~プロローグ~
今際の際に思い出される事は、これまでの人生の色んな事だと聞いていたけれど、私の場合はバスケットボールの事ばかりだった。
国際大会に日本代表として出場する予定で、アメリカへの空の旅を悠々自適にチームメイト達と楽しんでいたのだけど、あっという間にその楽しい空間は阿鼻叫喚の修羅場と化した。
何が何だかさっぱりわからないまま機体が傾き、落下のGが身体を押しつぶそうとしてくる。咄嗟にシートベルトはしたけれど、そんなものでどうにかなる程状況は全然甘くなくて。
もうダメだと思った瞬間、家族や友人の顔よりもバスケットボールでの思い出がぐるぐると猛スピードで頭を巡る。今から思えば、私はどれだけバスケ馬鹿なのかと。
初めてボールに触れた小学校時代、県大会優勝まで上り詰めた中学時代、インターハイで全国決勝まで駒を進めた高校時代。インカレでの活躍を評価されて、日本代表へと選抜された現在。
女の子としてのオシャレなんてそこそこに、私はずっとバスケットボールと一緒に歩んできた。朧気にしか覚えてないけど、このまま終わるのは嫌だと強く思ったのは確かだった。
だからなのかな、きっと私の人生は強い衝撃と共に一端終幕を迎えて……。
「……こうなっちゃってるんだよね」
「どうしたんだ、星(あかり)?」
呟いた私の言葉に、隣に座っていた兄が不思議そうな表情で問い返してくる。そんな兄に苦笑を浮かべて『なんでもない』と告げてから、私は小さくため息ついた。
現在の名前は長谷川 星(はせがわ あかり)。第二の人生で、二度目の小学生やってます。
物心ついて私という自我が目覚めたのは、4歳の頃。それはもう最初はパニックだったよ、20年の間別人として生きた記憶と、4年間の記憶が混ざって存在してるんだもの。
とりあえず必死に成人した女性としての人格が、パニックを起こしている子供の人格を必死に抑え付けて、結局私の中での混乱は収束に向かった。
なんかね、私は何にもしてないんだけど、大人の私と子供の私が合わさって、今の私の人格ができたみたい。精神の異常を起こさない様に、人間としての底力がそういう結果に落とし込んだのかもしれないけど。
でも私はきっと運がよかったんだろうな、おっとりした母親に破天荒だけど明るい父親、4つ歳が離れた優しい兄と新しい人生では非常に良い環境で生活を送っている。
後はバスケができれば、と機会を伺っていたところ、兄がミニバスケットに幼馴染の女の子と共にハマって、この機を逃すまいと私も幼児や小学校低学年の子供達が集まるチームに入らせてもらった。
もちろん知識や経験は頭の中にあれど、身体は何の練習もしていない女児。とりあえず身体を作っていかないとと、兄のランニングに付きまとったり、縄跳びとかでまずは体力づくりに精を出した。
兄――昴お兄ちゃんが優しかったのと、幼馴染の葵お姉ちゃんが面倒見のよい人だったので、遊びや練習によく混ぜてもらって。小学生にしては非常に体力がある女子に成長した。
でも普通はこれだけ運動を頑張ると身体が筋張ったり、ゴツくなりそうなものなんだけど、母親である七夕さんが非常におっとりほわわんな人で、その人の遺伝子を受けついているからなのかどうかはわからないけど、自分で言うのもなんだけど柔らかい雰囲気の美少女という外見(見てくれ)を保っている。
そんなこんなで第二の人生を謳歌していた私だったが、小学6年生になって大事件が起きた。
この事件が兄をどん底に突き落とし、そして再び這い上がらせるきっかけになるのだけど、まさか私も巻き込まれるなんてこの時の私には全然想像もつかない事だった。