2011年10月25日 11時21分 更新:10月25日 14時52分
内閣府原子力委員会の専門部会は25日、東京電力福島第1原発事故の被害額を基に、原発事故のコストを1キロワット時当たり0.0046~1.2円とする試算を固めた。原発の発電コストへの影響は限定的との見方を示したことになるが、試算の前提となる東京電力福島第1原発事故の被害額は、除染費用や賠償額など未確定の部分が多く、さらに膨らむ可能性もある。試算は、政府の「エネルギー・環境会議」に設置した「コスト等検証委員会」などに報告され、電源別の発電コストの見直し作業に反映される。
原子力委は、政府の「経営・財務調査委員会」が試算した廃炉費用と損害賠償額を合わせた今回の事故の被害額(5兆5045億円)を参考に、出力120万キロワットの新設炉が過酷事故を起こした場合の被害額を3兆8878億円と仮定。過酷事故の発生頻度を掛け合わせて事故コストを算出した。
福島原発事故を含めた国内実績に基づき、事故の発生頻度を500年に1回とすると、稼働率60%の場合、事故コストは1キロワット時当たり1.2円となった。今回の事故は3基から放射性物質が大量放出された。これを1回分と数えると、事故コストは3分の1になる。
一方、新設炉は過酷事故の発生頻度を10万年に1回以下とする国際原子力機関(IAEA)の安全目標を満たしていると仮定した場合、事故コストは、稼働率80%で0.0046円となり、発電コストにはほとんど影響しない。
試算に基づくと、原発の発電コストは1キロワット時当たりおおむね5~7円(従来は5~6円)となる。政府はこれまでに石炭火力を同5~7円、液化天然ガス(LNG)火力を同6~7円、大規模水力を同8~13円、太陽光を同37~46円と試算しており、依然として原子力が割安となった。
使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムやウランを取り出して再利用する「核燃料サイクル」のコストも試算。(1)すべて再処理の場合は1キロワット時当たり1.98~2.14円(2)再処理せずにすべて地中に埋める直接処分なら同1.00~1.35円(3)現状のように一部を再処理し、一部を中間貯蔵では同1.26~2.21円--となった。【比嘉洋、関東晋慈】
内閣府原子力委員会による原発の事故リスクと核燃料サイクルのそれぞれのコストの試算は、計3回(約7時間)の会議で結論を出すという時間的な制約があった。事故コストは、条件を変えるだけで数倍にも膨らむ可能性があるが、前提となる被害額の議論を深めることはできなかった。
被害額は東京電力福島第1原発事故を想定し、1~4号機の廃炉費用を9643億円、損害賠償額を13年3月末までで4兆5402億円と見積もっている。ただ、廃炉は溶け落ちた核燃料の回収など技術的に解決されていない問題がある。賠償や除染費用、放射性廃棄物の中間貯蔵施設の建設費も十分考慮されておらず、どこまで膨らむかは不明だ。
今回の事故だけを想定して試算をすることにも疑問がある。会議では「ソースターム(核生成物の種類や放出量)の議論が足りない」との意見も挙がった。同じ非常用電源が失われる事態でも、炉心の形状や気象条件によって放射性物質の放出量が増え、汚染範囲が広がる可能性がある。
NPO原子力資料情報室や環境保護団体でつくるグループは「原発を費用だけで検討すること自体、検証される必要がある」と指摘する。原発事故は地域社会や経済を一瞬で変える。試算はエネルギー政策の今後を慎重に議論するために不可欠だが、判断材料の一つに過ぎない。【比嘉洋】