな彼らもいつかは普通に言葉を喋るとはウンババだが今はとにかくウンババしか喋らないウンババ。

ウンババ1日目
 ウンババウンババ

ウンババ2日目
 ウンババウンババ

ウンバババババ
 ウンババアアアア

転生32日目
 恐ろしい目にあった。
 彼らの言語と思われる「ウンババ」が私にも移り、まるで覚えたての猿のようにウンババウンババと言っていたのを覚えている。これも魔法なのか。
 とにかく私は急いで彼らの集団を離れ、いつの間にか腰に巻いている何かの皮と棍棒を手に森を目指して一直線に走った。森がどこかなど些細な事、野性に目覚めた私にかかれば帰巣本能が全てを教えてくれるウン(この先は削られている)

転生36日目
 例によって迷ってしまった。当然だろう、人間の帰巣本能など頼りになる筈が無い。
 そのように困っていると、ふと右の木に違和感を感じた。こんな所に木があったか、と。
 見てみると、なんとあの森の老人がいるではないか。彼は本当に何者なのだろう。老人はある方角を指差して、すぐに消えた。
 彼が指差した方向に歩いていると、やはり森が見えた。これで彼にはもう足を向けて寝る事ができない。これからは敬意を込めて「翁様」と呼ぶことにする。
 やっと辿りついた懐かしの我が家、変わらないその姿に満足して、寝るとする。

転生41日目
 森の外は危険が多い、森の中に籠もるのが一番ではないだろうか。
 そう思って家からあまり離れない私は遺伝子レベルでひきこもりが染みついているのかもしれない。
 しかしいくら森の中が見知ったものだとしても、やはり時折ハプニングが起きる。
 人狼が私の家に訪ねて来たのだ。
 しかも礼儀正しく、複数の人狼が家の前で二つの縦列を成しているのはまるで軍隊。先頭に立つ銀色の人狼はボスのようだ。
 何の用だ、と話しかけると驚いたような表情を見せた銀狼(銀色の人狼)。そういえばやつらの前で喋ったことなど一度もなかった。
 銀狼は少し戸惑った後、騎士がするように跪いて私の前にドカッと肉を置いた。どこから出したのか。
 そして私に流れ込むイメージ。これはテレパシーと呼ばれるものではないだろうか、やっと魔法らしい魔法に出会えて嬉しい限りだ。
 イメージによると、自分たちの餌をやるから自分たちを見逃してくれ、というものらしい。今までにかかっていた時間は、ボスが私に殺されて不在のための空白だったようだ。
 私に食事は必要ないし、彼らのことはどうでもいいので、餌はいらんが見逃すとだけ伝えた。
 伝わったようで彼らは帰って行ったが、成程。モンスターの世界も基本は弱肉強食らしい。

転生45日目
 最近何もしていない気がする。
 実際には気がするどころではないが、とにかく今日はちょっとした出来事があったので記す。
 私は暇つぶしとして土を弄って畑でも作ろうとしているのだが、その最中に謎の怪物に囲まれてしまったのだ。またか、と言いたい。
 怪物は、小さく、ごつごつとした緑色の肌をし、耳が少し長い。見た目的にゴブリンに似ているのでゴブリンと呼ぶことにした。
 それらが私を囲み、それをおそらく統率していたのが巨大な鈍色のゴブリン、とりあえずトロールとする。
 私が硬直している間に問答無用で棍棒で殴りかかってくるゴブリン。とりあえず骨にガンガンと衝撃が走る中、斧ごと腕を飛ばしてトロールを一体倒す。その腕を動かして驚いているトロールをもう一体倒しながら、前に手に入れた棍棒を残った腕で掴み、ゴブリンを叩いていく。
 棍棒は鈍器なので刃物や爪などよりは私に効くが、トロールならまだしもゴブリンではダメージなど無い。もう一体のトロールを倒すと、統率者がいなくなったゴブリンはさっさと逃げていった。
 一つ溜息をついて、手と斧を回収して血を拭き、家に戻る。骨なので息など出なかったが。

転生49日目
 少し前に翁様の所に行った時、逃げだしていた筈のゴブリンが死体で散らばっていたのに驚いた。それを色の無い目で見ようともしない翁様は恐ろしかったが、考えてみれば私も同じ穴の狢だ。
 さて、突然だが私はダークエルフという存在に出会った。白銀の髪に健康的な褐色、赤い目をした完全な人型だ。一説では妖精の種族とのことだが、その美しさは確かに人間ではない。しかしダークエルフ。ここは定番のエルフかと思ったのだが…。
 彼女(妖精族では女性の方が強く、彼女は偵察部隊だとか)の話によれば、ダークエルフは人狼族とも交流があり、基本的に森の奥深くに住んで樹木の精霊たちと共生しているそうだ。
 人狼族から「強い骨がいる」ということで見に来たらしい。基本彼女達も弱肉強食であり、確かに身内は大切だが弱いのが駄目なのだそうで、別に禍根はないそうだ。それは良かった。
 彼女は私の偵察兼勧誘係で、ダークエルフに害を成すような存在でなさそうならば連れて来い、とのこと。
 当然私は行くことにした。ダークエルフの国(アルフヘイムと呼ばれる世界に通じる門があるらしい。ただしそれぞれの国に入る為にはこの世界を経由しなければならないそうだ)は一度入ると女王の許可なく出る事は禁じられているらしく、おそらく信頼を得なければ女王は許可してくれないようだ。またこの森を離れて暮らすことになる。
 この板もそろそろ限界、新しい板を用意しなければならないだろう。また暇な時に作る事にする。


著者:骨



[29814] 骨と斧/3
Name: 家守◆8cd86407 ID:43346c68
Date: 2011/09/20 02:48
 シャッ、シャッ、と削る音がする。
 薄暗い木造りの部屋の中で唯一暖かな光をもたらす暖炉。そのレンガ積みの暖炉の前で、煤けた灰色のローブを被った者が小さく飾り気のないナイフで木の板を削っている。

 不気味だ、と思った。

 板を削っている彼には悪いが、とても不気味で仕方ない。まるでアルフヘイムに伝わる死の神のようだ。白い骨と灰色のローブが炎に照らされているだけでこんなにも無気味になるものなのかと感心すらしてしまう。彼が持つとただのナイフが何か恐ろしい呪いのナイフにでもなるのではないか。

 そんな失礼なことを考えていると、彼はピタリと板を削るのを止める。どうしたのかと思えば、頭に声が響いてきた。

【どうしたんだい。私に用があったのではないのか】

 どうもこの感覚は慣れない。ウェアウルフ達のテレパシーとは違って、声が直接頭に響いてくるものだから、強烈な催眠にかかったと錯覚してしまいそうなほどに力強い。しかし私だからこそ、なのだろうか。これに耐えられるなどこの国にもそうはいまい。

「その通りだ。……が、貴方がとても外見に似合うことをしていたのでな。少々声をかけづらかったんだ」

 正確にはとても集中していたからなのだが、最早私の口癖のように皮肉が出てくる。特に疎んじたことはないし、部隊の者達は皆、私はこういうダークエルフなのだと認識してくれている。ありがたい仲間を得た。おかげで思いっきり皮肉を言える。
 ……ありがたい、と思っているのは本当だ。

【まあ、用件を言うといい。私は見ての通り、板を削っているだけだ。単なる暇つぶしだよ】

 そう言って彼はまた削り始めた。
 彼は暇つぶしにも全力を注ぐ性格のようだ。私は娯楽にはあまり興味を持たないので、あまり理解できない。私にとっての仕事が彼にとっての娯楽なのだろうか。
 どうでもいいことだと肩を落とす。

「『明日、王樹に来い』とのことだ。女王様が御会いしてくださる……。その案内役は私、ということだとか。貴方だけが外に出れば、土に埋められるかもしれないからね」

 この国でも骨だけの彼は十分奇異な存在だ。偵察として彼に初めて出会った時も、私は思わず逃げ出しそうだった。だってほら、骨だけなんて見たこともないから戦力が未知数じゃないか。別に怖いというわけじゃなかったが骨だけなんて幽霊と同じくらい未知数だから、怖かったわけじゃないけれど少々様子を伺ってどんな存在か見定めなければならないし、怖くなかったけれどアルフヘイムに引き返そうと思ったほど彼は未知の存在だった。
 まあ話してみれば中々理知的で、バルバロ族やトロル族より凄く話せる骨だったが……。話せる骨など彼以外見たことがないが。

 削る音は止まらない。女王様に会うというのに動揺の欠片もないのは流石だが、単に上下関係に疎いのだろうか。

【……難儀なことだ。骨だけというのは野生生活では中々便利だったのだが】
「この国で暮らすとなると、皆怯えるからね。私も最初はほんの少し、ほんの少しビックリしたくらいだ。諜報部隊長の私がね」

 諜報、要するに偵察・斥侯のことだが、国や世界を跨いで情報を集める、という仕事の性質上どうしても様々なモノを見ることになる。それは怪物であったり精霊であったり、下劣なバルバロ族やトロル達であったり。私とて何度も見たくもない場面や見ようと思わないほど醜い者達を見てきたし、それとは反対に美しい者も見てきた。
 ただ、思い返してみると幽界たるファンタスマの者達は、物語や幽霊を信じる者達の話の中だけの存在だったから、驚いただけかもしれない。きっとそう。

「精霊は私達と共にいるから驚きもしないが……死んだ者、ましてや肉すらない物体が動くのは初めて見たね。喜ぶといい、君は世界初の動く骨だ」
【さて、それは誇れるのかどうか】

 私なら誇りたくはないので、冗談だ、と肩を竦めた。
 削る音は止まらない。少し削りすぎではないか。

「ところで、その板はずっと削っているけれど、一体なんだい?」
【これか。これは、私の生涯を記録するための板だ】
「なるほど」

 つまりグリモルだろうか。私も魔術は少し嗜んでいるが、錬金術師達は皆自分自身の全てを書き記すという。それをグリモル、というのだったか。
 彼が魔術を使えるというのは意外といえば意外だし、似合うといえば似合う。アクスを持っていたからてっきり戦士系統だと思っていたのだが。

「どんな魔術を書いているんだい?」
【魔術? 何を言っているんだ、これは日記帳だよ】
「……紛らわしいよ。てっきりグリモルかと」
【グリモル?】
「魔術を記した錬金術師達の全て。これを読めばその錬金術師の生涯が分かると言われているんだ」

 そもそも日記帳は木に書くものではない……それをいうならグリモルもか。私も結構抜けているな。

【このアルフヘイムには魔術があるのか。今度教えてくれないか】
「良いけれど、そもそもそんな身体に魔力が宿っているのか心配だよ。それに私は嗜むくらいだ、基本的にはボウとナイフで戦うからね」

 魔力とは血肉に近い。身体をめぐる血が世界に漂うバスラと呼ばれる魔力の素を取り込み、それを意図的に体中にめぐらすことで魔力を扱うことが出来る。
 言うだけは簡単だが、基本的にバスラを認識すること自体が難しい。嗜む程度とは言ったが、これでも努力したんだ。
 それでも初級魔術くらいしか使えない我が身の才能が恨めしいな。

 ちなみに余談だけれど、魔術のランクは初級・中級・上級・初級精霊術・中級精霊術・上級精霊術と続く。初級から上級は、自分の魔力だけで様々な魔術を起こすのだが、範囲・効果が自分の魔力が扱える多さによって変わるため、精霊術より下とされる。初級精霊から上級精霊は、自分の魔力を精霊に渡して代わりに魔術を使ってもらう。そのため応用はきかないが範囲と効果は基本的に絶大だ。何せ精霊は世界と繋がっているため、精霊の格や自分との相性によっては恐ろしいことになる。
 あと、錬金術師は初級から上級しかいない。なぜなら彼らは己の魔力でどんな魔術を作り上げるか、ということに命をかけている者達だからだ。逆に国に使える精霊術師と呼ばれる者達は、初級精霊からしかいない。彼らに求められるのは威力と効果範囲であり、利便性ではないからだ。つまり、魔術師と呼ばれる、魔術専門の者達が、錬金術師か精霊術師に派生するという構図だ。
 アルフヘイムの中でも屈指のダークエルフの国であるこのオニクス王国は、精霊術師長と戦士長、つまり王国軍の中でも一番偉い軍団長の一つ下に位置するほどの地位である二者は同等とされている。だが、国民達は皆「精霊術師長の方が凄い」と認識しているのが現実だった。これはアルフヘイム全体に言えることで、時間がかかっていても敵を大部分殲滅できる精霊術師が重宝されるのは当然といえた。
 ついでに私は諜報部隊長、戦士長の門下であり、一つ下である。偉いだろう。

【肉体がないと魔術が使えないのか……? 困ったな、私の肉はどこにいったのだろうか】
「それは私にはさっぱり。貴方が分からないんじゃ、お手上げだね」

 彼はナイフを持つ手を止め、こちらを向いて聞いてきた。やはり肉体に関してはそれなりに困っているのだろう。
 そもそも骨だけなのになぜ風化しないのだろう彼は。ある意味凄い、私がなりたいとは思わないけれど。

【まあ、とりあえず理屈だけ後で教えてくれればそれでいいさ。なに、どうせ私は骨だ。いつか答えが出るだろう】
「出ると良いね。そういえば外の世界、アスガルドの、小屋……? は良いのかい。あそこは貴方の住処だろう」
【なに、大丈夫だ】

 それっきり彼は何も言わない。その後に何か続くのかと期待していたが、彼にはなにかしらの自信、あるいは確信があるようだ。それなら何も言うまい。

「とりあえず、貴方の習慣をしてくれないか。骨だけなのに習慣になっていると言われた時は驚いたが」
【習慣? ああ、もう寝たほうがいいのか。確かに私は寝る意味はないが、寝なければ落ち着かないのも事実だからな】
「そうとも。だから言っているのさ。さぁ、もう寝てくれ。明日は女王様に会ってもらわなければならないからね」

 彼は女王様とは初対面。あの至上の美しさにどんな感想を溢すのだろうか、楽しみだ。骨だけの彼に美的感覚があるのかどうかは分からないけれど。

【ふむ、そうだな……寝るとしよう。ではスリジエ、お休み】
「……うん、そうだね。お休み」

 それっきり、彼はナイフをテーブルに置いて、削り終えた板を持って宛がわれた部屋へと戻って行った。
 ……彼はちゃんと私の名前を覚えていたようで嬉しい限りだ。

 そういえば彼の名を聞いていないな、明日聞いてみようか……そして、ようこそと言ってやるのさ、フフ。既に彼をつれてきてから数日経っているが、別にいいか。









後書き
 一人称の場合はあまり詳しい事は書かずこんな調子で勧めます。
 日記調で詳しいことを書くつもりなので勘弁。



[29814] 骨と斧/4
Name: 家守◆8cd86407 ID:fb4853ae
Date: 2011/09/23 01:05
 板が削れたが、紙があると聞いたのでそちらにすることにした。スリジエに譲ってもらい、これまでのことを記載する。
 それから、今日のことからまた書き始めることにしようか。何せ途中から日付が飛んでいたのだし、こんなものを読むのは私くらいだろうから問題ない。
 しかし、木で出来た万年筆もどきを黒い樹液に浸けて書くのか。こちらの世界はとてもエコロジーでよろしい。


転生53日目
 アルフヘイムに来てから数日。あの時のダークエルフの女性はスリジエと言うらしく、とても気さくに話し掛けてきてくれる。最初の強張った様な固い口調が嘘のようだった。名を聞かれたのだが、正直生前の名を覚えていない。骨とでも呼んでくれればそれでいいので「適当で良い」と言っておいた。
 さて、今日は女王と呼ばれるダークエルフの王に会いに行ったのだが、神々しいの一言だった。いやなに、そのままの意味だ。
 王樹という天を突くほどの大樹も圧倒されたが、それ以上に女王、イヴという名だそうだが、女王イヴはとても神々しかった。後光が差しすぎて見えないくらいに。私は瞼が無いが、閉じようとすれば視界は暗くなる。ついつい感覚的に瞼を閉じてしまったのだが、ばれなかったようだ。当然か。
 スリジエは至高の美貌を持つ女性だと言っていたのだが、これはそれ以前の問題ではないか。ある意味美しいのだが、もしやダークエルフには後光が見えていないのだろうか。その証拠に、私の前で女王に跪いているスリジエも、部屋の左右に配列しているダークエルフたちも皆当然のように目を開けている。何だろうこの差は。
 それはともかく、私のような骨はもの珍しいようで、皆じろじろと見てくる。女王は分からないのだが、多分見ているだろう。動物園のパンダの骨でもないのだが。
 やはりそのような珍しい骨はすぐには信用できないが、こちらから招いたのだからということで客人としてゆっくりしてほしいと言われ、手形のようなブレスレットを頂いた。ありがたいとスリジエに伝えてもらって、彼女の家へと戻ることになった。
 私の声は人狼、ウェアウルフと呼ばれている彼らのようなテレパシーに近く、直接頭に声が響くのであまり喋るなとスリジエに言われた。耐えられるのは彼女のような鍛錬された者のみで、王樹にいる者達は強い者が多いが文官に関しては別であり、彼らが倒れたりすれば一大事だそうだ。
 つまり私は一緒に話すだけで疲れるということだ。難儀な……。
 これからのことに想いを馳せ、何とでもなるさと結論づけて寝るとする。彼女の家は心地が良いが、いつまでもここにいるわけにはいかない。

転生54日目
 今日は何も無かった。一日中家に居たため、少々運動不足かもしれない。太らなければいいが、とも思ったのだが、よく考えれば肉が無い。

転生56日目
 王樹に出勤するスリジエを見送り、家に戻る。まるでヒモである。
 さて、出かけるならばこれを持って行けと渡された単語帳。これはダークエルフの言語が書かれていて、日常で用件を伝える場合はこれを使えと言われた。そもそも言葉が通じるのに文字が読めないのはなぜだ。
 とりあえず買い物をしてみることにしたが、外を出てもここがどこだか分からない。女王イヴから頂いたブレスレットを手首の骨につけると、なんと空中に浮いたではないか。手首を覆うようにして浮いているリング状の華美なブレスレットは、やはりここがファンタジーな世界なのだと再確認させてくれる。まぁ今更何を、と思うが。
 大通りを歩いていれば店も見つかるだろうと思ったが、やはりここでもじろじろと見られる。中には怯えたような声を出す者もいるのだ、失礼な。
 そうして歩いていると衛兵らしきダークエルフに捕まり、「何だお前は」と言われた。何だと言われても、骨としか。
 ブレスレットが見えるようにローブを捲って右手を上げると、彼らは驚いたような表情をしてから私に謝罪をして慌てて去っていった。このブレスレットは本当に凄い物のようだ。
 結局目立たないように裏路地を歩き、遂には表通りすら分からなくなった。私は別に方向音痴でも無かった筈なのだが、はて。
 そのように歩いていると、襤褸切れを纏う薄汚れた少女を見つけた。もちろんダークエルフだが、もしや私は襤褸切れに縁があるのだろうか。裏路地であるため、少女以外には誰もおらず、少女を見てみても痣などは無かったため、単に飢餓によって倒れ伏していたのだろう。声をかけても返事が無かったのでおんぶしたが、何せ連れ帰って(何とか大通りを見つけた)すぐにスリジエに食事を出してもらうと、一気に掻っ込み始めたのだから。胃に優しいものを出してもらったとはいえ、危なっかしい少女である。涙を流すほどなのだから本当に久しぶりの食事なのだろう、もう少しで私の仲間になるところだった。
 スリジエに聞いてみたら、意外に飢餓は多いとのこと。ダークエルフは弱肉強食、弱者に興味が無いために暴行などはしないが、そのかわり助けもしないというのだ。なら仕方が無い。
 ちなみに、ダークエルフにとっての「弱肉強食」は、「弱者はただの肉であり、強者を食らうべき」という一つの理念らしい。ただの強い者好きのようだ。
 とりあえず少女を風呂に入れ、私も寝るとする。

転生60日目
 最近、日記の癖に長くなってきたので少し間を置いた。
 さて先日拾った少女だが、スリジエ自体は高給取りなので問題無いよと笑って許してくれたのだが少女が許さなかった。
 己も働くと譲らず、ならばと私の通訳を頼んだ。なぜか彼女は私のテレパシーに耐えられるようで、スリジエは微妙な表情だったが、少女は嬉しそうである。
 私の言葉をそのまま伝えてくれればいいと言えば、はいっ、と元気な返事が返ってきた。スリジエに遊ばれたが無難にポニーテイルに落ち着いた赤い髪がぶんと揺れる、可愛らしい。
 余談だが、少女の名はペルレ。彼女は幼くにダークエルフの親をエルフに殺され、路地裏を漁り続けて生き続けたそうだ。昔から不思議な力を持ち、それを使って食べ物を確保していたが、ここ数日はパタリと使えなくなっていて飢えたらしく、さらに風邪もひいたという。
 ちなみに、どうしてもというので名は私がつけた。名の由来は、確か真珠のドイツ語だ。どこかで見た覚えがある。彼女の透き通るような白い目(なんと白黒逆である)が真珠のように見えたからそう名づけた。元々の名はあったが、エルフに殺されるような親の名は嫌だそうだ。なんというか、意外にシビアである。ダークエルフとしては、敵であるエルフは「数多い弱者」のようだ。
 さて買い物だが、今度こそとは思うものの、やはり地理が分からなくては先日のように迷子になっては意味が無い。ということで私の得意技である散策をすることにした。今まで歩いた道を覚え、頭で地図を作っていくと分かってくるものである。そうして一通り歩くと、なんとまあペルレを拾った路地はスリジエ家のすぐ近くというのだから面白い話だ。
 とりあえず店の場所は分かったので帰ることとした。私の後ろをチョコチョコと着いてくるペルレをおんぶして家へと戻ると、スリジエは既に帰っていた。意外に部隊長といっても暇なのだろうか。

転生62日目
 夜の話である。
 斧を手入れしているとペルレが遠慮がちに部屋に入ってきて、凄く良い斧ですねと賞賛してくれた。いやこの斧の価値がわかるのか、その幼さで。
 とも思ったのだが、スリジエに聞いてみたら妖精種は長寿で、平均寿命は大体三百歳。見た目二十歳ほどのスリジエですら六十は生きているという。まさかの年上だった。
 そこでペルレはいくつかと聞いてみれば、笑顔で三十二と答えてくれた。そうかこの子もか……。
 補足として、女王イヴは千以上で、破格の年長だそうだ。もしや、それで光り輝いていたのだろうか。エルフやダークエルフはある年齢の姿で成長が止まり、寿命がくればパタリと死ぬらしいが、恐らくアレは蝋燭の最後の輝き、風前の灯に違いない。
 ところで斧で思い出したが、あの世界の私の家はどうなっているのだろうか。数日しかたっていないのだが、ウェアウルフや猿などの問題もあろう。いやウェアウルフは大丈夫か、問題は猿と熊か。全く面倒な。
 日記に書くような愚痴ではなかった。
 ペルレの話に戻すが、彼女は不思議な能力を持つ。それはここ数日は使えなかったが、最近また使えたという。それを見せてもらったらなんと驚き、ワープである。
 正確にはワープホールであるが、ペルレは宙に楕円形の穴を作り、そこに手を突っ込むと私のパンを取り出したのだ。その後暫くすると、スリジエがパンを知らないかと訪ねてきたところから、ペルレが取り出したパンのことだろう。なんと凄い力だ、それを盗みにしか使わなかったことに恐れ入る。
 凄いなと誉めたが、照れながらも謙遜したペルレ。なんでも、彼女の手が入る程度の穴しか作れないし、彼女自体が非力なため戦闘には使えないという。まさに戦闘快楽種族らしい謙遜だった。どうもダークエルフは血の気が多くていけない。
 なんだかんだで斧を使っているが、私とて魔術を使ってみたい。いつか使えるようになろうと思っている。そして使いたい魔術の一番が今見たワープである。便利だからだ。何とかならないものだろうか、羨ましい限りだ。

転生65日目
 どうも最近は書くことを多くしてしまう。
 折角だから短く書こうと思うので、箇条書きにしてみた。しかし何が折角なのだろうか。
・朝起きるとご飯を食べるスリジエとペルレを見た。
・スリジエを見送り、ペルレと共に商店街へ向かった。
・売りに出している狩人に、肉を野菜と交換してもらう。
・日常茶飯事の野良喧嘩を目にしながら帰宅。筋骨隆々の褐色美形な男性が殴りあうなんて誰が得するのか。
・帰宅途中に「精霊の広場」に寄る。ここは地形として神の祝福を受けた場所であり、精霊が集まる広場だ。
・なんと女性同士が喧嘩していた。素早い上にどちらも魔術を使いながらナイフで交戦していた。なんだろうこの国。
・少しだけ喧嘩の魔術を見ながら長椅子で休憩。ペルレも座って眺めている。その表情は真剣なので、やはり強さはダークエルフにとって大事なのだろう。
・帰宅。スリジエは既に帰っていたので、夕飯。私は二人を見ながら椅子に座っていた。
・終身、いや就寝。間違ってはいないことに少々気落ちしそうになる。
 このくらいか。これが普段の生活である。

転生71日目
 スリジエが戦士長から任務を受けたらしく、明日から暫く家に帰れないと言い出した。
 どうも最近買い物以外何もしていないので私もついていくと言うと、ぺルレも、と話が進み、スリジエは渋っていたが結局三人で行く事となった。行先はドワーフの国で、単なるお使いらしい。お使いと言っても重要なお使いではあるのだが、戦闘事にならないのは良いことだ。
 ただし、どこでエルフとはち合わせるか分からないので斧は持っていく。
 移動手段はなんと馬。なんとも何も中世のような文明なので別におかしくはないのだが、馬に乗ったことが無い私はどうすればいいのだろうと困ってしまう。ぺルレでさえ乗ったことはあるというのだからどうしたものか。
 幸い私は骨なので体重は軽い。馬で二人乗りは少々狭いが、仕方ないのでスリジエにしがみついて乗ることにする。まったく二本も足があると言うのに歩かないとは情けない、今の疲れ知らずの身体だからこそ言えることだが。
 厩番(うまやばん)である渋いダークエルフは仰天した顔でこちらを見ていたが気にするだけ無駄というもの。もう慣れたとも言う。
 今回は長旅ということで、皆ローブを被っている。私は別として、彼女らは煤けたローブを着ていても絵になるというのだから羨ましい。
 旅支度を一通り済ませ、明日に備えて多めに食べて早めに寝た。例によって私は何も食べず癖で寝た。

転生72日目
 旅途中である。一日で着くとは思っていなかったが、馬の足で半日以上走ってもまだ遠いと言うのだから相当だ。とりあえず夜営ということになり、予めある程度持ってきていた炭を拾った小枝と組み合わせて火を付け、携帯食である干し肉と凍らせた生野菜を少々火に炙って二人が食べた。例によって私は省略。
 寝ずの番は当然私。眠気などありはせず、いつもの習慣で寝てはいるが瞼を閉じて横にならないと寝られない。
 安心しきってぐっすりと寝ているぺルレと、対照的にナイフとボウをすぐ傍に置き傍からでも浅く眠っていると分かるスリジエ。ここら辺は経験の差なのだろうか。

転生73日目
 今回の夜営で、ある程度余裕のあるスリジエがドワーフについて説明してくれた。
 ドワーフは妖精種の一つで、国も一つ。アルフヘイムのほぼ全土に広がっているほど大きい地下帝国だけだそうだ。彼らはエルフとダークエルフの戦争に対しては中立を貫いており、依頼が来たら物を造るがどちらかに与するわけではないという。ドワーフは妖精種の中でも多岐にわたる武具や魔術具から生活用品まで造っている上に、筋力が妖精種四種族中最も高い。さらに精霊が味方しているピクシーと仲が良いため、エルフもダークエルフも中立を貫くドワーフに手は出せないという。
 気難しい者が多いため注意する事、と言われてしまった。どちらにせよ私は喋らないと思うのだが、ぺルレが心配である。
 ところで寝ずの番をしていると、発光する小さな人間?を見つけたのだが、これはもしや妖精ではないだろうか。妖精の世界で妖精を見つけたとは縁起が良い。明日スリジエに自慢してみようか。

転生74日目
 それはピクシーだよ、と諭されてしまった。
 そろそろドワーフの国への入口が見えるというが、見渡す限り岩山である。踏まれ続けていたのだろうが、今まで走ってきた道はある程度舗装されて道と分かるようになっていたが、途中から岩山に入った辺りで怪しくなった。また迷子は勘弁してほしい。
 と思ったのだが、ある壁に張り付いた大岩の前でスリジエが「タフト・アルアルド」と言うと大岩が独りでに動き、その奥に道が続いているではないか。まるでアラビアに伝わる盗賊のねぐらだ。
 洞穴の様な道を馬で進めると、途中から坂になっているのが分かった。それを過ぎれば洞穴を抜け、広大過ぎるほどの街が展望できた。そこかしこで響く物を造る音が少なからず反響していることから、地下であることがよく分かる。
 地下である筈なのだが、その広さは尋常ではない。あまりにも広すぎて最早視界では地下とは分からない。
 馬を歩かせ宿に辿りつき、とりあえず一泊する事となった。長旅は疲れるようだ。
 恰幅の良い女将さんから鍵を受け取り同じ部屋で寛ぐ。二部屋も取るとお金(通貨は一応ある)が勿体ないし、なにより唯一の男性が骨である。何を間違えろと言うのか。
 明日はある高名なドワーフに頼んでいた女王イヴが使う剣を取りに行くらしい。重要なのかそうでないのか私には少し分からないが、まぁ重要なのだろう。私もついていくことにする。



著者:骨









後書き
 少々急ぎ足のためクオリティが大分下がったような。
 コメントを返してこそいませんが、感想は読ませて頂いております。皆様、骨が好きな紳士淑女なようで何より。
ところでデモンズソウルってした事ないんですが、そんなに骨が強いのでしょうか…。



[29814] 骨と斧/5
Name: 家守◆8cd86407 ID:9b536fd9
Date: 2011/09/28 20:34
 カァン、カァンと高く重たい音が響く。聞き慣れた音だ。
 一振り、一振りと愛用の鎚を振り下ろす毎にワシを魅了してやまない火花が飛び散る。とても官能的で、妻こそおれども我が生涯の伴侶はこの火花のみと決めておる。……妻とてその事はよく分かっている筈だ、アレは出来た女だからな。

 一振り。

 そもそも我らドワーフとはそういうものだ。物造りに生き、職人として死ぬ。妻とて家具造りに精を出し、それを生業としている。ワシの場合は鍛冶であるだけに過ぎん。

 一振り。

 しかし悩みは相応にある。いくら己が最高の腕を持ったと自負していても、それを伝えなければ意味が無いのだ。それをあの愚息は、あろうことか母親の後を継いで家具職人として生きる等と……。
 いつからあんな軟弱者になってしもうたのか、さっぱりだ。妻に育児を任せっきりで、関与しなかったのが悪かったのか。

 もう一振り。

 ……よぉし、これでいい。
 細身で、まだ形が整っていないながらも十分に魅力を放つ剣。これが完成すりゃあのダークエルフにぴったりのもんになるだろうよ。
 
 ダークエルフの国、オニクス王国の女王の剣、今までのワシの全てをつぎ込んだ代物。ふん、まさかこんなもんを造ることになるとはな。
 ダークエルフ、あの戦闘民族。頭にいらんもんを詰め込んだだけで偉そうにするエルフ共も鬱陶しいが、脳味噌まで筋肉で出来てると疑っちまうくらいに物の良さってのが分からねぇ奴ら。その女王自らが突然やってきて、何を言うかと思えば面白い事を言ったものだ。

――私(わたくし)の剣を造っては頂けないか。

 国の頭が直接来て言うようなもんじゃない。しかしこっちも職人、帰れと一言言ってやれば十倍になって返ってきやがった。

――ダークエルフの王とは、その全てを凌駕する最強でなければならない。私は飾りではなく、真実王である。故に、最強であるこの私の武具を造るべきは最高と名高い貴方にこそ相応しい。

 良い女に久しぶりに会ったね。鍛冶仕事にゃぁ及ばんが、妻もあんな女だ。だからこそ一緒になった。まさかあんな女が世に二人といるとは思いもせんだが……。
 あれは確かに女王だ。剣で言えば、華美なのは鞘のみ。中身は鋭く無骨な剣だ。
 噂通りの美貌だが、ワシからすれば中身の方がよっぽど美しいね。


 ……あぁ、冷えたか。なら形を整えねぇとな。
 もうすぐ、もうすぐこの世に至高の剣が生まれるぞ。見ろ、精霊も喜んでおられる。

 興奮しながらも感覚を研ぎ澄まそうとした時、愚息の声が聞こえた。

「親父ぃいいい!」

 何を叫びやがる五月蝿い奴だ。舌打ちして返す。こっちは忙しいんだ後にしやがれ。

「うるせぇっ、叫ばなくたって聞こえらぁ!」
「嘘つけ、いっつも聞こえねぇ癖に! 客だ、親父にお客さんだぁ!」

 なに?
 訝しむ。この時間に訪ねて来るような奴らはワシの知り合いにいねぇ筈だが……。

「忙しいんだ帰ってもらえ!」
「ダークエルフの使いだっ、出てきてくれよ!」

 そういうことか、納得して舌打ちをもう一つ。
 恐らくこの剣を取りに来たんだろう、全くせっかちな種族だ。これだから脳まで筋肉は。

「……仕方がねぇ、連れて来いっ!」
「え、親父が来るんじゃなくてっ?」
「文句あるか!」
「わ、わあったよ!」

 すっかりしらけちまったが、続きとするか。
 しかしオニクスの使いか。寄越すのは数ヶ月後と聞いていたんだが……そういえば今はいつごろだ。
 たたらから出ねぇから全く分からん。もしや、もうそんなに経ったのか?

「まぁどうでもいいこったな」

 そうであっても急ぐことはない。納得いかねえもんを造ったとしても、ワシが許せん。これで良いなどと抜かした時はその場で剣を叩き割ってやるほどだ。

 音が響く。

 カンカン、コンコンと軽くて小さな音だ。だからといってここで手を抜くような奴は鍛冶師を名乗る資格はないね。いたらそいつの両手を圧し折ってやる。

 小槌を置き、荒い砥石に持ち替えて剣の表面を整える。

「もし。こちらに案内されましたオニクス王国女王様より使わされた者でございます。『アダムスミス』ハダード殿でしょうか」

 これも慎重にしなければ刃が荒れる。それに終わったとしてもまだ整形の作業は残ってるんだ、気を抜く暇なんぞありはしねぇ。

「もし……?」

 さっきから後ろで五月蝿い奴だ、こっちは忙しいんだ分からねぇのか阿呆め。

「ハダード殿ー?」
「黙れ」
「は、はいっ!」





「……で、お前さんらがイヴの使いか。」

 生砥ぎ、銑がけ、油落としまで終わらせ、待たせていた使者達とやっとのことで対面する。鍛冶の方が先なのは当然のことだ。
 目の前には目を泳がせながら余裕そうな仕草をしているダークエルフの女、それに付き従うダークエルフの子供とローブを被った……あ?

「なんだおめぇ」

 返ってきたのは「骨」と書いて掲げられた紙。見えてんだそんなことは。それよりももっと大事な事がある。

「違う。何でお前、バスラを纏ってやがる」

 精霊が言ってくれないと分からなかったが、確かにバスラのみ纏ってやがる。それにあの斧……あれもか。血肉なんて無い奴らの癖に、だ。
 ……成程、乾燥するまでの間の暇つぶしにはなりそうだ。





後書き
間が空きました。少々忙しかったのですがとりあえず上げとこうかなと。
短いですすみません、そろそろ化けの皮が剥がれてきました。
あと作者は鍛冶の事なんて素人なので、間違っている場所があればスル―していただければ。



[29814] 骨と斧/6
Name: 家守@骨◆8cd86407 ID:bf886587
Date: 2011/10/15 02:08
 どうも最近憧憬の目線を感じる。発信元は分かっているのだが、原因がさっぱりである。
 分からない事は後に回し、とにかく次のページに日記の続きを書くこととしよう。また木を削りなおさなくても良いなどと、紙とは偉大である。

転生76日目
 昨日ドワーフの名工とやらに会いに行ったのだが、剣はまだ出来ていないという。良い剣を造るならば予定など有って無いようなものだと言い切る彼はとても職人然としていた。素晴らしい。
 まぁしかし刃の部分は大抵終わっており、後は装飾や鍔、鞘などの周りの物を他の職人が造ってくれるそうだ。ところで刃を見せてもらったのだが、反りや波紋がある片刃の剣、という明らかに日本刀の形であった。どういうことだろうか。
 なにはともあれそう言う理由では仕方ない。とりあえず宿に戻り、明日は観光でもするかという話しになった。
 しかし女性は風呂が長いな。私も入ってきたが、感覚を失っているのが恨めしくなったのは今日が初めてかもしれない。

転生77日目
 この地下帝国、聞いてみれば面白いもので、職人気質のドワーフ達が地上を疎ましく思って勝手に集まって造ったという。王は居らず政治は無く自由に暮らしており、今でも拡張工事が誰かの手によって勝手に進んでいるという。良いのだろうかそれで。
 王は居ない、と言ったが、神は居る。見たことこそ無いが、ドワーフ達が一心に信仰している神、ブラウニーがこの地下帝国を見守ってくださっている、らしい。私にはよくわからないが、元々争いを好まない者たち故の無法国なのだろう。
 そういえば昨日書き忘れたが、私の斧も名工ハダードさんに預けている。何でもバスラを纏う武器など珍しい、儂が鍛えてやるわとのこと。ついでに私も鍛えられそうになった、恐ろしい。
 完成すれば息子さんが伝えに来てくれるとか。大体三日ほど、と聞いた。女王の剣とは凄い差だが、そんなものだろう。
 さて観光だが、正直物珍しい物ばかりでそれが普通に見えてくるほどだ。少し行った街角では自分で造ったであろう何か凄い形のオブジェが並んでいる。曲がりくねった何か、動物と動物を合わせたキメラのような何か、とても大きな蛇のような何か……それはアスガルドで見た翼の生えた蛇だった。ラプシヌプルクルと書いてあるその横には、先日のドラゴンまであった。そういえばあのドラゴンはどうしたのだろうか、もう腹の中は勘弁だが、一度見に行っても良いかもしれない。
 遠くの露店ではアクセサリーを売っていたのだが、これまた素晴らしい出来である。ラピスラズリであろう宝石を研磨して嵌め込み、銀細工の紐で造り上げられたネックレスや、溶かして引き伸ばしたと思われる円環状の石・真鍮・真珠・ダイヤモンドを、四層に重ねている物。何故重ねたのかさっぱりだ。不純物が混じっていなかった辺り凄いと思うのだが。
 その中でも、透き通った水晶のイヤリングをペルラが欲しがった為、スリジエが買ってあげていた。私が一文無しなのは分かっているが、こういう時は少しばかり申し訳なくなるな。スリジエ自体も同じ物を買っていたが。
 あぁ、貨幣自体はピクシー除く妖精種共通だそうだ。
 後はそうだな、広場に行けば前世のウォータースライダー並みの滑り台があったことに驚いたな。曲がりくねって逆に滑りにくそうだった。ピクシー達がどちらが先に滑るか言い争っていたが、滑らない方が懸命だと思う。
 ペルレはそんなものに興味は無いようでまるで滑り台を見なかった。それよりも喧嘩を見ていた辺り、やはりこの子もダークエルフだということだろう。
 一生分、いや生きてはいないのだが、それほどまでにドワーフの国は驚きばかりだった。スリジエなど眼を輝かせていた。彼女は来たことがあるのではないのかと思ったが、観光は初めてだそうだ。そういえば女王の使いが帰らなくても良いのかと思ったが、剣を受け取るまで帰れないという。
 なんにしても有意義な一日だったとして、寝るとする。しかし女性の風呂は長い。あれだけ血気盛んでも身嗜みは大切のようだ。

転生79日目
 斧が出来たと息子さんが伝えに来たので、受け取りに行った。
 来たかと大きく重い声で迎えてくれるハダードさんは、どでかい斧を手に持ってこちらに向かってきたのだ。どでかい斧、まさかアレがと思ったがその通りだった。
 目測だが伝えよう、柄の部分六十センチ、刃の部分九十センチ。全長一.五メートルぐらいだ。いやおかしい。
 そもそも刃の部分が柄より長い時点でおかしいのだがそれは置いておく。凄いところはなんと柄も鉄で出来ており、更に刃の部分は木こりのようなものではなく戦斧のような分厚いものである。あとどこか禍々しい。明らかに戦闘目的であり、明らかに人間が持つ物ではない。そういえばこの場に人間は居ないことを思い出した。
 そんな物を軽々と持ち上げるハダードさん、ほほうと感心するスリジエ、キラキラと素晴らしい物を見るような眼で斧を見詰めるペルレ。もしやすれば私はエルフ達の方が分かり合えるかもしれないと思った。
 しかし、少々重いがお前なら大丈夫だと言ってくれ、その通りであったことも含めれば私はやはりエルフには敬遠されるかもしれん。
 何でもこの斧、バスラを取り込んだ特別製であり、炉に入れている内にバスラが炎の気質を持ってしまったために、それを取り込んだこの斧は炎を纏うとか。久しぶりに要望無しだったから好き勝手にやっちまったと笑っていたハダードさんは職人のお遊び心もある、確かに名工だ。
 炎を纏えば熱が鉄を伝わって柄も熱くなるという。確かにこれは私くらいしか使えないな。しかしこれは欠陥品なのかそれとも専用武器で良いのか……。そういえば私が鍛えられれば、私もこのような鉄ばかりの炎を纏う骨になっていたのだろうか。空恐ろしい。

転生80日目
 記念すべき80日目だが事件が起きた。いや記念していいのだろうか。
 まぁ事件だが、ペルレがハダードさんの工房から武器を持ち帰っていたのだ。本人曰く「地面に落ちていたから拾った」と言っていたが、ワープホールを使って宿から直接取った辺り窃盗である。すぐに謝りに行ったが、お遊びで造ったのだから別に良いという。ちゃんと使いこなしてくれればそれで良いと。懐が広いドワーフである。
 喜色満面の顔で武器を振り回すペルレは見ていて微笑ましい。取ってきた武器は大鎌という珍しい物であるため中々扱いきれず、時々私に当たるがまぁ仕方ないだろう。
 ところで宿の従業員らしき女性ドワーフは、怖々とした仕草で食事の旨を告げてくれたのだがどうしたのだろうか。
 しかし明日はどうしたものか。散歩くらいしか思いつかない辺り私も娯楽の引き出しが少ないのだと感じた。とりあえず寝るとしようか。風呂はもう入らないことにした。
 あと、そろそろ私の肩甲骨に大鎌が当たっていることに気づかないものだろうか。嬉しいのは分かったのだが。

転生84日目
 どうにもやることが無いので、私は散歩、ペルレは鍛錬、スリジエはその付き添いということでこの数日は過ごしていた。
 そんな中、朝起きるとピクシーが私達を訪ねてきたという。誰だと思って会ってみれば、彼はピカロと名乗った。
 ピカロはハダードさんの大親友であり、彼が名工である裏には彼の尽力もあるとか。どうも一行で纏められそうにないほど喋られると途中から聞き取りづらくなって困る。彼はお喋り好きのようだ。
 何でも私の斧がバスラを取り込むようにしたのも彼だという。
 で、彼が何をしに来たかというと、女王の剣が出来たので取りに来てほしいと。彼らの凝り性にしてはどうも早くないかと思ったが、元々規格は決めており、その中でどれほど完璧な物にするかを凝っていたためこれほど時間がかかったとか。
 道中でピカロの喋り過ぎにペルレが辟易するなどもあったが、ハダードさんに剣を見せてもらえた。
 おお、と感嘆の声を上げた二人のダークエルフから察するに、本当に素晴らしいものなのだろう。残念ながら後光が眩しくて私には見えなかった。成る程これはあの女王に相応しい。むしろあの女王以外所持してはいけないのではと思うほど似合うだろうとも。
 剣の評議に盛り上がる四人を見て疎外感を少し覚えたのは、おかしいことではないと思う。

転生85日目
 今まで世話になっていた宿を後にし、馬を駆って元来た道を戻ってきた。今日は森の岩陰に身を寄せて寝ると言う。火を起こし、川から魚を獲って焼く。ところで私の斧は火をつけるのに便利だった。
 ペルレはこんな時も鍛錬を欠かさず、今日はベアを仕留めてきたと喜び勇んで帰ってきた。もう魚を獲った後だったので処理に困ったが、スリジエが塩揉みして日持ちするようにしてくれた。彼女は良い嫁さんになるのではないだろうか。

転生88日目
 やっとのことで王都に戻ってきた、喧嘩の様子も懐かしい。女性のダークエルフが男性のダークエルフを踏みつけていた。勝者を称える声が聞こえる。
 今日は疲れたので身嗜みを整えて明日謁見して剣を献上すると言う。私は別に同伴しなくとも良いはずだが、王都に帰ってきたときに衛士に私も来いと言われてしまった。何なのか気になるが、はて。

転生89日目
 さて女王である。いつも通りの輝きで安心すべきか否か、しかし眩しい。
 彼女に対してスリジエは最大限の礼をしながらも自らの手で献上することを許されたそうだ。周囲のどよめきと賞賛が耳に入る。いや無いが、聞こえてくる。ちなみに私は常に頭蓋骨を垂れている。ローブについたフードを被ってもいいと言われている辺り寛容な方なのだろうか。
 頭を上げて良いと聞いて眼孔を向ければ、いつもより一層輝いている女王が。眩しい剣に眩しい女王で足し算されたのだろうか。
 そして私への用件だが、先の一件で信用できることが分かったのでアスガルドに帰ってもいいという。口実が出来ればすぐに帰す辺り中々適当な国である。あといつでも来て良いそうだ。
 私が帰る、と聞いて少し落ち込んでくれたスリジエはそれでも笑顔でまた会おうと言ってくれたが、問題はペルレであった。なんと言えば良いのか、あのように慕ってくれているペルレを放って帰るには少々頭を悩ます必要がある。

転生90日目
 さてはてペルレは予想通りに大暴れ。絶対離れないと言ってしがみついてくるのだから困った。再び来れると言っても聞きはせず、どうしたものかと思っていればスリジエが提案してくれた。
 ついて行けばいい、と。
 私はあちらでは完全に自給自足であり、むしろ食べなくても良いので生きて、まぁ生きていけるが、ペルレはそうではないのだ。それは些かどころではない問題だと言ったのだが、ペルレはついて行くと聞かない。
 仕方ないので連れて帰るとする。どうせといえばアレだが、恐らくすぐにアルフヘイムに戻ると言い出すだろう。こちらでもスリジエがいるのだ、戻ることに何の問題も無い。
 それにアルフヘイムの入り口と私の家は近いのだ、飢え死ぬこともそうあるまい。獣は自己責任だが。
 さて久々の帰郷?となるが、爺様は元気…だろうな。あとはウェアウルフ達に占拠されていなければ良いが。
 明日に備えて寝るとする。


著者:骨








後書き
 ゼノブレイドってやり始めると99時間以上しちゃうね。
 あとDOD2は黒歴史なので記憶から消去していますすいません。



[29814] 骨と斧/7
Name: 家守@骨◆8cd86407 ID:6239cb56
Date: 2011/11/03 05:09

 最初に彼の者を見た瞬間から、気がつけば私は跪こうとしていた。

 骨。

 動く骨、ただそれだけだというのに、何故かこの身体は膝をつき頭を垂れようと、彼の僕(しもべ)となろうとしていた。
 なぜだろう、と自問したとしても何れは違う思考へ飛び、まるでそれが当たり前であるかのように私は彼に礼をつくした。仲間内で長と呼ばれているこの私が、頭を垂れるのだ。当然仲間達は共に彼の僕となった。

 ただ、悪い気分ではない。まるで元から定められていた主が見つかったかのようだ。我々は孤高でありながら従うモノ。その為の意思疎通の技であり、その為の肉体なのだと先祖から教わってきた。
 ならば、付き従うのも悪くはない。彼が真に我の主足る者であれば。それはまだ見極めが必要ではあるが、強さであれば私の方が強いであろう。彼は遅い。余りにも遅すぎて、彼が斧を一つ振り抜く間に私は三十程は彼の周りを走られる。
 他には何が有ろうか。統率力、知力。いや、そんなもので計るものでもない。
 私は彼についていきたい。それで良いのだろう。

『アルジ、カエッタ』

 仲間の一人だろう。森の中を我々に通じる遠吠えが響き渡った。
 主が帰った。つまり、我々が今拠点の中心としているこの奇妙な建物に住む彼が帰ってきたのだろう。噂をすれば影、と教えてくれたのはダークエルフだったか。

 私は、いや我々は元々は森深くにある岩場を拠点としていたのだが、彼が主と仲間内で広まってからは私はこの付近を拠点に移した。彼が主であると定めたのならば、我々は彼を中心とせねばなるまい。
 この建物はよくクマやサルに襲われるので、それから守る意味もあるが。

 まあ主が帰ってきたというのだ。私が出迎えなければなるまい。

 通常……私の通常の速さで森を移動し、奥へと進む。中々小枝が鬱陶しいが慣れたものだ。
 ほれ、もう遠目には特徴的な白さが見える。それから……

――ダークエルフの雌?

 以前の、我々とよく交流する者とは違うようだが、気になる。そしてこれは予感だが、あの雌とはあまり良好な仲にはなれそうにないな。
 まぁ主も色々と変わっている。あの雌とて主の傍にいるというのならば仲間としなければならないだろう。気性が激しいトロルよりも厄介そうな予感はするがな。
















――彼には色んなものを与えた。


 例えば、味方。忠実な忠実な、彼だけの味方。
 例えば、力。それは武器であったり、身体であったり。
 例えば、運。彼が強くなるように、都合が良いように。

 これであたしは、そうよあいつに勝てるわ。あたしの、このお気に入りが負ける筈が無いもの。
 それに、罪滅ぼしもある。あたしにまだそんな感情、罪悪感……なんて残ってた、とはね。
 まぁ、もう仕方ないから。だからあたしはやろうとしたことをするだけなのだけど。

 でもきっと、酷い顔をしていたでしょうね、前のあたしは。

 許してちょうだい。許して。その分だけ、愛を注ぎますから。だから、許して下さい。
 愛をあげますから。だから。だから――。


 ……【白】には、絶対に負けるものか。










後書き
 ほんとすみません凄い短いですほんとすいません。
 なんでかというと単に思いつかなかった。1ヶ月程放置してこれとか。
 つ、次は長くしますので! あと何だったら設定集載せますが。



[29814] 骨と斧/8
Name: 家守@骨◆8cd86407 ID:00a541f8
Date: 2011/11/21 11:16
 やはり土は故郷に限る。いや、あちらも土には変わりないのだが……やはり雰囲気というものがあるのだろう。多分。
 さて、蝋燭にも劣るが優しい優しい月の光だ。常に照らしてくれているのだから、ゆっくりと書こうか。

93日目
 もう頭二つの言葉も取ることにした。私が分かれば良いだろうと思う。誰かに見られるために書くわけでもない。
 さて帰郷だが、予想外にも程がある展開であった。ウェアウルフが私に跪いて従う素振りを見せ、更に私の家は祭壇(彼らからして)となっていた。トップであろう銀のウェアウルフ(以降、勝手に銀狼と呼ぶ)は凄まじい速さで私に近づいて傅き、イメージでもって「私を主とする」と伝えてきた。イメージが月を背にしてウェアウルフ達を鼓舞する私、という図だったことになんとも言えなかったが、それは置いておく。
 しかし困った。明らかに私よりも格上(人?格、実績、実力において)の銀狼が私を主というのだ。違和感が拭えない上、私にウェアウルフを率いろと言われても正直無理な話である。とりあえず銀狼に、お前に任せると言っておいた。
 困惑ばかりであるが、無理もないと言わせて貰う。心理的には浦島太郎現象なのだから。アルフヘイムに行く少し前までは敵であったのに、帰ってきたら私が主になっているとは思いもしまい。
 幸い家の中は何も変わっては居なかったので、ペルレと共に不貞寝した。

94日目
 昨日書き忘れたことを今日書こう。
 まず1つめ、ペルレと銀狼がなぜか仲が悪かったこと。最初はお互い睨み合う程度だったのだが(それでも不思議だ)この4日だけでもう会うたびに眼を逸らして見たくもない状態である。一体二人の間に何があったのかとても気になるが、ペルレに尋ねても「何もない」と返ってくる。少しだけ、親離れした我が子を見る気分になった。
 2つめ、翁様のことである。
 彼の様子を見に行ったところ、一切として変化無し。まぁ1ヶ月くらいだろうか、そのくらいしか経っていない筈なので当たり前だが。ただ彼に変化は無かったが、彼が背を預けている大樹の幹に、なにやら呪文のような角張った記号の羅列が刻まれているようだった。前は無かったのだが、これは一体なんだというのか。見ていたらすぐに消えた辺りも謎だった。
 まぁ彼は何も問題ないだろう、そして3つめ。
 子供を拾った。
 あれは翁の様子を見て、森を歩いていた帰り道。変哲も無い木立の傍で黒ずんだ耳長の子供が蹲っていたのだ。すわダークエルフの迷い子かと助け起こしてみれば、目は空ろに宙を漂い、口は半開きで唾液が垂れていた。黒ずんだ肌はよく見れば焼け痕である。そして服も着ていないとはただ事ではないので、家へ連れ帰った。火傷に効くと銀狼が持ってきた薬草をすり潰して肌に塗り、何度か呼びかけても返事をしなかったが呼吸をしていて心臓も動いているので安静にして寝かせておいた。布団などと気の利いたものはないので一角熊の毛皮である。ウェアウルフ達が使うわけではなく、これはウンババ族(なんとあの時の原人達のことだ)がウェアウルフたちに送った物だ。あの熊の毛皮は結構暖かかった。あの時死体を放置したのを悔やまれるがもう遅い。
 このままこのアスガルドに住む種族を書いていっても良いが、看病で書く気力が無いので明日にしようか。

95日目
 さて書こう。私は約束を反故することはあまり無いのだ。
 あの少年、拾った子供は男であったので少年と書くが、少年は大体ペルレくらいの年であろうか。黒ずんだ肌は一見ダークエルフに見えるが、ペルレに言わせればエルフだそうだ。全身焼かれた肌なので見分けがつかなかった。
 今でこそ眠っているが、空ろだった少年を寝かすことなど難しい話で、更に彼は意識を取り戻してすぐに暴れ始めたのだ。ペルレが鎌の柄で容赦なく打撃したので気絶したが、そのまま眠ってしまったのである。相当疲労していたとわかった。しかしペルレは容赦が無い。「殺してしまったのか」と思わず聞けば「それならちゃんと首を撥ねますので」と言われてしまった。尤もである。
 話を戻そう。私が書こうとしたのは経過報告ではない。
 このアスガルドだが、種族としてはアルフヘイムからは七種と定義されている。これはアルフヘイムと交流のあるウェアウルフも認めているので実質共通認識だ。
 七種というのは、ドラゴン・ウェアウルフ・トロル・バルバロ・ツヴィ・ウンババ、そしてなんとスライムである(種省略)。
 順に書こう。私の頭も混乱するからだ。
 ドラゴンはそのまま、翼を持ちブレスを吐き精霊を従える所謂「最強種」である。力が強くて外皮は硬く、まず勝つことは出来ない。私は胃の中から指を突き刺しながら喉から這い出たのでドラゴンが悶絶してくれたのだが、普通はこうはいかない。というかそもそも食べられたらアウトだが。
 ドラゴンは基本的に個別で動くようだ。
 ウェアウルフ。これは今までも会ったように人狼だ。正確には人のように二本足で起立して集団で動く種族。これはいいだろう。
 トロル。私が以前撃退した奇妙な亜人だ。彼らは幼少から老成していくにつれて強くなるらしい。老いるほど強いというのは羨ましい。
 力は見た目どおりに強いが、知能は低く、少々の交流を持つウェアウルフ達
にさえ襲い掛かることもあるという。こちらも集団行動だが、たまに個別で動く種がいるという。
 バルバロ。これは人魚といったほうがいい。つまりは水棲種であり、水中でしか生きれない種族だ。雄は魚が人の形をしているだけだが、雌は上半身と下半身で人と魚が綺麗に分かれているという。音波で攻撃してきて、さらに水中では最速。ウェアウルフでさえ敵わないとか。比較的温和で、ウェアウルフとは良い付き合いが出来ているようだ。
 ツヴィ。簡単に言うと動物だ。たとえば前に出会った一角熊や手長猿がこれに当たる。知能は無いに等しく、ほぼ本能で動く。
 さてウンババ。先述の通りに以前出遭った原人であり、私を洗脳してウンババした種族である。
 実は彼ら、かなり知能が高く、種特有の言語で喋り(これは他の種も同じであるが)絵を描き、神を崇拝し、ウェアウルフに贈り物をし、火を扱う。個体数はウェアウルフと同数程度だが、きっと彼らは真実原人なのだろう。恐らく未来には人間になろう。ちなみに神の名はウンババである。
 最後にスライム。「最強種」である。
 これは「とても強いから勝てない」ではなく、「絶対に倒せないので勝てない」ということだとか。
 彼らの攻撃手段自体は少なく、溶解液を生成(飛ばせない)、固定形を持たないが為の変化能力、そして自身への呑み込みである。移動は遅く、知能はほぼ無い。だが、物理的な攻撃は一切通じず、更にバスラを取り込み増えるらしく、魔術を受けると分裂するという厄介さだそうだ。
 故にこその「最強」。
 ちなみにこれらの情報源は、分かると思うがスリジエだ。彼女はアスガルド中を走り回り、エルフ国への出入り口と共に様々な生物を発見、研究しているらしい。中々好奇心旺盛なことだ。
 さて、書き続けたことで私の指も気持ち疲れてしまったようだ。今日は筆を置くとしよう。

96日目
 少年は未だ目を覚まさない。
 ペルレは少年に興味が無いのか、鎌を持って遊んでいるのか特訓しているのか、とにかく振りまわしている。時々ウェアウルフがそこらへんに転がるが、死んでいるわけではないので放置。
 ところでペルレはいつまでいるのだろうか。
 ここは文明など無いに等しい。風呂は河で水浴び、食事は焼いた肉や水で洗った生野菜、布団はごわごわとした熊の毛皮。トイレに至っては茂みだ。女の子であるペルレにはさぞキツイであろうに。
 私は骨であるからして。
 まぁしかし、彼女が帰りたいと言うまでは別に私から言う必要もあるまい。死にそうにでもなれば話は別だが、そのような兆候も無し。今日も元気にワープホールを造っている。
 特に何も無い日であった、まる

98日目
 三日にしてやっと目を覚ました少年。ここがどこだかさっぱり分からない状態で、私を見た途端に怯えて恐慌状態に陥ってしまった。失敬な少年である。
 怯える少年に斧を突き付けて宥め、とりあえず事情を聴くことに。斧の役目はペルレが引き継いでくれたので、私は安心して少年に近付いて穏やかに話しかけた。鎌の刃を首に掛けられている少年というのはシュールだろう。これで私という骨が混ざればただのお迎えだ。
 さて顔を引き攣らせながらも落ち着いてくれた少年によれば、火傷はただの事故だが、その後ダークエルフのように肌が黒ずんでしまった彼は、両親が焼け死んでしまったこともあってこの場所に捨てられてしまったらしい。正確には森の入口。そしてふらふらと彷徨っていると疲れてしまって蹲ったところ、私が以下略。以下略、便利な言葉である。
 見寄りもない(そもそも頼れない)、行く所が無いということでここに置くことに。ダークエルフが云々と言っていたがペルレは容赦なく首に傷を付けたところで黙った。火傷の痕はそこにもあるのでかなり痛かったようだ。そもダークエルフに命を握られた状態でダークエルフを侮辱(教育の賜物)できるこの少年も中々肝が据わっていよう。いらん肝だ。
 ところでエルフも長寿だったか、と彼に年齢を聞いてみれば、三十六とこれまた年上。ちなみにペルレは三十二であるからペルレよりも年上だ。それがどうしたと言うような事だが。
 しかしこのエルフ嫌いな少女は、それが気に食わなかったらしく顔を嫌悪に歪ませながらカタカタと鎌を震わせていた。それに釣られるように震えている少年が何とも哀れだったので、そろそろペルレに鎌を離させた。不満そうではあったが、一つ撫でてやると笑顔に戻ってくれる。何とも可愛らしいではないか。
 恐怖の眼で見てきた少年は放っておく。
 とりあえず安静にしておけと言って寝かせておいた。まだ疲労していたらしく、とりあえず寝る事ができたようだ。うなされているのはご愛敬。
 とりあえず近くにいた銀狼に、この近くにあるエルフの里への門はどこかと聞いてみれば、案外すぐ近くにあるらしい。私が前に探索と称して行った草原、その中途にあるという。
 まぁエルフにも興味はある。明日辺りにでも行ってみようと思う。ただ、今日はもう遅いので、寝るとしよう。さっきからひっついて離れないので、ペルレも一緒に寝るようだ。

九十九日目
 そういえば我が古き故郷日本には、付喪神というのが居たなと思い出し、折角なので九十九と書いた。漢字表記は格好良いな、うむ。
 付喪神といえば、この斧にも付くのだろうか。長く使えば宿るそうだが、こんなものが意思を持てば大変なことになりそうである。
 斧といえば、実は今は草原の中途、つまり昨日書いたようにエルフの門を前にしているのだが、中々辿りつかなかったので野宿である。近い、というのはあくまでウェアウルフの感覚であった。
 話を戻して、草原を横切る際、前に出会ったであろうのドラゴンに出くわした。なぜ前の個体か分かるのかというと、私を憎々しげに見ていたので何となくだ。食べたのはそちらであろうにという言い訳は通用しなさそうである。
 で、実はその斧であるが、ブレス(このドラゴンは火ではなく冷たいブレスであった)を吐いてきたので、とりあえず反撃とぶん回して足に当てた所、爆発を起こしてドラゴンが倒れたのである。外皮が堅い筈なのだが、このドラゴンが特別弱かったか、足が特別弱かったか、この斧がおかしかったのか。三番目が明らかであるが、倒れたドラゴンは私に怯えた目を向けて飛んで逃げ去ってしまった。足に当てたのはただ単に身長の問題だったが、これが腹や頭であったならば多分あのドラゴンは生きていまい。命拾いしたな、とでも呟けばよいのだろうか。
 そういえばスライムもいたが、こちらは話通りに勝てなかった。何だあれはと言いたい程分裂されてしまった。スライム達の足の遅さが幸いして逃げ切れたが、敗北感は否めない。ありゃ勝てぬ。
 さて門であるが、ダークエルフ達が静寂に埋もれた深緑の門。大自然の中に佇む古びた神殿の門の様だったが、エルフ達は真逆の様な神々しさ。二つの巨大な柱(何か装飾やら文様やらがあるが、私にはさっぱりであった)があり、その間に光で出来た巨大な門、例えるならば王宮の正門のようなものだ。それが草原に佇んでいるのだから、違和感はあるが、酷いものではない。
 ちなみにこの門、ダークエルフもそうであったが、基本的にエルフにしか反応しないようだ。あちらから来てくれるか、私の様に許可証(ブレスレットである)を持っていないと入れない。今回この扉を開いてくれたのはやはり少年。名は何と言ったか、そういえば名乗ってもらっていないような気がする。以降はジョン(仮名)と呼ぼう。
 ジョン(仮名)は、エルフの国に行くのならば自分の仇を取ってくれと言った。同種族とはいえ、知り合いとはいえ、だからこそ両親が焼け死に、更に肌が黒ずんだだけとも言える奇跡的に生き残った自分を「黒いから」と森に捨てたやつらの事は許せないらしい。あんなに手の平返しが早いとは、と半ば絶望している。
 ペルレはまぁ、いつも通りだ。
 あぁ、また日記にあるまじき長さになってしまった。明日は短く書いてみようと思う。反省は大事だ。記念すべき百日目でもあるのだし。

100日目
 町を滅ぼした。



著者:骨





後書き
 ぶっちゃけほぼ行き当たりばったりなので、矛盾があったら嬉々として報告お願いします。ある程度の道筋は出来ていますが、ジョン(仮名)は昨日思いついた。



[29814] 骨と斧/9
Name: 家守@風化◆8cd86407 ID:2a75c05a
Date: 2011/12/23 18:32
 ピクリ、と一度だけ小さく震えて、ページをめくっていた手が止まる。逡巡するように間が空いた後、ぺらり、と一枚だけめくった。
 インクを零した、にしては恐ろしく丁寧に塗りつぶされた真っ黒のページが書をめくる人物の眼に入る。軽快に書かれていた文章が今にして突然塗りつぶされている謎、を無視したかのように人物は次のページをめくる。

 その人物は『墓守』と呼ばれた。呼ばれた、と言っても誰かがそう呼んだわけではなく、何者かがそう決めたわけでもなかった。ただその人物はいつの間にか『墓守』だったのである。

 『墓守』が手を動かすたび、白磁に囲まれた宮殿の如き部屋に紙をめくる音が響く。よく音が跳ね返る部屋だ、死んだように静まりかえっているからだろう。
 ぺらり、ぺらりと一定の速度でめくっていく手は止まらない。遂には白紙が続くようになり、『墓守』はそこで紙束をパタンと閉じた。意外に薄く綴じられたその紙束はボロボロになっているが、そこまで年月が経ったようにも見受けられないため不自然だった。まるで誰かが手荒に扱ったかのようだ。

 『墓守』は紙束を表返し、丁寧に机……とても綺麗な、しかし寂しい程何も無い白い机……に置いた。踵を返し、入口へと消えていく。用は済んだとでもいうのだろうか、『墓守』は一切として振り返らなかった。
 部屋に残されたのは寂しげに佇む机と、ボロボロにされた一冊の日記だけだった。









 不意に、白磁の部屋に淡い光が浮かび上がる。白い光がキラキラと舞う姿はあまりにも幻想的に過ぎて、むしろ毒々しい雰囲気を醸し出していた。白い闇、とでも言えば良いだろうか。
 その光が段々と形を成すと、そこには一人の少女が姿を現す。
 黒、という印象が強い少女だ。艶やかな漆黒の長髪、黒を基調としたゴシックドレス、黒曜石を思わせる瞳。肌は白いものだから余計に黒が際立っていた。
 一言で言えば美しい少女。しかし敢えて悪く言うとなれば、不気味な少女である。

 彼女は、宙に浮く光から部屋の床へと着地した後、何かを探すように部屋を見回す。キョロキョロと首を巡らす姿はまるでただの少女のようだが、彼女が纏う雰囲気は凡人が纏うソレではなかった。
 やがて探し物を見つけたのか、輝くような笑顔と共に机へと駆け出す。探し物とは、紙束、つまりボロボロの日記であった。

「あぁあった、あったわ。これをちゃんと保護しておかないと……ちゃぁんとあたしが持っておかないと、ね」

 だってだって、と呟いて彼女は愛しい人かのように日記を大事に抱きしめた。暫く髪を振りまわしていたが、しかし彼女は不意に元気を無くし、忌々しそうに呟く。

「……どうしましょ、【白】にばれたらとられちゃうかもしれない。【白】め、くそっ、あたしの邪魔ばかりしやがって。不愉快な奴……!」

 次いでギリギリと爪を噛み始めた。形の揃った汚れを知らない爪が噛まれることによって少しずつふやけていく。
 その怒りは、事態が思い通りに運ばないことではなくただ一人に対する怒りと恨みが大きく占められていた。

 なぜどうして、と考えることなどなく、彼女は【白】と呼ぶ者への次なる攻撃を編み始める。それだけ彼女は【白】との付き合いが長いのだろう、もはや理由を思い出すことも無く【白】を打倒、いや勝利するための思考を廻らしていた。

(あれも駄目、これはやった。……もうっ、思いつかないわね。ちょっと帰って紅茶でも飲むとしましょう……何か…良い案が――)

 独り言を呟きながらも来た時のように光の群れに姿を変え、音も無く消え去る。


 後に残ったのは、いつの間にか部屋の中央で佇んでいる『墓守』。『墓守』は、唯一つ部屋で自己主張している机をただ見ていた。










後書き
 来年までには1章『骨と斧』書き上げたかったりするんだけどもね。頑張ります。短いのに何で時間かけてるんだろうね。


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