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東京電力が実質的に破綻(はたん)状態にあることを、政府が認めた。
公的資金を資本注入し、事実上、東電を国有化する方向で年明けから本格的な調整に入るという。
事故を起こした福島第一原発の廃炉に向けた工程表が発表され、30〜40年の長期にわたり困難な処理作業を続けなければいけないことが改めて示された。
その費用は巨額になる。賠償や除染にかかる費用、火力発電で代替することによる燃料代の上昇もある。対応を急ぐのは、東電の債務超過が現実のものになってきたからだ。
■料金値上げの前に
考えられているのは、次のような枠組みだ。
国と電力会社でつくる原子力損害賠償支援機構が1兆円規模を出資する。東電に融資してきた金融機関にも、1兆円程度の追加融資を求める。
大幅な赤字が続かないよう、電気料金の値上げと新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働が、この支援の前提だという。
東電はさっそく、企業向けと家庭用の料金をともに来年度から値上げする方針を発表した。
兆円単位でかさむ事故の損害は、一企業でまかなえる範囲をはるかに超える。東電がいかにリストラを進め、資産を売り払っても、賠償や事故処理を確実に進めるには、一定の国民負担が避けられない。
いずれは東電の利用者が料金値上げで一定額を負担する。それでも不足すれば、税金の投入もやむを得まい。
しかし、その前に政府が筋道をつけるべき問題がある。
「東電は破綻」であることを明確に示し、必要な責任を関係者にとらせることだ。
私たちは当初から、東電の経営がいずれ行き詰まることを指摘し、「市場のルールに従って東電を法的整理するべきだ」と主張してきた。
電力の安定供給を名目に特別扱いをして、東電が中途半端な形で存続すれば、市場がゆがむだけでなく、国民負担の拡大につながりかねないからだ。
■問われる株主責任
賠償や今後の費用が巨額で、時間がたたないと金額が確定しないことなどから、現行の破産法制を使っての処理には、確かにさまざまな難しさがある。
しかし、国有化であっても、破綻処理の原則が貫かれていなければ先へは進めない。
株主や金融機関の責任を、減資や債権放棄の形で厳しく問う。経営陣の退陣や外部からの登用はもちろん、OBの年金削減や社員の給与カットに徹底して取り組む。
事業リストラでも、不動産や関連事業だけでなく、発電設備なども例外扱いせず、本当に自前でもつ必要があるのか、真剣に検討しなければならない。
意識改革も不可欠だ。
当面のリストラ策を決める機構と東電の話し合いでは、各分野で従来のやり方に固執し、状況の変化を理解しようとしない姿勢が目立ったという。
料金値上げにしても、東電側はむしろ、できるだけ自前の財源を確保して国有化を避けたいとの腹だ。
守るべきは、被災者や電力供給であり、東電という企業ではない。ほかに事業者がいないからと、組織や経営の仕組みが温存されたまま電気料金が上げられたり税金が使われたりするのでは、国民は納得しない。
原発の再稼働も筋違いだ。必要な電力をほかの電源でまかないきれない場合、当面は今ある原発を動かすことの必要性までは否定しない。だが、安全性の確保がすべてであり、東電出資の条件となるのはおかしい。
■電力改革へつなげよ
国有化の中身も問われる。
経営への関与は個別企業の救済ではなく、もっと大きな電力システム全体の改革に役立つものでなければならない。政治の本気度が問われる作業だ。
地域独占によりかかった形態をあらため、発電や売電の自由化を進める。送電部門を発電部門から切り離し、だれもが自由に接続できる公共財にする。脱原発を進め、自然エネルギーを増やす。
これまで有効に使われてこなかった電力取引市場を活性化させる。欧州などの先行事例も参考にしつつ、料金体系の多様化などでピーク時の電力を調整して、節電もビジネスになるような仕組みを採り入れていく。
健全な市場を育てるために、公正取引委員会の関与をもっと強くすることも考えたい。
かかった費用に利益を上乗せして電気料金を設定する総括原価方式は当然、見直す。
大切なのは、電力市場への新規参入を促しつつ、新たな事業者が斬新で柔軟な発想を生かせる自由度や選択肢のある制度にしていくことだ。
改革を進めることで、利用者が自分で発電業者や料金を選べる市場ができる。そこまでたどり着いてこそ、はじめて「東電の国有化」は意味を持つ。