正直に言う。私は今、市場を独占している。
そう言うと多くの読者は驚くかもしれない。だが、何てことはない、自分で市場を創ってしまえばいいだけのことだ。
それでもまだ、大変な難業に聞こえるだろうか。ならばこう考えてみてほしい。他人がやっていない小さな事業を見つけて、こっそり始めるのだ。そして一気にノウハウを確立してしまえば、大手企業といえども、簡単には手を出してこない。しかも、市場が小さければ、「まあ、あの分野は面倒だからやめておこう」となる。
そして、小さいながらも市場の独占が続く。これほど、おいしい事業はないと思う。なにせ、競合相手がいないのだから。
私はそれを「ブルーアイランド戦略」と名付けることにした。
これは、いわゆる「ブルーオーシャン戦略」と似ているように聞こえるが、まったく違う経営戦略だと思ってもらっていい。そもそもブルーオーシャンは、競争の激しい市場「レッドオーシャン(血で血を洗う競争の激しい事業領域)」から逃げるように、競争のない未開の大市場(=ブルーオーシャン)を切り開こうという主旨だ。任天堂のWiiなどが成功例として取り上げられる。高度になっていくゲーム機の世界から離れ、女性や高齢者といった、それまでのゲームの顧客層ではなかった人たちに向けて、直感で操作できるゲーム機を投入した。しかも、フィットネスやスポーツなど、ゲームの対象テーマまで変えてしまった。そして爆発的なヒットとなった。
しかし、ブルーオーシャンには難点がある。まず、成功する確率が低いこと。そして、さらに問題なのは、もし成功を収めたとしても、あまりにも巨大な市場を切り開くがために、多くのライバル企業が乗り込んでくることだ。実は、ガポガポ儲かる期間が非常に短い。
Wiiもそうだった。「そんな市場があったのか」と気付いたライバルたちは、ゲーム機に簡単に操作できる「モーションセンサー」といった機能を搭載するようになる。再び、強烈な利益の奪い合いが始まった。そしてブルーの大海は、あっという間に血に染まった。
そこで考えてほしい。広大な海で勝負しようとするから、いつまでたってもライバルが嗅ぎつけて寄ってくるのだ。それよりも、小さくても誰もいない「無人島」を探して、陸に上がるのだ。すると、ライバルもさすがに陸に上がるのは面倒だと考える。しかも、すでに島には住み慣れた先住者がいれば、這い上がってもすぐに叩きのめされてしまう。
「まあ、こんなちっぽけな島はいいか」
そうしてライバルも近づかない状態ができると、もう寝ていても儲かってしまう。これがブルーアイランド戦略の概要だ。
これは、私が夢物語として語っているわけではない。現実のストーリーとして、これから私のビジネス記を交えて解説していきたい。
まず最初に記しておきたいことは、この記事に興味を持たれた多くの経営者、企業人の方は、これまでの「経営の常識」と思っていたことを一度、すっぱり捨てることをお勧めする。というのは、私もコンサルタント会社に勤務したことがあり、頭に「経営の常識」がこびりついていた。そのことが事業の邪魔になり、成功までにずいぶん遠回りすることになった。
では、具体的にはどういうスタンスで事業に臨めばいいのか。次の2つのキーワードで、どちらが経営者に求められる要件だと思われるだろうか。
論理 vs 直感
組織 vs 個人
知識 vs 想像力
会議 vs 実践
巧緻 vs 拙速
利口 vs 馬鹿
ブルーアイランド戦略では、必要なのは全て右の項目である。
私も、これが分かるまで随分と悩み抜いた。というのは、大学卒業後からコンサルタントという職業に就いていたが、求められていたのは主に左の資質だった。しかし、経営者に求められる資質は、実は真逆の資質だったのだ。
私はコンサルタント出身の経営者として、その狭間で悪戦苦闘した。そして、最後には右側の重要性に気付くことになる。
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