中国から仙台市にジャイアントパンダが貸し出される見通しになり、被災地では歓迎ムードが高まっている。パンダは復興のシンボルになれるのか。
「クリスマス、お正月を前にして、子どもたちにとって素晴らしいお年玉になるような話が聞ければうれしい」。仙台市の奥山恵美子市長は22日、喜びをあらわにした。
パンダ誘致に名乗りを上げていた同市にこの日、強力な応援団が現れたからだ。市のスポンサー役を買って出たジャニーズ事務所の近藤真彦さんらが首相官邸を訪問。25日からの訪中を前にした野田佳彦首相から「ぜひまとめる方向でいきたい」との言葉を得て、近藤さんは「すごく明るい未来が開けた」と話した。
仙台市が動き出したのは9月。奥山市長が在日中国大使館を訪れて貸与を打診。中国大使館は「実現に努力したい」と前向きな反応を示していた。
パンダを復興のシンボルにしたい――。仙台市が参考にしたのは神戸市だ。1995年の阪神大震災の前から誘致の検討を始め、震災5年後の00年7月、市立王子動物園でつがいのパンダが公開された。復興の願いを込め、オスの名前はコウコウ(興興)。同年度の入園者は前年度のほぼ倍の約200万人になった。
最大の課題は「お金」だ。東京の上野動物園で今年2月に借り受けた2頭については、都が年95万ドル(約7410万円)のレンタル料を中国側に支払う。73年に1億2千万円をかけて建設した獣舎は、9千万円かけて改修した。えさ代も1日1頭あたり約2万5千円かかる。
仙台市は今回、5年間のレンタル料と飼育費用に加え、獣舎の建設費もジャニーズ事務所から提供してもらえることになった。
大喜びなのは、子どもたちだ。市内の仮設住宅で両親と暮らす中学3年の山田一樹君(15)は「まだ見たことがない。絶対見に行く」。別の仮設住宅の女性(34)は娘2人に動物園に連れて行くよう約束させられた。「パンダが復興を見守ってくれるみたい。元気づけられます」。一方、複雑な心境の人もいる。別の仮設住宅の男性(65)は「市にはパンダ誘致より、我々の生活再建に力を注いで欲しい」と話す。
関西大学大学院の宮本勝浩教授(理論経済学)は、仙台市近辺での1年間の経済効果を35億〜40億円になるとはじき出す。パンダのすみかになる仙台市太白区の八木山動物公園の入園者は年50万人弱。誘致が実現すれば、入園者は80万人以上と推測する。宮本教授は「子どもたちや被災者が笑顔を取り戻せば、その価値はお金に換算できない」と話す。(鈴木剛志)