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2011年12月24日(土)付

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首相訪中へ―地域の安定ともに担え

野田首相があすから、就任後初めて中国を訪れ、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席らと会談する。偶然とはいえ、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記死去の直後である。北朝鮮[記事全文]

河村流減税―市民が責任負う覚悟を

河村たかし名古屋市長が公約していた市民税の減税条例が、おとといの市議会で成立した。これで来年度から、市民と法人の市民税が5%ずつ下がる。初当選から2年8カ月。河村市長は[記事全文]

首相訪中へ―地域の安定ともに担え

 野田首相があすから、就任後初めて中国を訪れ、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席らと会談する。

 偶然とはいえ、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記死去の直後である。北朝鮮に影響力のある中国の動向には国際社会が注目している。会談の重みは格段に増した。

 日中両国の北朝鮮に対する立場は違うとはいえ、朝鮮半島の平和と安定は、双方の「共通の利益」だ。それだけに、首相は韓国、米国、ロシアを含む関係国が協調する必要性を指摘し、中国側の協力を引き出すことに全力を挙げてほしい。

 同時に会談は、日本政府が北朝鮮に変化を促す、明確なメッセージを発する好機でもある。

 日朝平壌宣言に基づいて、拉致・核・ミサイルの問題を解決して、国交を正常化したい。それは、北朝鮮の新体制にとっても大きな利益になるはずだ――と発信するのだ。

 年の瀬の首脳会談は異例だ。06年の安倍首相の訪中いらい、毎年続いてきた首脳の往来を絶やすまいという、両国政府の強い意志があればこそだろう。

 来年はいよいよ国交正常化40周年の節目でもある。東シナ海のガス田の共同開発などで、具体的な成果もほしいところだ。

 だが昨秋の尖閣沖の漁船衝突事件で冷え込んだ日中関係は、とりあえず修復されてきたが、戦略的互恵関係を実感できるほど深まったとはいえない。

 最近は、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)や南シナ海の問題で、「対中包囲網」という言葉も飛び交う。

 ただ、日本は先日の玄葉外相の外交演説で、中国を包囲、排除する意図はないと明言している。首脳間の直接対話で、地域の平和と安定にともに責任を担おうという考えを明確に伝えることが重要だ。

 外相が提言した日米中3カ国の戦略対話に向けた第一歩にもなる。首相は3カ国が連携し、対話していくことの意義や狙いを丁寧に説明し、理解を得る一手を打ってほしい。

 持ち回りの3カ国首脳会談が定着している日中韓の枠組みも生かせるはずだ。

 例えば、漁業の問題である。

 韓国の海洋警察庁の職員が中国漁船の船長に殺害された事件で、中韓の緊張関係が続いている。中国漁船の不法操業は日本の近海でも起きており、決して他人事ではない。

 ここは、日中韓で東シナ海の漁業秩序づくりや中国沿海での養殖の振興などを話し合う場を提案してみてはどうか。

 首相はあらゆる策を駆使し、日中関係を深めるべきだ。

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河村流減税―市民が責任負う覚悟を

 河村たかし名古屋市長が公約していた市民税の減税条例が、おとといの市議会で成立した。これで来年度から、市民と法人の市民税が5%ずつ下がる。

 初当選から2年8カ月。河村市長は当初、唱えた10%減税を半減させて、ようやく市議会と折り合った。

 減税に向けて、市長は市議会と全面対決を繰り広げてきた。

 いったん10%減税を実現させたものの、市議会に恒久化を阻まれると、市議会の解散を求める署名集めの旗を振った。

 同時に、みずからも辞職し、2月の知事選と議会解散の住民投票に出直し市長選を加えたトリプル投票に持ち込み、いずれも圧倒的な支持を集めた。

 さらに出直し市議選でも、自分が率いる政党「減税日本」を第1党に押し上げ、「公約は再び民意を得た」と迫った。

 それでも減税率を圧縮したのは、来年度からの実施を優先したからだ。その結果、自民、公明、民主3党も賛成した。

 市の試算によれば、減税総額はざっと80億円。夫婦と子ども2人世帯で年収500万円なら年に5800円、1千万円なら1万7500円の減税になる。

 その財源を、市長は「無駄遣いをなくし、行政改革で生み出す」と確約し、減税額を上回る経費節減を断行した。市議の報酬も半分になった。

 こんな市長の手法は、行革の観点からは成功例といえる。「減税」を市民に直接訴え、市政への関心を高めたことも前向きに評価する。

 ただ、「減税は民意ですよ」と突っぱねる議会対応は、やはり丁寧さを欠いていた。

 河村流が首長と議会の関係、大都市制度のあり方にも一石を投じたのは確かだが、その成り行きはまだ見えない。

 いま、大震災のための復興増税が決まり、さらに消費増税の議論が具体化しつつある。そんななか、名古屋市ではすったもんだの末に減税が決まった。

 これは、自治の壮大な実験である。結果はどうなるのか。

 市長が強調した減税による経済効果は、本当にあるのか。歳出削減が公的サービスの質的低下を招かないか。議会と約束したとおり、定率減税の恩恵を受けられない低所得層への対応策を充実できるのか。

 こうした減税の是非、影響と効果を検証するのは、「庶民革命」を唱える河村市長や、条例を通した市議会だけの仕事ではない。

 「減税」を選んだ市民自身が、その責任を負う覚悟で見届けていく必要がある。

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